『フルスロットル』:2014、フランス&カナダ

2018年、デトロイトでは暴力が蔓延し、市長は戒厳令を敷いた。低所得者層の集団住宅は封鎖状態とされ、特にブリック・マンションズと呼ばれる地区は立ち入り禁止の無法地帯と化していた。その地区は高さ12メートルの壁で隔絶され、出入りする者は警察が検問で調べた。市長はブリック・マンションズの開発計画を立てるが、そのためには取り壊しと住民の退去が必要だった。市長は部下たちに、「市民の生活は必ず守る」と約束した。
犯罪組織の一味であるK2は、リノという男が住むアパートへ赴いた。彼はアパートの前にいた2人の男たちに、「リノに預けた物がある。20キロのブツだ」と告げた。2人組は銃を構えて追い払おうとするが、K2が待機させていた手下たちに殺された。K2は同じ組織に属するレイザーや手下のイエティーたちと共に、アパートへ乗り込んだ。リノは浴槽で麻薬を処分し、窓から逃げ出した。K2は仕方なく麻薬組織の元締めであるジョージに連絡し、20キロのブツを届けてほしいとた。ジョージの組織に潜入している捜査官のダミアンは、自分が届けると申し出た。
K2は犯罪組織のボスであるトレメインから叱責され、「大金で雇ってるんだ。名案を出せ」と要求される。トレメインが別の手下を射殺すると、K2は慌てて「奴の女を人質に取れば、必ず姿を見せます」と告げた。ダミアンはジョージに連れられ、クリーニング店の地下にある麻薬工場に初めて足を踏み入れた。その様子を、刑事たちは道路に停めた車内から密かに観察した。監視カメラの映像を見たジョージが車に気付いたので、ダミアンは気付かれないように突入の合図を送った。
ダミアンはジョージに拳銃を突き付け、手下に武器を捨てさせる。彼はSWATの到着を待とうとするが、組織の連中と銃撃戦になった。ダミアンは一味を蹴散らすが、その間にジョージは裏口から車で逃走する。ダミアンは車に飛び乗り、ジョージを捕まえた。K2たちはダイナーへ赴き、そこで働くローラを拉致した。ダミアンは祖父を訪ね、「あと少しでトレメインに復讐できる」と告げた。「復讐と正義は違う」と祖父は諭すが、ダミアンは「トレメインを捕まえたら終わりにするよ」と述べた。
ローラは組織のアジトへ連行されるが、天井からリノが飛び込んでトレメインに銃を突き付けた。ローラも銃を奪い、K2に銃を向けた。リノはトレメインをアジトから連れ出し、ローラに車を運転させる。一味の追跡を受けたリノとローラは、検問所へ飛び込んだ。リノは指揮官のマイクにトレメインを引き渡すが、牢に監禁されてしまう。マイクはトレメインに買収されていたのだ。トレメインはローラを連れて、検問所を後にした。マイクが牢に近付くと、激昂したリノは彼を殺害した。
ダミアンは市長に呼ばれ、亡き父の元同僚であるベリンジャーは陸軍大佐のレノと会った。かつてダミアンの父は刑事としてブリック・マンションズを捜査し、その最中に殺害されていた。ダミアンは市長から、中性子爆弾を積んだ政府の輸送車がトレメインの一味に強奪されたことを聞かされる。爆弾には盗難防止機能として自動起爆装置が取り付けられ、ケースを開けると起動するようになっていた。既にトレメインはケースを開け、タイマーが作動していた。
市長はダミアンに、ブリック・マンションズへ乗り込んで起爆装置を解除するよう要請した。ダミアンが任務の難しさを訴えると、市長はブリック・マンションズに詳しいリノと手を組むよう促した。リノがミシガン州刑務所から移送される際、ダミアンは囚人に扮して護送車へ乗り込んだ。彼は手錠を外して2人の警官を道路へ落とし、護送車を奪った。ダミアンは駐車場に入り、リノの手錠を外してやった。リノが護送車を奪おうとするので、ダミアンと格闘になった。ダミアンはリノを投げ飛ばし、「これは俺の車だ。乗せてほしいなら急げ」と告げて車に乗り込んだ。ダミアンが車を発進させると、リノは窓から滑り込んだ。
ダミアンは検問所を突破し、ブリック・マンションズに入った。リノはダミアンが刑事だと見抜いており、手錠でハンドルに拘束した。彼が立ち去った直後、チンピラたちが車を取り囲んだ。ダミアンはハンドルを車から抜き取り、チンピラを蹴散らした。リノがトレメインのアジトを倉庫から覗いていると、ダミアンが現れた。彼は爆弾が持ち込まれたことを説明し、「ここを救いたい」と述べた。するとリノは「それが本当なら、ローラを助け出す」と言い、手を組むことを承諾した。
リノはトレメインに電話を入れ、「今から行く」と告げた。彼はダミアンを連れてアジトに乗り込み、「こいつは刑事だ」とトレメインに教えた。ダミアンが爆弾の解除に来たことを明かすと、トレメインは買い取りを要求した。彼はロケットに爆弾を乗せ、建物の屋上から市街地へ発射できるように準備を整えていた。彼はレイザーに指示し、ローラを鎖でロケットに繋がせた。トレメインは3千万ドルを要求し、ダミアンは市長に電話を掛けた。しかし市長は口座への振り込みを拒否し、他の解決方法を見つけるよう指示した…。

監督はカミーユ・ドゥラマーレ、オリジナル脚本はリュック・ベッソン&ビビ・ナセリ、脚本はリュック・ベッソン、製作はジョナサン・ヴァンガー&クロード・レジェ、製作総指揮はライアン・カヴァナー&タッカー・トゥーリー&マット・アルヴァレス&アンリ・ドネブール&ロミュアルド・ドゥロー&ジネット・ギーヤール、撮影はクリストフ・コレット、美術はジャン・A・キャリエール、編集はカルロ・リッツォ&アルチュール・タルノウスキ、衣装はパトコーシュ・ユーリア、音楽はトレヴァー・モリス。
出演はポール・ウォーカー、ダヴィッド・ベル、RZA、グーチー・ボーイ、カタリーナ・ドゥニ、カルロ・ロタ、アイーシャ・イッサ、アンドレアス・アペルギス、リチャード・ジーマン、ロバート・メイレット、ブルース・ラムゼイ、フランク・フォンテイン、チムウィムウィ・デイヴ・ミラー、アンダーソン・ブラッドショー、ライアン・トルドー、ロン・レイ、カロリーナ・バルトチャク、ダニー・ブランコ=ホール、ブルース・ディンズモア、アニー・リー・メン・トン、ジェイド・ハスナ他。


ヨーロッパ・コープが製作した2004年のフランス映画『アルティメット』をリメイクした作品。こちらもヨーロッパ・コープの製作だが、『アルティメット』の台詞がフランス語だったの対し、アメリカ市場を狙って作られているため、全て英語の台詞となっている。
これまでヨーロッパ・コープの映画で編集を担当してきたカミーユ・ドゥラマーレが、初めて長編映画の監督を務めている。
オリジナル版からは、リノ(『アルティメット』ではレイト)役のダヴィッド・ベルが引き続いて出演している。
ダミアンをポール・ウォーカー、トレメインをRZA、K2をグーチー・ボーイ、ローラをカタリーナ・ドゥニ、ジョージをカルロ・ロタ、レイザーをアイーシャ・イッサが演じている。
ポール・ウォーカーは2013年11月30日に交通事故で死去し、これが遺作となった。

リメイク映画であっても、大幅に改変するケースも存在する。
しかし本作品の場合、ほとんど『アルティメット』と一緒だ。どちらの脚本もリュック・ベッソンが担当しているので、手抜きしたんじゃないかと思ってしまう。
そもそもオリジナル版の脚本がテキトーだったので、そこからの変更点が少ないってことは、こちらもテキトーってことだ。
大枠は同じでも、細かいトコに手を入れて改善しようとか、雑だった箇所を丁寧に描こうとか、そんな気は全く無かったようだ。

アパートにK2が押し掛ける冒頭のシーンなんて、「K2」という役名はオリジル版と一緒だし、アパートの前にいる2人をK2が射殺するのも同じだ。
リノを演じているのはオリジナル版のダヴィッド・ベルだし、浴槽で麻薬を処分するのも一緒だ。
K2が住民を脅してリノの部屋を聞き出すのも一緒だし、とにかく何から何まで同じことだらけ。
なので、下手をすると「間違えて『アルティメット』を見てしまったのか」と思っちゃうぐらいだぞ。

完全にトレースしているわけではなく、もちろん幾つかの変更点はある。ただし、その大半は「改悪」でしかない。
改善されたポイントを頑張って見つけるとするならば、オリジル版ではレイト(リメイク版のリノに当たるキャラクター)がローラ(オリジル版では妹の設定だった)を拉致されて捕まった後に半年の時間経過があるところを、こちらでは無くしていることぐらいか。
ただし、「半年後」の表記は無いものの、リノが刑務所に収監されていることは、マイクを殺してから日数が経過しているはず。たぶん、それが半年ぐらいじゃないかと思うわけで。
そうなると、そこの時間経過をキッチリと表現できていないのは、それはそれで雑ってことになるぞ。

リノは冒頭で麻薬を処分するが、「トレメインの組織から盗んだ」ってのが分かりにくい。彼が盗んでからK2たちが来るまでに時間はあったはずなのに、なぜか一味がアパートへ来てから慌てて処分する。
そもそもオリジル版と同様で、レイトが麻薬を奪った目的が良く分からない。
「組織を排除したい」とか「悪を駆逐したい」というのが目的なら、麻薬を盗んだところで意味が無い。ローラが拉致された後、アジトに乗り込んでトレメインを捕まえ、検問所に突き出しているが、最初からそうすりゃいい。
簡単にアジトへ乗り込むことが出来るなら、ローラが拉致される前に行動すればいいのだ。

リノがアパートから逃走するシーンでは、パルクールが使われている。
その醍醐味を映像で最大限に表現するためには、出来る限りカットを割らずに一連の流れで見せた方がいいはずだ。
しかし実際には、細かくカットを割りまくっている。そのために、せっかくダヴィッド・ベルが自身で妙技を披露しているのに、その凄さが伝わりにくくなっている。
ダヴィッド・ベルは勢いを殺さないまま動き続けているのに、部分的にスタント・ダブルを使っていても分からないんじゃないかという撮り方をしているのだ。

爆弾の輸送車が襲われた出来事を、市長の台詞と回想シーンだけで処理するってのは、どう考えたって雑だわ。
そこは絶対に現在進行形のシーンとして描くべきでしょ。ダミアンがジョージを捕まえるシーンなんかカットしてもいいから、そっちを描くべきだわ。
ダミアンがジョージを捕まえるシーンを削除すると、序盤に彼のアクションシーンが無くなるという問題は生じる。
ただ、それなら「輸送車の強奪シーン」でダミアンを関与させ、「それなりに活躍するけど爆弾は奪われる」ってことにでもすればいいんじゃないかと。

爆弾には盗難防止機能として自動起爆装置が付いているが、それを知らなければケースを開けてしまうんだから、盗難防止の機能を全く果たしていない。
そんでトレメインに爆弾を奪われ、起爆装置を解除するためにダミアンを差し向けなきゃいけなくなるんだから、本末転倒も甚だしい。
「市長は最初からブリック・マンションズを爆破する目論みだった」ってのが終盤になって判明するけど、だったら最初からダミアンを派遣する意味が無いわけで。
あと、「解除コードと称して爆破するコードを教え、それに気付いたダミアンがコードを入力しなかったら爆発しない」って、何だよ、そりゃ。
最初から爆発する仕掛けにしておいて、嘘のコードを教えるってことにしておくべきだろ。市長の計画がデタラメすぎるだろ。

ダミアンは囚人に化けてリノと接触するが、協力しようという気配が全く無い。
最初から本当の目的を説明し、手を組むよう持ち掛ければスムーズに事は運んだはずだ。
オリジナル版と同様、どうせブリック・マンションズに到着してから本当の事情を説明するんだし。
これまたオリジナル版と同様、「後でダミアンの素性がリノにバレて一悶着が」という展開でもあるならともかく、最初からリノはダミアンの正体に気付いているので、嘘をついていることの意味は皆無だ。

車を巡ってダミアンとリノが戦う手順は、そこで格闘アクションを見せたいのも、「反目していた2人が手を組む」という展開に繋げようとしているのも分かる。
だけど、ただモタモタしているだけにしか感じない。
起爆装置のリミットまで残り10時間を切っているわけで、そんなトコで無駄に時間を食っている場合じゃないでしょ。
ただし、タイムリミットが設定されているにも関わらず、そこをサスペンスの道具として利用しようとする気配は皆無に等しいんだけどね。

トレメインがローラを拉致したのは、リノをおびき出すのが目的だったはずだ。それなのに彼は検問所へ連行されると、リノをマイクに引き渡してローラを連れ去ってしまう。
もはやリノが刑務所に収監されてしまったら、ローラを監禁しておく必要性は全く無いはずだ。
ところが彼は、そのままローラの監禁を続けている。どこかへ売り飛ばそうとか、テメエの女として蹂躙しようとか、そういう気配も無い。ただ監禁しているだけなのだ。
何がしたいんだかサッパリ分からない。

前述したように、リノが検問所で捕まった後、再登場すると州刑務所にいるので、日数が経過しているはずだ。
でもホントなら、そこは時間を置かないで「ダミアンが任務を受けて動き出す」という展開に繋げた方がいい。
それを考えると、リノが検問所で騒ぎを起こした後は「ダミアンが任務を要請される」→「検問所に行く」→「そこにはリノが留置されている」という流れにして、検問所で2人が接触する形にすれば良かったんじゃないかと。

トレメインはダミアンが爆弾の解除を申し入れると買い取りを要求し、ロケットで発射する準備が整っていることを明かす。
だけど、都合良くダミアンがアジトへ来てくれたから取引を持ち掛けることが出来たけど、そうじゃなかったら、どうする気だったのかと。
最初から市長を脅して金を要求するつもりでロケットをセットしていたのなら、ダミアンが来るまで待っているのは不自然だ。
その時点では残り48分になっているので、もうギリギリじゃねえか。もっと早い段階で、市長と何らかの形で連絡を取り、金を要求すべきでしょ。

オリジナル版と同様、リノはトレメインに「今から行く」と連絡を入れて、真正面から普通にアジトヘ乗り込む。おまけにダミアンが刑事だってことも簡単にバラす。
そこに何かしらの作戦があるのかというと、何も無い。だからダミアンがトレメインから爆弾の買い取りを要求され、入金確認まで監禁されることになる。
リノとダミアンは見張りを倒して脱走しているけど、それが最初から狙い通りだったわけではなく、行き当たりばったりで行動しているだけだ。
でもリュック・ベッソンの脚本が行き当たりばったりなので仕方が無い。

オリジナル版と同様、トレメインの銀行口座には入金されないどころか全額が引き落とされる。
オリジナル版と同様、誰がやったのか、どうやったのかは最後まで明かされないままだ。
オリジナル版とは違い、手下たちがボスを見捨てて始末する展開は無い。ただし、じゃあリノとダミアンがトレメインを退治する展開になるのかというと、それも無い。
このリメイク版では「部下の寝返り」を排除した代わりに、「ボスの寝返り」が用意されているのだ。

ボスであるトレメインは入金が嘘だと分かった途端、スイッチを押してロケットを発射しようとする。そのことを知らないまま行動していたダミアンとリノだが、たまたまスイッチを押す直前に装置を狙撃したのでロケットは発射されない。
その御都合主義は置いておくとして、そこまでのトレメインは確実に「市街地を爆弾で破壊してやろう」と企んでいた。
ところが屋上へ行って装置を修理した途端、彼は急に「俺は実業家だ。大量殺人はしない」と言い出し、レイザーにはローラを鎖から外すよう命じる。
だけど、そこで急にベビーフェイスへ転向しても、そこまでの悪行(麻薬密売、ローラの拉致、手下の射殺、大量殺人未遂など)があるので、受け入れられないよ。

(観賞日:2016年1月20日)

 

*ポンコツ映画愛護協会