『ブレイクダンス』:1984、アメリカ

もうすぐ20歳になるケリーがコーヒースタンドで働いていると、ラスベガスのショーに出演している先輩ダンサーのヴィッキーが訪ねて来た。ケリーはプロになることを夢見て、フランコが経営するスタジオで練習を積んでいる。ヴィッキーはフランコの女癖の悪さを知っており、ケリーに忠告する。彼女は芸能エージェントのジェームズの名刺を渡し、店を後にした。バイトを終えたケリーはスタジオへ行き、親友のアダムたちと合流して一緒にジャズダンスの練習をする。彼女はフランコから居残り練習に誘われるが、目的が分かっているので「用事がある」と断った。
ケリーはアダムがヴェニスで仲間と会うと聞き、バス停まで車で送ろうとする。アダムが仲間に会わせたいと言うので、ケリーは同行することにした。2人がヴェニスに着くと、ストリート・ダンサーのオゾンとターボが音楽に合わせて楽しそうに踊っていた。ケリーはアダムに誘われ、一緒に踊る。オゾンはダンスチーム「エレクトロ・ロック」のダンサーから勝負を挑まれるが、不愉快そうに無視する。彼はケリーたちを連れてその場を離れた。ケリーはオゾンから、また遊びに来るよう誘われた。
数日後、オゾンとターボはダンススタジオを訪れ、ケリーに挨拶する。フランコが席を外している間に、ターボはレッスンに参加して自分たちのダンスを披露した。生徒たちは手拍子で盛り上げるが、戻って来たフランコが音楽を止めた。彼は素人の踊りだと酷評し、オゾンとターボに出て行くよう要求した。ケリーはフランコからミュージカルが決まったことを知らされ、2人でレッスンする。しかしフランコがキスしてきたので、突き放してスタジオを飛び出した。
夜、オゾンとターボが食料品店で働いていると、エレクトロ・ロックの2人が来て挑発する。2人は勝負を要求し、金曜の夜を指定して去る。ターボは勝負を受ける気だったが、オゾンは「俺たちの相手じゃない」と放っておくよう告げる。しかし「みんなにバカにされるぜ。受けよう」とターボに言われ、勝負することにした。ケリーがスタジオへ行かなくなったので、アダムは心配してコーヒーショップへ来る。ケリーは「自分を見直してみたい」と言い、エージェントと会うことを明かした。
ジェームズのオフィスへ赴いた彼女は、「オーディションに応募して様子を見よう」と告げられる。すぐにケリーはオーディションに参加するが、不合格になって苛立った。アダムは気分転換させようと考え、オゾンとターボも参加するストリート・ダンサーの集会に誘った。ケリーはジェームズと電話で話し、「1日で落ち込む必要は無い。チャンスは幾らでもある」と励まされた。ケリーとアダムが集会場へ行くと、オゾンとターボがエレクトロ・ロックの2人と対決を始めていた。エレクトロ・ロックは途中から女性メンバーを参加させ、一緒に踊る。敗北を感じたオゾンが不愉快そうに会場を去るので、ターボも後に続いた。
翌日、ケリーはアダムに「私たちのダンスと全く違うわ。ダンスが生きてる」と告げ、オゾンとターボの家へ行く。アダムは3人でチームを組むよう提案し、ケリーはオゾンとターボに指導を依頼した。彼女は2人からレッスンを受け、ジェームズに3人でオーディションを受けることを提案した。ジェームズが「ストリートの先にあるのはストリートだ。ブロードウェーじゃない」と言うと、ケリーは「自分に理解できない物は敬遠するの?ストリートで踊るから軽蔑するの?」と反発する。ケリーは「必ず優勝するから参加させて。エレクトロ・ロックとの勝負を見に来て」と訴え、ジェームズを説き伏せた。
その夜、ケリーたちはエレクトロ・ロックと対決して勝利し、見物していたジェームズは興奮する。ケリーがジェームズと共に去ったので、彼女に惚れているオゾンは嫉妬心を募らせた。翌日、ケリーはオゾンの元へ行き、ジェームズが3人でオーディションを受けるよう提案していることを伝えた。オゾンが「俺は人の助けなんか求めない。今のままでいい。君は君で好きにやればいい」と声を荒らげると、彼女はジェームズのパーティーに招待されたことを告げ、住所を教えて去った。
ケリーはパーティーに出席し、ジェームズから振付師のソフィーを紹介された。オゾンはターボを伴ってパーティーに出向くが、ケリーやジェームズの前で不機嫌そうな態度を取った。パーティーにはフランコも来ており、ジェームズはケリーたちが同じオーディションに参加することを話す。オゾンはフランコから侮辱的な言葉を浴びせられ、激怒して掴み掛かった。ジェームズが仲裁に入ると、オゾンはターボを連れて立ち去った。ケリーはオゾンを説得し、オーディションのための練習を開始する…。

監督はジョエル・シルバーグ、原案はチャールズ・パーカー&アレン・デビヴォイス、脚本はチャールズ・パーカー&アレン・デビヴォイス&ジェラルド・シャイフ、製作はアレン・デビヴォイス&デヴィッド・ジトー、製作総指揮はメナヘム・ゴーラン&ヨーラム・グローブス、撮影はハナニア・ベア、編集監修はマーク・ヘルフリッチ、編集はラリー・ボック&ギブ・ジャフィー&ヴィンセント・スクレナ、美術はイヴォー・G・クリスタンテ、衣装はダナ・ライマン、音楽はゲイリー・ラメル&マイケル・ボイド、音楽監修はラス・リーガン、振付はジェイミー・ロジャース。
出演はルシンダ・ディッキー、アドルフ・“シャバ=ドゥー”・キノーネス、マイケル・“ブーガルー・シュリンプ”・チェンバース、ベン・ロキー、フィニアス・ニューボーン三世、クリストファー・マクドナルド、ブルーノ・“ポッピン・タコ”・ファルコン、ティモシー・“ポッピン・ピート”・ソロモン、アナ・“ロリポップ”・サンチェス、アイスT、ピーター・ブロミロウ、エレノア・ジー、スコット・クーパー、イブ・ロティマー、T・C・ローリン、リック・マンシーニ、ライラ・グラーム、ビー・シルヴァーン、グウェンドリン・ブラウン、アンドレ・ランドザート、ダルトン・キャセイ、ラリー・ニューバーグ他。


世界的にブレイクダンスが流行するきっかけを作った映画。
監督はイスラエルで活動していたジョエル・シルバーグで、これがアメリカに来て初めて手掛けた作品。
製作したキャノン・フィルムズのメナヘム・ゴーラン&ヨーラム・グローブスがイスラエルにいた頃の友人で、2人に招聘されてアメリカへ渡っている。
ケリーをルシンダ・ディッキー、オゾンをアドルフ・“シャバ=ドゥー”・キノーネス、ターボをマイケル・“ブーガルー・シュリンプ”・チェンバース、フランコをベン・ロキー、アダムをフィニアス・ニューボーン三世、ジェームズをクリストファー・マクドナルドが演じている。

当然のことながら、ダンサーを演じるメンバーには実際に踊れる人間が起用されている。
ルシンダ・ディッキーは4歳からダンスを学び、アカデミーでジャズやクラシックバレエの専門的な指導を受けていた女優。
シャバ=ドゥーは伝説的なダンスグループ「ザ・ロッカーズ」のオリジナル・メンバーで、ブーガルー・シュリンプは彼の愛弟子。
エレクトロ・ロックのメンバーを演じる3人は、まずポッピン・タコがアニメーションの天才と言われるダンサーで、マイケル・ジャクソンのダンスの先生だった時期もある。ポッピン・ピートはポッピングのパイオニアで、こちらも長年に渡ってマイケル・ジャクソンと一緒に仕事をしていた。エレクトロ・ロックの紅一点であるロリポップは、ワックやロックのジャンルで有名なダンサーだ。

1982年の『ワイルドスタイル』でヒップホップのカルチャーが扱われ、1983年の『フラッシュダンス』ではブレイカーが登場した。
巷でブレイクダンスの熱が少しずつ高まる中、メナヘム・ゴーランは「これは儲けが出る題材だ」と嗅ぎ取った。
同じ時期にヒップホップ映画『ビート・ストリート』の製作が進行していたため、それに先んじて公開するためにキャノン・フィルムズは急ピッチで撮影させた。
その結果、わずか3ヶ月で完成に漕ぎ付け、『ビート・ストリート』よりも1ヶ月前に劇場公開することが出来た。

邦題は『ブレイクダンス』で原題も『Breakin'』だが、劇中ではロックやアニメーションなど様々なジャンルのダンスが披露されている。
そもそもブレイクダンサーという設定のオゾンとターボでさえ、ロックやポッピングといった他ジャンルのダンスも踊っている。むしろ、そっちの方が割合としては明らかに多い。
ケリーがオゾンから教わる動きも、ロックやポッピングが大半だ。オゾンやターボと対決するエレクトロ・ロックのメンバーが踊るのも、やはりポッピングやロックが多くなっている。
実はブレイクダンスを踊るのって主要キャストじゃなくて、その周囲にいる役名も無いダンサーたちなのよね。

ケリーがオゾンとターボのダンスを見るシーンは、「今までに見たことが無いジャンルのダンスに衝撃を受け、心を奪われる」という内容になっているべきだろう。
でも、そこまで彼女が衝撃を受けている様子は感じられない。「楽しそうに踊っているなあ」って感じで見物し、楽しく一緒に踊るだけだ。
そもそも、オゾンとターボのダンスにしても、そこまでインパクトが大きいパフォーマンスとは言えないんだよね。ブレイクの華である派手なパワームーブは、全くやっていないし。前述したようにシャバ=ドゥーもブーガルー・シュリンプもブレイクダンスを専門にやっているダンサーじゃないので、仕方がないんだろうけどさ。
だから室内の練習シーンでもロックとポッピングをやっていて、ブレイクの動きは全く見せないんだよね。エレクトロ・ロックとの対決でも、ロックから入るし。

あと、対決シーンでエレクトロ・ロックに女性メンバーが加わった途端、オゾンとターボが全く踊らずに立ち去るのは変だろ。
こっちからすると、なぜ3人になっただけで「エレクトロ・ロックの勝利」みたいな形になるのかサッパリ分からないのよ。
ただメンバーが増えただけであり、そんなにダンスで圧倒的な差を見せ付けけたという印象は皆無だぞ。
新しい女性メンバーが、まるで歯が立たないぐらい力の差を見せたわけでもないし。

アダムが3人でチームを組むよう提案した時、ケリーが何の迷いも無く前向きな態度を示すのは「なんでだよ」と言いたくなる。
彼女はジャズダンサーとして、プロになることを目指していたんでしょ。それなのに、全く畑違いのダンスチームへの加入を喜んでOKするのは、どういう心情なのかと。
いや、もちろん「オゾンたちのダンスに魅了され、自分もやってみたいと思った」ってことなのは、段取りとしては分かるよ。
だけど、それをドラマとして丁寧に表現できていないから、ケリーの行動が不自然に見えちゃうのよ。

ケリーにとって何よりも大切なのは、オーディションに合格してプロダンサーになることのはずで。
でもオゾン&ターボとチームを組んでも、ストリート・ダンスを覚えても、そのための努力にはならないからね。ジェームズが指摘するように、幾らストリート・ダンスが上手になってもブロードウェーに立てるわけじゃないんだからさ。
この映画だと審査員が気に入って合格にするけど、実際はジャズ・ダンサーを求めるオーディションで畑違いのダンスを披露した人間を採用するなんて無いからね。
そのダンサーに合わせて舞台の内容を変更するとか、絶対に無いからね。

ケリーはストリート・ダンサーについて「プロのダンサーより魂があるわ。新しい生きた踊りよ」と主張するけど、だったらストリート・ダンスを追求すればいい。
オーディションを受けてプロダンサーになるのは諦めればいい。
彼女がプロのダンサーとしてブロードウェーに立ちたいのか、それともプロにこだわらず「自分が楽しいと思えるダンス」を追い求めたいのか、目的が定まっていないように見えるのよ。
あと、ストリート・ダンサーを称賛したいからって、ジャズ・ダンサーを全否定するのはダメだろ。

パーティー会場を飛び出したオゾンは、ケリーが会いに来ると「みんな気取りやがって。踊りはフィーリングだ」と反発する。ケリーが「オーディションも受けず、チャンスを捨てるのね」と言うと、彼は「君とは違うんだよ。舞台に出ても笑いものになるだけだ」と返す。
「間違ってるわ。腰抜けよ。逃げるのはやめて」と言われても考えを変えず、「本物のダンスを見せよう」とストリート・ダンスを踊っている連中の元へ案内する。
そこからカットが切り替わると、ケリー&オゾン&ターボがスタジオで練習を始めるシーンになる。
いつの間にオゾンは、オーディションに参加する気になったんだよ。どのタイミングで気持ちが変化したんだよ。
ワケが分からんぞ。

「どこかで見たことがあるようなストーリーだなあ」と感じる人が、かなり多いかもしれない。
その感覚は正しくて、ただのデジャ・ヴュではない。きっと貴方は、どこかで実際に「似たようなストーリーの作品」を見たことがあるはずだ。
なぜなら、この映画は昔から腐るほど使われてきたフォーマットを使っているからだ。それを何の捻りも無く、雑になぞって仕上げている。
王道のパターンを使う時、最も避けなきゃいけないのは丁寧さに欠ける仕事だが、それをやっちゃってるわけだ。

(観賞日:2021年9月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会