『ボス・ベイビー』:2017、アメリカ

7歳のティム・テンプルトンは、いつも想像を膨らませていた。ジャングルや深海を舞台に大活躍したり、時には両親に救われたりすることもあった。彼はパパとママに囲まれた3人の暮らしを完璧だと感じ、幸せに浸っていた。パパとママは世界最大のペット会社「パピー・コーポレーション」のマーケティング部員として、新商品を送り出す仕事をしている。どんなに仕事が忙しくても、両親はティムとの時間を作ってくれた。「そろそろ弟が欲しくないか」と問われると、ティムは「要らないよ。一人っ子がいい」と告げた。
その頃、ベイビー・コープ社では次々に赤ちゃんが製造され、ベルトコンベアーで流された。赤ちゃんは「家族」と「経営」に分類され、「経営」になった者は社員としての勤務に取り掛かった。ある朝、ティムが目を覚まして窓の外に目をやると、スーツを着用してブリーフケースを持った赤ちゃんがタクシーで現れた。赤ちゃんはサングラスを掛けて腕時計を付けており、しっかりとした二足歩行で移動していた。ティムが慌てて玄関へ行くと、両親が赤ちゃんを抱いて嬉しそうに「この子が弟だ」と紹介した。赤ちゃんは腕組みをしてティムを睨んでいたが、指をパチンと鳴らして泣き出した。
両親はワガママな赤ちゃんの世話で忙しくなり、すっかりティムへの関心は薄くなった。ティムは苛立って「いきなり現れた。そいつは怪しい」と訴えるが、両親は相手にせず受け流した。ある夜、パパとママは赤ちゃんの世話で疲れ果て、リビングのソファーで眠り込んだ。電話が鳴る音を耳にしたティムだが、聞こえた場所は自宅の固定電話ではなかった。赤ちゃんの部屋から音が聞こえたので、彼は警戒しながら様子を見に行く。すると赤ちゃんは受話器を握り、「両親は私の言いなりです。でもガキは気付いているかも。この任務の重要性は分かっていますから」と誰かと話していた。
ティムが部屋に飛び込むと、赤ちゃんは慌てて電話を切った。「お前は何者だ?」とティムが尋問すると、赤ちゃんは「俺はボス」と言う。「僕のボスじゃない。パパとママが知ったらどうなると思う」とティムが言うと、ボスは「お前が選ばれると思うのか」と余裕の態度を取る。ボスはティムの詳細なデータを知っており、「次の若い世代に道を譲る時が来た。両親の愛は赤ん坊に向けられる。納得できなきゃリストラだ」と高笑いを浮かべた。
翌朝、ティムはベッド脇に置いてある魔法使い人形のウィジーと会話を交わす。彼は両親にボスの正体を知らせるため、声を録音して証拠を残そうと考えた。ティムは準備を整えてティムの元へ向かおうとするが、足を滑らせて階段から転落した。すると大勢の赤ん坊が現れ、ティムは包囲される。ティムが助けを求めると、両親が来て「今日はお遊び会よ」と告げた。ボスはティムに、「これは会議だ。お前は出席させない」と述べた。
ボスは赤ん坊仲間のステイシー、三つ子、ジンボを集め、会議を始める。彼はティムの録音に気付いており、ジンボにガラガラの音で妨害させた。ボスは「赤ん坊はピンチだ。昔ほど愛されていない」と言い、子犬の方が愛されるようになっている現状を説明した。さらに彼はパピー・コーポレーションのフランシス会長が「史上最高の可愛さを誇る子犬をラスベガスの大会で披露する」と発表したことを受け、「これは戦争だ。ベイビー・ビジネスが成り立たなくなる」と語った。
ボスが会社から命じられた任務は、その子犬について調査して発売を阻止することだった。ティムは親がワンワン社で働く赤ん坊ばかりを集めており、協力を要請した。しかし5人とも全くの役立たずなので、ティムは激しく苛立った。ティムは録音に成功するが、ボスたちに気付かれた。ティムはテープを渡すよう要求するボスたちと戦い、逃亡して両親の元へ行こうとする。しかしテープが車に踏み潰された上、ボスを虐めていると両親に誤解されてしまった。
「そいつは喋ってた。会議をしてた」とティムは訴えるが、激怒した両親から自宅謹慎を言い渡された。落ち込んだティムの元に少し反省したボスが現れ、「俺は普通の赤ん坊じゃない。上からの任務で来た」と告げる。彼は「真実を見せる」と言っておしゃぶりを差し出し、口にくわえて素早く動かすよう指示した。ティムが指示に従うと、彼の意識はベイビー・コープ社に飛ばされた。ボスはティムに、全ての赤ん坊はベイビー・コープから来ていることを教えた。
おしゃぶりをしなくなった時点で、赤ん坊はベイビー・コープのことを忘れてしまう。ほんの一握りの赤ん坊は、経営陣に参加することを許される。彼らはスーパーミルクを飲むことで、ずっと赤ん坊のままだ。ボスはティムに「世界で愛されている存在」の割合を示すグラフを見せ、子犬の割合が増える一方であることを教える。「このままでは赤ん坊への愛が無くなる。俺の任務は新発売の子犬を探ることだ。しかも任務に成功すれば、俺も会社のレジェンドに入れる。昇進すれば、角部屋に専用のおまるを貰える」と語った。
ボスはティムに、任務を終えれば会社に戻るつもりだと告げた。彼は上司のビッグ・ボス・ベイビーが激しく苛立ち、「ペット大会まで2日。報告がなければ、あいつもクビよ」と言っている姿を目撃した。ティムはボスがクビになっても無関係だと思っていたが、「クビになったら、スーパーミルクを貰えなくなるんだ。そうなったら普通の赤ん坊として、ずっと一緒に暮らすことになる」と聞いて狼狽する。ティムはボスを追い出すため、彼の任務に協力することにした。
パピー・コーポレーションに仕事参観日があると知ったティムは、それを利用して情報を探ろうと考える。しかし両親から自宅謹慎を言い渡されたままでは、外出することも許されない。そこでティムとボスは仲良くなったように見せ掛け、両親を騙すことに成功した。ティムは両親から自宅参観に誘われ、赤ちゃんも連れて行くよう頼んだ。パピー・コーポレーションを訪れたティムとボスは、パピー・ゾーンで遊ぶ芝居で仕事へ行く両親を見送った。
ティムとボスは隙を見て資料室へ潜入し、極秘ファイルを発見した。だが、それはフランシスの仕掛けた罠であり、2人は捕まってしまう。かつてフランシスはベイビー・コープの有能な社員で、ボスも目標にしていた伝説的な人物だった。しかしスーパーミルクが効かずに成長したせいでクビになり、復讐の機会を狙っていた。彼は永遠に年を取らない子犬を発売し、赤ん坊に対する愛情を奪ってベイビー・コープを潰そうと目論んでいた。
新しい子犬を作るためにはスーパーミルクが必要であり、だからフランシスはボスをおびき寄せたのだ。彼はボスのスーパーミルクを奪い取り、計画を開始する。彼はティムの両親をラスベガスのペット大会に同行させることに決め、兄のユージーンをベビーシッターとしてテンプルトン家に差し向けた。ティムとボスは協力して監視役のユージーンから逃亡し、飛行機が離陸する前にパパとママを止めようとする。しかし間に合わずに飛行機が飛び立ったことで、ティムはボスは喧嘩を始めてしまう…。

監督はトム・マクグラス、原案はマーラ・フレイジー、脚本はマイケル・マッカラーズ、製作はラムジー・ナイトー、製作協力はレベッカ・ハントリー&ジェド・シュランジャー、編集はジェームズ・ライアン、プロダクション・デザイナーはデヴィッド・ジェームズ、シニア視覚効果監修はケン・ビーレンバーグ、音楽はハンス・ジマー&スティーヴ・マッツァーロ。
声の出演はアレック・ボールドウィン、スティーヴ・ブシェミ、ジミー・キンメル、リサ・クドロー、トビー・マグワイア、マイルズ・バクシ、ジェームズ・マクグラス、コンラッド・ヴァーノン、ヴィヴィアン・イー、エリック・ベルJr.、デヴィッド・ソーレン、エディー・マーマン、ジェームズ・ライアン、ウォルト・ドーン、ジュールズ・ウィンター、ニーナ・バクシ、トム・マクグラス、ブライアン・ホプキンス、グレン・ハーモン、ジョセフ・イッツォ、クリス・ミラー、アンドレア・クノール、クロエ・アルブレクト他。


マーラ・フライジーの絵本『あかちゃん社長がやってきた』を基にしたドリームワークス・アニメーションの長編アニメーション映画。
監督は『メガマインド』のトム・マクグラス。
脚本は『アンダーカバー・ブラザー』『サンダーバード』のマイケル・マッカラーズ。
ボスの声をアレック・ボールドウィン、フランシスをスティーヴ・ブシェミ、パパをジミー・キンメル、ママをリサ・クドロー、大人になったティムをトビー・マグワイア、ティムをマイルズ・バクシが担当している。

大人になったティムのナレーションで、7歳の頃の両親との関係が説明される。
そして両親の「弟が欲しくないか」に「要らないよ」と言った後、ナレーションが「両親の言ったことが気になっていた。赤ちゃんはどこから来る?」と語ると、オープニングロールに入る。
そういう導入部なので、「赤ちゃんはどこから来るのか?」という子供の素直な疑問に対する答えを出すファミリー映画なのかと思った人もいるかもしれない。
しかし、それは表向きの仕掛けであって、実際に描きたいことは別にある。

たぶん多くの人が、見終わったら「そういうことを描きたいのね」と気付くんじゃないだろうか。勘のいい人なら、序盤の段階で「テーマはここにあるんだろうな」ってことを察知できてしまうと思う。ファミリー映画だから当然ちゃあ当然だが、そんなに捻ったことをやっているわけではないからだ。
前置きが少し長くなったが、この映画は「両親を独占できていた子供が、弟や妹が産まれた時に芽生える嫉妬心と、どう向き合えばいいのか」ってのを描く話だ。
これより後発だけと、日本だと『未来のミライ』でも描いていたよね。
やりたいことは分かるけど、『未来のミライ』と同じで、成功しているとは到底言い難い。

「赤ちゃんがどこから来るのか」という疑問に対する答えは、さすがに「パパとママがセックスして云々」みたいにストレートな事実を描くことはやっていない。
そういうことを正面から描く絵本もあるけど、これはファミリー映画なので、事実は隠している。
「コウノトリが運んでくる」という定番の嘘が昔からあるけど、この作品では「会社で製造される」という形にしてある。
赤ちゃんが工場や会社で製造されるってのは、この映画が初めて採用した設定ではなく、以前から他の作品でも使われている。

これが「赤ちゃんが会社で作られている」という設定を使った他の作品と違うのは、「赤ちゃんの中には2種類あって、経営に回る者もいる」という部分にある。
オープニングロールでは、工場で赤ちゃんが製造され、「ファミリー」と「マネージメント」に分類される様子が描かれる。誕生して間もない時点から、経営に分類された赤ちゃんはビジネスマンとしての仕事に入るわけだ。
そこで引っ掛かったら、この話に入っていけない。
なので「そういう世界観」として甘受すべきなんだろうけど、ごめん、すげえ引っ掛かるわ。

何が引っ掛かるかってさ、「赤ちゃんの段階時点から経営に参加する必然性がゼロ」ってことなのよね。さらに言うと、「赤ちゃんの状態のまま、成長を止めて経営に参加する」という必要性も、これまたゼロだよね。
ひょっとすると、絵本だったら上手く誤魔化せているのかもしれない。あるいは、絵本のような形態だったら、そういうことは気にならないのかもしれない。
どうであれ、少なくとも本作品では、そういう設定の違和感が強い。そこを納得させてくれるような、腑に落ちる説明は何も用意されていない。
「突飛な設定を思い付いたけど、それを成立させるためのディティールが粗すぎる」という状態になっている。

スパイとして送り込まれた実行部隊のボスだけが赤ん坊の姿ってことなら、それは分かるのよ。
「実際は大人だけど、任務のために赤ん坊の姿になった」ってことなら、さらに分かりやすい(テーマとは全く別の話になる恐れがあるという問題は置いておくとして)。
だけど、この作品だと、会社で働く全ての人間は赤ん坊なのだ。
人事や総務の人間も全て赤ん坊の姿である必要性って、何も無いでしょ。そこから外へ出て、人間社会で赤ん坊として暮らすわけじゃないんだから。

赤ちゃんはティムの家へ来る時も、「赤ちゃんの姿をした大人」として登場する。スーツを着用し、サングラスを掛け、腕時計をしている。直立して歩き、ステップまで華麗に踏む。
最初に「ティムは空想好き」と言っているが、それは「ティムの空想」ではなく実際に起きている出来事だ。パパとママが抱いている時も、スーツを着用している。
これが「普通の赤ちゃんのように装っているが、実は」という描写なら、まだ受け入れやすかっただろう。
しかし、ティムの前でも堂々と「中身は大人」として登場するので(スーツに関しては両親の前でも着ている)、「それは違うんじゃないか」と言いたくなってしまう。

ここまで書いた批評の内容って、実は映画開始から10分程度を観賞しただけでも書けてしまう内容だ。
つまり、導入部における違和感が、以降の物語にも延々と影響を及ぼし続けるってことなのだ。「こういう世界観です。
こういう基本設定です」という部分を丁寧に構築し、そこさえ上手くクリアしてしまえば、後は大きな問題など無いのだ(細かい問題はあるけどね。例えば可愛い子犬が発売されたからって、それで赤ん坊への愛情が無くなることなんて絶対に有り得ないしね)。
裏を返せば、序盤で抱かせた違和感が、いかに大きすぎる代償を払う羽目になっているかってことだよ。

(観賞日:2020年2月17日)

 

*ポンコツ映画愛護協会