『ブラッドショット』:2020、アメリカ

ケニアのモンバサ。アメリカ海兵隊員のレイ・ギャリソンは、人質が捕まっているビルに到着した。本部からは待機命令が届くが、レイは無視して単独で突入した。彼は犯人グループを一掃し、人質を救出した。イタリアのアヴィアーノ空軍基地に戻ったレイは出迎えに来た妻のジーナと抱き合い、バカンスに出掛けた。2人は楽しい時間を過ごし、ホテルで肌を重ねた。翌朝、レイが目を覚ますと、ジーナは朝食を買って来るというメモを残して出掛けた後だった。武装した2人組が部屋に突入して来たので、レイは撃退した。彼は部屋から飛び出すが、待ち受けていたマーティン・アックスに注射を打たれて意識を失った。
レイが目を覚ますと、地下室で椅子に縛られていた。そこへマーティンが現れ、人質の情報を漏らした人間について教えるよう要求した。レイか拒否すると、彼は捕まえておいたジーナの姿を見せた。ジーナを殺すと脅されたレイは、「何も知らない」と告げる。彼は「本当に何も知らない。ジーナは無関係だ」と訴えるが、マーティンは構わずジーナを殺害した。レイは激怒して復讐心を口にすると、彼は拳銃を向けて弾丸を浴びせた。
レイが「ブラッドショット、実験記録、注入完了」という声で目を覚ますと、研究所のような場所でベッドに寝かされ、体には器具が取り付けられていた。彼が朦朧とする意識の中で立ち上がろうとすると、見知らぬ女性が歩み寄って「大丈夫よ」と声を掛けた。再び意識を失ったレイが次に目を覚ますと、別の部屋にいた。そこへ先程の女性と上司らしき男性が現れ、レイに近付いた。男はレイに、「ここはRST、ライジング・スピリット・テクノロジー。私は施設長のエミール・ハーティング、彼女はKT」と説明した。
レイが「俺に何が起きた?」と質問すると、ハーティングは「君の体はアメリカ軍から提供された。我々が生き返らせた初めての人間だ。君は2度目の機会を手に入れた」と告げる。そこはクアラルンプールにあるRSTの施設で、生物工学ロボットのナナイトを注入して肉体を強化したのだとハーティングは説明した。
「なぜ記憶が無い?」とレイが質問すると、KTは「以前の立場と仕事のせいよ。全てが機密扱い」と答えた。ハーティングは15歳で癌を患って右腕を切断したこと、RSTの技術で作られた義手を装着していることを明かす。彼はレイを患者が体の限界を試すリハビリ施設へ案内し、元海軍スイマーのKTが化学物質で喉をやられたこと、再建術を受けて鎖骨のレスピレータで呼吸していることを教えた。KTの他にも、施設には陸軍の名射撃手だったティブスと元シールズのダルトンがいた。砲撃で失明したティブスはギアに付けたカメラを使っており、ダルトンは両脚が義足になっていた。
夜、レイがKTと酒を飲んでいると、ジーナがアックスに殺された時の記憶が蘇った。KTは落ち着くよう諭すが、レイは「君には理解できない」と告げて施設から抜け出した。ハーティングは部下のエリックに指示し、レイの脳に埋め込まれたマイクロプロセッサを使って話し掛けた。ハーティングは「ティブスを行かせた。戻って来い」と説得を試みるが、レイは「マーティン・アックスがジーナを奪った」と怒りを燃やし、聞く耳を貸さなかった。
レイはナナイトを使ってアックスに関する情報を入手し、自家用機を操縦してハンガリーのブダペストへ飛んだ。彼はデータベースを調査してエリア内の全車両を特定し、アックスが傭兵に守れられて移動する車列を発見した。レイはトンネルでトラックの横転事故を起こし、車列を立ち往生させる。レイを目にしたアックスは、焦った様子で仲間のバリスに連絡を取る。「奴だ。プロジェクトが成功した」と彼が言うと、バリスは「俺たちを逃がさない気だ」と冷静に告げた。レイは傭兵を次々に倒し、アックスの車に近付いて銃を向ける。アックスは「ハーティングの言葉を信じるな。真実を教える」と怯えながら言うが、レイは即座に射殺した。
レイがオールド・トコル飛行場に行くと、KTたちが迎えに来ていた。レイはメンテナンスが必要だと言われ、飛行機で施設へ戻った。彼が運動機能を停止させられてベッドに寝かされると、ダルトンが憎々しげな表情で歩み寄った。彼が「自分を善人とでも思ってるのか。その報復好きを、こっちは利用してる。アンタの面倒を見るのはウンザリだ」と吐き捨てると、レイは「ジーナ」と呟く。ダルトンは馬鹿にしたように笑みを浮かべ、「彼女の死を信じてるのか。毎回、毎回。お前はオモチャの兵隊だ。スイッチを入れて情報を与え、この施設に戻ってリセットする」と告げた。
レイがアックスに拉致され、ジーナを殺されたのは、ハーティングが植え付けた偽の記憶だった。彼は同じ映像を微調整し、レイの記憶をリセットするたびに登場人物を変更していた。KTは彼の計画から抜けたいと思っているが、殺されるのが分かっているので手下として動いていた。KTからレイの利用を批判されたハーティングは、「死んだ兵士だ。替わりは幾らでもいる」と冷淡に告げる。彼はKTに、「次の任務で最後だ。済んだらウチの情報を高く買う相手に売る」と述べた。
ハーティングはエリックに指示し、アックスの映像をバリスに変更させた。アックスとバリスは、ハーティングの共同研究者だった。彼は邪魔になった人間を排除するため、レイを利用していたのだ。目を覚ましたレイはハーティングの狙い通り、バリスへの復讐心を燃やして施設から抜け出した。バリスは屋敷の警備を要塞のように強化し、18人の護衛を配置していた。しかしハーティングは「奴にプロジェクトの成果を見せてやる」と、自信を見せた。
レイはイギリスのイースト・サセックスにあるバリスの屋敷に乗り込み、わざと撃たれた。彼は意識を失ったと見せ掛け、屋敷の地下室に運ばれた。バリスはエンジニアのウィルフレッド・ウィガンズを呼び、装置を持って来させた。エリックはウィガンズについて、双方向神経インターフェースの考案者で天才だとハーティングに教えた。地下室でレイが暴れ出したことを知ったバリスは、ウィガンズに「早くしろ」と命じた。彼は装置へのパワーのチャージを開始し、バリスにリモコンを渡した。
バリスは手下に命じ、ウィガンズを部屋に閉じ込めさせた。エリックは装置が電磁バルスだと見抜き、ハーティングは「罠だ」と焦る。彼はレイに知らせようとするが、通信は妨害電波で遮断されていた。バリスはチャージが間に合わず、レイに殺された。直後にウィガンズがリモコンを使い、レイの機能を停止させた。屋敷は停電に陥り、シグナルは施設に届かなくなった。ウイガンズはレイの損傷を復旧させ、機能を回復させた。
レイが「バリスの手下か?」と質問すると、ウィガンズは「強制労働だ。脱出したかったが、見張りがいた。だがアンタが殺した」と話す。彼の説明を受けて、レイはハーティングに騙されていたことを知った。ジーナが生きているのではないかと考えたレイは、ウィガンズに協力させて屋敷を発った。ハーティングはレイが行動を起こしたことを知り、ダルトンとティブスを差し向けた。ロンドンに赴いたレイは、ジーナと再会して喜んだ。しかしジーナは再婚しており、レイと最後に会ったのは5年前だと話す…。

監督はデヴィッド・S・F・ウィルソン、 原作はヴァリアント・コミックス、原案はジェフ・ワドロウ、脚本はジェフ・ワドロウ&エリック・ハイセラー、製作はニール・H・モリッツ&トビー・ジャッフェ&ディネーシュ・シャムダサーニ&ヴィン・ディーゼル、製作総指揮はダン・ミンツ&ユー・ドン&ジェフリー・チャン&マシュー・ヴォーン&ルイス・G・フリードマン&リタ・ルブランク&バディー・パトリック&スティーヴ・マツキン&サラ・シュローダー=マツキン&マシュー・ローズ&ジョナサン・グレイ&マシュー・アントゥーン&マーク・ストローム&モーリス・ファディダ&ジェイソン・コタリ、共同製作はディオン・ウッド、撮影はジャック・ジューフレ、美術はトム・ブラウン、編集はジム・メイ、衣装はキンバリー・A・ティルマン、視覚効果監修はクリス・ハーヴェイ、音楽はスティーヴ・ジャブロンスキー。
出演はヴィン・ディーゼル、ガイ・ピアース、エイザ・ゴンザレス、サム・ヒューアン、トビー・ケベル、タルラ・ライリー、ラモーネ・モリス、ヨハネス・ヘイクル・ヨハネソン、アレックス・ヘルナンデス、シドハース・ダナンジャイ、タメル・ブルジャック、クライド・バーニング、デヴィッド・デュカス、チャーリー・ブーゲノン、タイレル・メイヤー、フランス・ステイン、デヴィッド・ダヴァドス、アレックス・アンロス、ニック・ラセンティー、ライアン・マイケル・シン、マイケル・キーチ、ライアン・クルーガー、オースティン・ローズ、ゲイリー・ナイドゥー、ヒルトン・サン、ツォグト・バイスガラン他。


同名の人気コミックを基にした作品。
特殊効果マンのデヴィッド・S・F・ウィルソンが、初監督を務めている。
脚本は『トゥルース・オア・デア〜殺人ゲーム〜』のジェフ・ワドロウと『バード・ボックス』のエリック・ハイセラーによる共同。
レイをヴィン・ディーゼル、ハーティングをガイ・ピアース、KTをエイザ・ゴンザレス、ダルトンをサム・ヒューアン、アックスをトビー・ケベル、ジーナをタルラ・ライリー、ウィガンズをラモーネ・モリス、バリスをヨハネス・ヘイクル・ヨハネソン、ティブスをアレックス・ヘルナンデス、エリックをシドハース・ダナンジャイが演じている。

アメコミ映画と言えば、ダントツで有名なのはマーベル・シネマティック・ユニバースだろう。
それに次ぐのが、DCエクステンデッド・ユニバースだ。
だが、アメリカのコミックは、もちろんマーベルとDCだけではない。だから、他のコミックを基にした映画も製作されている。
例えばダークホースコミックスの『ヘルボーイ』や『シン・シティ』、イメージ・コミックの『スポーン』、ミラージュ・スタジオの『ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ』、ラディカル・コミックスの『ヘラクレス』、エディー・キャンベル・コミックスの『フロム・ヘル』などがある。

そんな中、新たに参戦したのが、中国企業のDMGエンターテインメントに買収されたヴァリアント・エンターテインメントである。
そしてソニー・ピクチャーズはヴァリアント・エンターテインメントが出版した『ブラッドショット』の映画化権を手に入れ、パラマウントが保有していた『Harbinger』の権利も買い取った。
これにより、ソニーはディズニーのMCUとワーナー・ブラザースのDCEUのように、ヴァリアント作品のユニバース構想を描いたのだ。

ただ、ソニーは『Harbinger』の権利をパラマウントに売却した。その上、本作品が興行的に失敗したので、ユニバース構想は完全に消滅したと考えていいだろう。
まだ『Harbinger』の権利を買い取ったパラマウントが、ユニバースを開始する可能性は残っている。
だけど、この作品がコケたことを考えると、かなり難しいんじゃないかな。映画のユニバース構想って、そう簡単じゃないからね。
ユニバーサルが企画したダーク・ユニバースも、1作目の『ザ・マミー/呪われた砂漠の王女』がコケて無くなっちゃったしね。

冒頭、レイは人質が捕まっているビルに到着した時、待機して応援を待つよう指示されても無視し、勝手に突入する。
結果的には一味を倒して人質を救出しているけど、どう考えてもバカ丸出しの行動だ。
応援を待った方が、もっと救出の確率が高まるのは言うまでも無い。そこは「一刻も早く救出しないと人質が殺される」という切羽詰まった状況というわけでもないし。
あと、そもそもチームが1人ずつ行動している時点でアホだろ。グループを分けて捜索するにしても、せめて2人は組ませておけよ。

マーティンに撃たれたレイは、意識を取り戻すとクアラルンプールの施設にいる。ハーティングは彼に、「アメリカ軍から遺体を提供され、我々が生き返らせた」と説明する。
でも、それは不可解だ。アメリカ軍は、どうやってレイが殺された場所を見つけ出したのか。
まさか、マーティンが簡単に発見できる場所に、レイの遺体を移動させたわけでもあるまいに。
で、そんな風に思っていたら「実は」と種明かしがあるので、そこの疑問は解消される。
ただし、今度は「その仕掛け、すんげえ卑怯だな」と感じることになる。

レイが施設で意識を取り戻した時、KTが「大丈夫よ」と声を掛ける。しかし次にレイが目を覚ました時、「どこかで会ったか?」と言う。ってことは、最初に「大丈夫よ」と声を掛けられた時のことは覚えていないのか。
また、彼は「アメリカ軍は家族に遺体を引き渡す」と言っているのだが、ってことはジーナが殺されたことも覚えていない設定なのか。
その辺りが、良く分からない。
もし覚えていない設定なら、観客だけに示すのは避けるべきだよ。だって、それだと観客を欺くためだけのアンフェアな描写になるでしょ。
アックスによる誘拐やジーナの殺害を「事実」として描くのもダメでしょ。
KTとの初対面シーンは伏線として見せているのかもしれないけど、全く要らない。そこが無くても、何も変わらない。何の役にも立っていない。

レイは人体改造されたばかりなのに(と思い込んでいるのに)、それどころかハーティングの説明に半信半疑だったのに、すぐにナナイトを使いこなす。ネットワークを検索して必要な情報を入手したり、操縦マニュアルを使って飛行機を動かしたり、車両を絞り込んで標的を見つけ出したりする。
復讐心で怒り狂っているはずなのに、とても冷静に動いている。
実際は何度も繰り返している行為なので、無意識の内に出来たってことなのかもしれない。
ただ、そうだとしたら、「なぜ自分はスムーズにナナイトを使いこなせるのか」とレイに疑念を抱かせるべきじゃないかと。

レイが施設から逃亡して復讐に向かうと、ハーティングは焦った様子を見せてKTたちに指示を出す。だが、これは整合性が取れていない。
彼は最初から、レイが抜け出して復讐に向かうように仕向けているのだ。だから、それは全て作戦通りなのだ。だから、何も焦る必要は無い。
レイが目の前にいたり、レイと通信したりしている時は、もちろん「私は焦っています。連れ戻そうとしています」という芝居をする必要がある。でもハーティングは、レイと繋がっていない状態でも焦っているのよね。それは変でしょ。
っていうか、もっと根本的な問題があるでしょ。
それは、「レイの記憶を捏造し、復讐心を抱かせ、施設から逃亡して標的の元へ向かうよう仕向けて、邪魔者を排除する」という方法を取る必要が全く無いってことだ。

ハーティングが開発した技術を使えば、自分の思い通りに動いてくれる強化兵士も作れるはず。わざわざ手間を掛けて「間違った復讐心を燃やして標的を始末してくれる兵士」を生み出さなくても、最初から「邪魔者を排除するよう動く兵士」を作ればいいでしょ。
っていうか、アンタの周りには命令に忠実に従う強化兵士が何人もいるじゃねえか。
元々は負傷して肉体の一部が欠損した兵士だけど、機械の体で強化されているんでしょ。そういう奴らを使うって方法は無いのか。そいつらじゃ力不足なのか。
「邪魔になった共同研究者を消す」という目的に対して、手間や予算が見合っていないようにしか感じないぞ。

結局、「レイに偽の記憶を植え付け、復讐心を抱かせて邪魔者を消してもらう」という設定も、観客を欺くためだけに用意されたモノでしかないのよね。
そうやって観客を騙すために仕掛けを用意したものの、理屈や整合性は完全に放棄しちゃってるから、色んなトコで無理が生じて穴だらけになっているのよ。
それで観客を騙せても、真相が明らかになった時に「あれは変だよね」と感じる点が幾つもあったら本末転倒でしょ。
「どんな手を使っても、真相を明かすまで観客に気付かれなきゃOK」じゃなくて、最も大事なのは「面白い映画」として観客に賞賛してもらうことでしょ。
「真相には気付かなかったけど、映画の質は低い」と思われちゃ意味が無いでしょ。

レイに命を狙われるアックスがビビりまくり、「真実を話す。ハーティングを信じるな」と訴えるシーンを見た時に、「これは何か裏があるな。きっとハーティングの方が悪党なんだな」ってのは、きっと多くの人が簡単に推測できるだろう。ジーナとレイを楽しそうに殺すシーンのアックスと、その時の彼は、まるで別人だからだ。
で、そんな推測をしていたら、ダルトンがレイに話すシーンで、核心に近いことを言う。そして次のシーンでは、ハーティングがハッキリと種明かしをする。
映画開始から50分ぐらいで種明かしに入るのは、意外に早いなという印象だ。
そこをバラしたら、後に残るのはB級アクション映画の残りカスみたいなモンだからね。

レイはウィガンズの説明で、ハーティングに騙されたことを知る。こっちからすると「とっくに知ってたけど」という情報ではあるが、それはひとまず置いておくとして、レイにとっては強いショックを受けるような出来事のはずだ。
しかし彼は淡々としており、ものすごくリアクションが薄い。怒りも悲しみも無ければ、「復讐相手ではない相手を殺していた」という罪悪感も抱かない。
ヴィン・ディーゼルに繊細な演技を要求するのは酷だけど、そういう問題でもないでしょ。
そこのリアクションなんて、そんなに高い演技力が求められるわけでもないでしょ。分かりやすく驚いたり怒ったりすればいいだけでしょ。

(観賞日:2022年2月17日)

 

*ポンコツ映画愛護協会