『ブライズ・スピリット〜夫をシェアしたくはありません!』:2020、イギリス

1937年、英国。犯罪小説賞を受賞している小説家のチャールズ・コンドマインは、自身の作品を映画の脚本にする作業に取り組んでいる。しかしタイプライターに向かった彼は一行も書けず、頭を悩ませていた。彼は大音量でレコードを流し、妻のルースから注意された。女中のイーディスは料理人のエドナが用意した朝食を運ぶが、チャールズから「トーストが冷めて硬くなってる」と指摘された。ルースが部屋に行くと、チャールズは亡き先妻であるエルヴィラの写真を眺めて語り掛けていた。
ルースはチャールズの前では「亡くなった人に嫉妬なんかしないわ」と気にしていないフリをするが、友人のブラッドマン夫人には愚痴をこぼした。テニスのコーチと不倫関係にあるブラッドマン夫人は、ルースにも浮気を勧めた。チャールズは友人のブラッドマン医師に性欲が失われていることを告白し、アンフェタミンをプレゼントされた。夜、コンドマイン夫妻はブラッドマン夫妻と共に、降霊ショーが開催される劇場へ赴いた。席に座った4人は、エドナとイーディスも会場に来ていることを知った。ブラッドマン夫人はチャールズたちに、イーディスがスペイン戦争で兄を亡くしていることを教えた。
霊媒師のマダム・アルカティーは舞台に登場し、それらしいことを話しながら空中に浮かんだ。舞台袖には助手のマンディープが隠れており、ワイヤーを操作してアルカティーを吊り上げていた。しかしハンドルが外れてアルカティーは落下し、観客にインチキが露呈した。チャールズは楽屋を訪れ、自宅での降霊会をアルカティーに依頼した。劇場を出た彼はルースから「それで執筆が進むの?」と訊かれ、「カラクリを知れば、主役がより個性的になる」と話した。
コンドマイン家にはチャールズとルース、ブラッドマン夫妻が集まり、アルカティーを迎えて降霊会が開かれた。アルカティーの呼び掛けに、テーブルが激しく揺れた。アルカティーは霊的ガイドのマイラが反応しているのだと説明し、幽霊がチャールズと話したがっていると告げる。故人で良く思い出す人はいるかと質問されたチャールズは、明確な返答を避けた。アルカティーは「トランス状態に入ります」と言い、掛けるレコードを選び始めた。彼女が『オールウェイズ』を選ぶと、チャールズは「他の曲でも」と提案する。しかしアルカティーは「マイラが知ってる曲がいい」と述べ、そのレコードを掛けた。
アルカティーは席に戻った途端、絶叫して意識を失った。邸宅は停電になり、窓が開いて風が吹き込んだ。アルカティーが目を覚ますと、電気は復旧した。彼女は「何か凄いことが起きた」と興奮するが、誰も幽霊やエクトプラズムは見ていないと知らされてホテルに戻った。彼女はドナルドの写真に向かい、「あんな体験は初めてだった」と語り掛けた。就寝しようとしたチャールズは、ルースから「記憶が鮮明な内に書くべきよ」と促される。酒を飲んでから執筆に取り掛かろうとした彼の前に、エルヴィラが姿を現した。週末を留守にしただけと思い込んでいるエルヴィラに、チャールズは草競馬で無理をしたせいで事故死したことを伝えた。チャールズはルースが来たので近くにエルヴィラがいることを話すが、信じてもらえなかった。
翌朝、チャールズはブラッドマンの診察を受け、幻覚を見ないようアンフェタミンの服用を中止するよう助言される。ルースは彼を連れてパインウッド・スタジオを訪れ、父で社長のヘンリーに会った。ヘンリーが「半年も脚本を待てない」と語ると、ルースは「数週間で書き上がる」と告げた。スタジオにもエルヴィラが出現し、チャールズに話し掛けた。苛立ったチャールズはエルヴィラに文句を言うが、女優のグーギーやルースを罵っていると誤解されてヘンリーの怒りを買った。アルカティーは戦死したドナルドの幽霊を呼び出そうと試みるが、成功しなかった。
翌日、またエルヴィラが出現したので、チャールズはルースに必死で訴える。チャールズが「存在を証明してくれ」と頼むと、エルヴィラはピアノを演奏した。それでもルースが信じないので、チャールズは別の行動をエルヴィラに求めた。エルヴィラが口紅で肖像画に落書きすると、ルースは悲鳴を上げて家を飛び出した。彼女はアルカティーの元を訪れ、エルヴィラの幽霊が出たことを話す。アルカティーは彼女に、「戻った幽霊が望めば、実在するようになる」と述べた。
チャールズはエルヴィラから「昔みたいにボートに乗らない?」と誘われ、「無理だ。締め切りが迫ってる」と断る。彼が「僕の処女作の脚本化を頼まれた」と言うと、エルヴィラは「僕の処女作?」と馬鹿にするように告げる。チャールズが今まで出した小説は、エルヴィラが考えた内容を文章化しただけだった。エルヴィラはチャールズに、脚本化のアイデアを与えた。ルースは「死んだ前妻と夫を共有したくない」とアルカティーに訴え、何とかするよう依頼した。アルカティーが「現状ではホテル代を支払えない」と断って去ろうとすると、彼女は小切手を用意した。
エルヴィラはチャールズをサヴォイ・ホテルに誘い、バーで飲みながら会話を交わした。チャールズが朝帰りすると、待っていたルースが腹を立てた。チャールズは「脚本の第一幕を書き上げた」と嬉しそうに言うが、エルヴィラがいると知ったルースは「アルカティーが貴方を送り返すから」と通告した。チャールズは「脚本を書き上げたらハリウッドに行ける」とルースをなだめ、「エルヴィラがいた方が早く書き上がる」と説明した。エルヴィラはアルカティーの元へ行き、特殊能力で脅しを掛けて「私を追い出すなんて許さない。邪魔をしたら死ぬまで取り憑いてやる」と告げた。
翌朝、庭の手入れをしていたルースは、イーディスが足を引きずっているのに気付いた。それを指摘されたイーディスは、階段にグリースが塗ってあって落下したと話す。チャールズはヘンリーからの電話で、グレタ・ガルボが出演すると知らされて興奮した。エルヴィラは彼とルースの関係に激しく嫉妬し、皿を投げ付けた。エルヴィラは審査員が来る前に庭を荒らし、ルースに嫌がらせした。アルカティーは霊媒師協会のハリー・プライス会長を訪ね、「霊が肉体を得る可能性がある」と説明する。彼女は協力を要請するが、会員の資格を剥奪される。事務員のマーゴットはプライスに内緒で専門書を持ち出し、除霊の呪文と必要な道具をアルカティーに教えた。
邸宅でホーム・パーティーが開かれた時、エルヴィラはチャールズのアンフェタミンを盗んでルースの酒に混入した。何も知らずに飲んだルースはハイになり、下着姿で騒いだ。翌朝、エルヴィラは台所でドナにナイフを投げて威嚇した。エドナは「この屋敷は呪われている」と怯え、「辞めさせてもらいます」と逃げ出した。チャールズはエルヴィラの協力で、脚本を完成させた。エルヴィラから再び恋に落ちるよう求められた彼は、「異次元にいるのに無理だ。君との未来が見えない」と拒んだ…。

監督はエドワード・ホール、原作はノエル・カワード、脚本はニック・モアクロフト&メグ・レナード&ピアース・アシュワース、製作はジェームズ・スプリング&メグ・レナード&ニック・モアクロフト&ピーター・スネル&トニ・ピノリス&エイドリアン・ポリトウスキー&マルタン・メッツ&ヒラリー・ビーヴァン・ジョーンズ、製作総指揮はフィリップ・グリーダー&ジョアンナ・ランバート・スミス&ゾーイ・デイヴィス&ジェイ・ファイアストーン&イアン・ブラウン&リック・セナト&ナディア・カムリッチ&ネッサ・マッギル&サニー・ヴォーラ&ティム・スミス&ジェームズ・スウォーブリック&ジョン・E・ストーリー&アンドリュー・ボズウェル&デイヴ・ビショップ&ベアタ・サボーヴァ&バスティアン・シロド&共同製作はジェーン・フックス、撮影はエド・ワイルド、美術はジョン・ポール・ケリー、編集はポール・トシル、衣装はシャーロット・ウォルター、音楽はサイモン・ボズウェル、音楽監修はイアン・ブラウン。
出演はレスリー・マン、ダン・スティーヴンス、アイラ・フィッシャー、ジュディー・デンチ、エミリア・フォックス、ジュリアン・リンド=タット、アディル・レイ、ミッシェル・ドートリス、エイミー=フィオン・エドワーズ、ジェームズ・フリート、デイヴ・ジョンズ、サイモン・クンツ、イシー・ヴァン・ランドウィック、キャリー・クック、ジョージナ・リッチ、ステラ・ストッカー、ジェームズ・サイグローヴ、コリン・スティントン、タム・ウィリアムズ、デルロイ・アトキンソン、ザック・ワイアット、ロミーナ・ザパタ、アラン・マクリーン、チャーリー・カーター他。


ノエル・カワードの戯曲『陽気な幽霊』を基にした作品。
舞台演出家のエドワード・ホールが監督を務めている。
エルヴィラをレスリー・マン、チャールズをダン・スティーヴンス、ルースをアイラ・フィッシャー、アルカティーをジュディー・デンチ、ブラッドマン夫人をエミリア・フォックス、ブラッドマンをジュリアン・リンド=タット、マンディープをアディル・レイ、エドナをミッシェル・ドートリス、イーディスをエイミー=フィオン・エドワーズ、プライスをジェームズ・フリート、ヘンリーをサイモン・クンツ、マーゴットをイシー・ヴァン・ランドウィックが演じている。

チャールズはアルカティーがインチキ霊媒師だと知った上で、自宅での降霊会を依頼する。その時点では理由が全く分からず、劇場を出てルースと話すシーンで事情が明らかになる。
でも、依頼する理由は、その前に言った方が親切でしょ。
あと脚本化している小説の内容が全く明かされていないので、なぜカラクリを知る必要があるのかも分かりにくいぞ。ルースとの会話は「主人公は未解決事件の被害者で死んでいて、霊媒師を通して生きてる者と会話する」と説明しているけど、そういう情報は先に触れておいた方がいいでしょ。
っていうか、小説に登場する霊媒師は本物なのに、インチキ降霊会のカラクリを知る必要があると考える理由も良く分からないし。
それと、ルースの様子からすると、彼女はチャールズの小説を全く読んでいないのかよ。それも引っ掛かるぞ。

エルヴィラは初めて登場する時、半透明の状態になっている。ボンヤリした状態から、少しずつ全体がクッキリしていく。
でも、この演出は全く要らない。最初からハッキリと姿が見える状態でいい。いっそのこと、「チャールズが視線を向けたり振り向いたりしたら、そこにエルヴィラがいる」という登場でもいいだろう。
そのエルヴィラは自分の死を理解しておらず、チャールズに「死んでいる」と言われると腹を立ててビンタしようとする。その手が空を切り、2人が同時に鏡を見るとエルヴィラが写っていない。チャールズとエルヴィラは顔を見合わせ、絶叫する。
「笑うトコですよ」と分かりやすくアピールしているが、見事に外している。

ャールズは自分以外にエルヴィラの姿が見えていないと理解した後も、彼女がいないように装うことが全く出来ていない。エルヴィラに腹を立てて言い返し、目の前にいる別人への文句だと誤解されて怒りを買う。
このパターンを何度も繰り返すのだが、その天丼ギャグも全く笑いに繋がっていない。
それどころか、学習能力ゼロでボンクラすぎるチャールズにイライラさせられるばかりだ。
最終的に彼は「女の敵」みたいな扱いで終わるけど、「だからイライラさせる存在で大正解」なんてことは微塵も思わないぞ。

たぶん、上品でウィットに富んだ古典的な喜劇のテイストを狙っているんじゃないかと思う。しかし結果としては、ただ古臭くて生ぬるいだけの映画になっている。
もっと思い切り弾けたドタバタ喜劇にした方が、少しは可能性があったんじゃないかと。
演出のテンポや間の取り方も悪ければ、俳優の芝居も冴えない。
アルフレッド・ヒッチコックやグレタ・ガルボ、クラーク・ゲーブル、セシル・B・デミル、グーギー・ウィザースといった実在の映画人が何人か登場するが、それを活かすような工夫も何も無い。

アルカティーやイーディスはスペイン戦争で身内を亡くしている設定で、そこに何か大きな意味がありそうなのだが、まるで活用されずに終わっている。
アルカティーはドナルドの幽霊を呼び出して一緒に姿を消すけど、サブストーリーとして綺麗に着地せず、放り出したような状態になっている。
イーディスはエルヴィラのせいで怪我を負いながらも最後まで邸宅に残るけど、逃げ出しても大差は無い。
何か重要な役割を果たすのかと思ったら、明確な存在意義を示せないままフェードアウトしてしまうし。

エルヴィラがピアノを演奏してもルースは幽霊の存在を信じず、チャールズの悪ふざけだと捉える。しかし直後にエルヴィラが口紅で絵に落書きすると、途端に悲鳴を上げる。
その急激な変化は置いておくとしても、いきなりアルカティーの元を訪れて対処を依頼するのは拙速だと感じる。
その前に、まずは「本当にエルヴィラなのか」と確認する作業を経ても良くないか。
チャールズと話すとか、エルヴィラとコンタクトを試みるとか、チャールズを通じてエルヴィラと話そうとするとかさ。

エルヴィラの登場シーンでは、チャールズに平手打ちを浴びせようとしてすり抜けてしまう。つまり、この段階では彼女は生きている人間に触れることが出来ない状態だ。
そして「チャールズに触れられない」という現象がきっかけで、エルヴィラは自分が幽霊だと気付く流れになっている。そして、バーのシーンではエルヴィラがチャールズに触れている。
アルカティーに「戻って来た霊が望めば実在するようになる」という言わせるだけで、そのご都合主義を成立させてしまう。
でも、ずっと触れることが出来ない設定でもいいだろ。それで困ることより、むしろネタとして色々と使えることが多そうだぞ。

チャールズが「君との未来が見えない」と言った直後、エルヴィラが触ろうとすると手がすり抜けてしまう。
どうやら、「チャールズの気持ちに伴って、エルヴィラの実体化の度合いが変化する」という設定のようだ。
でも、それが物語を面白くするためには全く貢献していないんだよね。そのシーンで触れることが出来なくなるだけぐらいで、他では物語を動かす要素として全く使われていないし。
なので、「じゃあ要らなくねえか、その設定。ずっと触ることが出来ない設定で良くないか」と言いたくなる。

イーディスが「階段にグリースが塗ってあって落下した」と話すシーンがあるが、台詞で語るだけで片付けるなら、そんなの無くてもいい。
「エルヴィラが邪魔者を排除するために行動する」ってのを手間と時間を掛けてじっくりと描こうとしているようだが、これが何の笑いにも繋がっていないし、サスペンスとしての魅力も無い。
チャールズやルースたちがエルヴィラの仕業だと気付かない時間が続くが、早く気付かせた方が何か可能性がありそうだし。
少なくとも、コメディーとしては、そっちの方が良さそうだ。

マトモにサスペンスだけをやっても面白くなりそうな可能性は感じないので、とにかくコメディーとしての色を濃くするしか手は無いと思うんだよね。だけど実際には、終盤に入るとサスペンス方面にどんどん傾いていく。
仮にブラック・コメディーを狙っていたとしても、失敗に終わっている。ハラハラドキドキさせる感覚も欠けており、シンプルに「エルヴィラが嫌な女」と感じるだけ。
なので、オチも全く決まらない。
完全ネタバレを書くと「エルヴィラとルースが仲良くなり、共通の敵だと感じたチャールズを殺す」というのがオチなのだが、ちっとも心地良さのあるエンディングになっていない。

(観賞日:2023年1月2日)

 

*ポンコツ映画愛護協会