『ブリングリング』:2013、アメリカ

カリフォルニア州カラバサス。高校生窃盗団のマーク、レベッカ、サム、クロエ、ニッキーは深夜のパリス・ヒルトン邸に侵入し、高級品を次々に盗み出した。窃盗団は逮捕され、ニッキーは集まったマスコミの前で「私は彼を信じてる。今回のことは教訓を与えてくれた。スピリチュアルな人間として成長するため、導いてくれた。大きな慈善団体を作りたいし、いつかは国の指導者になりたい」と堂々とした態度でスピーチした。
1年前。ニッキーとサムは母のローリーに起こされ、キッチンへ赴いた。前日に男と遊んだニッキーとサムは、夜遅くに帰宅していた。ニッキーの妹であるエミリーは、既にキッチンで朝食を取っていた。ローリーは「今日は授業の日よ。8時からリビングで始めるから」と言い、娘たちを集めて朝のお祈りをした。転校生のマークは母の車で送ってもらい、新しい高校に着いた。冴えない見た目のマークは、生徒たちから聞こえるように陰口を叩かれた。しかしレベッカは笑顔で声を掛け、次の授業がある体育館の場所を教えた。
前の学校についてレベッカに問われたマークは、この一年は自宅学習だったと告げる。「どうして三流高校へ?」とレベッカが質問すると、彼は「欠席が多すぎて前の学校を追い出された」と答えた。「君は?」とマークが訊くと、レベッカは「ヤバい薬を学校に持って来たからよ」と述べた。マークはレベッカから、放課後にビーチへ行かないかと誘われる。レベッカは親友のクロエも誘い、車でビーチへ行く。彼女はマークに、「卒業したらファッションの学校に通い、服や香水をプロデュースして自分の番組を持つ」という夢を語った。するとマークは、「僕も自分のブランドを持ちたいな」と口にした。
レベッカは「ママたちが旅行に出てるから、家に寄らない?」と誘い、マークは彼女の家を訪れた。すると大勢の友人たちが、レベッカの家へ遊びに来ていた。レベッカは自室でマークと2人になり、「ここから早く抜け出して、ニューヨークで暮らしたい」と漏らす。彼女は母親が家庭教師センターを経営していること、出張で家を空けてばかりいることを語り、「貴方の親は?」と尋ねる。マークは「母親は専業主婦。父親は映画の配給会社で働いてる」と答え、父親は海外出張が多いと告げた。
レベッカは「車をチェックする?」と言い、マークを外へ連れ出した。レベッカは路上に停めてある車を次々に調べ、ロックが掛かっていないドアを開けて鞄や財布を盗んだ。マークは彼女の行動を咎めず、一緒になって興奮した。別の日、レベッカは放課後にマークを車で連れ出し、旅行に行っている人はいないかと訊く。エヴァが家族とジャマイカへ出掛けたことをマークが教えると、彼女は鍵の掛かっている家に忍び込んでお金を見つけた体験を楽しそうに語った。
マークとレベッカがエヴァの家へ行くと、窓の鍵が開いていた。レベッカは余裕の態度で侵入するが、マークは心配になって「やっぱり帰ろうよ」と言う。レベッカは「いいじゃん」と告げて屋内を調べ、バーキンのバッグや大量の紙幣を発見した。盗みを終えたレベッカは、エヴァの家の高級車にマークを乗せて運転した。彼女は洋品店へ行き、自分とマークの服やアクセサリーを購入した。マークはレベッカとクロエに連れられてクラブへ出掛け、ニッキーとサムを紹介された。クロエは2人が姉妹ではないとマークに教え、「幼馴染で、なぜかニッキーのママがサムを養女にした」と説明した。
ニッキーが「またジュード・ロウからメールが来てる。まあ会ってもいいけど」と疎ましそうに言うと、クロエは「ホントは嬉しいくせに。しつこくメールしてるのはアンタでしょ」と茶化した。マークは店に来たキルスティン・ダンストを目撃した後、クロエと携帯電話でツーショット写真を撮った。ニッキーは顔馴染みのリッキーから、「仕事でカメラマンが来てる。紹介してやるよ」と言われる。リッキーはレベッカたちに、「音楽業界のマネージャーやテレビ業界のプロデューサーも来てる。紹介してほしかったら言ってくれ」と語った。パリス・ヒルトンを見てマークが喜んでいると、クロエは彼女が店の常連だと教えた。マークはレベッカとも写真を撮り、フェイスブックにアップした。
ローリーは娘たちを集めて人格形成について授業し、アンジェリーナ・ジョリーの素晴らしさについて説いた。マークはパリス・ヒルトンがベガスでパーティーを開く情報をネットで知り、レベッカに教えた。レベッカは、マークに頼んでパリスの家を調べてもらい、盗みに入ろうと決めた。レベッカは玄関マットの下にあった鍵を見つけ、マークを連れて中に入った。レベッカは大量の高級品に興奮し、気に入った品物を次々に盗んだ。マークが怖がって「もう帰ろう」と急かすと、彼女は「写真を撮ってから」と告げた。
レベッカはクロエたちに窃盗の成果を話し、「また行けるよ。留守の時を狙えばいい」と告げた。マークはパリスがマイアミでパーティーを開く情報をネットで仕入れ、今度はクロエたちも一緒にパリスの家へ忍び込んだ。クロエたちは大量のブランド品に興奮し、品定めして気に入った商品を盗んだ。レベッカはクロエたちにクラブルームを見せ、音楽を掛けて盛り上がった。5人はクラブへ繰り出して乾杯し、車で移動する。しかし酒を飲んで運転していたクロエは衝突事故を起こしてしまい、逮捕されて奉仕活動を命じられた。
マークはレベッカたちと仲良くなってから、クラブミュージックを聴いてマリファナを吸い始めた。レベッカから連絡を受けたマークは、2人でパリスの家へ忍び込んだ。レベッカが犬を盗もうとすると、マークは「さすがにバレる」と反対した。2人が高級品を盗んで去ろうとすると、警備員が現れた。マークとレベッカが慌てて身を隠すと、警備員は気付かずに去った。路上駐車の車を見つけたレベッカは中を探り、マリファナを見つけて喜んだ。
レベッカはマークにオードリナ・パトリッジの家と予定を調べてもらい、パーティーで外出中を狙って忍び込んだ。2人は高級品を盗み、フリーマーケットを出して売った。ミーガン・フォックスの家へ忍び込む時、ニッキーはエミリーを連れて来た。クロエが見張りを担当し、他の5人が家に入って物色した。ニッキーはベッドの下にあった拳銃を見つけ、サムに教えた。サムは弾が入っているかどうか確かめず、浮かれて振り回す。気付いたマークが注意すると、サムは調子に乗って彼をからかった。サムはリッキーの部屋に忍び込み、拳銃を自慢する。リッキーが引き寄せた時に誤って弾丸が発射されるが、2人は構わずにセックスを始めた。
マークはオーランド・ブルームが撮影中だという情報を知り、レベッカたちと邸宅へ盗みに入った。マークは全く気付かなかったが、防犯カメラには彼の姿が写っていた。ニッキーとサムはモデルを目指し、オーディションを受けていた。マークはロレックスの時計を幾つも盗み、リッキーに捌いてもらうことにした。マークはクロエの紹介でリッキーに会い、ロレックスを見せた。すぐにリッキーは盗品だと見抜き、5千ドルで引き取った。
マークたちは同じ豪邸へ何度も盗みに入るが、全くバレずに済んでいた。初めて盗みに同行したリッキーは、大量の高級品を見て興奮した。オードリナが監視カメラの映像をネットで公開し、ニュース番組でも大きく報じられた。公開された映像に犯人の顔は写っていなかったが、マークは激しく動揺した。しかしレベッカは「顔はバレてない」と言い、窃盗を続けようとする。彼女から「仕事でパリへ行っているレイチェル・ビルソンの家に行きたい。シャネルが欲しい」と頼まれたマークは、ネットで家を調べた。クロエは「おとなしくしてた方がいいよ」と反対するが、ニッキーとサムは誘われて一緒に盗みに入った。
レベッカたちの窃盗は、仲間内で広く知られるようになっていた。その後もレベッカたちは窃盗を繰り返し、クラブで遊んだりマリファナを吸ったりして楽しく過ごす。レベッカたちは盗んだ高級品を身に付けた姿を撮影し、その写真をフェイスブックに上げていた。レベッカたちは最大の獲物であるリンジー・ローハンの屋敷へ忍び込み、高級品を盗み出した。その後、レベッカは「ママと仲直りするまでパパの所にいる」とマークに説明し、盗品を預けてラスベガスへ向かった。リンジーは防犯カメラの映像を警察に提供し、すぐにマークたちは逮捕された…。

脚本&監督はソフィア・コッポラ、原案はナンシー・ジョー・セイルズ、製作はロマン・コッポラ&ソフィア・コッポラ&ユーリー・ヘンリー、製作総指揮はエミリオ・ディエス・バロッソ&ダーレーン・カーマニョ・ロケット&フランシス・フォード・コッポラ&ポール・ラッサム&フレッド・ルース&マイク・ザキン、撮影はハリス・サヴィデス&クリストファー・ブローヴェルト、美術はアン・ロス、編集はサラ・フラック、衣装はステイシー・バタット、音楽監修はブライアン・レイツェル。
出演はイズラエル・ブルサール、ケイティー・チャン、タイッサ・ファーミガ、クレア・ジュリアン、ジョージア・ロック、エマ・ワトソン、レスリー・マン、ギャヴィン・ロスデイル、カルロス・ミランダ、マーク・コッポラ、ステイシー・エドワーズ、レイチェル・カーソン=ベグリー、ピーター・ビグラー、ジャネット・ソング、アニー・フィッツジェラルド、パット・レンツ、パリス・ヒルトン、ブレンダ・クー、ダグ・デビーチ、エリン・ダニエルズ、ヨランダ・ロイド・デルガド、G・マック・ブラウン他。


月刊誌『ヴァニティー・フェア』に掲載された記事を基にした作品。
脚本&監督は『ロスト・イン・トランスレーション』『マリー・アントワネット』のソフィア・コッポラ。
マークをイズラエル・ブルサール、レベッカをケイティー・チャン、サムをタイッサ・ファーミガ、クロエをクレア・ジュリアン、エミリーをジョージア・ロック、ニッキーをエマ・ワトソン、ローリーをレスリー・マンが演じている。
パリス・ヒルトンが本人役で、アンクレジットだがキルスティン・ダンストも本人役で出演している。

序盤、レベッカはマークをビーチに誘い、カットが切り替わると車に乗っている。この時、サングラスを掛けた金髪女子が運転していて、それがクロエだ。
1年前の回想に入ってからクロエが登場するのは、そこが初めてだ。にも関わらず、ちゃんと紹介する手順が無い。
そのため、「何だか良く分からないけど車を運転している女」ってな感じになっている。
なぜレベッカがマークにクロエを紹介する手順を省略しているのか。そんなの、何のメリットも無いだろ。っていうかデメリットが大きいだろ。
それで短縮できる時間なんて、わずかだし。車でビーチへ向かうシーンでも処理できるし。

もっと言っちゃうと、そもそもビーチへ行くシーンでクロエが同行している必要性も全く無いのよね。
マークと話すわけでもなく、マーク&レベッカと絡むわけでもなく、ただ近くで座っているだけなんだから。そのシーンに彼女がいなくても、何の問題も無い。
運転するのも、マークやレベッカが担当すればいいんだし。
後でマークがレベッカの家を訪れる時に、そこでクロエを登場させても支障は無い。
あるいは逆に、レベッカが初めてマークに声を掛ける時、一緒にいる友人としてクロエを登場させておいてもいいだろうし。

本来なら、「容姿にコンプレックスを抱く陰気で冴えないマーク」と「金持ちでイケてるレベッカ」という関係性は、ものすごく重要なはずだ。
マークはレベッカのような女子から誘われ、仲間として扱ってもらうことで嬉しくなる。だからレベッカの犯罪に最初は戸惑いも示すが、すぐに「仲間として扱ってもらえている」という喜びによって消し去られる。「イケてるグループにいる」という感覚で麻痺してしまい、窃盗団であることに罪悪感を抱かなくなる。
そういう心境の変化が、描かれるべきじゃないかと思うんだよね。
でも実際のところ、そういう描写は全く無いのである。

そもそも、「マークのコンプレックス」という要素のアピールも、ものすごく弱いのだ。
ヴァニティー・フェアの記者から取材を受けるシーンが序盤で挿入され、そこでは「自分がイケてるとは思えなかった。転校先で仲間が出来たけど、それでも人目を気にしてた」と語るが、その程度なのだ。
転校初日に陰口を叩かれているシーンはあるけど、それだけじゃ全く足りていないし。
あと、「自分はレベッカたちみたいにイケてない」とコンプレックスを感じていたにしては、かなり早い段階で馴染んでいるし。

マークはレベッカの窃盗に同行した時、最初は臆する様子も見せるが、大金を見ると興奮して受け入れている。しかしエヴァの屋敷へ侵入した時も、パリス・ヒルトン邸へ侵入した時も、また怖がる様子を見せる。
それは学習能力が無いかのように見える。ここに関しては、「何度も繰り返しているのに全く慣れないのかよ」と、ちよっと呆れてしまう。
いや、もちろん窃盗に慣れるのは良いことじゃないけど、「怖がるぐらいなら、最初から情報を教えて同行するんじゃねえよ」と言いたくなるのよね。
そんでビビったくせに、盗んだ金で買い物をする時には楽しそうで罪悪感や後悔の念は皆無だし。「どないやねん」と。
その辺りの心情を上手く表現できていれば問題は無いけど、出来ていないから引っ掛かるわけで。

で、それなら「いつまで経っても怖がる気持ちは無くならない」というキャラで徹底するのかというと、クロエたちと一緒にパリスの家へ行った時はノリノリになっているのよね。「慣れた」、もしくは「麻痺した」ってことではあるんだろうけど、その変化を上手く表現することは出来ていない。
そこでノリノリにするぐらいなら、もうレベッカと2人だけで忍び込むシーンの時点で、「最初はビビったけど順応する」というトコまで到達させても良くないか。そこをビビったまま終わらせても、後に上手く繋がっていない。
「2人だからビビったけど、5人になったから平気」ってことかもしれないが、そういうのを上手く描けているわけでもないし。
「マークが少しずつ変化していく」とか「どんどん犯罪に馴染んでいく」ってのを、スムーズに描けていないのよね。

ニッキーがレベッカに「パリスの家へ行こうよ。私も泥棒したい」と言った後、彼女がヴァニティー・フェアの記者に「泥棒だったなんて知らなかった。友達だと思ってたのに」と平気で嘘をつく様子が挿入される。ここは「実際の言動と取材での説明が違う」ってをシニカルに描く形となっている。
だが、そういう回想を幾つも重ねるのかと思ったら、以降は全く出て来ない。逮捕後に取材を受けるシーンもあり、そこでは堂々と「慈善活動に熱心で」と語っている。
ただ、逮捕後のシーンになると、意味合いが違って来るのよね。そのため、前述したニッキーのインタビューは「良くある演出なので、とりあえず入れてみた」という程度のモノになっている。
っていうか、ニッキーの存在感が急に大きくなり、レベッカが完全にカヤの外になっちゃうのは、キャラの扱いとしてバランスが悪すぎるし。

ザックリ言うと、無色透明で無味無臭な映画である「バカな若者たちが盗みを繰り返したけど、全く反省しませんでした」ってのを、ただ事象として見せているだけだ。それ以上でも、それ以下でもない。
そこから何を感じ取ればいいのか。「そういうことがあったんだね」としか感じない。「だから何なのか」という疑問が生じても、それに対する答えは何も用意されていない。
ある程度の答えを観客に委ねる映画作りをするのは、一向に構わない。なんでもかんでも明確な答えを出すことだけが、映画を面白くするわけでもない。
ただ、この作品は、あまりにも観客に丸投げし過ぎている。
ソフィア・コッポラは本作品について「登場人物の内面を描きたかった」とインタビューでコメントしているけど、内面なんて全く描けていないからね。「寄りの映像を多くすれば、それで内面が描ける」なんて単純なモノじゃないからね。

(観賞日:2022年8月2日)

 

*ポンコツ映画愛護協会