『ポリス・ストーリー REBORN』:2017、中国&香港

刑事のリンは車を運転中、幼い娘のシーシーが入院している病院から電話を受けた。シーシーの容体が悪化したと知らされた彼は、急いで病院へ向かおうとする。その途中、部下のスーから連絡が入り、リンは証人の警護と連絡が付かなくなったと聞かされる。リンが詳細を尋ねると、スーは事情を説明した。証人は遺伝学者のジェームズで、武器商人のために生化学兵器を研究していた。先週、放射線を浴びたジェームズの人造人間が暴れて研究者と武器商人を殺し、資産を我が物にしていた。
リンは警察長官からジェームズを軍の基地へ護送するよう命じられ、病院へ行くことを断念した。彼は警官隊を率いてジェームズの元へ行き、家から連れ出した。そこへ人造人間のアンドレが武装集団を引き連れて現れ、警官隊を攻撃した。一味は圧倒的な戦力で次々に警官を始末し、アンドレは人工心臓を抱えたジェームズに「俺のおかげで成功した。実験の記録はどこにある?」と詰め寄った。リンは車で彼に突撃し、燃料タンクを撃って大爆発を起こした。
13年後、シドニー。リック・ロジャースの新作小説『Bleeding Steel』は、発売前から話題を呼んでいた。その小説は、放射線で死んだ元海兵隊員を遺伝学者が引き取り、人工心臓のバイオロイドにする内容だった。女装で売春婦に化けたリスンはリックが泊まるホテルへ行き、見張りにバレずに部屋に入った。彼は酒に薬を混ぜてリックを眠らせ。パソコンのデータを抜き取った。女殺し屋はアンドレの手下2人を率いてホテルに入り、見張りを始末した。女殺し屋たちが部屋に来ると知ったリスンは、バスタブに身を隠した。
女殺し屋はリックを強引に起こし、「本のネタは誰から?」と脅しを掛けて尋問した。そこへ覆面で顔を隠したリンが窓から飛び込み、女殺し屋たちに襲い掛かる。リンはリックに「本のネタは?」と詰問し、「買った。粗筋はパソコンに」という答えを得た。彼はパソコンを盗み、窓から逃亡した。女殺し屋はリックを始末し、警官隊が到着する前にホテルから立ち去った。リスンも部屋を抜け出し、警官隊に気付かれないようホテルから逃亡した。
女殺し屋は大型の特殊飛行機にいるアンドレの元へ戻り、報告を入れた。アンドレは覆面男の正体がリンだと見抜き、リスンの居場所も突き止めた。女殺し屋はアンドレの命令を受け、リスンの始末に向かう。しかしリスンはパソコンで偽装工作を施し、別の場所に移動していた。リスンは盗んだ情報を調べ、ナンシーという女性を探ることにした。一方、リンは女殺し屋たちを見張っており、リスンに騙された建物から去る姿を確認した。
リスンはシドニー大学へ行き、学生のナンシーを観察する。リンは食堂の職員として潜入し、ナンシーを観察していた。ナンシーは罵った女子学生に激怒して殴り掛かり、喧嘩になった。リンとリスンは、慌てて仲裁に入った。ナンシーは悪夢に苦しんでおり、ルームメイトに「医者を変えてから酷くなった」と漏らす。「医者じゃないわ。魔女だから」とルームメイトが言うと、彼女は「違うわ。ガイドのような存在よ。心霊術者と言ってもいいかも」と否定した。
ナンシーはスラム街の奥へ行き、魔女に会って「夢の中の人を知ってる。何かを発見させようとしてるみたい」と話す。魔女は気のせいだと告げ、催眠術で眠らせた。ナンシーは夢の中で、ロジャースの実験で失敗扱いされアンドレが暴れ出す様子を見た。彼女が苦悶したので、魔女は針を刺して強引に目覚めさせた。彼女は「こんなの初めてよ。別の人の魂が宿ってる。私の手には負えない」と言い、催眠術の達人に頼るよう助言して居場所を教えた。ナンシーが去った後、魔女は相棒の小人から「なぜ帰した?悪夢の話を聞いてない」と言われ、「リックは死んだ。私は感じる。彼に売った映像のせいだわ」と述べた。
ナンシーはチンピラたちに絡まれて逃げ出すが、追い詰められた。そこへリスンが駆け付けて助けようとするが、まるで役に立たなかった。ナンシーはスプレーをチンピラたちの顔に浴びせ、リスンを連れて逃走した。ナンシーはデートに誘うリスンを冷たく拒絶し、タクシーを拾って去った。その際、リスンはナンシーが持っていたマジックショーのパンフレットを盗み取っていた。ナンシーはマジックショーのリハーサルが行われているオペラハウスへ行き、警備員に「出演者に会いたい」と言うが入れてもらえない。そこへ照明係のバスを盗んでスタッフを装ったリスンが現れ、「恋人だ」と嘘をついてナンシーを招き入れた。
オペラハウスに入ったナンシーは、リスンを無視して目当ての人物を捜索する。マジシャンのチェンバレンはナンシーに気付き、ステージに呼んで催眠術を掛けた。ナンシーは夢の中で、幼少期の自分が入院し、後ろ姿の父と会っている映像を見た。ナンシーは父の顔を見ようとするが、女殺し屋が手下たちを率いてステージに乱入した。チェンバレンは「もう遅い。使命は果たした」と言い残し、女殺し屋に始末された。そこへリンが現れ、女殺し屋たちに戦いを挑んだ。
女殺し屋は手下たちにリンの相手を任せ、眠っているナンシーを椅子ごと連れ去った。リンは手下たちを倒し、女殺し屋を追った。彼はナンシーについて「私の娘だ」と言い、女殺し屋に襲い掛かる。そこへリスンが駆け付け、リンが戦っている間にナンシーをオペラハウスから連れ出した。リンはオペラハウスの屋上で女殺し屋と戦うが、彼女を置き去りにして逃亡する。彼はモーターボートに乗ったリスンに気付き、合流して逃走した。
リンは自宅にナンシーを運び、ベッドで休ませた。彼はリスンを地下室で拘束し、娘を付け回した理由について尋問する。リスンは好意を抱いたからだと説明するが、リンは信じなかった。彼はスーに連絡し、リスンの音声ファイルを送って調査を依頼した。リンは魔女の館に乗り込み、遺体を発見した。彼が自宅に戻ると、目を覚ましたナンシーが逃げ出していた。ナンシーはジェームズの記憶を思い出しておりシンカンへ向かうことにした。
リンはナンシーの行き先を知り、スーに連絡を入れた。彼はリスンに手錠の鍵を渡し、「扉は明日、開く」と告げて家を出ようとする。彼は一味が来たのを知ると隠し扉から脱出し、自宅を爆破した。シンカン行きの飛行機に乗ったリンは、過去を回想した。アンドレとの戦いで重傷を負った時、入院した彼はスーから自分と娘が死んだことになっていると知らされた。シーシーはジェームズの人工心臓と人工血液で救われ、ジェームズの人工遺伝子も体内に入っていた。スーはリンに、「彼女は目覚めた時には記憶を失っている」と説明する。リンはアンドレが狙って来ると確信し、娘を守るためにオーストラリアの施設へ入れて密かに見守ることにしたのだ。
シンカンに着いたリンはスーと合流し、リスンが盗みで捕まったが証拠不充分で釈放されていること、何を盗もうとしたのかは分からないことを聞かされた。ナンシーはジェームズの部屋を訪れ、隠してあった貸金庫の鍵を見つけた。またジェームズの記憶が蘇り、ナンシーはリンが父であること、幼い頃から自分を見守ってくれていたことを知った。そこへ女殺し屋が現れ、車でナンシーを拉致した。ジェームズの家へ向かっていたリンは一味の車にナンシーが乗っているのを見つけ、急いで後を追った。
女殺し屋はリンの相手を手下たちに任せ、ナンシーを連れて逃亡する。リンが敵の車を追っていると、リスンが駆け付けた。彼は敵の車を横転させ、ナビを使ってナンシーの位置をリンに教えた。リスンは協力を申し出るが、リンは帰るよう命じてスーに連絡を入れる。しかし車が故障して動かないため、仕方なくリスンのスクーターに同乗させてもらう。女殺し屋と手下たちは銀行へ行き、貸金庫でビデオカメラを手に入れる。しかし銀行員に化けていた警官が貸金庫に閉じ込め、催眠ガスで女殺し屋を眠らせた…。

脚本&監督はレオ・チャン、脚本はエリカ・シアホウ&ツイ・シウェイ、製作はハヴィエル・チャン&ポール・カリー&アイリーン・リー、製作総指揮はジャッキー・チェン&リウ・カイルオ&ヤン・ウェイドン&ジョン・ゼン&エレン・エリアソフ&シュー・シークァン&イン・ダー&ロン・リウ&アレックス、共同製作総指揮はジェイシー・チャン&ワン・ペン&アリー&ライアン&ケヴィン・チャン&ワン・ボーチャオ&ジェイソン・サン&アラン&ルル、共同製作はリー・チーシアン&ジェリー&アレン・チュー&チャン・デフ&ユエ・ヤン&グレース・チャン&チューチェン・ハンヤオ&Ke Wangワン・カー&シュー・フェイ&サン・ビン&エドワード・リー&シュン・リュンキット&リー・キン&リウ・クアン、製作協力はエドワード・タン&チョウ・フアン&カレン&ケアリー・チェン&ユー・ユー&バイ・ヤリ&ラリー&カオ・ヤン&レオ・チャン&ルー・ヤン&ヤン・ハイ&タレント・チャン&リウ・ニン、撮影はトニー・チャン&ジャック・ジアン、美術はフアン・メイチン、編集はコン・チーリョン&レオ・チャン、衣装はシュー・リーウェン、音楽はペン・フェイ。
出演はジャッキー・チェン、ショウ・ルオ、オーヤン・ナナ、エリカ・シアホウ、カラン・マルヴェイ、テス・ハウブリック、ダミアン・ガーヴェイ、ボウイ・ラム、エレナ・カイ、ジリアン・ジョーンズ、サミー・ザ・ドワーフ、コセンティーノ、アンナ・チェニー他。


日本では「『ポリス・ストーリー』ユニバースの10本記念作品」という触れ込みで公開されたが、『ポリス・ストーリー/香港国際警察』とは何の関係も無い作品。
リンをジャッキー・チェン、リスンをショウ・ルオ、ナンシーをオーヤン・ナナ、スーをエリカ・シアホウ、アンドレをカラン・マルヴェイ、女殺し屋をテス・ハウブリック、リックをダミアン・ガーヴェイ、シーシーをエレナ・カイが演じている。
エリカ・シアホウは共同脚本も担当している。

アヴァンの段階でスーから「人造人間(バイオロイド)という台詞が飛び出し、嫌な予感がプンプンと漂ってくる。
リンたちがロジャースを連れ出そうとすると、小さな虫型のメカが分離して車を爆発させる。そしてヴォルデモートの出来損ないみたいな白塗りのアンドレが現れ、こいつが人造人間だと判明する。
彼が引き連れているのは、フルフェイスのヘルメットを被ってバイクスーツみたいな服を着ている連中。
そしてシドニーのパートに移ると、アンドレが乗っている特殊な飛行機が登場する。

ようするに、近未来SFみたいな設定が幾つも用意された話なのだ。そりゃあ、『ポリス・ストーリー』でも何でも無いわな。そもそも、リンはアヴァンを過ぎると警官じゃなくなっちゃうし。
ただし、『ポリス・ストーリー』じゃないってのは大した問題じゃなくて、単純に映画としてドイヒーなのだ。
そもそも近未来SFという時点でヤバい匂いは強いけど、せめて近未来SFとしてディティールを徹底すべきだろう。
だけどアンドレの周囲だけが近未来SFで、それ以外は我々が暮らす世界と何も変わらないのだ。だから人造人間の設定や飛行機の存在が、完全に浮いているのだ。

近未来SFの部分に絞り込んでも、まとまりが全く無い。
前述したように小型の虫メカが車を爆破するシーンがあるが、こんなの要らないだろ。
そういうメカを出すのなら、「機械を操る敵」として徹底しておけばいい。でも、それ以降でメカメカしい要素が出て来るのは特殊な飛行機ぐらいだ。
それなら、「人造人間」の部分に集中した方がいい。のっけから、色々と散らかっているようにしか思えない。
あと、アンドレと彼が率いる武装集団は、同じ世界観のキャラには思えない。

しかも、近未来SFの要素だけでなく、オカルトやファンタジーの要素も混入されている。
ナンシーが相談している相手は心霊術者だが、配役としては「魔女(Witch)」だ。実際に魔法を使うことは無いが、オカルトめいた匂いが強い。
それと彼女に関しては、「なぜスラムの奥で商売している怪しげな魔女に、ナンシーは診てもらうようになったのか」という疑問が湧くぞ。どうやって知り合い、なぜ医者から魔女に乗り換えたのか。
そのせいで悪夢が酷くなったのに、魔女の元へ通い続ける理由も良く分からんし。

ナンシーがチンピラに襲われてリスンが助けようとするシーンは、アンドレの一味とは何の関係も無い戦いだ。
ここではリスンがコミカルな反応を見せる描写があるが、まるで作品としての統一感が取れていない。他のシーンでもリスンは軽いノリを見せているが、この映画にコミカルな味付けなど邪魔なだけ。
マジックショーのシーンも、これまた統一感を削いでいる。
SFならSFで、徹底すべきでしょうに。
色んなジャンルを寄せ集めて、上手くまとめて調理できるとでも思ったのか。

なぜチェンバレンがナンシーを見つけると催眠術を掛けたのか、その理由が良く分からない。
魔女から話を聞いていて、「ナンシーは彼女に違いない」とでも思ったのか。だけど何も聞かない内に、ただ顔を見ただけで催眠術を掛けるのは不自然極まりないだろ。彼女に催眠術を掛けるにしても、リハーサルの現場で始める必要なんて全く無いし。
っていうか魔女にしろチェンバレンにしろ、何がしたかったのかと。
アンドレと繋がっていて、ナンシーにジェームズの記憶を取り戻させることで貸金庫の鍵を手に入れようという目論みがあったんだろうという推理は成り立つよ。
ただ、それ以外でも意味不明な行動が幾つかあるし、キャラとしてデタラメであることは確かだ。

オーストラリアを舞台にしたのは、「オペラハウスの屋上でのバトル」をやりたかったからだろう。それ以外で、オーストラリアを舞台にしている意味は全く感じないからね。
そんなオーストラリアのパートでは、女殺し屋が何度も登場してリンやリスンの前に立ちはだかる。前線で戦う強敵の扱いなのだが、そんな女殺し屋が貸金庫に閉じ込められ、ガスを浴びせられて簡単に眠り込むのは情けないなあ。
そこは何か策を講じて自分だけ脱出するとか、催眠ガスを耐えて警官隊と戦うとか、そういう展開かと思ったのよ。
なので、普通に眠り込んで捕まる姿を見て、気が抜けちゃったわ。

アンドレはラスボスだから、終盤までリンとの直接対決を用意しないのは、構成としては理解できる。ただ、それにしても姿を消している時間が長すぎるでしょ。
飛行機で女殺し屋から報告を受けるシーンの後、終盤まで登場しないのよ。途中で女殺し屋から報告を受ける様子とか、作戦に言及する様子とか、そういう形で出番を挟むことぐらい出来るでしょ。
っていうかアンドレの他にバイオロイドはいないんだから、ラスボスであっても基本的には前線で動かした方がいいんじゃないの。
「13年前の大怪我で細菌に感染し、無菌室から出ることが出来ない」という設定で飛行機に閉じ込めておくのは、勿体無いだろ。

全てが終わった後、エピローグで「リスンの父親は武器商人で、アンドレに殺されていた。シーシーと同じ施設に入っていた」ってことが明らかになる。つまり彼は、復讐のために動いていたわけだ。
でも、それを明かすタイミングが遅すぎて、どうでもいい情報になっている。
で、最後は「最終決戦で死んだと思われていたリスンが実は生きていて、失われたはずの重要な映像も持っている」ってことが明らかにされる。でも、これも全く要らないオチで、普通に最終決戦でリスンを生き残せらておけばいい。
っていうか、あの状況でリスンが無事に飛行機から脱出できているって、どう考えても無理があるだろ。

(観賞日:2022年10月9日)

 

*ポンコツ映画愛護協会