『ブラック・ナイト』:2001、アメリカ

27年前に作られたテーマパークで働いているジャマールと仲間のスティーヴやデレクたちは、経営者のボスティック夫人から集合するよう指示される。近くに「キャッスル・ワールド」という新しい施設が出来ることを受け、ボスティックは「真っ向から勝負する」と宣言する。しかしテーマパークは客が少なく、ジャマールは軽い調子で「それよりも、ここを売ったら?」と口にした。少しは身を入れて働くようボスティックが諭しても、彼は全く態度を変えなかった。
ジャマールはキャッスル・ワールドへの転職を目論んでおり、真面目に仕事をする気など毛頭無かった。川に浮かぶメダルを見つけた彼は、拾い上げようとして橋から身を乗り出した。するとジャマールは、不思議な力に吸い込まれるように川へ落下した。ジャマールは慌てて水面に上がり、岸に辿り着いた。彼は気付いていなかったが、そこは森の中にある湖だった。岸には騎士のノルティー卿が立っており、ジャマールの目の前で意識を失って倒れた。
ジャマールはノルティーに人工呼吸しようとするが、あまりにも口が臭いので顔をしかめる。彼が持っていた口臭スプレーを噴射すると、ノルティーは意識を取り戻した。ジャマールは自分が中世ヨーロッパに来たと気付いておらず、野宿しているノルティーをホームレスだと思い込んだ。ノルティーは「仕えていた女王陛下を守れなかった」と話すが、ジャマールは頭がおかしいのだと理解した。彼は2ドルを渡し、ノルティー卿と別れた。
近くの集落を抜けようとしたジャマールは、騎士の一団とぶつかりそうになった。一団が走り去った方に彼が目をやると、城が建っていた。ジャマールはキャッスル・ワールドだと思い込み、騎士団を追った。門番に止められた彼は、「支配人に会わせろ」と要求する。素性を問われたジャマールが腹を立てて「サウス・セントラル出身だと知ってて言ってるのか。フィレンツェとノルマンディーだ」と通りの名前を口にすると、門番は「ノルマンディーの言葉を待ち侘びていました」と丁重な態度で招き入れた。
ヴィクトリアという女性に目を奪われたジャマールは、ナンパして電話番号を聞き出そうとする。ヴィクトリアは「7番」と答え、自分は国王の7番目の女官だと告げた。騎士のパーシヴァルがヴィクトリアにセクハラして去ろうとすると、ジャマールは彼を挑発して喧嘩を売る。パーシヴァルは剣を抜くが、本物だと分かっていないジャマールは余裕の態度を見せた。ジャマールは特使だと思われており、侍従のフィリップが迎えに来た。
レオ王と面会したジャマールは「大公はいつ娘を迎えに来られる?」と質問を受け、豪華なセットで芝居が始まったのだと思い込む。彼が「火曜日です」と適当に答えると、レオ王は喜んで宴を開くと告げた。フィリップに城を案内されたジャマールは、反乱軍のリーダーが処刑されると聞いて見物に行く。本物の処刑だと知った彼は、その場で失神した。目を覚ましたジャマールは介抱してくれたヴィクトリアに質問し、今が1328年だと言われて困惑した。
ジャマールが「帰る」と言い出すと、ヴィクトリアは「使命があるでしょ?」と告げる。ジャマールが拾ったメダルは女王派の反乱軍の印であり、ヴィクトリアも同じ物を持っていた。彼女はレオ王を暗殺するために潜入しており、ジャマールに計画を尋ねた。ヴィクトリアは「先王のジョンを殺して女王の王冠を奪ったのだから、当然の罰よ」と怒りを吐露し、先程の処刑はレオ王による見せしめなのだと述べた。レオ王が用意した黒い馬に乗るよう促されたジャマールは、「俺は使者でもあるが道化師でもある」と咄嗟に告げる。馬に翻弄されたり追い掛けられたりするジャマールを見たレオ王は、本物の道化師だと誤解して大笑いした。
ジャマールはヴィクトリアの前でノルティーの名前を出すが、「彼は死んだわ」と告げられた。ジャマールは晩餐会に出席し、レオ王から「ノルマン人は踊りが上手いらしいな」と言われる。ダンスは得意だとジャマールが自慢すると、彼は披露するよう求めた。楽団の奏でる穏やかな音楽では上手く踊れないので、彼はノリのいい曲を口伝えで指示した。ジャマールは歌いながらパーティー客を巻き込み、一緒に踊った。興奮したレジーナ王女はレオ王の目を盗み、ジャマールにキスをした。それを目撃したパーシヴァルは、ジャマールに詰め寄って剣を抜いた。ジャマールは隙を見て逃げ出すが、バルコニーに追い詰められる。ロープを使って逃げた彼は、レオ王に激突してしまった。だが、ちょうどヴィクトリアの仲間がナイフを構えてレオ王に迫っていたため、ジャマールは暗殺を阻止した英雄になった。
レオ王は警備責任者であるパーシヴァルを叱責し、ジャマールに「王家の家臣となって宮中を警備してほしい」と要請した。領地と農夫だけでなく夜伽の相手も好きなだけ与えると言われ、ジャマールは快諾した。馬を車に見立てたライドスルー方式のファストフード店でフラペチーノを売ろうと考え、騎士たちに説明して制服を見せた。レオ王は畑からカブを盗もうとした男を捕まえ、ジャマールに処刑するよう命じた。ジャマールは連行すると見せ掛け、密かに男を逃がした。
ジャマールは夜伽の相手にヴィクトリアを指名するが、部屋に来た彼女が怒って「早く済ませて」と言うと「話をしたかっただけだ」と弁明した。彼が「あの王様はイカれてる。カブを1つ盗んだだけで処刑するんだぜ」と言うと、ヴィクトリアは「私たちに協力する?」と尋ねる。ジャマールは「俺は逃げる。本物の伝令人が来たら殺される」と断り、ヴィクトリアから「でもメダルを持ってる」と言われて「俺は反乱軍じゃない」と告げる。ヴィクトリアは幻滅し、「じゃあ話すことは無い」と去った。
ジャマールが部屋を暗くして就寝しようとすると、女性がベッドに入って来た。彼はヴィクトリアが戻って来たのだと思い込み、一夜を共にした。翌朝、ノルマンディーから本物の使者が来たため、レオ王はパーシヴァルや護衛を率いてジャマールの部屋へ乗り込んだ。するとベッドにはレジーナが寝ており、使者は「大公の結婚は無かったことにさせてもらう」と立ち去った。同盟を組む機会を失ったレオ王はジャマールを捕まえ、翌朝に処刑すると決定した。
牢獄に収監されていた反乱軍のデニスとアーニーは、ジャマールを称賛した。ジャマールがレジーナの処女を奪ってノルマンディーとの同盟を阻止し、女王陛下が復権する望みを繋いでくれたと解釈したのだ。デニスとアーニーは、伝説の存在であるブラック・ナイトに言及した。ブラックナイトは歴代の王が召し抱えようとしたが正義のためにのみ戦うことを選び、凶暴な竜に飲まれても黄金の剣で腹を割いて生還した男だ。デニスたちはブラックナイトが実在すると言うが、ジャマールは全く相手にしなかった。
翌朝、処刑台に連行されたジャマールは、「俺は世界一の魔術師だ」と言い出した。彼は「火を起こす」と告げ、ライターを取り出して火を付ける。しかし城の人々にとって火など当たり前の存在であり、レオ王は改めて処刑を命じた。しかしリンゴを食べていた処刑人が喉を詰まらせるのを見て、見物人の女性が「魔術師が呪いを掛けたのよ」と叫ぶ。ジャマールは「そうだ、俺が呪いを掛けた」と話を合わせ、「解くことも出来るぞ」と処刑人の腹を押さえてリンゴを吐き出させた。
ジャマールが「お前たちを燃やすことも出来るんだ」と言った途端、どこからか火矢が放たれた。レオ王は「奴を捕まえろ」と指示して、その場を去った。火矢を放ったのは、城外にいたノルティー卿だった。ジャマールはデニスたちと共に暴れ、ヴィクトリアの用意した馬車で脱出しようとする。ジャマールは馬車から落ちてしまうが、駆け付けたノルティー卿に救われた。ノルティー卿は森で野営する反乱軍の仲間と合流し、ジャマールは初めて彼が騎士だと知った。ヴィクトリアはジャマールに、ノルティー卿がパーシヴァルの策略のせいで女王を守れなかったことを教えた。しかしノルティー卿は反乱に参加する気が無く、「もう戦わない」と去った。ジャマールはヴィクトリアに「俺の世界に連れ出してやる」と持ち掛けるが、「これから私たちの戦いが始まる」と拒否された。
湖に着いたジャマールは、ノルティー卿は3人のならず者に絡まれている現場を目撃した。ジャマールは助けに入るが、すぐに捕まって反撃される。ノルティー卿はジャマールと協力して一味を撃退し、野営地へ戻る。すると野営地はパーシヴァルの手下たちに襲われており、無傷で済んだのは偵察に出ていた面々だけだった。ヴィクトリアが拉致されたと知ったジャマールは、助けに向かおうとする。しかし彼が「王を倒すぞと」呼び掛けても、野営地の面々は恐れて誰も賛同しなかった。ノルティー卿が「私は行くぞ」と言うと、正体を隠して庶民に紛れていた女王が姿を見せた。ジャマールは女王に、皆を鼓舞するようなスピーチを助言した。しかし女王が上手く話せなかったため、ジャマールが代わりに演説した…。

監督はジル・ジュンガー、脚本はダリル・J・クォールズ&ピーター・ゴールク&ジェリー・スワロー、製作はアーノン・ミルチャン&ダリル・J・クォールズ&マイケル・グリーン&ポール・シフ、製作総指揮はマーティン・ローレンス&ジェフリー・クワティネッツ&ピーチズ・デイヴィス&ジャック・ブロドスキー、共同製作はアーロン・レイ、撮影はウエリ・スタイガー、美術はレスリー・ディリー、編集はマイケル・R・ミラー、衣装はマリー・フランス、音楽はランディー・エデルマン。
主演はマーティン・ローレンス、共演はトム・ウィルキンソン、マーシャ・トマソン、ヴィンセント・リーガン、ケヴィン・コンウェイ、ダリル・ミッチェル、エリック・ジェンセン、マイケル・カントリーマン、ヘレン・ケアリー、ジャネット・ウィーガー、ディクラン・トゥレイン、マイケル・バージェス、イザベル・オコナー、ケヴィン・スティルウェル、マイケル・ポスト、ティム・パルアティー、マーク・ジョイ、ジョー・インスコー、エンジェル・デサイ、エリザベス・F・スミス、グレアム・F・スミス、マーク・ジェフリー・ミラー、ザック・ハナー、リチャード・フラートン他。


『エディ&マーティンの逃走人生』『ビッグ・ママス・ハウス』のマーティン・ローレンスが主演と製作総指揮を兼任した作品。
監督は『恋のからさわぎ』のジル・ジュンガー。
脚本は『ビッグ・ママス・ハウス』のダリル・J・クォールズと、『ギリーは首ったけ』のピーター・ゴールク&ジェリー・スワローによる共同。
ジャマールをマーティン・ローレンス、ノルティーをトム・ウィルキンソン、ヴィクトリアをマーシャ・トマソン、パーシヴァルをヴィンセント・リーガン、レオ王をケヴィン・コンウェイ、スティーヴをダリル・ミッチェル、デレクをエリック・ジェンセン、フィリップをマイケル・カントリーマン、王妃をヘレン・ケアリー、レジーナをジャネット・ウィーガーが演じている。

冒頭、カメラを鏡に見立てたアングルで、ジャマールが歯を磨いたり耳掃除をしたりする出勤前の様子が描かれる。そのため、こっちを見ているマーティン・ローレンスのバストアップが2分ほど続くことになる。
どうやら、マーティン・ローレンスの顔芸で観客を掴みたいという狙いのようだ。
まあ顔芸で笑いを取りに行くのが悪いとは言わないけど、掴みとしてのパワーは弱い。
それに、劇中でもマーティン・ローレンスの顔芸が大きく扱われるならともかく、そういうわけでもないので、「じゃあ冒頭シーンは他の内容にした方が良くね?」と言いたくなる。もう少しテーマパークのシーンを増やすとかさ。

ジャマールは軽薄で生意気で、不真面目なチャラい男だ。タイムスリップした後も、基本的にな言動は変わらない。
相手が王様や騎士であろうと、誰かの生死に関わる問題が起きようと、軽薄で適当な態度を崩さない。だからレオ王と最初に謁見した時も、相手を敬うような振る舞いは皆無だ。
ただ、ジャマールはキャッスル・ワールドは面接試験だと思っているはずなので、「その態度だと受からないだろ」と言いたくなる。
そこは「面接だと思って振る舞い、レオ王が上手く誤解してくれる」という形で笑いに昇華すべきなのに、本気で面接に合格する気があるように思えないので、余計なトコで引っ掛かっちゃうのよね。

ジャマールはタイムスリップしても、なかなか事実に気付かない。ノルティーをホームレスだと誤解したり、ヴィクトリアをナンパしたり、パーシヴァルに喧嘩を売ったりする。
気付かないことが笑いに繋がっていれば、それが正解と言える。だが、ちっとも足りていないので、もっと早くジャマールが気付く展開に移行した方がいいんじゃないかと思ってしまう。
「タイムスリップに気付かないジャマールの言動が、そこにいる人々からすると理解不能で不思議」という形になるわけだが、そこから笑いが生じる可能性がほとんど見えて来ないのだ。
基本的にはジャマールの言動だけで笑いを発信しようとしているが、ことごとく不発に終わっている。

タイムスリップの仕掛けを活用するなら、「現代人のジャマールが過去の生活に驚いたり、知らないせいで失敗を犯したりする」とか、逆に「中世の人々がジャマールの言動に困惑したり翻弄されたりする」というネタが考えられる。
あるいは、「ジャマールが現代の知識や技術を活かして活躍する」とか、「中世の人々がジャマールに感化されて変わっていく」という方向もあるだろう。
だが、どのパターンを見ても、タイムスリップという要素を充分に活用しているとは感じない。それどころか、「中世ヨーロッパじゃなくても良くねえか?」と思ってしまう。
もっと言っちゃうと、ジャマールはタイムスリップじゃなくて、同じ時代の異なる国に飛ばされる設定でも別にいいんじゃないかとさえ思うぐらいだ。

ジャマールはノルティーを助ける時、急にボクシングの技術を使う。
だが、それまで彼がボクシングを得意にしているような設定なんて全く出て来ていなかったし、そこでの動きも見様見真似の付け焼き刃でしかないのよね。しかも、それで一味を撃退するのかと思ったら、あっさりと反撃を食らうし。
だったら最初から「自信満々だったけど全く役に立たない」というネタの方が、笑いとしては正解だ。
中途半端に有効な攻撃にしているのは、ただ笑いを減退させるだけだよ。

いわゆる異世界転生モノの典型みたいなパターンで、「ジャマールが現代の知識を使って大活躍」ってのを徹底した方が、絶対に面白くなった可能性が高いぞ。
そこを雑に扱っているから、ジャマールが戦いに備えて反乱軍にプロレスやアメフトの訓練をさせるのも焼け石に水でしかない。
それが実戦で役に立つシーンも、申し訳程度にしか描かれていないし。
あと、途中で出て来たファストフード店にしても、計画だけで終わっちゃってるからネタとしては消化不良も甚だしいし。

女王がスピーチで変な声を出して諦めるのは、どういうネタなのかサッパリ分からない。
その後、ジャマールが演説すると腰の引けていた面々が心を打たれて燃え上がるのが、まるで説得力が無い。
何しろ、ジャマールは反乱軍が付いて来るような行動なんて何も見せていないし、反乱軍にとって彼は「どこの誰だか良く分からない胡散臭い男」でしかない。
だからジャマールの言葉ってのは、ただの舌先三寸の薄っぺらいモノでしかないのよ。

タイトルが『ブラック・ナイト』で、劇中でもブラック・ナイトの伝説について何度か触れている。
だから、「ジャマールがブラック・ナイトだと誤解される」とか、「ジャマールがブラック・ナイトを装って行動する」という趣向で話を進めてもいいと思うんだよね。
だけど実際には、ジャマールがブラック・ナイトだと誤解されるのは、終盤の戦いに入った時だけ。
しかも、数秒後にはジャマールだとバレているので、その仕掛けは無意味に等しいし。

(観賞日:2021年12月14日)

 

*ポンコツ映画愛護協会