『ブラックホール』:1979、アメリカ

2130年、宇宙探査船パロミノ号は人類が居住可能な星を探索するため、長期間に渡る宇宙旅行を続けていた。ロボットのヴィンセントは副長のチャールズ・パイザー中尉を呼び、「自分が知る限り最大のブラックホールを発見した」と報告する。アレックス・デュラン博士、ダン・ホランド船長、ケイト・マクレー博士、ジャーナリストのハリー・ブースも集まり、レーザー写真を確認する。その近くに動かない宇宙船が探知され、照合するとシグナス号であることが判明した。
シグナス号はケイトの父も乗船し、人類が居住可能な星を探索する目的で打ち上げられたが、20年前に消息を絶っていた。シグナス号のリーダーを務めるハンス・ラインハート博士について、ブースは「天才だが、自分の野心をアメリカの夢に摩り替えて、宇宙開発委員会に無謀な計画を承認させた。失敗すると、帰還命令を無視した」と解説した。パロミノ号はシグナス号に信号を送るが、反応は無かった。強い重力があるにも関わらず、シグナス号は感知してから全く動いていなかった。
ホランドたちは警戒心を抱きつつも、シグナス号に接近して調べることにした。重力で船は激しく揺れるが、シグナス号に近付くと重力はゼロで静かになった。ホランドたちがシグナス号を撮影していると、ブラックホールの引力に捕まってしまう。横転ジェット推力全開で脱出を試みるホランドたちだが、気密装置や空調管が次々に破損する。第4ハッチが吹き飛んだため、ヴィンセントが船外へ修理に向かう。ホランドが通信しても繋がらなかったため、ケイトが超能力でヴィンセントに話し掛けた。
パロミノ号がブースターを使って避難するとシグナス号の内部が光り、ケイトは人がいることに気付いた。エレベーターが上昇したので、ホランドたちは着陸することにした。ドアが開いたので中に入ると、レーザーでヴィンセントが攻撃された。奥へ進んだ一行は、巨大なコンピュータを多くのロボットが操縦している指令室に辿り着いた。そこにはラインハートがいて、ケイトの父が死んだことを伝える。「他の搭乗員は?」と問われた彼は、「帰還しなかったのか?」と驚く様子を見せた。
ラインハートはホランドたちに、「流星群に遭遇し、航行不能になった。通信システムは壊れて漂流し、乗務員に帰還を命じてケイトの父と自分だけが残った」と説明した。彼は警備を担当するマキシミリアンなど、多くのロボットを開発していた。彼は地球へ戻る気が無いことを話し、高圧的な態度を取った。ホランドとパイザーがパロミノ号を修理したいと言うと、ラインハートはマキシミリアンに案内するよう指示した。ホランドとパイザーはヴィンセントを連れて、指令室を出た。
ラインハートはデュラントたちに、「私には未知の惑星を探索する夢がある」と語る。ケイトが「それは他の星を植民地化することよ」と指摘すると、ラインハートは否定しなかった。ホランドは空調管の修理に行くと告げ、マキシミリアンから離れて別行動を取る。パイザーとヴィンセントは、重要な情報を集積しているロボットのボブと遭遇した。ラインハートは地球全体にシグニウムと名付けたエネルギーを供給できるシステムがあることをデュラントたちに明かし、「人類は私を認めるべきだ」と得意げに語った。
ホランドは船内を調べ、不審な動きをするロボットたちを目撃した。ブースは密かに別行動を取って船内を調べ、広大な農園で作業をしているロボットに声を掛けた。目を離した隙にロボットは農園から去り、ブースは姿を見失った。ホランドは修理を始めたパイザーの元へ戻り、目撃した出来事について「人間の葬儀のようだった」と話す。デュランはラインハートを「貴方の持つパワーはブラックホールに勝った」と賞賛し、「君は独自の理論を確立したいと望みながら、まだ方向付けることが出来ていない」と告げられる。デュランが「ここに滞在すれば出来ます」と言うと、ラインハートは「夕食後に話し合おう」と提案した。
夕食に招かれたホランドとパイザーは食堂へ向かう途中、ロボット軍団が射撃ゲームをしている部屋の前を通り掛かった。ヴィンセントに参加するよう促し、2人は食堂へ赴いた。ラインハートはホランドたちに、「ブラックホールを抜けて、その先へ行く」と自信満々に宣言した。ロボット軍団の最高司令官であるスターはボブに対戦を持ち掛け、体を押す妨害行為で勝利した。ヴィンセントはスターに、自分と戦うよう要求した。ヴィンセントは勝利し、スターはレーザーの反射を受けて壊れた。
ボブはヴィンセントに、部品倉庫へ来るよう告げた。ラインハートはデュランに、宇宙探索への同行を持ち掛けた。彼はマキシミリアンに探索船のドッキングを知らされ、食堂を出て行った。ヴィンセントはボブから、「ラインハートは船を守るためなら手段を選ばない」と告げられた。ブースやケイトがラインハートを「正気じゃない」と評すると、デュランは彼の擁護に回った。ロボットが葬儀をやっていたと聞かされても、デュランは「彼がロボットに人間感情をプログラムするわけがない」と否定した。ブースが「農園のロボットは人間のようだった」と言うが、デュランのラインハートに対する心酔は変わらなかった。
ホランドが早急に出発しようと言うと、ブースは「それより真相の究明だ。奴を船ごと連行しよう」と提案した。ボブはヴィンセントに、思考力も意思も奪われた乗組員がロボットにされていることを教えた。警備ロボットに見つかったヴィンセントとボブは、射殺して残骸を片付けた。ケイトはヴィンセントから、パロミノ号に来てほしいというメッセージを受け取った。ケイトとデュランは食堂に留まり、他の3人はパロミノ号へ向かった。デュランはケイトに、ラインハートと行動を共にする考えを明かした。
食堂に戻って来たラインハートは研究ファイルをデュランに見せ、「自分に何かあったら地球で公表してくれ」と頼んだ。ホランドたちはボブから、帰還命令を無視したラインハートが反対するケイトの父を処刑したこと、乗組員を捕まえてロボット化したことを聞かされた。ホランドが助けようと言い出すと、ボブは「意思を奪われた乗組員にとっては死だけが救い」と述べた。ラインハートはデュランとケイトを指令室へ連れて行き、原子炉を起動させてブラックホールに突入する準備を始めた。
デュランはケイトからパロミノ号に戻るよう促されるが、その場に残ると告げた。ヴィンセントはホランドに指示され、ラインハートの所業をケイトに伝えた。ケイトはデュランを呼び寄せ、指令室にいるのはロボットではなく意思を奪われた乗組員だと教える。デュランがロボットのマスクを外すと、生気の無い人間の顔が現れた。ラインハートは落ち着き払った態度で、「どうせ死ぬ。生かす唯一の方法だ」と口にした。デュランとケイトは指令室から逃げ出そうとするが、ラインハートは扉を封鎖した。
マキシミリアンはデュランを殺害するが、これはラインハートが予定していなかった出来事だった。有能な存在を失ったことを残念がったラインハートは、ケイトを病院に連行するよう警備ロボットたちに命じた。出発の準備を進めるホランドは、ヴィンセントからデュランが殺されてケイトが連行されたことを知らされた。ホランドは作業をパイザーに任せ、ケイトの救出に向かった。彼はヴィンセントとボブを伴って病院へ乗り込み、ロボットたちを倒してケイトを助け出した…。

監督はゲイリー・ネルソン、原案はジェブ・ローズブルック&ボブ・バーバッシュ&リチャード・ランドー、脚本はジェブ・ローズブルック&ゲイリー・デイ、製作はロン・ミラー、撮影はフランク・フィリップス、美術はピーター・エレンショー、編集はグレッグ・マクローリン、衣装はビル・トーマス、音楽はジョン・バリー。
出演はマクシミリアン・シェル、アンソニー・パーキンス、アーネスト・ボーグナイン、イヴェット・ミミュー、ロバート・フォスター、ジョセフ・ボトムズ、トミー・マクローリン他。


アメリカでSFブームが巻き起こる中で、混迷期のディズニーが送り出した映画。アカデミー賞の撮影賞と視覚効果賞にノミネートされた。
監督は『フリーキー・フライデー』のゲイリー・ネルソン。
脚本は『ジュニア・ボナー 華麗なる挑戦』のジェブ・ローズブルックとTVドラマ『大草原の小さな家』のゲイリー・デイによる共同。
ラインハートをマクシミリアン・シェル、デュランをアンソニー・パーキンス、ブースをアーネスト・ボーグナイン、ケイトをイヴェット・ミミュー、ホランドをロバート・フォスター、パイザーをジョセフ・ボトムズが演じている。 アンクレジットだが、ヴィンセントの声をロディー・マクドウォール、ボブの声をスリム・ピケンズが担当している。

大まかなプロットとしては、『海底二万哩』に似ている。
あと、ちょっと『禁断の惑星』に似た部分もあるかな。
冒頭の約2分半は画面が真っ暗なまま、BGMだけが流れる。これは意図的な演出なのだが、特に効果は感じられない。ただ時間を浪費しているだけだと感じるし、「早く始めようぜ」と言いたくなる。
しかも、それが終われば本編が始まるわけじゃなくて、その後には2分ほどのオープニング・クレジットが付いて来るからね。

夕食の時、ラインハートは「諸君の安全のために忠告するが、勝手に歩き回らないでくれ」と告げる。でも、その前にホランドやブースが勝手に歩き回っている。
ラインハートは、それを知った上で、釘を刺す意味で言ったわけではない。船内には多くのロボットがいるのに、まるで気付いていないのだ。
そしてホランドとブースも、そこまでロボットに見つからないよう警戒して動いているわけでもない。なぜか2人が移動する廊下には、警備のロボットが全くいないのだ。
ホントに歩き回られるのが嫌なら、1人ずつに監視を付けておけよ。そして廊下には巡回のロボットでも配置しておけよ。

警備を担当すべきロボット軍団は1つの部屋に集まり、射撃ゲームに興じている。スターはボブを誘って対決し、途中で体を押して邪魔をする。
そういう時だけは、やたらと人間臭い。完全にラインハートに操られているわけじゃなくて、自分の意思で動いている。
途中で「実はロボットじゃなくて、意思を奪われた人間をロボット化している」てことが明らかにされるので、そこの説明は付く。
ただ、「見た目はロボットだけど、実はロボットの格好をした人間」って、メタ的なギャグかと言いたくなるわ。

あと、見た目をロボットに寄せる必要性は全く無いでしょ。今回は偶然にもホランドたちが来訪したけど、基本的にハンスは自分の船を動かすためだけに意思を奪った乗組員を使っているわけで。
つまり、誰かが来た時に乗組員だとバレないように、ロボットを偽装する意味は無いはずでしょ。ハンスが孤高の天才でもなければ狂気の科学者でもなく、ただの幼稚なボンクラにしか見えないぞ。
それと、もっと根本的なことを言っちゃうと、「全ての乗組員の意思を、どうやって奪ったのか」と言いたくなるぞ。1人の意思を奪っている内に、他の面々に襲われるんじゃないかと。一気に全員の意思を奪うような機械がある様子は無いし。
マキシミリアンを攻撃に使ったとしても、一度に全員を相手にするのは無理だろうし。

シグナス号を発見したホランドたちは、すぐに接近して調べようとする。だけど、その前に地球へ連絡を入れるべきじゃないのか。通信の方法が無いわけでもないんだし。
わざわざブラックホールに飲み込まれる危険を冒してまで、勝手に調査することもないだろ。
そんで船内に入って調べるのかというと、ただ外から撮影するだけなんだよね。それだけのために、命を落とすリスクを負ったのかよ。
撮影して何かが分かるわけでもないし、アホすぎるだろ。

ブラックホールに引っ張られた時、横転ジェット推力を使う理由がサッパリ分からん。そのせいで船がクルクルと回転しているけど、普通に真っ直ぐ飛ぶような推力じゃダメなのか。
っていうか、その後でブースターを使って避難する展開があるけど、最初からそれを使えば良かっただろ。
それを勿体ぶったせいで、気密装置、第1空調管と第2空調管、第4ハッチ、船尾と、次々に破損しているじゃねえか。
そこまで破損して酸素が激しく漏れたら、もう無理じゃないのかと思っちゃうぞ。

破損した箇所の内、第4ハッチだけはヴィンセントが修理に向かう。ホランドは通信できなくなると、ケイトに超能力を使うよう指示する。
そんな設定があったのかよ。
いや、SFに超能力が出て来ることなんて珍しくもないし、絶対にダメとは言わないよ。ただ、急に超能力とか言い出すと、トンデモ度数が一気に上昇するのよね。
まあ、それ以前にヴィンセントやボブのデザインが滑稽で、ロボコンみたいだし。
なんか本格SFと子供向けSFの間をフラフラと浮遊している感じだわ。

ハッチの修理を終えたヴィンセントは命綱が切れてピンチに陥るが、すぐにワイヤーを発射して船に戻る。
これ、何の意味があるんだろう。ヴィンセントの性能でも見せておきたかったのか。船外作業のシーンを描いておきたかったのか。
だとしても、まるで意味が無いわ。
それどころか、もはや「幾つも破損して修理して」という手順さえ、別に無くてもいいんじゃないかと思ってしまう。「ブラックホールに引っ張られ、脱出して」というだけでもいい。
いや、それどころか、「シグナス号に接近したら人がいると分かり、中に入る」というだけでもいいぐらいだぞ。

ホランドがケイトを救出する時は、BGMも使ってアクションシーンとして盛り上げようとしている。
だけど動きがモッチャリしているし、ケレン味なんて微塵も無い。キレも迫力も無いし、武器や攻撃方法に面白味があるわけでもない。
そもそも、相手はロボットじゃなくてロボットに偽装した意思の無い人間なので、そこが何となくマヌケな印象に繋がっているし。
あと、「意思を奪われた乗組員は死だけが救い」という都合のいい設定を用意し、被害者である乗組員の殺害を正当化しちゃうのね。

ケイトを助けた後も戦いは続くが、敵は数が多いだけで、ほぼデクノボーなのよね。
あと、何よりダメなのは、ブラックホールが全く関係の無いトコで延々と話が進むってことだ。物語の9割ぐらいは、ブラックホールが無くても成立するのよね。
そんで残り5分ぐらいになるとブラックホールに突入するんだけど、そこで画面に映し出されるのは「マキシミリアンのバッタミンが高い崖の上に立ち、その下には炎の谷が広がる」という風景。そしてシーンが切り替わりるとブラックホールを抜けており、そのまま映画は終幕を迎える。
綺麗に風呂敷を畳むことを、完全に放棄したエンディングだ。
どうやら「ブラックホールの中は地獄でした」ってことらしいんだけど、その解釈も含めて「はあっ?」としか言えないわ。

(観賞日:2022年3月6日)

 

*ポンコツ映画愛護協会