『ブラック AND ホワイト』:1999、アメリカ

黒人少年3人は森へ出掛け、黒人のリッチと相棒が白人女性のレイヴンとチャーリーに性的行為をさせて楽しむ現場を盗み見た。しかし気付かれて拳銃を向けられ、慌てて逃げ出した。白人一家は黒人の使用人に夕食を用意させ、食事を始めようとする。長女のチャーリーが30分も遅刻して帰宅したので、父親は注意する。チャーリーは父への不満を吐露し、「パパといると疲れる」と口にした。録音スタジオを訪れた黒人のシガーは、オーナーのアーニー・ティッシュマンから「なんでラップのアルバムを出そうと思った?」と質問される。シガーは彼に、「俺はストリート育ちだ。これが成り上がりたい。音楽で金持ちになる」と答えた。アーニーはストリート・ギャング「クリーム・チーム」のリーダーを務めるリッチがスタジオに来ると聞き、困惑の表情を浮かべた。そこへリッチが現れると、アーニーは「スタジオは貸せない」と断った。
チャーリーが父と揉めていると、母が「時と場所をわきまえて。今は料理を楽しみましょう」と諭した。リッチが自宅にいると、地方検事の息子であるウィル・キングがやって来た。リッチが「勝手に家へ来てかき乱すな」と言うと、ウィルは「俺は自分のためじゃなくアンタのためにやってる。シマにクラブが出来た。挨拶も無いしショバ代も払わない。相手はスコッティーやエリックたちだ」と語る。「後は俺がどうするか見てるだけなのか」とリッチが告げると、ウィルは「分かってる。俺のやることだ」と述べた。ウィルと入れ違いでリッチの幼馴染であるバスケ選手のディーンが現れ、白人女性のグレタを紹介した。
翌日、レイヴンやチャーリーたちは、学校の授業でアイデンティティーというテーマを出された。文化や人種との関係について教師に意見を求められたチャーリーは、「黒人になりたい。ヒップホップも最高」と言う。レイヴンは「今は変わって来てる。白人の若者は、その多くが黒人社会を認めてる」と語り、クラスメイトのレンは「自分が何者か悩むのは大切だ」と話す。マーティーは「僕はロシア人だけど、ロシア人らしい行動なんて取ったことは無い」、キムは「人種で決め付けてほしくない」、シェリは「もう黒人居住区には戻りたくない。友達も大学に行きたがってる」と、それぞれの意見を述べた。
映像作家のサム・ドネカーは夫のテリーを伴い、チャーリーたちに接触した。彼女が「ヒップホップ・ライフを真似してる白人の高校生を撮影したい」と言うと、チャーリーは自分たちを「ニガス」と呼んでいることを教える。マーティーは兄のウィルを推薦し、レンが「彼は本物のニガスだ」と口にした。リッチは白人弁護士のスティーヴを伴い、シガー&ディーンと共に録音スタジオへ赴く。アーニーはリッチたちに「設備を見てろ。仕事の話がある」と言い、スティーヴにオフィスで「ロビーに死体なんてゴメンだ」と告げた。
リッチはディーンから「グレタとヨリを戻す」と聞かされ、「白人の本当の狙いは何だ?この辺りの白人は俺たちの真似ばかりしてる」と語った。「女は抱き放題だ。黒人とファックすれば元気になると思ってる。何が目的かサッパリ分からねえ」と彼が言うと、ディーンは「白人も黒人と同じで、個人で異なる。グレタだって違った」と話す。スタジオにジェシーが来てリッチとシガーに挨拶し、「ずっと心配してた。まあ悪い道に行くんじゃないかって」と言う。リッチは彼女に、「その時は相談に行く。見捨てないでくれよ」と語る。アーニーはスティーヴと話し合い、スタジオを貸すことを承諾した。
サムとテリーのインタビューを受けて、キムは「今は女性が主導権を握ってる」と語る。サムから黒人の魅力について訊かれたチャーリーは、「私たちをトラブルから守ってくれる」と答えた。ディーンはマークという白人に声を掛けられ、「明日の試合で負けてくれたら5万ドルを支払う」と言われる。ディーンは「それって犯罪だろ」と言い、その場で断ろうとする。しかしマークは粘って説得し、「明日の昼にタイム・カフェで会おう」と告げた。
地方検事のビル・キングは湖畔のカフェへ行き、検事助手を務める妻のシーラとマーティーの3人でランチを取っていた。そこへ作家のジョージ・ウェインが現れて挨拶し、「ニューヨークを動かす10人」というテーマで次回作を書こうとしていること、ビルも候補に入っていることを話した。マーティーは「前の奥さんたちに聞いた方がいい。この人の前に2人いる」と嫌味っぽく笑い、ビルとシーラは険しい顔になる。ジョージが去った後、ビルはマーティーを叱責した。マーティーが反抗的な態度を取ると、彼は「ルールを守れないなら、家を出て行け。自分で生きろ」と厳しく告げた。
ディーンはグレタに、「ギャンブラーから八百長を持ち掛けられた」と打ち明けた。グレタは彼に、「元カレが良くやってた方法がある。金を握らせるの」と助言した。リッチは仲間を引き連れてスコッティーのクラブへ行き、ショバ代を払うよう要求して拳銃を突き付けた。スコッティーは「叔父さんの話をしろよ」と促す仲間を制し、リッチに「アンタが誰か知らなかった」と釈明した。彼はリッチに電話番号を教えるよう求め、「明日、ジムに来い」と告げる。バーテンが「マイク・タイソンがいる」と言うと、リッチは「適当なことを言うな。また来るぜ」と述べた。リッチたちが去った後、スコッティーは激しい怒りを見せた。
ディーンはマークと会い、八百長を引き受けることを話す。彼はトイレで金を受け取り、その場を後にした。リッチが仲間と話しているとウィルが来たので、「クラブへ行って来たぞ」と教えた。そこへサムとテリーが学生たちを伴って現れ、自己紹介した。リッチたちを紹介してほしいとサムが言うと、ウィルは「ダメだ」と拒否した。リッチは電話を受けて「ウォールへ会おう」と言うと、サムはウォールへ行きたがった。ウィルは「ウォールには行けない。付いて来るなよ」とマーティーに告げ、その場を去る。しかしマーティーはサムたちを引き連れ、船でスタテン島へ向かった。
テリーはスコッティーに話し掛け、「変な奴だと思わないでほしい」と口説こうとする。スコッティーはテリーに、「アンタはゲイだろ。俺は違う」と苛立ちを示し、彼を拒絶した。リッチとシガーはスタテン島で映画監督のブレット・ラトナーと遭遇し、「デモを聴いたよ。ビデオを撮りたい」と言われる。そこへサムが学生たちと現れ、ビデオカメラを回しながらリッチに声を掛けた。そこへウータン・クランのメソッド・マンが現れ、リッチーたちに挨拶する。サムが「ウォールのことを教えて」と頼むと、彼は「この壁は死んだ2人の兵士の記念塔だ。俺たちは奴隷だが、音楽は力を持ってる。壁を突き破る」などと語った。
チャーリー、レイヴン、キムは密かに相談し、他の面々を撒こうと考えた。3人はキムの家へ行くと嘘をついてタクシーに乗るが、不審を抱いたレンたちは後を追った。ディーンは八百長試合に出場した後、マークと会って残りの報酬を要求した。するとマークは刑事の身分を明かし、リッチの逮捕が目的だと説明した。チャーリーたちがリッチの家にいると、レンとマーティーが現れた。レンが騙したことを非難すると、チャーリーは面倒そうに「途中で気が変わったの」と告げた。彼女は「貴方が来るまでは、いい雰囲気だったのに」と文句を言い、レイヴンはレンにドラッグを勧めた。
ディーンは刑事に騙されたことをグレタに話すが、「自分に正直に。私は知らない」と突き放された。リッチの家にはタイソンが来ており、テリーは話し掛けた。「貴方の夢を見た。緊張してる」などと彼が言うと、タイソンは「俺は仮釈放の身だ。安らかな時を過ごしたい」と告げて追い払おうとする。テリーが話を続けようとするのでタイソンは怒って掴み掛かり、それをサムが撮影した。サムが「話したいことがあるんでしょ」と言うと、タイソンは「放っておいてくれ」と頼む。しかしサムが「貴方のファンよ。目が綺麗ね」などと誘惑するように話すと、彼は機嫌が良くなった。
リッチはグレタからの電話で、「大変なことになってる。力になりたい」と1時間後にホテルへ来るよう告げられる。リッチがホテルの部屋へ行くと、グレタはディーンに起きた出来事を説明した。グレタはリッチを誘惑し、関係を持った。翌日、リッチはタイソンを訪ね、ディーンがヘマをして俺の邪魔をしようとしてる。あいつは逮捕されないよう、警察の手先になる気だ」と話す。「奴を殺すか殺さないか。殺さなければ俺が捕まる。どうすればいい?」と彼が相談すると、タイソンは「ずっと付き合わないなら殺した方がいい。だが刑務所に入る覚悟はあるか。お前の人生だ。自分で解決しろ」と語った。
サムはテリーとクラブの開店パーティーに出席し、ウータン・クランのインスペクター・デックに挨拶した。デックはサムに頼まれ、仲間のスティッキー・フィンガーズたちを紹介した。殺すことにした。テリーはケイシーという男を見つけ、口説き落とそうと考える。リッチはウィルに声を掛け、すぐにディーンを殺すよう依頼した。ウィルは体育館の螺旋階段でディーンに声を掛け、拳銃を構えて射殺した。彼が体育館から立ち去る姿を、張り込んでいたマークが写真に収めた…。

脚本&監督はジェームズ・トバック、製作はマイケル・メイラー&ダニエル・ビゲル&ロン・ロソルツ、製作総指揮はフーマン・マジド&エドワード・R・プレスマン&マーク・バーグ&オーレン・クーレス、製作協力はアリナー・ヴェリデデオグルー&オリー・“パワー”・グラント&レイクウォン、撮影はデヴィッド・フェラーラ、美術はアン・ロス、編集はマイロン・カーステイン、衣装はジャッキー・ローチ、音楽監修はオリー・“パワー”・グラント。
出演はロバート・ダウニーJr.、ステイシー・エドワーズ、ギャビー・ホフマン、ジャレッド・レト、ジョー・パントリアーノ、ビジュー・フィリップス、パワー、クラウディア・シファー、ウィリアム・リー・スコット、ブルック・シールズ、ベン・スティラー、マイク・タイソン、イライジャ・ウッド、スコット・カーン、アラン・ヒューストン、マーラ・メイプルズ、レイクウォン、エディー・K・トーマス、キダダ・ジョーンズ、ジェームズ・トバック、キム・マチュラヴァ、ブレット・ラトナー、メソッド・マン、インスペクター・デック、ゴーストフェイス、スティッキー・フィンガーズ、ジョージ・ウェイン他。


『マッド・フィンガーズ』『ピックアップ・アーティスト』のジェームズ・トバックが脚本&監督を務めた作品。
テリーをロバート・ダウニーJr.、シーラをステイシー・エドワーズ、レイヴンをギャビー・ホフマン、ケイシーをジャレッド・レト、ビルをジョー・パントリアーノ、チャーリーをビジュー・フィリップス、リッチをウータン・クランのパワー、グレタをクラウディア・シファー、ウィルをウィリアム・リー・スコット、サムをブルック・シールズ、マークをベン・スティラー、レンをイライジャ・ウッド、スコッティーをスコット・カーン、ディーンをアラン・ヒューストンが演じている。
元ボクシング世界ヘビー級統一王者のマイク・タイソン、映画監督のブレット・ラトナー、ウータン・クランのメソッド・マン&インスペクター・デック&ゴーストフェイス、ラッパーのスティッキー・フィンガーズ、ライターのジョージ・ウェインが、本人役で出演している。

出演者のクレジットでは、テリー役のロバート・ダウニーJr.がビリングトップになっている。でも粗筋を読んで分かるだろうが、どう考えても彼は主役じゃない。
ただし、じゃあ誰が主役なのかと問われると、これが微妙なトコで。
パワーが演じたリッチ辺りが主役っぽいけど、そこまでダントツでピンを張っているわけでもない(出演者表記は7番目)。
なので、サムやディーン、シガーやウィルなど複数の面々を描く群像劇という捉え方をすればいいのかもしれない。

序盤で強く感じるのが、「余計な御託を並べてばかりでウザい」ってことだ。
登場人物が「人種によるアイデンティティー」とか「白人が黒人を真似をすることについての意見」なんかを語るシーンがあるのだが、「何をクドクドと喋ってんのか。そんなことより、さっさと話を進めろよ」と言いたくなる。授業のシーンで次々に生徒が意見を語るんだけど、「私は何を見せられているんだろう」と思ってしまう。
こっちが見たいのは映画であって、学生の討論会ではないのよ。テーマやメッセージを伝えたい意識が強いのは痛いほど分かるんだけど、それが不格好な形で露呈している。
そんなに焦って喋らせなくても、充分に時間はあるでしょうに。

どうもドラマを描くとか、ストーリーを膨らませるといったことよりも、「人種に関するワシの考え」をジェームズ・トバック監督が主張したくて辛抱たまらんかったって感じなのよね。
そりゃあタイトルからして『Black and White』なので、黒人と白人という「人種」を巡る問題がテーマになっているのは分かるよ。
でも、それを生真面目に語ろうとした結果、退屈でまとまりのない映画に仕上がっているんだから、ようするに大失敗だよね。

「ストリート・ギャングがラップで金持ちになろうとする」という部分は、コメディーにも出来そうな要素と言っていいだろう。彼らがスタジオの使用を断られる辺りも、自宅で真面目にラップの練習をする辺りも、コメディーとしての味付けが似合うように思える。
だけど実際には、そこをコメディーとして演出していない。
いや、別にさ、「必ずコメディーにするべし」とまで決め付けているわけではないよ。
ただ、マジに描いた結果がクソほど面白くないので、「コメディーにすれば何とかなったかも」と言いたくなるのよ。

リッチと仲間たちはストリート・ギャングだが、ラップでの成功を夢見ている。チャーリーは黒人文化に憧れ、父に反発している。サムはドキュメンタリー作品を制作するため、学生たちを取材する。
ディーンはマークに誘われ、八百長試合を引き受ける。マーティーは父の再婚に賛成しておらず、反抗的な態度を取る。スコッティーはリッチからショバ代を請求され、激しく怒る。
大勢のキャラクターが登場し、色々なエピソードが提示される。
だが、それが上手く絡み合っているとは到底言い難い。

どういう物語を描きたいのか、どういう方向へ話を進めようとしているのか、それがなかなか見えて来ない。登場人物が何をしようが何を言おうが、「だから何なのか」という感想ばかりが浮かんでしまう。
リッチがスコッテイーを恫喝しても、スタテン島へ出掛けても、その行動に何の意味があるのかサッパリ分からない。
サムの取材も、テリーのナンパも、どういう意図で描いているのかサッパリ分からない。
チャーリーがリッチの家に入り浸るのも、レンが腹を立てるのも、どの人物も行動を見ても、こっちの気持ちを引き付ける力は全く無い。
ストーリーやドラマがキッチリと固まっておらず、そこにあるのは空虚で心に残らない台詞ばかりだ。

始まってから1時間ほど経過して、リッチがタイソンに「ディーンを殺さないと俺が捕まる」と相談するシーンがある。
この辺りに来て、ようやくマトモに話が転がり始めているという印象なんだよね。
極端なことを言っちゃうと、マークが素性を明かしてディーンを脅すまでは、ずっと道草を食い続けて時間を浪費しているだけに感じるのよ。
どのキャラに用意されたラインも脆弱で、まるで力が無い。映画を支える屋台骨にも、牽引する列車にも、全体を機能させる発電機にもなっていない。

唯一、「ディーンがマークに騙されてリッチの逮捕に協力するよう要求される」という展開だけは、「マトモにストーリーを描こうとしている」「話を前に進めようとしている」と感じさせる。
そこにピントを合わせて話を絞り込んでおけば、散漫な印象は防げた可能性がある。
そういうサスペンスや犯罪映画のジャンルとして、描こうとしているわけではないんだろうと思うよ。
だけど、そっちの方向に傾けるぐらいしか、打つ手は無いんじゃないかと。

映画を観終わった時に、「サムとかチャーリーとか、こいつらってホントに必要だったのか」と疑問が浮かぶ。
そいつらを描くパートが、「ディーンが刑事に騙され、リッチがウィルに命じてディーンを殺させて」という筋書きを大きく扱い始めてから、上手く絡んでいるとは絶対に言えない。
複数のパートがずっとバラバラの状態で続くけど、最終的には1つにまとまるんだろうと思っていたのよ。でも最後までバラバラのまま。
しかも、それぞれのがゴールに向かって丁寧に進められているわけではなく、ラスト直前になって強引に着地させたり、そのまま放り出されたりする。
終盤に入ってグレタがマークの元カノだったことが明かされる展開なんかもあるけど、だから何なのかと言いたくなるし。

リッチは「これからという時に」とディーンについて腹を立てるけど、「ラッパーとして成功する道が見えてきた」ってことを明確に描いているわけでもない。
「人気ラッパーへの道」を丁寧に描き、クッキリと枠線を描いておけば、そこが映画の軸になっていただろうに。
そこを描いておいて、それと並行して「ディーンが刑事に騙されて協力を要求される」という展開を早めに持ち込む。そうすれば、それなりに形は出来上がったんじゃないかと。
ただし、それで面白い映画になったのかと問われたら、「そんなことは知らんがな」と冷たく突き放しておく。それを考えるほど価値のある映画でもないしね。

(観賞日:2020年4月23日)


第23回スティンカーズ最悪映画賞(2000年)

ノミネート:【芝居をすべきではないミュージシャン&アスリート】部門[マイク・タイソン]

 

*ポンコツ映画愛護協会