『バースデイ・ガール』:2001、イギリス&アメリカ

ロンドン郊外の小さな町に住むジョン・バッキンガムは,銀行の窓口勤務10年目となる真面目で内気な男だ。ある時、彼は結婚相手を探す ため、ロシア女性専門のインターネットお見合いサイト“ロシアより愛を込めて”の会員になった。彼は動画を撮影して自分をアピールし 、サイトに掲載されている動画をチェックして女性を探した。そうやって選んだ花嫁候補ナディアが、ロシアからやって来た。だが、空港 へ迎えに行ったジョンは、ナディアが全く英語を喋れないことに驚く。
ジョンは見合いサイトの運営会社に電話を掛けてキャンセルしようとするが、ずっと留守録メッセージが流れているばかりだ。そんな中、 ジョンはナディアに押し倒されてセックスする。ナディアはジョンが緊縛マニアだと知り、自らロープを用意して待ち受ける。言葉は 通じなかったが、ジョンはナディアとセックスしたり、デートしたりして楽しむようになった。ジョンはナディアのために、英露辞典を プレゼントした。
ある日、ナディアは英露辞典を使い、ジョンに「今日は自分の誕生日」と伝えた。そこでジョンはケーキを購入し、2人だけで誕生日の お祝いをしようとする。だが、そこへ2人のロシア人男性が現われ、ナディアと親しげに抱き合う。男の内の1人は、英語を喋ることが 出来た。彼はユーリという名前で、ナディアの従兄だという。もう1人は友人アレクセイだとユーリは紹介した。
ジョンは成り行きで、ユーリとアレクセイを居候させることになってしまった。しかしアレクセイの無作法な態度を見たジョンは、遠慮 しつつもユーリに「出て行って欲しい」と頼んだ。しかし翌朝、ジョンが目を覚ますと、アレクセイがナディアを縛り上げて包丁を手に 取り、暴れていた。ユーリが通訳し、ジョンはアレクセイが金を持って来るよう脅していると知る。
ジョンはナディアを助けるため、銀行の金庫から10万ポンドを盗み出した。その犯行はすぐに上司に気付かれ、ジョンは警察に追われる身 となった。ユーリたちが待つ車に戻ったジョンは、ナディアが拘束を解いてアレクセイと抱き合う様子を目にする。ナディア、ユーリ、 アレクセイはグルで、最初からジョンを騙して金を奪う計画だったのだ。
ナディア達はジョンをホテルのユニットバスに拘束する。ナディアが妊娠を明かすと、アレクセイは急によそよそしい態度を取った。翌朝、 ジョンは自ら拘束を解き、ユニットバスを脱出した。部屋に赴いたジョンは、ナディアが縛り上げられて置き去りにされているのを発見 する。ジョンは、ナディアが英語を話せることを知る。ジョンは怒りをぶつけ、ナディアを連れて警察署へ向かった。しかしナディアの 妊娠を知ったジョンは、警察に突き出すのを止める…。

監督はジェズ・バターワース、脚本はトム・バターワース&ジェズ・バターワース、製作はスティーヴ・バターワース&ダイアナ・ フィリップス、製作総指揮はポール・ウェブスター&ジュリー・ゴールドスタイン&コリン・リーヴェンタール&シドニー・ポラック、 撮影はオリヴァー・ステイプルトン、編集はクリストファー・テレフセン、美術はヒューゴ・ルジック=ウィオウスキー、衣装は フィービー・デ・ゲイ、音楽はスティーヴン・ウォーベック、音楽監修はボブ・ラスト。
出演はニコール・キッドマン、ベン・チャップリン、ヴァンサン・カッセル、マチュー・カソヴィッツ、 ケイト・エヴァンス、スティーヴン・マンガン、ザンダー・アームストロング、サリー・フィリップス、ジョー・マッキネス、ベン・ ミラー、ジョナサン・アリス、カティア・バートン=チャップル、レベッカ・クラーク、マーク・ゲイティス、ラジ・ガタク、デヴィッド ・マーク、スティーヴ・ペンバートン他。


長男トム、次男スティーヴ、三男ジェズというイギリスのバターワース三兄弟が監督・脚本・製作を務めた作品。
製作総指揮として、映画監督のシドニー・ポラックが携わっている。
ナディア(ロシア読みでナージャ、本名はソフィア)をニコール・キッドマン、ジョンを ベン・チャップリン、アレクセイをヴァンサン・カッセル、ユーリをマチュー・カソヴィッツが演じている。

まず疑問だったのは、ジョンを騙す3人組がロシア人という設定なのに、オーストラリア人のニコール・キッドマン、フランス人の ヴァンサン・カッセルとマチュー・カソヴィッツを起用していること。
この映画、スタッフもキャストも、ロシア人やロシア語の堪能な人物は誰一人としていない。
だったら、別にロシアじゃなくてもいいじゃん。
で、「まずロシアからの犯罪者グループありき」という企画であるならば、やはり配役は考え直すべきだろう。
ヒロインはロシア人じゃないにしても、北ヨーロッパ系でベッピンの女優さんが見つかるだろうに。
ウクライナ出身のミラ・ジョヴォヴィッチとか、スウェーデン出身のマリー・リチャードソンやエマ・シェーベルイとか。
男の連中は、少なくとも1人はオレグ・タクタロフでいいじゃん。
そもそも、こんなビッグ・ネームばかりを揃えたこと自体が過ちだったんじゃないかとも思えるし。

冒頭から、もう話に引っ掛かりを覚えてしまった。 ジョンはアヴァン・タイトルで、複数のロシア人女性がカタコトの英語で自己紹介する動画をチェックする。シーンが切り替わり、ジョン が空港で花嫁を出迎えるシーンになる。ナディアを乗せて車を走らせた後、ジョンは彼女が英語を話せないと知る。
これ、どう考えてもおかしいでしょ。
だってさ、来てから初めて英語を話せないことを知るってのは、だったら最初に動画をチェックしていたのは何だったのかと。
そこでナディアに決めたってことは、彼女が英語を喋る動画を見たはずじゃないのかと。
例えばジョンがナディアの写真を見て一目惚れし、動画もチェックせず脊髄反射的に花嫁に決めたとか、アヴァン・タイトルで何か配慮が必要だったんじゃないの。
もしくは、そもそも動画は無いという設定にするとか。

っていうか、そもそもナディアが英語を話せないフリをする意味、メリットを感じないのよね。
後半になって彼女は「言葉なんて話せない方が男を惹き付けられる」と言っているが、それは無理があるだろう。
実際、ジョンは英語が話せないことでキャンセルしようとしているわけだから、その考えは間違っているということになってしまう。
で、物語として、ナディアが言葉を話せないフリをする設定に何か大きな効果が見られるのかと考えても、そんなに無いんじゃないかと思えるし。

ジョンがナディアに押し倒されるタイミングで、上司が彼の勤務評価を読み上げるナレーションが挿入される。
これはタイミングとしても、やり方としても、違うと感じる。
主人公が真面目だが退屈で冴えない凡人だということは、ナディアが来る前にアピールしておくべき事項だと思うのだ。
それもナレーション説明ではなく、ドラマの中で見せるべきだろう。

ユーリとアレクセイが来るまでの20分ほどは、穏やかでホンワカしたムードの恋愛映画になっている。
ユーリたちが来ても、やや騒がしくなるものの、アレクセイが暴れるまではやはり穏やかな恋愛映画ムードを持続する。
これは、その後の展開を考えると上手いやり方だとは思えない。
もっとコメディー色を強くしておいた方が良かったのではないか、ジョンがアタフタしながらもナディアに惹かれていくという様子をテンポ良く見せていくべきだったのではないかと感じる。

ユーリたちはジョンの家を訪れても、すぐに行動を起こすわけではなく、しばらくノンビリと過ごしている。
これは失敗だろう。
現われたら、すぐに行動を起こすべきだ。
しばらく従兄だと偽り、ジョンと仲良くなることの意味は全く無いのだから。
それと、アレクセイが英語を話せないという設定の必要性も良く分からない。
こいつが話せないからユーリが通訳を担当するという形になっているが、別に2人とも英語を話せても困るようなことは無いぞ。
まあ「犯人の男が2人である必要性」は薄くなるけど。

ジョンは銀行の金を盗み出すのだが、これもそんなに意味があるモノになっていない。
ジョンがたんまり大金を溜め込んでいて、それを差し出すという形でもそんなに筋書きとして困らないような気がするんだよな。
というのも、後半になってジョンが警察に追われるというストーリー展開も、その設定を使ったサスペンスやコメディーとしての構築も、 全く無いのだから。

ジョンが監禁されるシーンは、コメディーとしての色は無く、サスペンスとしての緊迫感も無く、ただ淡々としているだけ。
後半は逃避行のはずだが、追われているという感覚はゼロで、ただの小旅行になっている。
結局、「得意な形での恋愛」という部分が欲しかっただけで、極端に言えば犯罪は要らなかったんじゃないかとさえ思えるほどだ。
で、ロマンスに重点を置いた映画として捉えるにしても、ナディアの心の移り変わりに無理があり、ちょっと苦しい。
彼女はアレクセイに惚れていて、彼に捨てられた後でジョンに乗り換える形となっている。
だが、そうではなくて、置き去りにされる前から何となくジョンに惹かれつつあったということにしておかないと、置き去りの後から 恋愛を始めるのは時間的にもキツい。

この映画を、シミジミした雰囲気のシットリした話にしている狙いがサッパリ分からない。
どう考えたって、もっと弾けたコメディー色を強くしないと、どうしようもないぞ。
犯罪映画としては、脚本の段階で「それだけをシリアスにやってもキツい」と分かりきっているし。
で、ホンワカしたノンビリ・テイストのコメディーは、この映画にはそぐわないし。

後半は、のどかで穏やかな恋愛劇から、終盤になってシリアスなサスペンスへと移っていく。もはやコメディーの匂いは皆無。
完全に味付けを間違えたな、という印象。
で、話としては、ジョンとナディアが互いの気持ちを確かめ合ったところで終わってるのよね。
なのに、その後で「ジョンが空港をアレクセイのパスポートで通過できるかどうか」という辺りでサスペンス展開を持ってきて、そこで 話を締め括るのは構成としては違うと思うぞ。

ユーリたちの立てた計画は、ものすごく手間が掛かるものであり、あまり利口だとは思えない。
だが、コメディーとしてグルーヴしていれば、そこは乗り切れる問題だろう。
しかし残念なことに、サスペンス、コメディー、ロマンスの3つの要素を追い求めた結果、サスペンス としてはヌルく、コメディーとしては弾け切れず、ロマンスとしても薄いモノとなってしまった。

 

*ポンコツ映画愛護協会