『ビッグ・ボーイズ しあわせの鳥を探して』:2011、アメリカ

原子力発電所でオペレーターをしているブラッド・ハリスは、“ザ・ビッグイヤー”での優勝を目指している。ザ・ビッグイヤーとは、1年間に北米大陸で見つけた野鳥の種類を競う大会だ。ニュージャージーの建築業者であるケニー・ボスティックが2003年に樹立した732種類という最高記録は、今も破られていない。そのケニーは「もう出場しない」と妻のジェシカに約束したにも関わらず、今年も参加を決めた。「様子を見て来るだけだ。誰も俺の記録を破れないと分かったら戻って来る」と彼は言い、不妊治療を受けるジェシカから翻意を求められても耳を貸さなかった。
ニューヨークで大企業の社長を務めるスチュ・プライスラーも、1月に退任して大会に参加することを決めていた。以前も引退を口にして復帰するということを繰り返していたが、スチュは「今度は本気だ」と言う。部下のバリーとジムはリック・マッキンタイアとの難しい交渉にスチュ自ら乗り出すことを求めており、鳥のことは忘れて社長業を続けるよう求めた。しかしコロラドの別荘でスチュから相談を受けた妻のイーディスは「今を生きるのよ」とスチュに言い、夢を実現しようとする彼を応援する。スチュは息子のトニーから彼の妻であるスージーが妊娠したことを聞かされ、笑顔で祝福した。
1月1日。ケニーは早朝から野鳥ホットラインに電話を掛け、鳥の目撃情報を入手する。一方、スチュは家族4人で雪山へ出掛け、スキーを楽しんでいた。ケニーは目撃情報のあったアリゾナのパタゴニア湖州立公園へ走り、目当ての野鳥を発見した。彼の他にも、大勢の人々が双眼鏡を持って集まっていた。スチュはスキーの最中や帰り道に、合計29種類の野鳥を発見した。ケニーは州立公園を日が暮れるまで駆け回り、31種類を発見した。仕事を休めないブラッドは、たった1種類に留まった。
ブラッドの家では夕食の時、母のブレンダが父のレイモンドに「旅行代理店に復帰するわ」と話す。理由を問われたブレンダは、ブラッドのためだと言う。野鳥の観察で各地を巡る際、旅行の手配をしてあげるのだと彼女は説明した。ブラッドはレイモンドに「5千ドルは工面したけど、あと5千ドルが必要なんだ」と告げ、援助を要請した。「ちゃんと利子を付けて返すよ」と彼は言うが、レイモンドは「お前は36歳なんだぞ。大学院は中退、会社は辞めるし離婚はするし、人生で何か一つぐらいやり遂げたらどうなんだ」と叱責する。ブラッドは腹を立て、「だったら父さんの人生は、さぞ充実してるんだろうね」と言い返した。
ブラッドは上司のビルから「週末に出勤してくれたら5割増しの給与を支払うぞ」と持ち掛けられるが、「鳥を見に行くので」と断った。「賞金も出ないのに、何のために出るんだ?」と訊かれたブラッドは、「上手く説明できないんですよ」と答える。「もしも原子炉に何か起きたら大変なことになる。2倍出そう」と言われたブラッドは、「でも20日には出発しますよ」と告げて週末の仕事を引き受けた。
2月13日、スチュは既に157種類を発見している。コード5のハチドリが目撃されたという情報をホットラインで入手した彼は、飛行機でブリティッシュ・コロンビアのギブソンズへ向かった。彼が敷地の所有者である老女と話している間に、ケニーは勝手に裏庭へ侵入して鳥を発見していた。スチュは会議中のバリーから電話を受け、助言を求められる。しかしスチュは早々に電話を切り、鳥を目撃した。
2月20日、ブラッドはカリフォルニアのヨシュア・ツリーで野鳥観察を行い、友人のクレーンから「君なら優勝できるよ」と言われる。鳥の声を聞き分ける才能を持つブラッドは、その日までに132種類の鳥を発見した。2月22日、オレゴンのクース・ベイ。ブラッドはアニー・オークレットが主催する船上ツアーに参加した。ケニーの姿を見つけたアニーは不機嫌になり、「コースを決めるのは私だよ。嫌なら帰ってくれ」とツアー客たちに言う。2003年のツアーで、ケニーが「クジラなんか見たくない」と騒ぎ立てていたのだ。
ブラッドはバーダーのニールからケニーの狡猾さを告げられ、「ボスティックからは目を離すなよ」と忠告される。ケニーはアニーに「今回は優勝したくて来たわけじゃない。純粋な気持ちを取り戻したくて来たんだ」と告げ、乗船を許可された。船にはスチュも乗っており、ライバルだと感じたケニーは妨害しようと考える。スチュが船酔いに苦しんでいると知った彼は、わざと吐き気を催すような言葉を掛けた。ブラッドは船室で休んでいるスチュに声を掛け、会話を交わした。
ケニーは夜通し運転して目的地へ行くために、フックスという男と手を組んだ。彼は転寝して衝突事故を起こしそうになるが、偶然にも車を停めた場所の近くで希少なアカゲラを発見した。スチュはテキサスのブラウンズヴィルから妻に電話を掛け、「会いたいわ」と言われる。ケニーはワイオミングのジャクソンホールから妻に電話を掛け、リフォーム中だと知る。約束と違うことを注意すると、ジェシカは「ビッグイヤーもやらないと決めたはずよ」と指摘した。スチュの元にバリーとジムが来て、リックとの交渉を要請される。「2日だけです。この交渉だけ」と懇願され、スチュは承諾した。
4月19日、ケニーが久々に帰宅すると、ライバル業者であるフランクと息子がリフォーム作業中だった。ケニーは「作業記録を細かくチェックするからな」と攻撃的な態度で告げた。勝手にリフォームを進めたことをケニーからなじられたジェシカは、「貴方が留守の間、どうすればいいのよ」と反発した。ケニーは不妊治療への協力を求めるジェシカの機嫌を取って抱こうとするが、テレビ番組で嵐の情報を知ると彼女を置いて家を飛び出した。嵐によってフォールアウトが発生し、多くの野鳥を発見できる環境が整うのだ。
フォールアウトの情報は、スチュとブラッドも掴んでいた。ブラッドはビルに頼んで病欠扱いにしてもらい、テキサスのヒューストンへ飛んだ。スチュは交渉をドタキャンし、ヒューストンへ向かった。3人の他にも大勢のバーダーが押し寄せ、無数の野鳥を目撃した。スチュとブラッドは再会し、ケニーを尾行して野鳥を発見することにした。ブラッドは船上ツアーで出会ったエリーを見つけ、手を振った。ケニーは2人の尾行に気付き、嫌味っぽく話し掛ける。3人とも、自分が大会に参加していることは言わなかった。
夜、スチュはブラッドを高級レストランへ連れて行き、ディナーを御馳走する。ブラッドはスチュに自分のことを話し、「何か大きいことをしたい」と言う。彼は大会参加を隠したまま、「もう始めたことがあるけど父は反対してる」と話す。スチュは「みんなレールの上を走って、やりたいことがあったばずだと気付くんだ。私は今まで2度の引退を試みて、これが3度目だ」と告げる。ブラッドは大会に参加していることを打ち明けて「誰にも言わないでよ」と言うが、スチュは自分の参加を明かさなかった。
5月8日、スチュは船上ツアーに参加するが、また船酔いしてしまう。スチュが席を外している間に、ツアーに参加していたクレーンが密かに手帳を盗み見た。クレーンのブログを読んだブラッドは、スチュも大会に参加していることを知った。スチュはジムからの電話で、交渉の決裂を報告される。「5月14日が最後の交渉です」と出席を要請されたスチュは、「その日はアラスカのアッツ島へ行く」と断る。しかしジムとバリーは、「この交渉には社員たちの生活が懸かってるんです」と説得した。
5月14日の朝、ブラッドの元にブレンダが来て、アッツ島へ送って行こうとする。しかしブラッドはスチュの一件で、すっかり意欲を失っていた。「それにケニーがいるから絶対に勝てない」と彼が言うと、ブレンダは「諦めちゃ駄目よ」と励ます。「アラスカへ行っても、それ以降の資金が無い」とブラッドが話すと、ブレンダはカードを差し出す。「こんなの駄目だよ」とブラッドは遠慮するが、ブレンダは半ば強引にブラッドを車に乗せた。
スチュはアッツ島行きを諦めておらず、4時間の約束でリックとの交渉に出席する。スチュは強硬な態度でニックに条件を飲ませるが、予定に遅れたので急いで車に飛び乗った。アンカレッジで飛行機に乗り込んだブラッドはケニーと遭遇し、スチュが大会に参加していること、記録が500種類を超えていることを暴露した。スチユは空港に到着するが、既に飛行機は飛び立った後だった。フックスは新婚旅行を兼ねて、新妻のカレンを同行させていた。しかし飛行機が激しく揺れるのでカレンは怯え、宿泊先が男子の合宿所のような場所なので彼女は顔を歪めた。
野鳥の情報が入ると、バーダーたちは一斉にロッジを飛び出した。しかしケニーだけは全く慌てず、ノンビリと食事を取る。ブラッドやフックスたちは野鳥を探して右往左往するが、ケニーは新たな情報が届いてから出掛ける。他のバーダーたちが必死になって野鳥を発見する中で、ケニーは余裕で写真を撮影した。シベリアに嵐が来ることが報じられる中、スチュはアラスカのモーテルで悔しがった。
1週間後、スチュはアッツ島へ飛んでロッジに赴いた。ブラッドが拒絶する姿勢を記すと、彼は「ケニーに情報が洩れると思ったんだ」と釈明した。そして「携帯のメッセージを聞いたか。5日前に告白するメッセージを残した。ずっと気にしてた」と言う。謝罪を受けたブラッドは、ケニーにスチュが大会に参加していると話したことを告白した。スチュは笑顔で受け入れ、2人は和解した。ブラッドはエリーを口説こうとするが、別れた妻のことを話題に出したせいで気まずくなった。
ニールは仲間のポールと一緒に、鳥のエサにするための魚を切った。その時、2人は知らずにカレンの高級スカーフでテーブルを拭いた。カレンがスカーフを洗おうと外へ出ると、たくさんの鳥が襲って来た。ブラッドがアッツ島を去る時、スチュは「情報交換のためと言ってエリーと電話番号を教え合ったらどうだ」と助言した。その助言を実行し、ブラッドはエリーと電話番号を交換した。彼は各地を巡って野鳥を観察し、仕事に戻った。
8月20日、エリーから見逃した鳥がいると聞かされ、ブラッドは彼女の住むボストンへ向かった。しかしエリーにダーレンという恋人がいると知り、ブラッドはガッカリした。しかも彼は、目当ての鳥を見ることも出来なかった。ブラッドから電話で事情を聞かされたスチュは、「妻にも他の男がいた。エリーにとって、そいつが最後の男というわけじゃない」と励ました。そんなスチュにとって、アッツ島での出遅れは大きな痛手だった。しかし大会とは別の喜びが、彼を待っていた。ついに孫が誕生したのだ。スチュワートと名付けられた孫を抱いて、スチュは幸せを感じた。その後、彼は野鳥観察のために各地を巡るが、家族が恋しくて全く気持ちが入らなかった。しかし妻から発破を掛けられ、彼は再び大会への意欲を取り戻した。スチュとブラッドはケニーを倒すため、手を組むことにした…。

監督はデヴィッド・フランケル、原作はマーク・オブマシック、脚本はハワード・フランクリン、製作はカレン・ローゼンフェルト&スチュアート・コーンフェルド&カーティス・ハンソン、共同製作はブラッド・ヴァン・アラゴン、製作総指揮はキャロル・フェネロン&ベン・スティラー&ジェレミー・クレイマー、製作協力はジェフリー・ハーラッカー、撮影はローレンス・シャー、編集はマーク・リヴォルシー、美術はブレント・トーマス、衣装はモニク・プリュドム、音楽はセオドア・シャピロ、音楽監修はジュリア・ミシェルズ。
出演はスティーヴ・マーティン、ジャック・ブラック、オーウェン・ウィルソン、ブライアン・デネヒー、アンジェリカ・ヒューストン、ラシダ・ジョーンズ、ロザムンド・パイク、ダイアン・ウィースト、ジョベス・ウィリアムズ、アンソニー・アンダーソン、コービン・バーンセン、バリー・シャバカ・ヘンリー、ジョエル・マクヘイル、ティム・ブレイク・ネルソン、ジム・パーソンズ、ケヴィン・ポラック、ネイト・トレンス、スティーヴン・R・ウェバー、ポール・キャンベル、シンディー・バスビー、デヴォン・ウェイゲル、ビル・ドウ、ジョーイ・アレスコ、ライアン・カルタジロネ、マーシー・T・ハウス、ジューン・スクイブ、ジェシー・モス他。


マーク・オブマシックの著書『ザ・ビッグイヤー 世界最大のバードウォッチング競技会に挑む男と鳥の狂詩曲』を基にした作品。
監督は『プラダを着た悪魔』『マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと』のデヴィッド・フランケル、脚本は『知らなすぎた男』『サベイランス -監視-』のハワード・フランクリン。
スチュをスティーヴ・マーティン、ブラッドをジャック・ブラック、ケニーをオーウェン・ウィルソン、レイモンドをブライアン・デネヒー、アニーをアンジェリカ・ヒューストン、エリーをラシダ・ジョーンズ、ジェシカをロザムンド・パイク、ブレンダをダイアン・ウィースト、イーディスをジョベス・ウィリアムズが演じている。
公開第一週は北米の2150の映画館で上映されたが、わずか2週間で423館にまで減らされた。4100万ドルの製作費に対して、約720万ドルの興行収入しか上げられなかった。

原作は3人のバーダー(野鳥観察家。バードウォッチャーではなくバーダーと呼ぶらしい)の1年間に渡る活動を追うノンフィクションで、この映画版は登場人物の名前やキャラ設定を変更しながらも、原作のエピソードを織り込んで構成しているらしい。
つまり「三者三様のバーダーたち」という構成は一緒ってことなんだけど、それがマイナスだと感じてしまう。明らかに話として散漫になっているのだ。
まず、大会に参加する3人の男たちのを描く映画のはずなのに、その内の1人であるブラッドのナレーションで進行するってのは、構成として違和感がある。ナレーションによる進行が必要なら、第三者に委ねるべきだろう。もしくは、3人が自分のパートでナレーションを順番に担当するということでもいい。ただし、出来ることならナレーションには頼らない方がいい。
ともかく、ブラッドがナレーションを担当すると、3人のバランスを上手く取れなくなってしまうのだ。

ナレーションを使っていることでは、他にも問題が生じている。それは、「心情を全てナレーションで説明しているので、ドラマとしての深みが全く出ない」ってことだ。
ナレーション担当はブラッドだが、自身だけでなくスチュの心情まで説明してしまう。
何より冴えないと感じたのは、スチュに初孫が生まれた後のシーンだ。
ナレーションは「それからしばらくの間、スチュはなかなかビッグイヤーに集中できなかった。どこへ行っても敗北を暗示しているような気がした。スチュは妻に会いたかった。家族が恋しかった。渡りを終わらせる時なのだろうか」などと語る。
そういうのは、ドラマとして表現すべきだろう。

しかも、久々にブラッドが再会するとスチュは意欲を取り戻しており、「妻に発破を掛けられてね」と言うのだ。
おいおい、そこもセリフだけで説明するんかい。
そうじゃなくて、「一度は大会への意欲を失ったスチュが、やる気を取り戻す」というのは、ちゃんとドラマとして描写すべきでしょ。
「家族が恋しくて大会参加を取り止めようとしたけど、その家族に元気付けられて意欲を取り戻す」ってのは、それなりにドラマティックな要素のはずなのに、なぜザックリと省略しちゃうかなあ。

ナレーションよりも大きくバランスを悪くしている要因があって、それはケニーのキャラクター造形だ。
メイン3人は年齢も性格も生活環境も全く異なるけど、「みんな大会のために人生を捧げるバーダー」という共通項で結ばれた「同胞」であるべきなのだ。
同胞であるからこそ、3人の絡むシーンがほとんど無くても、1人に絞らず3人のエピソードを並列で進めて行く構成でも、まとまりを感じさせることが出来る。
だが、ケニーのキャラクター設定を映画のために脚色したせいで、彼だけが「同胞」から外れているのだ。

スチュは会社の部下からは復帰を求められているが、家族は応援している。だから野鳥観察のせいで家庭が破綻するなんてことは起こしていないし、会社の業務にしても「もう引退した」ってことだから迷惑を掛けているとは言えない。部下たちが復帰を要請するのは頼りにしているからであって、「野鳥のせいで業務に支障をきたす」という形ではない。
ブラッドは、野鳥観察のせいで父との折り合いは悪いが、母は応援してくれている。彼は「36歳、大学院は中退、会社は辞めるし離婚歴有り」という設定だが、野鳥観察のためにフルタイムで仕事を頑張っているし、母の援助を申し訳なく感じているし、好感の持てるバカだ。
で、そんな2人と比較すると、ケニーだけが明らかに異質なのだ。
彼は妻と「もう参加しない」と約束したにも関わらず、また大会に参加する。ジェシカは不妊治療を求めているのに、ケニーは全く協力的な態度を示さない。ケニーは身勝手な行動を続けているのに、ジェシカがリフォームを始めると「勝手なことをした」と腹を立てる。
この男の場合、野鳥観察にイカれすぎて家族に迷惑を掛けているし、そのことに対する罪悪感も薄い。家庭を破綻させているので、嫌悪感の強いキャラになってしまっているのだ。

スチュとブラッドは「野鳥バカ」だけど、愛すべきバカだ。
しかしケニーは「野鳥バカ」とさえ呼びたくないような、ただの不愉快な男になってしまっている。どう考えたって、彼は悪役キャラなのだ。
「大会で優勝を目指す主人公がいて、その前に立ちはだかる強敵がいる。そいつは目的のためなら手段を選ばない狡猾で卑怯な男だ」というプロットにおいて、「主人公のライバル」として立ちはだかるキャラのような造形なのだ。
だから「三者三様のバーダーたち」という構成として捉えるには、ものすこくバランスが悪い。

実際、劇中でも「スチュとブラッドは意気投合し、ケニーを敵視する」という形になっているわけで、そりゃおかしいでしょ。
でも、そのくせ、ケニーを完全に悪役にしているわけではなくて、「妻に会いたい」と言わせたり、自己申告制度はキッチリと遵守したりするんだよな。
3人の主役の中の1人であることを考えれば、純然たる悪役にしないってのは正しい。だけど、前半で「身勝手を繰り返して家庭を顧みない」という描写によって大きな負債を抱えさせておいて、後半に入ってリカバリーを試みても、もう取り戻せないよ。
しかも、ようやく「ルールを順守する」というトコで少しだけ好感度を上げた直後、「妻の不妊治療より野鳥観察を優先する」という行為で台無しにしちゃうし。
それでジェシカから別れを告げられても、もちろん同情心なんて全く起きないしね。

もう1つの問題として、「野鳥観察で各地を巡るエピソードが散漫&薄味で、あまり面白くない」ということが挙げられる。
3人が各地を巡るスケッチを串刺し式に並べる構成なんだけど、ザックリと行ってしまえば「色んなトコで色んな鳥を発見しました」ってことが淡々と綴られるだけで、メリハリに欠けるんだよね。
大きな起伏が無いし、印象に残るような野鳥発見のエピソードも見当たらない。
何かオチがあるわけでもないし、伏線を張って後から回収するような面白味があるわけでもない。

一応、「衝突事故を起こしそうになったけど幸運にも希少な野鳥を発見する」とか、「フォールアウトで無数の野鳥が出現する」とか、劇中の人物が興奮するような出来事は描かれている。だけど、スチュたちの興奮や高揚は、観客にまで届かない。
この映画は、「バーダーである登場人物と、バーターではない観客」をシンクロさせるための作業が足りていない。
本来なら、バーダーではない観客も登場人物の一喜一憂に共感したり、応援したくなったりすべきなのだ。
だけど、そのための作業が不足しているので、かなり心理的に離れた距離から、部外者として見物しているような感覚が終盤まで続いてしまうのだ。

「3人のバーダーが野鳥観察に奔走する」というところだけでも淡白になっているのに、「ブラッドがエリーに恋をして云々」という恋愛の要素まで盛り込んでいるもんだから、ますます散漫な印象になってしまう。
っていうか、そうやってブラッドだけ恋愛劇を用意するなら、彼だけをピンで主役にすればいいんじゃないかと思ってしまうぞ。
前述したようにナレーション担当はブラッドだし、そこに「父は反対していて母は応援している」「フルタイムで働きながら大会に参加している」「恋をする」という要素があるんだから、それだけで1本の映画の主人公としては充分でしょ。

しかも終盤には、ブラッドの父が心臓発作で倒れるという展開が待ち受けている。で、退院したレイモンドはスチュからの電話で国立公園にカラフトフクロウがいること、ブラッドが世界記録を出すかもしれないことを知る。そして息子に「私も見てみたい」と言い、一緒に公園へ行く。彼は途中で苦しくなったので一人で行くよう促すが、ブラッドは途中で「俺は何してるんだ」と後悔し、急いで父の元へ戻る。
そういう「野鳥観察も大切だけど、家族の方が大切だ」というドラマまで用意されているのだ。
だったら、他の2人を排除するか完全なる脇役に変更して、主役をブラッドに絞り込んだ方がいい。そうして彼を描くための要素を厚くした方が、話のまとまりも良くなったと思うぞ。
あと、前述した「ケニーが野鳥観察を優先して家庭を破綻させる」というエピソードは、家庭も大切にするブラッドやスチュとの対比を狙ったのかもしれないけど、だったらケニーは「主役の1人」にすべきじゃない。中途半端に好感度を上げる要素を入れず、完全に悪役にしちゃった方がスッキリする。

(観賞日:2015年2月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会