『ビッグ・フィッシュ』:2003、アメリカ

ウィル・ブルームは幼い頃から、父エドワード・ブルームが語るホラ話を聞かされ続けてきた。ウィルと妻ジョセフィーンの結婚式で、 エドは伝説の魚の話をした。ウィルが誕生した日、金の指輪をエサにしてアラバマの怪魚を釣り上げたというのだ。その話を、ウィルは 今まで何度となく聞かされてきた。ウンザリした彼は、妻を残して会場である船から退出した。
「息子の話をしちゃいかんのか」と言うエドに、ウィルは「父さんの冒険話の添え物だろ。それに僕が産まれた日は、怪しげな商売でヨソ へ行ってたんだろ。今日ぐらいは控えて欲しかった」と怒りをぶつけた。その日から3年間、ウィルはエドと口を聞かなかった。UPIの 記者として働くウィルに、母サンドラがカードや電話でエドの近況を伝えた。ウィルにとって、エドの生涯を語るのは難しい作業だった。 どれが本当なのか分からないぐらい、エドはホラ話ばかり語っていたからだ。
エドの容態が悪化したとの知らせを受け、ウィルは妊娠中のジョセフィーンを連れて久しぶりに帰郷することにした。その途中、ウィルは 父が語った魔女の話を思い出した。幼少の頃、ウィルはその話をせがんだ。エドは、自分が子供の頃、幼馴染みのルーシー、ウィルバー、 ドンとザッキーのプライス兄弟と共に、魔女が住むと言われていた沼地へ向かった。魔女の片目はガラスで出来ており、そこには見た者が 死ぬ時の姿が映し出されるという噂があった。
ウィルは仲間の前で「ガラスの目を取って来る」と宣言し、皆を待たせて魔女の館へ向かった。その間にルーシーとウィルバーは怖がって 帰ってしまった。ドアをノックしようとすると、左目に眼帯を着けた魔女が現れた。ウィルは魔女をプライス兄弟の元に案内した。魔女は 眼帯を外し、兄弟は自分達が死ぬ時の姿を見た。ウィルも魔女に頼んで、自分の死ぬ姿を見せてもらった。
ウィルはジョセフィーンを連れて実家に戻り、サンドラやエドの主治医ベネットに会った。ベネットはジョセフィーンのお腹を見て、妊娠 7ヶ月だと言い当てた。サンドラはウィルに、「嫌がると思うけど、父さんに栄養ドリンクを飲ませて」と頼んだ。ウィルは父の部屋へ 出向いた。彼はベッドに横たわっているエドに話し掛けて「本当のことを聞きたい」と頼んだ。
エドはウィルに、自分が急に大きくなったために筋肉や骨の成長が追い付かなかったと語っていた。エドによれば、彼は3年間、特殊な ベッドで過ごしたのだという。金魚の急激成長について知った彼は、自分が大物になるべき存在だと確信した。やがて骨格が落ち着いた ウィルは、アシュトン高校で野球やアメフト、バスケといった様々なスポーツで活躍し、科学展でも優秀な成績を収めた。彼が活躍して 称賛を浴びている時、同じ場所にいながら負け犬になって苦虫を噛み潰すドンの姿があった。
ウィルは火事になった家から犬を助け出し、町の大物になった。そんな中、町を荒らす大男が現れた。ウィルは問題解決のために名乗りを 挙げ、大男カールが住む洞窟へ赴いた。ウィルは「生贄になるつもりで来た。さあ食え」と腕を差し出すが、カールは「腹は減るが人は 食わない」と言う。そこでウィルは「この町は小さすぎる。もっと大きな都会へ行こう。僕も一緒に行く」と持ち掛けた。
ウィルは人々に惜しまれながら、カールと共に町を後にした。町を出て都会へ向かうには、新道の他に、幽霊が出るという噂のある旧道が あった。好奇心を抱いたウィルは、カールに新道を行かせて「向こうで落ち合おう」と言い、旧道を選んだ。森を進むと、開けた場所に 小さな町があった。住人のビーマンやミルドレッドが近付いて来た。ビーマンは「予定より早いですね」と言い、リストでウィルの名前を 確認した。ウィルが来るのは分かっていたという。そこはスペクターという町だった。
ビーマンはウィルに、アシュトンから詩人のノザー・ウィンズローも来ていることを告げた。ウィルはノザーの家へ行き、パイを御馳走に なった。ビーマンの幼い娘ジェニファーが靴を盗んで逃げたので、ウィルは後を追った。ジェニファーは靴を投げ、ロープに引っ掛けた。 初めての町なのに懐かしさを覚えたウィルは、スペクターに泊まることにした。だが、皆と踊っている最中に気が変わり、立ち去ることに した。ジェニファーから「いつか戻って来てね」と言われ、ウィルは「ああ、いつか」と約束した。
ジョセフィーンはエドの部屋へ行き、サンドラとの結婚式での写真を見せて欲しいと頼んだ。するとエドは「ちゃんとした式は挙げて いないんだ。彼女は元々、私と結婚するつもりじゃなかった。婚約者がいたんだ」と言い、詳細を語り始めた。スペクターを去った後、彼 は旅を続けた。ある時、彼はサーカスを観劇した。団長のエイモス・キャロウェイがコロッサスという大男を披露するが、カールより遥か に小さかった。ウィルは照明係に合図して、カールにスポットを当てさせた。
カールはキャロウェイと契約し、サーカスで働くことになった。ウィルは観客の中に若き日のサンドラを見つけ、一目惚れした。ウィルは テントを去るサンドラを追い掛けるが、見失った。しかしウィルは、「彼女こそ自分が結婚する女性だ」と確信した。たまたまサンドラを 知っていたキャロウェイは、「高嶺の花だ、諦めろ。お前は目標も仕事も無い自惚れ屋に過ぎない。田舎に帰れ」と言う。しかしウィルは 「目標は彼女との結婚だ。仕事は貴方がくれればいいじゃないか」と反発した。
ウィルは「給料は要らないから彼女の正体を教えて欲しい」と、キャロウェイに持ち掛けた。キャロウェイが「1ヶ月働くごとに、彼女の ことを1つ教えよう」と言うと、ウィルは喜んで承諾した。過酷な労働を続けながら、ウィルは少しずつサンドラの情報を得ていった。 しかし、なかなか彼女の名前と住まいが分からない。3年が経った時、ついに我慢できなくなったウィルは、キャロウェイのトレーラーを ノックした。するとキャロウェイは猛犬に変身しており、外に出て暴れた。
朝になって人間の姿に戻ったキャロウェイは、サンドラ・テンプルトンという名前と通っている大学を教えた。ウィルは大学へ出向いて サンドラに会い、いきなり「貴方を愛しています。僕らは結婚する運命です」と告げた。するとサンドラは、婚約していることを明かした。 その相手はドンだった。しかしウィルは諦めず、その後も熱烈なアプローチを続けた。
ある日、ウィルがサンドラにアプローチしていると、通り掛かったドンが怒って殴ってきた。しかしサンドラから「手を出さないで」と 事前に頼まれていたウィルは、無抵抗を貫いた。サンドラはドンに婚約指輪を返して「結婚は止めます」と告げ、ウィルと一緒になること を選んだ。ドンは急激に激しい運動をしたことで、持病を抱えていた心臓に負担が掛かってパンクしてしまった。
ウィルは母から、父の書斎を整理するよう頼まれた。書斎に入ったサンドラは、エドが戦争中に行方不明となり、戦死扱いとされた時の 電報を発見した。「あの話は本当だったの?」と訊くウィルに、サンドラは「全部が作り話ってわけじゃないのよ」と告げた。書斎の整理 に取り掛かったウィルは、エドから聞いた話を思い起こした。戦後、エドは旅回りのセールスマンの仕事に就いた。数年を経て、販売地域 を東海岸からテキサスまで拡大した。
ある時、エドはテキサスの銀行でウィンズローと再会した。彼はウィルがスペクターを去った直後に町を出て、世界中を旅していたという。 「今は何をしているの?」と尋ねると、ウィンズローは「銀行強盗だ」と言って拳銃を取り出した。エドは成り行きで銀行強盗の手助けを させられ、行員と共に金庫へ行く。だが、その銀行は既に破産していたため、金庫はカラッポになっていた。
ウィルは父の書斎で、信託証書を発見した。そこにはジェニファー・ヒルという名前があり、スペクターの住所も記されていた。ウィルが 住所の場所に行くと、湖畔に一軒だけ家が建っていて、そこには老いたジェニファーが一人で暮らしていた。ウィルが父との関係を尋ねる と、彼女は「ここはセールスの通り道だから、いつも良く通っていた」と答えた。ウィルはジェニファーに、「父が話していない、本当の ことを知りたくて来た」と告げた。
ジェニファーは「彼は来ようと思って来たのではなく、二度とも偶然だった」と言い、昔のことを語り始めた。セールスの途中、エドは嵐 に見舞われた。嵐が去った後、彼は破産して寂れたスペクターに辿り着いた。彼は町を買い戻そうと考え、今で出会った人々から資金を 提供してもらった。ジェニファーの家を訪れた彼は、それから何度かやって来た。ジェニファーがキスしようとすると、エドはためらい ながらも「妻を愛している」と告げて詫び、不倫関係には陥らなかったという…。

監督はティム・バートン、原作はダニエル・ウォレス、脚本はジョン・オーガスト、製作はリチャード・D・ザナック&ブルース・ コーエン&ダン・ジンクス、製作協力はカッタリー・フラウエンフェルダー、製作総指揮はアーン・L・シュミット、撮影はフィリップ・ ルースロ、編集はクリス・レベンゾン、美術はデニス・ガスナー、衣装はコリーン・アトウッド、音楽はダニー・エルフマン。
出演はユアン・マクレガー、アルバート・フィニー、ビリー・クラダップ、ジェシカ・ラング、ダニー・デヴィート、スティーヴ・ ブシェミ、ヘレナ・ボナム=カーター、アリソン・ローマン、ロバート・ギローム、マリオン・コティヤール、マシュー・マッグローリー、 デヴィッド・デンマン、ミッシー・パイル、ラウドン・ワインライト、エイダ・タイ、アーリーン・タイ他。


ダニエル・ウォレスの小説『ビッグフィッシュ 父と息子のものがたり』を基にした作品。
監督は『PLANET OF THE APES 猿の惑星』で完全にコケてしまったティム・バートン。
若き日のエドをユアン・マクレガー、老いたエドをアルバート・フィニー、ウィルをビリー・ クラダップ、老いたサンドラをジェシカ・ラング、キャロウェイをダニー・デヴィートが演じている。
他に、ウィンズローをスティーヴ・ブシェミ、大人になったジェニファー&魔女をヘレナ・ボナム=カーター、若き日のサンドラを アリソン・ローマン、ベネットをロバート・ギローム、ジョセフィーンをマリオン・コティヤールが演じている(これが初のアメリカ映画 出演)。また、マイリー・サイラスがデスティニー・サイラス名義でルーシーを演じている(これが映画初出演)。

オープニング、エドが怪魚の話を続ける中でウィルが成長して行く過程を描き、「昔から何度も同じ話を聞かされている」という表現を しているので、そこに関しては「ウンザリするのも分かるな」という気持ちになる。
ただ、「それにしても絶縁するほどのことなのか」とは感じる。「父と絶縁するぐらい、エドのホラ話に嫌悪感を抱いている」という ウィルの気持ちに納得できないというのがツラい。
そこで共感できないと、かなりマズいはずなんだよな。
その後のホラ話のシーンは、「ウィルがホラ話を回想する」という形であり、「ホラ話を語られた時のことを回想する」というものでは ない。
この違いは非常に大きい。
ホラ話だけを回想されても、それをウィルがウザいと思っていることは全く伝わらないのだ。どんな状況でエドがホラ話を語ったのかを 描き、その時のウィルの様子も描かないといけない。

例えば、恋人と一緒の時にホラ話が雰囲気を壊してしまったとか、葬儀のように真面目に話すべき場所でホラ話を喋ったとか、そういう ことであれば、「そりゃウザいわな」とウィルの気持ちが理解できただろう。
この映画の描き方だと、エドは「ただホラ話をする人」でしかない。好感も持たないが、不快感も抱かない。ホラ話が、彼にプラスも マイナスも与えない。
それを考えると、ホラ話の中身が魅力的なのも、ある意味ではマイナスになるかもしれない。ただ良いのか悪いのか、そんなに魅力的では ない。スペクターの話なんかは面白いけど、全体としては、それほどでもない。
あと、全てのホラ話が一本の線になっている印象が薄い。魔女が別の話にも登場したりと、一応は繋がりを持たせているんだけど、「1つ 話が増える度に地図が広がって行く」という風な印象にならないのね。
あと、アシュトンの町でのエピソードは、ただの自慢だよな。

サンドラとの出会い&結婚へ至る過程を語る部分は、サーカスのネタは別にして、恋愛劇そのもののファンタジー度数は低い。
あと、それを「ロマンティックな恋愛劇」とは受け取れない。
エドに殴り掛かるシーンだけはドンが嫌な奴として描かれているけど、アシュトンでのエピソードも含めると、ずっと苦い思いを させられてきた上に婚約者まで奪われるドンが可哀想に思える。

終盤、ベネットはウィルが産まれた時の本当の出来事を語り、「平凡な内容だ。事実とお父さんの話のどちらを取るといったら、私なら お父さんの話を取る」と口にする。
でも、「そうか?」と思ってしまう。
平凡な話でも、それが産まれた時の事実であるならば、別に嘘で飾る必要なんて無いんじゃないかと。
ホラ話が悪いとは言わないが、平凡な話でも別にいいだろうと。
ウィル本人が「本当のことを話してほしい」と頼んでいるならば、エドは事実を話してやってもいいんじゃないかと思うのだ。

エドの葬儀にキャロウェイやウィンズローが現れても、「だから何?」と思ってしまう。
それは「エドの話がホラではなく真実だった」とサプライズをもたらすものではない。
ただ単に、「ゼロから作ったホラではなく、実際の体験に尾ヒレを付けて喋っていた」ということを示すだけだ。
ゼロから作ったのではなく、尾ヒレを付けて喋っていたことは、既にエド本人の口から説明されている。
それに、スペクターやジェニファーが実在していたことでも明らかになっている。
その後で、シャム双生児ではなく普通の双子が登場したり、ちょっとサイズが控え目な大男が登場したりしても、「で、だから?」としか 思えないのだ。

(観賞日:2010年1月10日)


第26回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最も過大評価の映画】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会