『ビッグ・バウンス』:2004、アメリカ

ジャック・ライアンは何かトラブルが起きると、すぐに再出発を誓って別の場所へ逃げる。今度の行き先はハワイで、彼はレイ・リッチーという不動産業者の下で働いている。地元住民が抗議活動を展開する中で、レイの会社はリゾート開発を進めている。しかしジャックは仕事をサボり、仲間たちと草野球に興じる。現場監督のルー・ハリスに注意されても反抗的な態度を取った彼は、クビを宣告された。口論の末に、ジャックはルーのアゴをバットで殴り付けた。
地方判事のウォルター・クルーズは、工事現場に来ていたテレビの取材クルーが撮影した騒動の映像を確認した。ジャックの資料を調べると、住居侵入2回と詐欺の前科があった。彼は警察署長のジョー・ルーリーに、「彼から目を離すな。おかげで工事も停止している。頼もしい奴だ」と告げた。釈放されたジャックに、リッチーの腹心であるボブ・ロジャース・ジュニアは「助ける筋合いはないが、お前のためだ。本土へ帰れ」と忠告した。
ジャックが軽く聞き流して立ち去ろうとすると、ボブは「リッチーがお前を釈放させた。裁判になっったらホテルが建たないからだ」と話す。「アンタが口をつぐめば、それだけ早く出て行ける」とジャックがハワイから去ることを約束したので、ボブは車で工事現場まで彼を送り届けた。リッチーは愛人のナンシーを車に乗せ、工事現場にやって来た。彼はボブに、ホノルルへ行くことを告げた。リッチーはボブにジャックのことを聞き、その場を後にした。
ジャックは友人のフランクから、泥棒稼業に誘われる。「俺は足を洗ったんだ」と一度は断ったジャックだが、「ひと夏使って、あの家を調べたんだ。見るだけ見てくれ」と言われて承諾した。フランクが目を付けた家に赴いた彼は、侵入することにした。彼はフランクに見張りを任せ、玄関の鍵を開ける。配達を装って忍び込んだ彼は、室内を物色する。パーティー・プランナーのウェンディーが来たので、彼は住人のように振る舞った。600ドルを盗んで家を出たジャックは、フランクに分け前として半分を渡した。
ジャックがバーで飲んでいると、ウォルターが声を掛けた。彼はリッチーを嫌っていることを明かし、「奴は破産したはずだ。それなのにホテル建設とは、実業家として失格だ」と言う。2人がビールを飲んでいると、ナンシーが店に現れた。彼女は別のテーブルにいるボブの元へ赴いた。ナンシーに興味を示すジャックに、ウォルターは「彼女は何度か捕まってる。札付きだ」と告げた。ジャックに気付いたボブが歩み寄ると、ウォルターが「彼を無理に追い出すことは出来ない。それに私の客だ」と述べて追い払った。
ウォルターはジャックに、自分が経営するバンガロー「ケイキ・ビスタ」で働くよう持ち掛けた。バンガローで働き始めたジャックは、ビーチを歩くナンシーに目を留めた。ウォルターから近所にリッチーの豪邸があることを聞かされたジャックは、敷地に忍び込んだ。一人でいたナンシーに、彼は「サーフィンに誘いに来た」と告げた。ジャックはナンシーを口説き、「俺はアウトローだ。車を盗んだりする」と言う。ナンシーはボクシング対決を持ち掛け、「私が買ったら車を盗んで。貴方が買ったら何でもする」と告げた。
ジャックはボクシング対決を途中で終わらせ、「車を盗みに行こう」と誘う。彼はナンシーを盗難車に乗せ、海へ出掛けた。ナンシーが停泊しているクルーザーへ泳いで向かったので、ジャックは後を追った。クルーザーの所有者はリッチーで、妻であるアリソンの名前が付けられていた。ナンシーはジャックに、20万ドルを盗まないかと提案した。建設反対派を潰すための賄賂として、ワイアルアにあるリッチーのロッジに運ばれると彼女は語った。
翌日、フランクがジャックを訪ね、「監督の子分が借りた金を返せと脅してきた。お前の隠れ家も話せって」と話す。暗に金を要求していると悟ったジャックに、フランクは1500ドルが必要だと語る。「持ってると思うのか」と驚くジャックに、フランクは「だけど盗み方は知ってる」と言う。呆れるジャックだが、「計画中のヤマがある。お前も仲間に加えよう」と述べた。ジャックはナンシーを連れて住居に侵入するが、警察署で自分を取り調べたネッドの家だと気付いた。
ネッドが来たので、2人は慌てて身を隠した。するとネッドは同性の恋人であるウィリーと一緒だった。ネッドたちの隙を見て、ジャックとナンシーは窓から逃げ出した。屋敷に戻ったナンシーがプールで泳いでいると、侵入したフランクがやって来た。フランクはジャックが盗んだ財布を持っており、「1500ドルで買ってほしい。もし警察に届けたら大変なことになるぞ。ジャックの名前を書いて警察署の近くに置いてやってもいい」と脅した。
翌日、ジャックとナンシーは車に乗り、リッチーのロッジへ赴いた。ナンシーはジャックに、木曜日に金が届くことを話す。そこへボブが来たので、ジャックは近くの枝を拾って殴り付けた。2人は格闘になり、ジャックの頭突きを食らったボブは鼻血を出した。ボブが去った後、ジャックはナンシーに「俺を計画から外していいぞ。金が盗まれたらボブは俺を警察にタレ込む」と言う。するとナンシーは、「警察には届けないわ。あれはヤバい金だから」と告げた。
リッチーの屋敷に赴いたジャックは、自分が盗んだ財布を発見した。ナンシーは彼に、フランクが売り付けに来たが450ドルに負けさせたことを語った。シャックが計画に消極的な態度を見せると、ナンシーはベッドに誘った。セックスの後、チャイムが鳴った。ナンシーは「きっとママよ」とジャックに言い、彼をベッドに残して玄関へ行く。やって来たのはボブだった。ナンシーはボブとも関係を持っており、ジャックに気付かれないようにリビングヘ導いた。
ボブはすぐにセックスしようとするが、ナンシーは上手く誤魔化して帰らせた。ジャックはナンシーに、「木曜日にボブはロッジにいる。窓が割れる音で彼が駆け付けている隙に、金を盗む」と計画を説明した。翌日、リッチーがアリソンと共にヘリでハワイに戻り、ボブが出迎えた。ジャックがナンシーとつるんでいることを聞かされたリッチーは、ルーに始末させろと命じた。アリソンが戻ったことを知ったジャックは、ナンシーに「彼女が戻ったら君はロッジ行きだろ。計画は中止だ」と告げる。しかしナンシーは新たな計画を思い付き、彼に「私がボブを引き留める間に金を盗んで」と持ち掛ける…。

監督はジョージ・アーミテイジ、原作はエルモア・レナード、脚本はセバスチャン・グティエレス、製作はスティーヴ・ビング&ジョーグ・サラレグイ、製作総指揮はゼイン・ワイナー&ブレント・アーミテイジ、共同製作はチャニング・ダンジー、製作協力はブラッドリー・M・グッドマン&ゲイリー・マーカス&ビーテ・ピオトロウスキー&ジャニス・F・スパーリング、撮影はジェフリー・L・キンボール、編集はブライアン・バーダン&バリー・マルキン、美術はスティーヴン・アルトマン、衣装はベッツィー・コックス&トレイシー・タイナン、音楽はジョージ・S・クリントン、音楽監修はデイナ・サノ。
出演はオーウェン・ウィルソン、モーガン・フリーマン、ゲイリー・シニーズ、サラ・フォスター、チャーリー・シーン、ウィリー・ネルソン、ヴィニー・ジョーンズ、ビビ・ニューワース、ハリー・ディーン・スタントン、グレゴリー・スポーレダー、アンドリュー・ウィルソン、アナヒット・ミナシアン、ウェンディー・ソーラクソン、スティーヴ・ジョーンズ、ピート・ジョンソン、ブライアン・キアウラナ、テリー・L・アヒュー、マイク・レンフロ、トニー・ドーセット他。


エルモア・レナードの小説『The Big Bounce』を基にした作品。
脚本は『ゴシカ』のセバスチャン・グティエレス、監督は『マイアミ・ブルース』『ブルーヒート』のジョージ・アーミテイジ。
ジャックをオーウェン・ウィルソン、ウォルターをモーガン・フリーマン、リッチーをゲイリー・シニーズ、ナンシーをサラ・フォスター、ボブをチャーリー・シーン、ジョーをウィリー・ネルソン、ルーをヴィニー・ジョーンズ、アリソンをビビ・ニューワースが演じている。

原作小説は1969年に『悪女のたわむれ』(監督はアレックス・マーチ、主演はライアン・オニール)として映画化されているが、それのリメイクではない。あくまでも原作小説の再映画化である。
『悪女のたわむれ』は未見だが、ちょっと調べてみると、カリフォルニアが舞台になっており、ジャックがファム・ファタールのナンシーに翻弄される、苦みのあるシリアスなサスペンスとして作られていたようだ。
それに対して、今回は舞台をハワイに変更し、軽いタッチでコメディー色の強い作品になっている。
で、『悪女のたわむれ』の出来栄えがどうだったのかは知らないが、少なくとも本作品に関しては、舞台をハワイに変更したことも、軽いタッチのコメディーに仕上げたことも、明らかにマイナスとなっている。

まず最初に引っ掛かるのが、「主人公がちっとも魅力的ではない」ってことだ。
最初に軽薄な調子で「何かトラブルがあるとトンズラして再出発を誓う」と語った時点で、「こいつは本気で再出発なんて誓わない奴だろう。どこへ逃げてもテキトーなことを繰り返す奴だろう」という予感はプンプンと漂っていたが、その通りの奴だ。
工事現場の仕事を得ても、すぐに仕事をサボっている。
ルーに注意されても、ものすごく軽薄な態度で、まるで悪びれた様子が無い。

そこは「ルーが傲慢な奴で、かなり無理な仕事を強要している」というアピールが足りないので、軽い調子で反発するジャックの他に非があるようにしか見えない。
そりゃあ、デモ活動の原住民に差別用語を放つルーは性格的に問題のある奴だし、「殴るぞ」と脅したのも行動として問題がある。
しかし、だからと言って、挑発的な態度を取り、金属バットでアゴを思い切り殴り付けたジャックの行動を擁護する材料にはならない。
その経緯を見る限り、明らかにジャックの行動はやり過ぎだし、笑えないレベルの犯罪だ。金属バットでアゴを思い切り殴り付けるって、ヘタすりゃ相手が死んでるぞ。

バーでボブが来た時に挑発的な態度を取るのも、やはり笑えないし、好感が持てない奴だと感じる。
ボブの「連れがいなきゃ叩き出してやるんだが」という言葉に対して「叩き出してみろよ、タダ酒で酔い潰れそうだ」と余裕の笑みを浮かべるのも、なんか不愉快な奴に見えてしまう。
リッチー側の悪党としてのアピール力が弱い一方で、ジャックやウォルターの善玉としてのアピール力が皆無に等しいので、「応援したくなる奴ら」vs「悪党」としての構図が成立していないのだ。

物語の構成によっては、「最初はいけ好かない野郎だと思っていた主人公だが、次第に魅力的な奴だと思えるようになっていく」という形でOKな場合もある。
しかし本作品の場合、そういう経緯を踏んでいく作品ではないので、ウォルターと組んだ時点では、既にジャックを応援したい気持ちを観客に持たせていなきゃダメなはずなんだよな。
ところが、なぜかチンケな泥棒稼業をやらかすシーンを入れてまで、ジャックの好感度や魅力を下げている。
あの泥棒シーンは、ホントに何のためのシーンだかサッパリ分からんわ。

キャラの出し入れにも大いに問題があって、ジャックが釈放された段階で、まだリッチーが登場していないってのは明らかに手落ちだ。
「リッチーが悪党不動産業者であり、そんなボスの下にいるルーも問題のある奴だ。そして、悪党であるリッチーの建設計画をストップさせたので、ウォルターはジャックを頼もしい奴として評価する」ということが、その時点で観客に伝わるべきだろう。
そうじゃないと、なぜウォルターがジャックの犯行動画を笑いながら観賞し、頼もしい奴だと評価するのか、腑に落ちない。
ジャックが釈放された後にリッチーが初登場するが、悪党としてのアピール力はものすごく弱い。しかも、工事現場でジャックと喋った後、残り30分ぐらいになるまで再登場しないという出番の少なさだ。

ウォルターの行動理由が「リッチーのやり方が嫌いだから」ってのは、かなり弱い。
弱いっていうか、判事としての使命感じゃなくて、それは単なる私怨でしょ。
いや、別に個人的な問題が動機であっても構わないんだけど、それならそれで構図の作り方が間違っているんじゃないかと。そこに判事としての使命感や正義感が無いのなら、これって「チンケな悪党どもの騙し合い」という話になるべき素材じゃないかと思うんだよな。
そうであるならば、ジャックやウォルターは「悪党としての魅力」を醸し出すキャラであるべきだろう。
でも、そういうのは全く感じ取れない。ウォルターは悪党キャラとしてのアピールが皆無だ。

っていうか、ウォルターはジャックをバンガローで雇った後は、金を盗む計画に関わるわけでもなく、いてもいなくても変わらない程度の存在と化している。
終盤、「ウォルターは愛人のアリソンにリッチーを殺させ、ジャックを始末して罪を被せるつもりだった」ということが判明するので、そこのドンデン返しを活かすために、悪党キャラとしてのアピールをさせなかったということなんだろう。
ただし、悪党キャラとしてのアピールどころか、キャラとしての存在意義が見えないぐらいの扱いにしちゃったら意味が無いでしょ。

ナンシーをどういうキャラとして描きたいのかも良く分からない。
ジャックが住居侵入しても全く動じずに余裕の笑みで対応したり、ボクシング対決を持ち掛けて「私が買ったら車を盗んで。貴方が買ったら何でもする」と言ったりする辺りからしても、どうやらファム・ファタールとして描こうという意識はあるようだ。
しかし、その描き方が甘いので、ナンシーが20万ドルを盗む計画を提案した時点で、かなり強引な展開だと感じてしまう。そこの段取りに向けた自然な流れが、上手く構築できていないのだ。
だから、ナンシーが段取りに合わせて、急に悪女になったように感じられてしまう。

もう1つの問題として、ナンシーが物語を引っ張る中心に配置されていないってことが挙げられる。
「ジャックがナンシーに魅了され、彼女に翻弄される」という部分が最初から強く打ち出されていれば、そこが物語を牽引する車になる。
しかし、そこがものすごく弱いので、20万ドルを盗む計画が本格的に始動するまでの間は、物語の視線が全く定まらず、あっちへフラフラ、こっちへフラフラと所在なさげに漂っているような印象になってしまう。

しかも、20万ドルを盗む計画が提案された後も、まだ行き先のボンヤリした漂流が続いてしまう。
すぐに計画のための準備が始まるのかというと、そうではない。なぜかジャックがナンシーを連れて別の家へ忍び込むという展開が用意される。その後、フランクがナンシーを脅すとか、ジャックが色目を使って来るバンガローの女性客のシャワーを修理するとか、無駄な道草にしか思えない手順で時間を消費する。
物語として、どこへ向かおうとしているのかが、なかなか見えて来ない。っていうか最後までボンヤリしたままだ。
ずっとボンヤリしたままだし、ジャックも計画に対して煮え切らない態度を取り続けるから、終盤に入って「実はナンシーがアリソンと結託し、ジャックを利用して金を奪おうと目論んでいた」ということが明らかになっても、そこが鋭敏なサプライズとして効果的に作用しない。
前提として「ジャックがナンシーを信用し、彼女のために危ない橋を渡ろうとする」ということを明確に成立させておかないと、そこのドンデン返しは華麗に機能しないのだ。

この映画は、物語も、登場人物も、あらゆる面でユルい。
「ユルい」ってのが称賛の言葉として使われるケースもあるが、この映画の場合は全面的に悪い意味だ。パンツのゴムが緩み切っている、という感じだ。
それはつまり、ちゃんとした形では使い物にならないってことだ。ユルユルではダメな部分まで全てがユルユルで、ユルユルっていうかダルダルなのだ。そして軽妙ではなく、ただ単に軽薄なだけなのだ。
「製作陣や出演者がハワイで遊びたかっただけじゃないのか」と思いたくなるぐらい、雑な感覚がハンパない。

(観賞日:2014年10月24日)

 

*ポンコツ映画愛護協会