『ベン』:1972、アメリカ

ウイラード・スタイルズは始末を目論んだネズミのベンたちに襲われ、命を落とした。近隣住民が家宅捜索中のスタイルズ邸を遠巻きに眺める中、少年のダニー・ギャリソンは母のベスから「帰りましょう」と促される。ダニーは「何があったのか知りたい」と言うが、姉のイヴとベスは彼を連れ出した。カートランド警部補は部下のジョーたちと共に、殺人現場を調べていた。新聞記者のハットフィールドは遺体の撮影を求め、カートランドは許可を出した。ベンは群れを隠れさせ、その様子を観察していた。
ハットフィールドはカートランドから大げさに書かないでほしいと要請され、「マーティンの次はウイラード。2人ともバラバラにされた大事件だぞ」と反論する。ネズミが見つからないと報告を受けたカートランドは、周囲の捜索を命じる。ハットフィールドはウイラードの日記を見せてほしいと要求するが、カートランドは「調査が済んでからにしてくれ」と告げた。ジョーは警官のケリーとリードに、見張りを指示した。裏庭に赴いたリードは物置に入り、ネズミの群れを発見する。ベンは群れに命じ、リードを襲わせた。
銃声を聞いたケリーは物置へ走り、カートランドたちに連絡した。カートランドとジョーはリードの遺体を確認し、ケリーから話を聞いた。カートランドはジョーに、駆除業者を呼んでネズミを殺すよう命じた。彼はハットフィールドから「日記に事件の鍵があるんだろ」と追及されて「ウイラードは知能を持ったネズミを訓練していた」と明かし、日記を渡した。しばらくすると、現場にネズミの 駆除業者が到着した。ベンは群れに指示し、スタイルズ邸から避難させた。
翌朝、ダニーはイヴが描いていたデザイン画を見て、「そんな服は売れないよ」と批評した。庭に出た彼は飛行機のオモチャで遊び始めるが、近くにネズミがいることには気付かなかった。帰宅したベスは、近くにパトカーや駆除業者のトラックが停まっているのを目撃した。彼女はイヴに、「ダニーを中に入れて、危険だわ」と言う。「おとなしくしてた?」と訊かれたイヴは、「そうでもない」と答える。ベスが「頑固な子ね」と告げると、イヴは「気力で生きてるのよ」と返す。ベスは「あの子の生き甲斐は、父親の役割をすることと姉さんね」と語り、イヴに「もう少し外に出たら?ダニーに付きっきりじゃない」と促す。しかしイヴは穏やかな表情で、「家族は助け合うものよ」と話す。ベスはダニーの不幸を嘆き、庭で遊ぶ息子を見つめた。
ダニーは別棟の子供部屋に入り、人形劇を始めて歌う。彼は庭の植え込みから出て来たベンに気付き、「怖がらないで」と笑顔を浮かべる。ダニーはサンドイッチを小さく千切って投げ与え、「いじめたりしないよ。信じてよ」と話し掛ける。その夜、ベンの群れは停まっている魚肉類卸し販売のトラックに忍び込んだ。気付かずに出発した運転手は、ネズミが腕に乗ったので慌てる。ネズミの群れに気付いた彼は、焦って衝突事故を起こした。トラック運転手は無事だったが、衝突された対向車の運転手は焼死した。
ネズミによる被害の情報が大きく報じられ、町から避難する住民も現れた。ギャリソン家には警官が来て、ネズミ退治の罠を仕掛けたいと申し入れる。ベスはイヴに立ち会いを任せ、警官は翌朝に設置することを告げて立ち去った。ダニーはベスとイヴに、「友達が出来たんだ。ネズミさ」と話す。ベスが驚くと、彼は「もう帰った。用事があるんだって」と言う。イヴは作り話だと考えるが、「ちゃんと話した」とダニーが主張すると「きっとベンよ。ネズミのリーダー。新聞に書いてあった」と教えた。ベスが不安そうな表情を浮かべると、イヴは「警察が退治してくれるわ」と告げた。ベンは仲間を連れて、スーパーマーケットの視察に出向いた。
夜、ダニーはピアノを弾きながら『ベンの歌』を作り、「友達になった。もう1人じゃない。君は生涯の友」と歌う。帰宅したベスは体を心配してダニーを休ませようとするが、イヴが「少しは自由にさせてあげて」と頼んだ。スーパーマーケットの支配人が品出しをしていると、ベンが群れを連れて侵入した。支配人が気付かずに去った後、ネズミの群れは食品棚を荒らす。見回りに来た夜警はネズミの群れを発見し、慌てて通報した。カートランドたちが来ると、既にネズミは食糧を運んで去っていた。
ダニーはベンの操り人形を作り、子供部屋で歌いながらショーを披露した。彼はスーパーマーケットの事件を報じる新聞記事をベンに見せ、「君たちはお腹が空いてたんだろ?でも、あんまり派手にやらない方がいい。みんなが怒る」と優しく注意した。ダニーはハーモニカを吹いて元気に飛び跳ねるが、途中で体調が悪くなってしまう。彼は「心臓が悪くて手術を受けたんだ。休まなきゃ」と胸をはだけ、ベンに手術痕を見せた。
翌日、殺虫剤とネズミ退治の罠を設置するため、警官と駆除業者がギャリソン家と近隣家を訪問する。警官に「何か異常は?」と問われたイヴは、「偽のネズミなら。弟の想像だけど」と答えた。子供部屋で遊んでいたダニーは、ベンを箱に隠した。彼が庭に出ると、駆除業者は「床下に入っちゃダメだよ。罠が仕掛けてある」と忠告した。ダニーはベンに罠を見せて、「これは君を殺す罠だ」と仕掛けを教えた。彼は「これに近付くなよ」と言い聞かせ、裏口から外に出て「もう事件ほ起こすなよ」と茂みに放した。
ベンは茂みに入り、仲間たちと合流した。ダニーは近所に住む少年のヘンリーに因縁を付けられ、羽交い締めにされた。するとベンは仲間に命じて、ヘンリーに足にかじり付かせた。ヘンリーが慌てて逃げ出すと、ダニーは「弱い者いじめするからだ」と勝ち誇った。ヘンリーは母親やカートランドたちを伴い、ギャリソン家に乗り込んで抗議する。ヘンリーが「ダニーがネズミの大群をけしかけた」と主張すると、ダニーは「ヘンリーが追って来て、転んで茂みに倒れたんだ」と嘘をついた。
カートランドから真実を語るよう要求されたダニーは、「ベンが部屋にいる」と言う。彼は子供部屋に案内し、ベンの人形を見せた。その夜、ベンとネズミの大群は病院に出現し、看護師たちは悲鳴を上げて逃げ出した。ダニーはイヴから「隠し事はしない約束よね?刑事さんに言ったことは本当?」と問われ、「刑事は騙してもいいんだ」と告げる。「毒を使ってネズミを殺そうなんて卑怯だ」とダニーは言い、「ネズミは危険なのよ」というイヴの言葉に「ネズミによるよ」と反論した。
イヴが「何を隠してるの?話して」と頼んでもダニーは拒否し、逆に「僕は死ぬの?」と質問する。イヴが「気を付ければ大丈夫よ」と口にすると、彼は「お医者さんは?」と尋ねる。「もう一度、手術するって」とイヴが教えると、ダニーは「死ぬって言ってた?」と訊く。「可能性はあるって」とイヴが正直に答えると、彼は「教えてくれてありがとう。姉さんは嘘をつかないね」と語る。「愛してるから」とイヴは言うが、ダニーは最後までベンのことを明かさなかった。
イヴが寝室を去った後、ベンが窓際に現れた。ダニーは部屋に招き入れ、「警察が来たけど騙してやった。転んだと言ってやった。あいつ、いい気味だ」と笑った。彼はベンに「大好きだよ」とキスをして、一緒に眠る。カートランドは下水局の局員から、「下水溝の周囲200マイルのを探したがネズミ一匹いなかった」と報告を受けた。カートランドは「ネズミは広範囲に渡って襲撃を繰り返している。人目に付かずに移動するには下水しか無い」と語り、徹底的に調べるよう要求した。ネズミの群れはチーズ店を襲撃し、隣接したヘルス・スパに戦利品を運んで潜入した。ネズミの群れが店内を走り回り、女性客は慌てて外へ逃げ出した。
翌日、ダニーは子供部屋でベンと仲間たちを汽車のオモチャに乗せ、走らせて遊ぶ。ダニーは「帰る時間だよ」とネズミを放し、ベンだけを残す。彼は「そうだ、君の家も見せてよ」と言い、ベンを懐に隠して外へ出る。ダニーはベンの鳴き声に導かれ、排水溝の入口で放つ。カップルが通り掛かると、ダニーは逃げるように排水溝へ侵入した。彼が奥へ進むと、ネズミの大群が出現した。ダニーは顔を強張らせるが、平静を装って「大家族だね」とベンに告げた。
ダニーは「いい家だ。もう行くよ。怒られちゃう。招待してくれてありがとう」と言い、排水溝から抜け出した。夜、彼が寝室でラジオを付けると、「あらゆる手段を講じてもネズミを退治できなければ、町は災害救助法の適用を政府に申請する意向」というニュースが流れた。ダニーは何匹かの仲間を連れて窓際に現れたベンを歓迎し、ベッドに入れて眠りに就いた。ベスは「ダニーが心を開いてくれない。もう少し傍にいてやれたら」と落ち込み、イヴは「あの子はママを愛してる。表現が下手なだけよ」と励ました。
イブはダニーの様子を見に行き、ベッドに何匹かのネズミが入り込んでいるのを目撃した。彼女が悲鳴を上げてネズミを追い払ったため、その声でベスが駆け付けた。心配する2人に、ダニーは平然と「ベン夫妻だよ」と言う。「ネズミは僕の友達なんだ」と聞かされたベスは、「ヘンリーが転んだのは嘘ね。ネズミに襲われたのね」と口にする。追及を受けたダニーは「転んだんだ」と嘘を貫くがベスは信じず、警察に通報した。
カートランドとジョーから事情聴取されたダニーは、「ベンは人を襲ったりしない。怖がってるだけなんだ」と言う。彼はネズミの住処について話そうとせず、ハーモニカを吹き始める。カートランドは「3人も殺してるんだぞ」と怒鳴るが、ダニーは「僕のネズミは殺してない」と主張した。カートランドは署に電話を入れ、「通りに囲まれた区域の下水溝を今夜中に改めて調べろ」と命じた。2人の作業員が下水溝を捜索し、1人がネズミの大群を発見する。彼はネズミたちに襲われて死亡し、相棒のエドは何とか脱出した…。

監督はフィル・カールソン、脚本はギルバート・A・ラルストン、製作はモート・ブリスキン、製作総指揮はチャールズ・A・プラット、製作協力はジョエル・ブリスキン、撮影はラッセル・メティー、編集はハリー・ガースタッド、美術はローランド・M・ブルックス、衣装はレイ・ハープ&ミナ・ミトルマン、音楽はウォルター・シャーフ、主題歌はマイケル・ジャクソン。
出演はリー・ハーコート・モンゴメリー、ジョセフ・カンパネラ、アーサー・オコンネル、ローズマリー・マーフィー、メレディス・バクスター、カズ・ガラス、ノーマン・アルデン、ポール・ガー、ジェームズ・ルイジ、ケネス・トベイ、リチャード・ヴァン・フリート、リー・ポール、スコット・ガーレット、アーレン・スチュアート、リチャード・ドレイシン他。


1971年の映画『ウイラード』の続編。
監督は『サイレンサー 破壊部隊』『要塞』のフィル・カールソン。
出演者は前作から総入れ替えになっている。
ダニーをリー・ハーコート・モンゴメリー、カートランドをジョセフ・カンパネラ、ハットフィールドをアーサー・オコンネル、ベスをローズマリー・マーフィー、イヴをメレディス・バクスター、ジョーをカズ・ガラス、ケリーをポール・ガー、エドをジェームズ・ルイジ、リードをリチャード・ヴァン・フリートが演じている。

最初の4分半ぐらいは、前作のラストシーンをそのまま使っている。それが終わると、スタイルズ邸宅を遠巻きに見つめる人々の様子が写し出される。なぜか警官も市民も全く騒がず、じっと同じ方向を見つめているだけだ。
そんな中で、1人の少年が急に「殺してやる」と叫んで暴れ出すのだが、「なんで?」と思っちゃうし。
っていうか、そこからの逆算で静かにさせていたのかもしれないが、そんな脅かしは何の役にも立たないだろ。
なんで意味不明なポイントに恐怖の対象を置くんだよ。

野次馬が静かに見つめるのは冒頭シーンだけなのかと思ったら、そうではなかった。トラック事故が起きた現場でも、スーパーマーケットの時も、やっぱり静かに見ているだけなんだよね。
その反応は、ものすごく違和感があるわ。
ただ、それを何度も繰り返していることから考えると、どうやら「ネズミへの恐怖を抱いている」ってのを表現しているつもりのようだ。
でも、むしろ静かに見つめているだけの連中に対する恐怖を覚えるわ。

今回は序盤からネズミが人を殺すシーンがあるのでホラーとして徹底しているのかと思いきや、ダニーとベンの交流を描くドラマが軸になる。
つまり、「少年とネズミの心の触れ合いを描くハートウォーミング・ストーリー」みたいなモノがメインなのだ。
ところが、そんな中でベンが殺人を重ねるので、ちっともハートウォーミングな雰囲気が高まらない。
ベンがただのドブネズミで、自分のために食糧を盗む程度なら「君は友達」と感動的な友情物語にしてもいいだろうが、凶悪な連続殺人ネズミだからね。

ベンがウイラードに利用されて殺人を遂行しただけなら、かなり無理はあるけど、まだ「哀れな被害者」という捉え方も出来なくはない。
でも、前作でウイラードを自分たちの意思で殺しているので、それも成立しない。
「利用して捨てようとしたことへの復讐」ではあるけど、残忍な加害者であることは確かだ。
なので、ダニーに「僕は本当の君を知っている。みんなにも知ってほしい。温かい目で見てくれたら君の素晴らしさが分かるのに」などと歌われても、「いや無理だよと」キッパリと拒否したくなる。

今回の映画でネズミによる最初の犠牲者は、衝突事故の運転手だ。その件は殺意を持っての行動じゃなくて運転手が慌てて運転を誤ったことでの事故だが、だからOKってわけでもない。
その事故だけでも、ネズミたちは退治されて当然だと感じる。
あとさ、前半でネズミによる死亡事故が起きているので、その後でスパの騒動とか描かれてもヌルいだけなのよ。コメディーでもないと成立しないような出来事になっちゃってるのよ。どんどんエスカレートさせていくべきでしょうに。
ダニーがベンの住処に行くシーンも、絶対に襲われないってのは分かり切っているので、ちっとも恐怖心は喚起されないし。

ダニーはヘンリーと刑事を騙したことを得意げに語り、姉に嘘をついた罪悪感は全く抱いていない。彼はイヴから「ネズミは危険なのよ」と言われて、「ネズミによる」と返す。
でも、その「ネズミによる」の代表格がベンなのよね。
ダニーは重病で孤独な少年であり、だから「唯一の友達であるネズミを守ろうとする」ってのは、好意的に受け取らなきゃダメな要素のはずなのだ。
でも見ている内に、家族や刑事に真実を明かすよう求められても嘘をついて誤魔化し続けている態度に、だんだん不愉快さが強くなって来るんだよね。

ダニーがベンの殺人を知らずに仲良くするならともかく、色んな報道で知っている。それに、新たな殺人も起きている中で、それでも彼は助けようとする。
ってことは、ダニーは連続殺人犯を擁護し、匿っていることになるのだ。だから彼がベンの危機を知って涙を流しても、同情心は全く湧かない。
排水溝への火炎放射によって本人が危機に陥るシーンもあるが、これまた同様。
こんなことを軽々しく口にしたらダメなのは承知で、あえて言うけど、「死ねばいいのに」と思ってしまうわ。

(観賞日:2022年5月11日)

 

*ポンコツ映画愛護協会