『ベッドタイム・ストーリー』:2008、アメリカ
1974年、マーティー・ブロンソンはサンセット大通りとラ・シェネガ通りの角にサニー・ヴィスタ・モーテルを開業した。従業員は、彼の幼い娘であるウェンディーと息子のスキーターだった。6歳のスキーターにとってモーテルは夢の世界であり、彼はお客さんを呼ぶためのアイデアを幾つも考えた。マーティーはスキーターが眠る時、物語を話すことが多かった。経営は上手く行かず、マーティーはバリー・ノッティンガムという男から売却を提案された。「子供たちに残したいと思っていた」とマーティーが言うと、バリーは「アンタの息子が大きくなった時、見所があるようなら経営を任せよう」と約束した。
バリーはモーテルを譲り受けると、「サニー・ヴィスタ・ノッティンガム」という巨大ホテルに建て替えた。それから25年後、スキーターはホテルの設備係として働いていた。世界各国に23のホテルを所有するバリーは、サニー・ヴィスタを建て直すと発表した。そして彼は新しいホテルの総支配人に、娘のヴァイオレットと交際している部下のケンドル・ダンカンを指名した。自分が指名されると期待していたスキーターだが、かつての約束についてバリーに言い出すことは出来なかった。
スキーターは小学校の校長をしているウェンディーに呼ばれ、4年ぶりに彼女の家を訪れた。ウェンディーは離婚したばかりで、ボビーとパトリックという幼い子供たちを育てていた。彼女はスキーターに学校が閉鎖されることを話し、アリゾナへ面接に行くので子供たちを預かってほしいと頼む。スキーターが嫌がると、ウェンディーは「そんなに大変じゃないわ。先生のジルが朝は学校へ連れて行き、夕方まで面倒を見てくれる。夜だけよ」と説明した。スキーターが承諾して帰ろうとすると、駐車場でジルと遭遇した。2台分のスペースを使っていることを咎められたスキーターは、ジルに嫌味を浴びせて去った。
スキーターはホテルのウェイターをしている友人のミッキーから「なぜ新しいホテルは俺に任せろってボスに言わなかったんだ?親父の遺言だろ」と言われ、「言いたかったけど、タイミングが難しくてさ」と弁明した。ジルから電話を受けたスキーターは、急いで子供たちの元へ向かった。姉の家にテレビが無いと知り、彼は子供たちに何をさせれば良いのか分からず困惑した。さっさと寝かせようと考えた彼は、ボビーとパトリックをベッドに入れる。しかし部屋を去ろうとすると、本を読んでほしいと求められた。
スキーターが子供部屋の絵本を手に取ると、環境保護やオーガニックを題材にした作品しか無かった。「もっと面白い話は無いの?」と問い掛けた彼は、「もっと面白い話って?」と逆に訊き返される。そこでスキーターは、自分が考えた物語を話すことにした。主人公は自分がモデルで、魔法の王国で城に仕える男だ。彼は亡きマーティー卿の息子だが、騎士ではなく貧しい農民だ。お助け役に甘んじており、周囲からは軽く見られている。お助け役は真面目に働いていたが人気は無く、媚を売る騎士が絶大な人気を誇っていた。
国王は将来の後継者として、騎士を指名した。騎士のモデルはケンドルで、国王のモデルはバリーだ。お助け役は掘に飛び込み、ワニに食われて死んだ。「おしまい」とスキーターが言うと、子供たちは「ハッピーエンドじゃない」と不満を口にした。「ハッピーエンドなんて現実には無い。今の内に知っておいた方がいい」と、スキーターは冷たく告げた。ボビーは「お助け役にもチャンスをあげるべき」と主張し、「国王がお助け役にもチャンスを与えると言い出す」という展開を語った。スキーターが「人々は祝福した」と話を続けると、パトリックは「ガムボールの雨が降った」と付け加えた。
翌朝、スキーターは受付係をしているアスペンからの電話で、ボスのテレビが壊れたから今すぐ修理に来るよう指示された。まだ子守の最中だったので、スキーターはボビーとパトリックを連れてホテルに赴いた。ヴァイオレットが通り掛かったので、スキーターは承諾を得ずに子供たちを預け、バリーの部屋に向かった。しばらくするとジルが迎えに来て、ボビーとパトリックを学校へ連れて行った。
スキーターはバリーから、新しいホテルのコンセプトがロックンロールだと聞かされる。同じコンセプトのホテルがあることをスキーターが指摘すると、バリーは発案者であるケンドルを呼んだ。バリーはスキーターに「君にチャンスをやろう。もしケンドルより良いアイデアを出したら、新しいホテルを君に任せる。週末、私の誕生パーティーで2人にアイデアを発表してもらう」と告げた。帰り道、スキーターはカップルが乗るフェラーリを目撃し、羨ましく思った。フェラーリが走り去った後、スキーターの車にガムボールの雨が降り注いだ。トレーラーが事故を起こし、荷台に積んであったガムボールが高架下に降って来たのだった。
スキーターは遅番なのでホテルに宿泊し、ボビーとパトリックを部屋で預かる。彼はルームサービスでミッキーを呼び、子供たちは初めてハンバーガーを食べた。スキーターは子供たちに、開拓時代の物語を聞かせる。主人公は自分がモデルのカウボーイだ。彼は出世を望み、良い馬を買いに行く。先住民はフェラーリという名の赤い馬を見せて、タダで主人公にプレゼントした。スキーターはフェラーリをタダで手に入れようとして、そんな物語を思い付いたのだった。
スキーターが話を終えようとすると、ボビーが「主人公は王子様みたいなことしないの?」と質問する。カウボーイが令嬢を盗賊から救う物語を彼女が語ると、スキーターは「お礼として令嬢は1億ドルをくれた」と言う。ボビーが「お礼はキス」という内容に変更すると、パトリックは「令嬢がキスしようとしたら、怒りっぽい小人が来てカウボーイの脚を蹴り付けた」という展開を付け加えた。スキーターはミッキーに子供たちを任せ、フェラーリが展示されている自動車販売店へ行く。すると物語に登場させた先住民にそっくりの男が現れ、スキーターはフェラーリがタダでもらえると期待した。しかし男は泥棒で、スキーターの財布を盗んで逃亡した。
スキーターが車でホテルへ戻ろうとしていると、ヴァイオレットがパパラッチに囲まれて困っていた。スキーターはヴァイオレットを助け、パパラッチを追い払った。ヴァイオレットがお礼としてキスしようとすると、小人が現れてスキーターを蹴り付けた。ヴァイオレットが自分のフェラーリに乗り込もうとしたので、スキーターは「これがタダで貰えるってことだ」と期待した。しかしヴァイオレットは車に乗り込み、そのまま走り去った。
翌朝、スキーターはパトリックの何気無い言葉を聞き、子供たちの考えた部分だけが現実化するのだと気付いた。一方、ケンドルは愛人のアスペンから地図を渡され、新ホテルの建設予定地へ行く。そこはウェブスター小学校で、ジルが子供たちを遊ばせていた。ケンドルはアスペンに電話を掛け、「地図が間違っている。ここは小学校だ」と言う。アスペンは「それでいいのよ。そこは閉鎖されるの。ボスが教育委員会に手を回して取り壊しになるの」と説明した。
スキーターはホテルのバルコニーで子供たちにキャンプを体験させ、焼いたマシュマロを食べさせた。子供たちが喜んだところで、彼は寝物語を始めようとする。しかし「今回はホテルを作る話だ」とスキーターが言うと、子供たちが「つまらない」と不満を漏らす。まだプレゼンまで1日の余裕があるので、スキーターはそれを明日に回すことにした。パトリックはスタントマンの活躍を希望し、ボビーはロマンティックな物語を求めた。そこでスキーターは、「ロマンスとアクションの両方を盛り込もう」と告げた。
スキーターが話し始めたのは、古代ギリシャの物語だ。主人公はスキータカスという英雄で、実力者だが周囲からは馬鹿にされている。しかし皇帝の娘に気に入られたら、国はやがて彼の物になる。スキータカスはコロシアムでXゲームの創始者となる妙技を見せ付け、観客の喝采を浴びた。そこまで話したスキーターは、「スキータカスは憧れの女性をゲットできるの?」と問い掛ける。ボビーが「主人公は必ず国で一番の美人と結ばれるの」と言ったので、スキーターは自分の狙い通りになると確信した。
さらにスキーターは物語を続け、スキータカスが皇帝の娘を連れて酒場へ行くことを語る。するとパトリックは、「子供の頃に主人公を苛めていた女たちが集まっていて、2人を羨ましがる。どうしていいか分からず踊り始める」と告げる。2人がビーチへ行くという展開をスキーターが語ると、「毛むくじゃらの大男が打ち上げられている。スキータカスが腹を踏むと息を吹き返し、感謝される。雨が降って来たので洞窟に入ると、リンカーンが現れる」という物語を子供たちが付け加える。「何だよ、リンカーンって」とスキーターが声を荒らげると、子供たちは機嫌を悪くして布団を被ってしまった。
翌日、スキーターはビーチへ行き、ヴァイオレットに電話を掛けてデートに誘う。しかしヴァイオレットは、これからベガスへ行くと言って断った。ジルがスキーターの元へ来て、「なぜかビーチに行きたくなって」と告げた。スキーターはジルに誘われ、ランチを食べに行く。すると店には、高校時代にスキーターを苛めていたドナと友人たちがいた。スキーターはジルに頼んで、恋人のフリをしてもらった。ドナたちはスキーターの前で、急に歌いながら踊った。
スキーターがジルを連れてビーチへ行くと太った男が倒れていたので、腹を踏んで蘇生させてやった。スキーターが「雨宿りしよう」と言った直後、雨が降って来た。スキーターはジルを桟橋の下へ連れて行き、「明日のパーティー、良かったら君も来るといいよ」と誘った。「行くとしても夜間クラスの後になるけど」と言いながら髪留めのゴムを外したジルを見て、スキーターは「もしかして、国一番の美人って君なのか?」と言う。スキーターはキスしようとするが、次に起きる展開を思い出して「いやマズい」と慌てる。すると桟橋の上から、リンカーンの肖像が刻まれた1セント硬貨が落ちて来た。ジルは立ち去り、スキーターはキスのチャンスを逸して悔しがった。
その夜、スキーターは最後の寝物語として、宇宙の話を子供たちに語る。連邦銀河評議会では、新たな惑星の支配者が決定しようとしていた。最高元首のバラット師は、腹黒いケンドロ将軍を推薦すると見られていた。そこへ主人公のスキートが、相棒のミッキーを連れて現れた。そこまで話したところで、パトリックが「宇宙なんだから、スキートはエイリアン語で喋らないとダメだ」と口を挟んだ。
スキーターは子供たちに、スキートが無重力バトルでケンドロと戦う展開を語る。子供たちは笑顔で物語を聞き、スキートが勝って領主に指名される展開を語った。明日のプレゼンは成功すると確信したスキーターは、「めでたし、めでたし」と言って物語を終わらせようとする。しかしパトリックが「まだ終わりじゃないよ」と言い、「誰かが火の球を投げて、スキートは燃えカスになってしまう」という展開を付け加えた。スキーターは慌てて、主人公を復活させるよう求める。しかし子供たちは満足し、眠りに就いてしまった…。監督はアダム・シャンクマン、原案はマット・ロペス、脚本はマット・ロペス&ティム・ハーリヒー、製作はアンドリュー・ガン&アダム・サンドラー&ジャック・ジャラプト、共同製作はケヴィン・グラディー、製作総指揮はアダム・シャンクマン&ジェニファー・ギブゴット&アン・マリー・サンダーリン&ギャレット・グラント、製作協力はジェームズ・バドスティブナー&ダニエル・シルヴァーバーグ、撮影はマイケル・バレット、編集はトム・コステイン&マイケル・トロニック、美術はリンダ・デシーナ、衣装デザインはリタ・ライアック、衣装はクラッシュ・マクリーリー、視覚効果監修はジョン・アンドリュー・バートンJr.、音楽はルパート・グレッグソン=ウィリアムズ、音楽監修はマイケル・ディルベック&ブルックス・アーサー。
主演はアダム・サンドラー、共演はケリー・ラッセル、ガイ・ピアース、ラッセル・ブランド、リチャード・グリフィス、ジョナサン・プライス、コートニー・コックス、ルーシー・ローレス、テリーサ・パーマー、アイシャ・タイラー、ローラ・アン・ケスリング、ジョナサン・モーガン・ハイト、キャスリン・ジューステン、ニック・スウォードソン、アレン・コヴァート、カーメン・エレクトラ、ティム・ハーリヒー、トーマス・ホフマン、アビゲイル・レオン・ドロージャー、メラニー・ミッチェル、アンドリュー・コリンズ他。
『キャプテン・ウルフ』『ヘアスプレー』のアダム・シャンクマンが監督を務めた作品。
脚本担当は、これがデビューのマット・ロペスと、『サタデー・ナイト・ライブ』時代からアダム・サンドラーとは何度も組んでいるティム・ハーリヒー。ハーリヒーがサンドラーの主演映画で脚本を務めるのは本作品で8度目で、製作総指揮も含めるとコンビは11度目。
スキーターをアダム・サンドラー、ジルをケリー・ラッセル、ケンドルをガイ・ピアース、ミッキーをラッセル・ブランドが演じている。
他に、バリーをリチャード・グリフィス、マーティーをジョナサン・プライス、ウェンディーをコートニー・コックス、ウェンディーをルーシー・ローレス、ヴァイオレットをテリーサ・パーマー、ドナをアイシャ・タイラーが演じている。
サンドラー映画の常連であるニック・スウォードソンが解体業者の役で、アレン・コヴァートがフェラーリの男役で、カーメン・エレクトラがその恋人役で、脚本のティム・ハーリヒーが若い頃のバリー役で出演している。
また、アンクレジットだが、物語に登場する先住民&スキーターの財布を盗む男の役で、サンドラーの盟友であるロブ・シュナイダーが出演している。姉から子供たちを預かってほしいと頼まれた時、スキーターは「嫌だよ。俺、嫌われてるし」と渋る。
実際、その直前に彼はホテルのアメニティー・グッズをプレゼントとして持参し、あまり喜んでいない子供たちの表情が写し出されている。
しかし、前述したディクソン夫人とのやり取りや、マイクテストの様子などからすると、キャラがブレているように思えてしまうのだ。
それらの描写からすると、子供にも優しく接して慕われており、子供を預かるのも喜んで引き受ける男にしておいた方が統一感がある。ジルと駐車場で会った時に嫌味を浴びせるのも、やはり引っ掛かりを覚える。
パーティー会場でヴァイオレットのことをバリーに話す時、「娘さんの噂は良く聞いてます。いや、悪い意味じゃなくて。いい女だってことで。いや、正確がいいってことです。楽しいことが好きで、いつも違う男を連れてクラブで遊び回ってるって」とコメントしていたけど、それは単純に「余計なことを無意識に言うバカな奴」という印象だった。
しかしジルの時には、明らかに相手への悪意を込めている。
ってことは、たぶんヴァイオレットの時も同様なんだろうけど、どっちにしろ、最初に感じた好青年のイメージがどんどん崩れて行くってことは確かだ。実を言うと、子守を嫌がるとか、ジルに嫌味を浴びせるとか、そういうキャラクター造形って、普段のアダム・サンドラー作品の色付けなんだよね。それと、そもそもマーティーの約束があるので、将来的にホテルの経営を任してもらうことを期待するってのは、そんなに野心に満ちているわけでもなくて、むしろ当たり前だと言ってもいい。
ただ、最初のイメージからすると、そういう期待を抱いて仕事をしていたことが分かるだけでも、ギャップが生じてマイナスになるのだ。子守を嫌がったりジルに嫌味を言ったりするのも同様だ。
つまり、導入部におけるキャラ描写を間違えたってことだ。
最初から「スキーターはホテル経営の約束を期待して働き続けているのであり、嫌味をバンバン言いまくる男であり、好青年でも何でもない」ってことが分かる紹介シーンにすべきだったのよ。ただ、スキーターが子供たちから嫌われているのかと思ったら、初日からボビーとパトリックは普通に彼を受け入れているし、ちょっとしたことで簡単に笑っているんだよね。一方のスキーターも、お話を求められると嫌がることもなく、すぐに話し始めている。
その辺りは、どういうキャラクターに造形したいのか、スキーター&子供たちをどういう関係性として描きたいのかが中途半端と言うか、ガッチリと定まっていないような印象を受ける。
すぐに子供たちが懐いて、スキーターも特に嫌がるような様子を見せないのなら、彼を「出世欲の無い勤勉な好青年」という設定にしておいても別にいいんじゃないかと思ったりするんだよな。
それで話が作れないわけではない。ほっこりとした味わいのある、ファミリー向けのハートウォーミング・ファンタジーとして仕上げることは難しくないだろう。
例えば、「主人公は約束が果たされないのに文句一つ言わず、ホテルを愛する気持ちで真面目に働いている。しかし子供たちの考えた物語が現実化する中で少しずつ幸運が舞い込み、最終的にホテルの経営を任される」という風に、頑張ってる奴が報われる健全で明るくハッピーな映画にすればいいんじゃないかと。スキーターが子供たちに語る物語の内容からは、彼が自分の扱いに不満を抱いていたこと、過小評価されていると感じていたことも明らかとなる。
だったら最初から、そういう気持ちも明らかにしておいた方がいい。
そういう本音が後から分かると、その落差によって好感度を下げてしまうのだ。
何となく、アダム・サンドラーが自身の製作会社であるハッピー・マディソンで作っている普段の主演作の方向性と、ディズニーらしい方向性と、どっちにも寄せ切れず、フラフラしたまま映画を作っているように感じられるんだよな(その2つの融合は有り得ないし)。バリーからチャンスを与えられたスキーターは、帰り道にガムボールの雨を体験する。
だが、それだと「チャンスを貰った」というトコで一区切りが付いてしまい、ガムボールの雨が降るシーンは取って付けたような感じになってしまう。そこは一つの流れの中で処理すべきだ。
それと、ガムボールのシーンではスキーターがフェラーリと遭遇して欲しがっており、それが「スキーターがフェラーリの物語を語り、現実化しようと目論む」という展開に繋げているけど、それも含めて無理にハメ込んでいる感じが強い。
あと、たった一度の物語が現実化しただけで、すぐにスキーターが「物語の内容は実際に起きる」と考え、フェラーリをタダで貰える物を語るという展開は、かなり性急に思えるし。子供たちの付け加える物語は、それほど飛躍した内容になっていない。
もっと突拍子も無い内容にした方が面白くなりそうなんだけどなあ。
先に「物語が現実化することでスキーターがチャンスを掴み、出世する」という筋書きがあって、それに合わせて子供たちを動かしている印象を受ける。
それよりも、「絶対に現実化しそうもない物語を子供たちが語り、それが意外な形で現実化する」というエピソードを重ねた方が、映画として面白くなると思うんだよなあ。スキーターがホテルの経営権を手に入れるためにヴァイオレットを落とそうと目論むのは、いつの間にそんな悪知恵を思い付いたのかと言いたくなるし、違和感が強い。
あと、寝物語でスキーターはヴァイオレットをモデルにした皇帝の娘をモノにしているけど、ボビーの「国一番の美人を手に入れる」という表現で、現実ではそこがジルに置き換わるってのはバレバレだわな。
「スキーターがホテルを手に入れようとする」ってのと「ジルとのロマンス」を両方ともやらなきゃいけないから、「スキーターがヴァイオレットをモノにしてホテルの経営権を手に入れようと目論む」という展開にしてあるんだろう。
でも、それが下手な段取りとして露骨に見えちゃうのよね。そもそもスキーターはヴァイオレットに惚れていたわけじゃないので、そういう絡め方に無理を感じるのよ。そういう展開にするのなら、スキーターはヴァイオレットに片思いしていたという設定にでもしておけばいいんじゃないかと。
いっそのこと、ヴァイオレットを本当のヒロインにしちゃってもいいし。
ヴァイオレットは子供たちを押し付けられても文句を言わず、普通に面倒を見てやっているし、バリー側のキャラではあるが、そんなに不快なキャラではない。だから、別に彼女がヒロインでもいいんじゃないかと思うのよ。
ただし、あくまでも「ホテルの経営権を手に入れるためにヴァイオレットを落とそうとスキーターが企む」という展開にするのなら、最初から惚れていた設定にした方がマシだってことだよ。
最も望ましいのは、あくまでもスキーターは仕事に関する成功だけを寝物語で実現させようとする形にして、女性関係に関しては子供たちが付け加えた展開のせいで影響が出るだけにしておいた方がいいと思うぞ。「寝物語で語られた出来事が現実に起きる」ってのは、あくまでも納得できる形で起きてこそ面白味が生じるのだ。
しかしドナと友人たちが急に踊り出すシーンは、ただ唐突に始めるだけで、何の流れも説得力も無い。
本人たちも、「なぜ急に踊り出してしまったんだろう」という反応を見せている。
「本人たちは踊るつもりなんて無かったのに、無意識に体が動いた」という感じなんだけど、それはダメでしょ。そういうことでいいなら、何でも有りになっちゃうよ。スキーターが桟橋の下で「もしかして君が国一番の美人なのか」とジルに言い出すのは、タイミングがおかしい。
もっと前から「寝物語の内容が現実になっている」ってことは認識しているんだから、だったら彼女が寝物語におけるヒロインの位置だったことにも気付くはず。
髪留めのゴムを外したタイミングでそのセリフを口にするけど、「今までは全く気付かなかったけど、ゴムを外したら美人だと気付いた」というわけでもないんだし。
髪留めのゴムを外しても、「メガネを外したら美人だった」みたいな効果は無いよ。あと、ジルに惚れているわけでもないのに、スキーターが「寝物語が現実になったら、ヒロインは彼女だった」と気付いただけでキスしようとするのは、ただ不誠実なだけにしか見えないよ。
そこまでにスキーターがジルに好意を寄せるような展開も無かったし。
しかも、それがきっかけでスキーターがジルに惹かれるようになる、という恋愛劇が描かれているわけでもないのよね。
だから最終的に2人がカップルになるってのも、ただ段取りを事務的に処理しているだけにしか感じない。スキーターはプレゼンの際、「この1週間、ホテルで甥と姪と過ごして分かった。子供たちにとって、ホテルではどんなことでも楽しい。
大人は忘れているけど、子供は知っている。当ホテルではお客様を日常から解放したい。僕の父が言っていたように、楽しいことは想像力で無限に広がる」などと語る。
それを「心に響くスピーチ」として演出し、実際にスキーターはバリーの心を掴んで総支配人に指名される。
だけど、「蜂に舌を刺されて上手く話せず、ミッキーが通訳して伝える」という形にしているので、それがスキーターの本心だってことが伝わりにくい。
そもそも、スキーターは子供たちと過ごしている間、プレゼンの内容について考えている様子が全く無かった。だから、子供たちと一緒にいる間に、スピーチで語るような内容を考えていたようには思えない。しかも、その時点でスキーターは全く改心しておらず、「子供たちを利用して目的を達成しよう」という邪心に満ちたままだ。だから、スピーチの内容も、スキーターのホテルに対する純粋な気持ちが表現されているとは思えないのだ。
そのスピーチを「心を打つ内容」として描写したいのなら、それまでにスキーターに「子供たちを利用してホテルを手に入れようなんて 考えは間違っていた」と反省させ、「プレゼンでは自分のホテルに対する熱い思いを真っ直ぐに訴えよう」とだけ決意させるべきだろう。
その結果として、寝物語で子供たちが語った内容が現実化し、それが上手く転がってスキーターが夢を叶えるという流れにでもすればいい。
反省や改心という手順を踏まずにスピーチで感動させようとしても、全く心に響かないっての。その後、スキーターは小学校がホテル建設予定地だと知り、それを阻止しようと動き出す。
だけど、それは後から知らされた事実に対する行動でしかないし、そもそも「小学校を潰さないために行動する」ってのは終盤に来て急に変な舵を切っていると感じる。
そういう展開にしたいのなら、スキーターは早い段階でそのことを知っている設定にして、「途中で改心し、それを阻止しようとする」という流れにすべきじゃないかと。しかも、そこで善意は見せているけど、子供たちを目的達成のために利用したことについては何の反省も見せていないんだよね。
あと、最後、小さなモーテルを営むことにしたスキーターが、ケンドルとアスペンを雇って偉そうに指示している様子も、なんか不愉快だし。(観賞日:2015年3月14日)