『ビューティフル・クリーチャーズ 光と闇に選ばれし者』:2013、アメリカ
サウスカロライナ州ガトリン。高校3年生になったイーサン・ウェイトは、同じ夢ばかり見て眠れない夜が続いている。その夢の中には、会ったことは無いが知っている気がする少女が現れる。近付けば悪いことが起きると分かっているのに怖くない。しかし近付けないまま死んでしまうのだ。イーサンは田舎町のガトリンから、まだ一度も外へ出たことが無い。町には教会が12軒、禁書だらけの図書館が1軒あり、南部の保守的な思想が根強く残っている。母のライラが死んで以来、父は家に引きこもっている。
イーサンは町を出るため、遠方の大学へ進むことを考えている。彼は自分で朝食を作り、母の友人だったアマが家のことを手伝ってくれている。新学期になり、イーサンは一緒に車で登校するため、友人であるリンクの家へ赴く。リンクの母であるリンカーン夫人は夫が死んで以来、信仰に熱を入れている。彼女が「邪悪な者は死んだら何も残らない」と説教し、地震のニュースがあると「世界が終わる」と口にするので、リンクは辟易している。
イーサンはリンクから、メイコン・ラヴェンウッドの姪が転校して来ると聞かされる。レイヴンウッド家の人間が姿を見せるのは、実に20年ぶりのことだった。最近までイーサンはエミリー・アッシャーと付き合っていたが、夏休み前に「距離を置きたい」と告げている。メイコンの姪であるリーナが教室に入って来ると、エミリーの友人であるサヴァンナ・スノーは「ラヴェンウッド家は悪魔を崇拝してるってママが言ってた」と口にする。リーナは自分がラヴェンウッドではなくデュケインだと話し、馬鹿にした態度を取るエミリーに辛辣な言葉を浴びせた。
大雨の中で車を走らせていたイーサンは、リーナが道路に立っていたので慌ててブレーキを掛けた。車が壊れて立ち往生していたリーナは悪態をつくが、イーサンは車に乗るよう促した。イーサンの質問を受けたレナは、4歳で両親を亡くしてから各地を転々としていることを話す。リーナは火事で両親を、イーサンは交通事故で母親を亡くしていた。イーサンは家の中まで付いて行こうとするが、リーナは拒否した。イーサンエミリーとサヴァンナから「リーナは少年を殺して精神病院にいた」「母親は夫を殺して消えた」という噂を聞かされ、激しく苛立った。「知らない人の悪口を言うな」と彼が怒鳴ると、エミリーは「距離を置きましょう」と告げた。
国語の授業の時間、エミリーとサヴァンナはリーナを悪魔崇拝者だと主張し、神に祈る態度を示した。すると窓ガラスが粉々に砕け散り、リーナは心配して声を掛けたイーサンを無視して教室から出て行った。気になったイーサンがラヴェンウッド邸を訪れると、玄関のドアは勝手に開いた。外に出ると勝手に閉まり、イーサンは庭に佇んでいるリーナを見つけて話し掛ける。帰るよう言われても、イーサンは構わず隣に座った。
「どこでも私は嫌われ者よ。除け者の気持ちは分からない」とリーナは口にするが、イーサンの言葉に笑顔を見せた。イーサンはリーナとの距離を一気に縮め、ペンダントをプレゼントしようとする。そこへメイコンが現れたので、慌ててイーサンは自己紹介した。ライラの息子だと知ったメイコンは、お茶に招待するようリーナに勧める。リーナは断るよう囁くが、イーサンは屋敷に入った。メイコンが「町の住民は2種類しかいない。出て行かないバカか、居残る事情がある人」と言うと、彼は「母が同じことを言ってた」と告げた。
メイコンは将来の展望をイーサンに尋ね、目を閉じた。するとイーサンは、「父の面倒を見ながら教育免許を取得し、エミリーと結婚するが収入に不満を持たれて酒に溺れる。飲酒運転で仕事を失い、サヴァンナと愛人関係が続く。64歳で首を吊る」などと語る。困惑した彼が屋敷を後にすると、メイコンは「学校へ通うことは許したが、友達は作るな」とリーナを説教した。「誕生日まではいいでしょ」とリーナが訴えると、彼は「前の学校の出来事は?同じことを繰り返すぞ。あの青年は危険だ。二度と連れて来るな」と忠告した。
イーサンが戻って来るのを窓から見たリーナは、彼の元へ駆け寄った。イーサンは「君のことを毎晩、夢に見ていた気がする」と言い、ペンダントトップを渡した。そこに「1863年12月21日」と刻まれているのを知ったリーナは、12月21日で16歳になるとイーサンに教えた。ペンダントをリーナに握らせたイーサンの脳内に、南北戦争時代のジュネヴィエーヴとイーサン・カーターという男女の映像が飛び込んで来た。意識を取り戻すと、彼は自宅のベッドでペンダントを握っていた。
家に来ていたアマから「あの一族には近付かないで。お母さんとの約束よ」と言われたイーサンは、「悪いけどアマには関係ない」と反発する。アマはペンダントに気付くて険し顔付きになり、「グリーンブライアに返して来て」と告げる。「どうして拾った場所を?」というイーサンの質問に、彼女は答えようとしなかった。ラヴェンウッド邸へ出向いたイーサンは怪奇現象に襲われるが、リーナに救われた。リーナはイーサンに、自分たちが特殊な力を持つ種族であること、伯父が自分を守るため屋敷に魔法を掛けたことを話した。
リーナは「窓が割れたのは事故。最近は魔力を制御できない時があるの」と言い、ペンダントについては「分からないけど、2人で触ると何かが起きるみたい」と述べた。「普通になりたい」と漏らすリーナに、イーサンは「君は奇跡だよ。普通にならないで」と告げてキスをする。リーナは「私も貴方を夢で見てた」と打ち明け、メイコンに見つからないよう屋敷から逃がした。アマは先祖が眠る場所でメイコンと密会し、「あの娘が来てから、ずっと気配を感じる。町に闇を呼び込んだ」と言う。「リーナじゃない」とメイコンが否定すると、彼女は「サラフィーヌ?もう姿は見せないはず」と告げた。
メイコンが「その約束だったが、この1年、リーナを追い回している。それで何度か事故が」と明かすと、「イーサンを巻き込まないで」とアマは要求した。「グリーンブライアで何があったの?あの子、魔力のあるロケットを持ってた」という彼女の言葉に、メイコンは「サラフィーヌの仕業だ。彼を利用してリーナに近付く気だろう」と述べた。翌日、イーサンはリーナとデートし、車に乗って町の外へ行こうと誘う。するとリーナは、「私は16歳の誕生日に変わってしまうかも。女の魔術師は16歳になると、承認の儀式を執り行う。光と闇のどちらの魔術師になるか、本来の姿で決まるの。そのために、ここへ来た。メイコンは闇の魔術師だけど、私のために光になった。女は自分の意志では選べない」と不安を漏らした。
住民たちは集会を開き、リンカーン夫人はリーナの転校先では必ず問題が起きていることを指摘する。退学の嘆願書に大勢が賛同していることを彼女が話していると、メイコンが現れた。彼はスノー市長やハーバート校長、スティーヴンス牧師に挨拶すると、姪への非難が虚偽によるものだと静かに説明した。彼が立ち去ろうとすると、リンカーン夫人に憑依していた妹のサラフィーヌが魔法を使って2人きりの空間を作り出した。
「あの子は闇に落ちるわ」と言うサラフィーヌに、「自身が無いからイーサンを巻き込んだな」とメイコンは告げた。するとサラフィーヌは余裕の笑みを浮かべ、「あの2人は生まれた時から運命で結ばれてた。ライラも気付いてた。だけど魔術師は人を愛してはならない。願ったり叶ったりよ。失恋して闇に落ちるわ」と述べた。彼女は「リーナの誕生日は強い魔力が集まる冬至。地球は五千年ぶりの転換期を迎えるわ。あの子は最強の力を手に入れ、私たちを隠れなくていい世界へ導く」と語り、人間を排除する目論みを明かした。
収穫祭の日、イーサンはリーナの従姉であるリドリーに声を掛けられ、「みんな待ってるわ」と車に乗せられる。リドリーがイーサンを連れてラヴェンウッド邸に足を踏み入れると、母親のデルフィーヌは戸惑いの表情で「来ないでと言ったのに」と告げる。メイコンも「招待した覚えは無い」と冷淡に告げるが、リドリーは何食わぬ顔だった。彼女はイーサンに魔法を掛けて口を封じ、ダイニングルームへ連れて行く。リドリーを歓迎したのは弟のラーキンだけで、祖母のエマリンは軽蔑の眼差しを向けた。
リドリーはリーナを仲間に引き入れようと目論んでおり、「本性に関わらず、呪いで闇に転じるわ」と口にした。リドリーに挑発されたリーナは魔力を暴走させ、イーサンは気を失った。「呪いって?」というリーナの問い掛けに、エマリンは「貴方を怒らせたくて作り話をしたのよ」と告げた。リーナは意識を取り戻したイーサンに、リドリーのことを話す。姉妹のように育ったリドリーは闇に転じるのを感じ、リーナを守ろうとして16歳で家出した。しかし彼女は闇に落ち、男を誘惑して電車に轢き殺されるように操った。「私も同じ運命かも」と漏らすリーナに、イーサンは「道は自分で決めるんだ」と告げた。
イーサンはリーナと映画館へ出掛け、エミリーとサヴァンナの挑発に憤慨する彼女をなだめた。リンクも映画館を訪れるが、リドリーに誘惑されて操り人形と化した。リーナはポケットのペンダントを見つけると、イーサンに握らせた。すると2人の前に、南北戦争時代の景色が広がった。イーサンの祖先であるカーターがグリーンブライアで戦死し、リーナの先祖であるジュネヴィエーヴは禁断の呪文で復活させた。その代償として彼女は闇に落ち、カーターを抹殺した。
メイコンとアマはイーサンとリーナに、事情を説明した。メイコンはサラフィーヌが狙っていることを話し、「お前の本性が光だと彼女は知っている。私は呪いが解けると信じる」と告げる。彼が「それには己を制御する強固な意志が必要だ。まず彼から離れろ。彼への愛が、お前を無防備にする」と言うと、イーサンは「他にも呪いを解く方法はあるはずだ」と訴える。メイコンは「リーナに近付くな。離れないと2人とも死ぬ」と声を荒らげ、リーナを屋敷に閉じ込めた。
サラフィーヌが自宅にやって来たので、イーサンは慌てて逃げ出した。彼はラヴェンウッド邸へ乗り込み、感情を爆発させた。入り口を遮断していたエマリンとデルフィーヌは魔法を解き、彼にリーナを委ねることにした。イーサンとリーナは公立図書館へ赴き、司書のアマに協力を要請した。アマが地下にある魔術本の秘密部屋へ案内すると、リーナの力によって奥の扉が開いた。奥の部屋には、最強の魔術が掲載された月の本が保管されていた。
月の本には呪いを解く方法が記されているはずだが、中を開くと白紙だった。しかしイーサンとアマが立ち去ると、次々に文字が浮かび上がったた。リーナは何週間も通って本を読むが、呪いを解く方法はなかなか突き止められない。それでもようやく解呪の方法は見つかるが、愛する人が死ぬ以外に手は無いと知ったリーナはショックを受ける。彼女はイーサンを守るため、彼には嘘をついて闇の魔術師になることを受け入れようと決意した…。脚本&監督はリチャード・ラグラヴェネーズ、原作はカミ・ガルシア&マーガレット・ストール、製作はアーウィン・ストフ&アンドリュー・A・コソーヴ&ブロデリック・ジョンソン&モリー・ミックラー・スミス&デヴィッド・ヴァルデス、製作総指揮はヨランダ・T・コクラン、共同製作はスティーヴン・P・ウェグナー、製作協力はブラッド・アレンズマン、撮影はフィリップ・ルースロ、美術はリチャード・シャーマン、編集はデヴィッド・モリッツ、衣装はジェフリー・カーランド、音楽はthenewno2、音楽監修はメアリー・ラモス。
出演はオールデン・エアエンライク、アリス・イングラート、エマ・トンプソン、ジェレミー・アイアンズ、ヴァイオラ・デイヴィス、エミー・ロッサム、トーマス・マン、アイリーン・アトキンス、マーゴ・マーティンデイル、ゾーイ・ドゥイッチ、ティファニー・ブーン、レイチェル・ブロズナハン、カイル・ガルナー、プルイット・テイラー・ヴィンス、ロビン・スカイ、ランディー・レッド、ランス・ニコルズ、レスリー・キャステイ、サム・ギルロイ、シンディー・ホーガン、グウェンドリン・ムランバ、コール・バーデン、ビリー・ウィーラン、クリストファー・ダービー他。
全米でベストセラーとなったヤングアダルト小説を基にした作品。
脚本&監督は『フリーダム・ライターズ』『P.S. アイラヴユー』のリチャード・ラグラヴェネーズ。
音楽を担当したthenewno2(ザ・ニューナンバー2)は、ジョージ・ハリスンの息子であるダーニ・ハリスンが結成したオルタナティブ・ロック・バンド。
イーサンをオールデン・エアエンライク、リーナをアリス・イングラート、サラフィンをエマ・トンプソン、メイコンをジェレミー・アイアンズ、エマをヴァイオラ・デイヴィス、リドリーをエミー・ロッサム、リンクをトーマス・マン、エマリンをアイリーン・アトキンス、デルフィンをマーゴ・マーティンデイル、エミリーをゾーイ・ドゥイッチ、サヴァンナをティファニー・ブーンが演じている。
原作はシリーズ化されているため、この映画も続編を想定して企画されたが、酷評を浴びて興行的に惨敗したために立ち消えとなった。この映画で致命的に欠けているのは、「メインとなる2人の見た目」ではないだろうか。
申し訳ないが、オールデン・エアエンライクにしろ、アリス・イングラートにしろ、今一つ華が感じられない。
「イケメンと美女」と呼ぶにも少し厳しいんじゃないかとは思うが、それに関しては「日本人だからアメリカ人的な感覚とは違う」とか「個人の趣味嗜好」という問題もあるだろうから、ひとます置いておくとしよう。
でも華を感じないってのは、私がネジれた人間なのは認めるが、そういう問題ではないと思うのよね。ザックリ言ってしまうと、「少女漫画の逆バージョン」みたいな話である。
少女漫画であれば、性格が歪んでいたり口が悪かったりする男が登場し、ヒロインが好意を抱く。恋のライバルが出現するなどの障害が立ちはだかるが、なんだかんだあって2人はカップルになるというパターンの作品がある。
その男女のポジションを逆にすれば、この映画の図式になる。
ようするに、主人公は男で、ひねくれた性格で口の悪いヒロインに惹かれるという話だ。やがてヒロインは男に心を開き、素直な感情を見せるようになる。立ちはだかる障害があって、なんだかんだで2人がカップルになるという筋書きだ。大まかな展開を最後まで書いてしまったけど、これがネタバレとも言えないようなモノになっているのが、この手の作品の特徴だ。
どうせ最初からメインの男女が結ばれるのは分かり切っているし、「途中で何かしらの障害が待ち受けて、それを乗り越えて」という手順が用意されているのも分かり切っている。
そういうザックリした基本パターンを使いつつ、主なターゲットであるティーンズ女子をキュンキュンさせるような状況を散りばめて構成するわけだ。「ラヴェンウッド家の人間は町の人々と交流が無く、外へ出て来ない」「人々はラヴェンウッド家の人間を悪魔崇拝者だと噂して嫌っている」という初期設定があるのだが、これを序盤で上手く表現できているとは到底言えない。
エミリーやサヴァンナの言葉を利用し、そのことに触れる箇所は用意されている。しかし、大人の住民がラヴェンウッド家を露骨に嫌悪する様子が導入部で描かれていなかったり、ラヴェンウッド邸が画面に登場するタイミングが遅かったり、観客に初期設定を伝えるための表現が不足していると感じるのだ。
その問題に限らず、「町の人々」の存在感が乏しいってのは、この映画における重大な欠点だ。
それなら、いっそ開き直って学校だけを舞台にして物語を構築してしまった方が、まだ何とかなったかもしれない。45分ほど経過してから町の集会シーンが写し出され、ようやく住民がリーナを排除しようとする様子が示されるが、そこぐらいだ。イーサンは交通事故で母親を、リーナは火事で両親を亡くしている。
似たような境遇にある男女が、それをきっかけに親しくなるってのは、恋愛劇を進める上では良く使われるパターンだ(友情劇でも同じだ)。しかし本作品の場合、それで2人の距離が縮まったという様子は乏しい。
イーサンの方は、「夢に出てくる少女と同じ」ってことでリーナに惚れている。これはクドクドした説明や手順をスッ飛ばすことが出来るので、ものすごく都合がいい。
一方、明確な形でリーナが心を開くのは、窓ガラスの一件があった後、イーサンが訪ねて来るシーンだ。「いい言葉を知ってる。ある者は心を失い、知性を持つ者は心が」と暗記した言葉を話そうとしたイーサンが途中で詰まると、リーナは笑って「ズルいね。親しみやすくて、魅力的で」と口にする。心を開くどころか、もう好きになっちゃってるのだ。
イーサンの台詞でリーナが心を開くのは、ハッキリ言って説得力に欠ける。でも時間の都合で、その辺りは雑に片付けているわけだ。エミリーとサヴァンナが教室で神に祈り始めると、感情を必死で抑えようとしているリーナの様子が写し出される。
その直後に窓ガラスが砕け散るので、それが彼女の仕業だということは一目瞭然だ。そこを隠して話を進める気は、毛頭無かったらしい。
まあミステリーに主眼を置いているわけではないし、どうせ前半の段階でリーナが魔法使いの一族ってのは明かされることだから、わざわざ隠す意味は乏しいと言ってもいいだろう。
ただ、それなりに使える要素ではあるので、勿体無いなと。将来の展望を問われたイーサンが話す内容は、メイコンの魔法によるモノだってのは明らかだ。だけど、そんなことをイーサンに言わせて何の意味があるのか、それが良く分からない。
モノローグで「遠くの大学へ行きたい」と話していたんだから、それは「魔法でイーサンの本音を引き出した」ってことじゃなくて、心にも無いことを喋らせたってことなんだろう。
だけど、悲惨な未来へのイメージを本人に語らせたからって、「だから何なのか」と言いたくなるのよ。
メイコンはイーサンを追い払おうとして魔法を使ったわけで、それなら、もうちょっと分かりやすい手口は無かったのかと。そこに限らず、魔法の表現に魅力が乏しかったり、無駄に分かりにくかったりという問題がある。
例えばイーサンがアマからペンダントを戻すよう指示された直後、ラヴェンウッド邸へ赴くシーン。門を開けて敷地に入った彼が前を見ると、通って来たはずの門が見える。踵を返して来た道を戻ろうとすると、門を開けた自分が歩いて来る。イーサンは怯えて走り出すが転倒し、植物の蔦が全身に絡み付く。
このシーン、「植物の蔦が全身に絡み付くだけで良くね?」と思ってしまうのよね。そこまでの描写は、今一つパッとしないかなと。
それと魔法って言うより、ホラーの表現っぽい感じだし。南北戦争時代のシーンでは、リーナの先祖であるジュネヴィエーヴが愛するカーターを蘇らせるため、禁断の呪文を使う様子が描かれる。
その代償として永遠の闇に包まれるまでの経緯に関しては、ちゃんと理解できる。だが、闇に落ちた途端、ジュネヴィエーヴがカーターを抹殺する様子が描かれると、「はあっ?」と言いたくなる。
せっかく蘇らせたのに、直後に殺しちゃうって、アホ満開じゃねえか。
「闇に落ちたら愛する男など無関係」という説明はあるし、理屈としては通っているのよ。だけど筋書きとして、ボンクラにし思えないのよ。
そこで彼女にカーターを抹殺させる意味って、ホントにあんのかと。別にカーターは生きたままでも良くねえかと。日本ではライトノベルで「異世界」が乱用されているが、アメリカのヤングアダルト小説だと「非人間種族」と「魔法」が鉄板だ。
この作品では「魔法」しか使われていないように思えるかもしれないが、実は「非人間種族」の要素も持ち込まれている。
というのも、本作品における魔法使いというのは、「人間とは異なる種族」という設定だからだ。
ただし正直なところ、その設定を上手く表現できているとは到底思えない。そして、その設定を上手く機能させているとも思えない。でも極端なことを言っちゃえば、そんなのはどうでもいいのだ。
この映画にとっては、二の次、三の次なのでね。
「ファンタジーとして持ち込まれている要素は、恋愛劇のための背景や仕掛けに過ぎない」ってのは、ヤングアダルト小説の仕様だと言ってもいい。
この作品でも、描こうとしているのはイーサンとリーナの恋愛劇であり、「呪いが云々」とか「闇の魔術師が云々」という要素は「2人の恋愛を邪魔する障害」として用意されているだけだ。「男の魔術師は自分の意志で光か闇の属性を選べるが、女は16歳の誕生日に決まってしまう」というのは、なかなか都合の良すぎる設定だ。
大抵の映画には多かれ少なかれ御都合主義が付きまとうわけだが、それを上手く消化しているかどうかってのが印象を大きく変える。
この映画が上手く消化できているかどうかは言わずもがなだが、そこにツッコミを入れたら絶対に受け入れることが出来ない。
この作品に限らず、ヤングアダルト小説を原作とする映画ってのは、露骨に用意されている御都合主義を甘受することが求められる。脇役の使い方が下手で、エミリーやサヴァンナは導入部こそ存在感をアピールしたものの、それ以降は全く意味の無い存在と化している。
映画館ではリーナを挑発しているが、別にいなくても全く支障は無い。
リーナの親族たちも、登場シーンで大半の仕事が終わってしまい、中身の薄い存在になっている。
そもそも脇役の面々は「イーサンとリーナの恋路を応援する者か、もしくは邪魔する者」というのが基本的な役割であり、それ以外の仕事は皆無に等しいのだ。終盤の展開に関する完全ネタバレを書くと、サラフィーヌとリドリーはリンクを操ってイーサンを射殺させる。それに気付いたリーナが駆け付けて倒れているイーサンを発見し、サラフィーヌとリドリーの前で魔力を使って嵐と雷を召喚する。
しかし力を暴走させようとしたリーナの前で、イーサンの姿がメイコンに変化する。メイコンはリーナを守るため、イーサンに化けていたのだ。
メイコンの残した言葉を受け止めたリーナは、サラフィーヌを撃退する。
メイコンの犠牲で全てが解決しているのだが、「そもそもリーナの愛する相手として、メイコンは合格なのか」という疑問が湧くぞ。
身内だったら誰でも良かったのかよ。あと、リンクがイーサンを銃殺した後、そこへ来たサラフィーヌとリドリーの様子を見れば、リーナは彼女たちが自分を引き入れるために用意した策略だと分かるはずだ。
だからリーナが闇の魔術師になって力を暴走させたとしても、その激しい怒りはサラフィーヌとリドリーに向けられるべきじゃないかと思うのよ。
それなのに、彼女が嵐を呼び寄せて無関係な住民を落雷で攻撃するので、どういうことなのかと言いたくなる。
その後の様子を見ると、「策略だと気付いていなかった」という設定なのかもしれないが、それだと暴走する部分の辻褄は合うものの、「気付かないリーナはアホすぎる」という別の問題が生じるぞ。(観賞日:2017年9月4日)