『ビューティフル』:2000、アメリカ

1986年、イリノイ州ネイパーヴィル。12歳のモナ・ヒバードは、母ネドラと彼女の恋人ルーディーの3人で暮らしている。モナはミス・アメリカになることに情熱を燃やし、金を貯めて小さな大会に出るが、参加賞を貰っただけだった。18の大会で連続してトップ20にも入れない状況が続いたモナは、ヴァーナ・チクルスが主催するモデルスクールに通い始めた。モナは学校で困っていた同級生ルビーを助け、親しくなった。モナは次の大会でルビーに衣装を作ってもらい、ユニーク衣装賞を貰った。
19歳になったモナは、ルビーの協力を得ながらミスコンに情熱を燃やしていた。自分の使用曲を横取りしたライバルのジョジョには、バトンに接着剤を塗り付ける仕返しをしてやった。そんなある日、モナは遊び相手の子供を妊娠したことに気付いた。出産して母親になると、ミスコンの出場資格を失ってしまう。ルビーの励ましを受けたモナは、彼女に自分の娘を育ててもらうことにした。
7年後、モナはルビー、そして7歳のヴァネッサと3人で暮らしている。ヴァネッサはルビーの娘として育っているが、本当はモナの娘である。モナは相変わらずミスコンへの参加を続けており、ライバルを蹴落とすためには汚い手も平気で使っていた。その甲斐あってか、彼女はミス・イリノイに選ばれた。大会本部からは、本大会に向けて「愛に溢れた日常の写真」を撮影するよう指示が出た。モナはルビーが看護婦をしている病院に行き、患者の老婆クララを介護しているような写真をヴァネッサに撮影させた。
クララはルビーが渡した睡眠薬を飲まず、密かに隠していた。ある日、彼女は溜めておいた薬を一度に大量摂取し、自殺した。ルビーはクララに薬を渡して安楽死させた容疑を掛けられ、警察に逮捕されてしまう。高額の保釈金が払えないため、モナとヴァネッサは2人で生活することになってしまった。
本大会の日が来たため、モナはヴァネッサを会場に連れて行く。ただし、他の人の前では赤の他人のフリをする。モナはミス・テキサスのローナやミス・テネシーのワンダ達と共に、本番当日に向けた準備に取り組む。かつてモナと張り合ったジョジョは、TVリポーターのジョイス・パーキンスとして会場に来ている。モナがヴァネッサを連れて来ていることに気付いたジョイスは、2人の関係を探り始めた。いよいよコンテストの本番が始まり、モナは審査をクリアしてトップ10に入る・・・。

監督はサリー・フィールド、脚本はジョン・バーンスタイン、製作はジョン・バートッリ&B・J・ラック、共同製作はマーク・モーガン&ジョン・バーンスタイン&ジェイド・ラムゼイ、製作総指揮はリチャード・ヴェイン&ケイト・ドライヴァー&ウェンディー・ジャフェット&バリー・ロンドン&マーティー・フィンク&ブレント・ボーム&デヴィッド・フォレスト&スティーヴン・ステイブラー&
ボー・ロジャース、撮影はロバート・イェーマン、編集はデブラ・ニール=フィッシャー、美術はチャールズ・ブリーン、衣装はクリシ・カルヴォニデス=ダシェンコ、振付はペギー・ホームズ、音楽はジョン・フリッゼル。
主演はミニー・ドライヴァー、共演はジョーイ・ローレン・アダムス、ハリー・ケイト・アイゼンバーグ、キャスリーン・ターナー、レスリー・ステファンソン、ブリジット・L・ウィルソン、キャスリーン・ロバートソン、マイケル・マッキーン、リンダ・ハート、ブレント・ブリスコー、ゲイリー・コリンズ、コリーン・レニソン、ジュリー・コンドラ、ジャクリーン・スタイガー、シルヴィア・ショート、ヘルタ・ウェア、アリ・ランドリー、ロビン・レニー他。


女優サリー・フィールドの劇場映画初監督作品。
脚本は『ジェリー・スプリンガー ザ・ムービー/人の不幸はクセになる』のジョン・バーンスタイン。
モナをミニー・ドライヴァー、ルビーをジョーイ・ローレン・アダムス、ヴァネッサをハリー・ケイト・アイゼンバーグ、ヴァーナをキャスリーン・ターナー、ジョイスをレスリー・ステファンソン、ローナをブリジット・L・ウィルソン、ワンダをキャスリーン・ロバートソン、大会事務局長ディサルヴォをマイケル・マッキーンが演じている。

「ナンダカンダとキレイごとを並べたところで、ミスコンってのは容姿の美しさが大前提」と考えている私としては、ミニー・ドライヴァーがミス・アメリカを目指すってのは、無謀としか思えない。
彼女は少女時代から「ミス・アメリカにならなければ価値は無い」と考えているのだが、それは自分の器量が悪いと思っていたら有り得ないわけで、そうなるとイタい女に見えてしまう。

「器量がパッとしない女が、にも関わらずミスコンの女王を目指す」という可笑しさを軸にしたコメディーなら、それはそれとしてアリだ。というか、ミニー・ドライヴァーが主演ってのは、「外見より中身の美しさ」という結論のための配役だと思い込んでいた。
ところが困ったことに、劇中でモナは「美しい女性」として扱われているのである。
つまり、本人がミス・アメリカを目指すのは「イタい女の勘違い」ではなく、「美人だから不思議ではない」という解釈になってしまうのだ。
んなバカな。

モナの少女時代で20分程度を消化しているのだが、その段階で演出のセンスがイマイチだなあと感じた。そんなのは、いっそアヴァン・タイトルで処理してしまってもいいぐらいなのに。
しかも、それだけ時間を費やしたにも関わらず、「なぜモナがミスコンに全精力を注ぎ込むのか」という納得できる理由は示されていないのだ。
その後、モナが19歳になるところへ時間がジャンプし、彼女が男をとっかえひっかえしていることが示されるが、ミスコンに情熱を燃やしているはずなのに、男遊びにうつつを抜かして妊娠するってのはイカンだろうに。妊娠に関しては、モナに落ち度はあっても、同情の余地がある形にしておかないとマズいんじゃないのか。

モナがジョジョのバトンに接着剤を塗るという嫌がらせを仕掛けるのは、それまでの時点で既に低かった好感度を、ますます下げている。
これは、話のテイストがハートウォーミングに傾いていることに問題がある。
コメディーのノリがもっと強ければ、そこもOKだっただろう。
コメディーの部分でもっと弾けた方が、むしろハートウォーミングの部分も際立つと思うんだが、逆にコメディー部分がハートウォーミングに引きずられてユルくなっちゃってるんだな。

「モナがミスコンに燃えるのは何故か」というバックグラウンドが薄い。
一応は「親の愛に恵まれていない」という設定があるが、それに関する描写は、モナの振る舞いと比較すると、同情させるほどには足りていない。
なので、モナが野心のために身勝手に振舞うだけのイヤな女にしか見えないのである。
モナがミスコンのために身勝手極まりない振る舞いを繰り返す様子をシニカルに描くコメディーであれば、それでもいいだろう。しかし、そういうわけではない。それに、そういうモノを最終的に「親子の感動ドラマ」としてまとめるのは、かなり無理がある。
そもそもシナリオの足元が定まっていないんだが、それ以上に演出の焦点が絞り切れていないようだ。

ルビーが逮捕されることでモナとヴァネッサは2人になるのだが、そこまでに上映時間の半分ほどが経過している。この時間配分は上手くない。
それまでもモナがヴァネッサへの母性を見せているならともかく、何も無いわけで、「傲慢でイヤな女のモナ」というAパートと「モナが娘への愛に目覚める」というBパートに分けるなら、Aパートは3分の1ぐらいに収めた方がいい。
ところが不可解なことに、ルビーが逮捕された後も、「モナがヴァネッサと2人で生活する中で娘への愛に目覚めていく」というドラマは全く描かれないまま本大会に突入してしまう。
そして本大会に入っても、モナは相変わらずだ。
ヴァネッサに膝枕してもらったり不安を口にしたりするのは、娘への愛ではなく、誰かに頼りたかっただけだ。そこにルビーがいないから、ヴァネッサに頼っただけだ。

全く親子愛のドラマを感じさせぬまま、コンテスト直前になって急にヴァネッサが「モナが自分の母親だ」と気付くという展開になる。そして、それまでヴァネッサのことをまるで娘として可愛がっていなかったモナが、最後の最後になって急にミス・アメリカよりも娘を選ぶという、ギクシャク感極まりない展開に持って行く。
モナがミスコンより娘を選ぶにしても、まずは今までの7年間の不誠実をヴァネッサに謝罪すべきじゃないのか。それに、急に「アタシがママよ」と言い出したモナを、嬉しそうにヴァネッサが受け入れるのが理解できん。
それに、これまでヴァネッサを娘として大切に育ててきたルビーの立場はどうなるのか。2人の幸せよりも、ルビーの不憫が気になって仕方が無いぞ。

そもそも、モナが舞台の上でヴァネッサが自分の娘だと明かすのも、母性に目覚めたからというよりも、ミスコン狂いの自分に嫌気が差したからという感じに見える。
つまり娘のためにミスコンを捨てたというよりも、ミスコンがイヤになったので捨てたら、そこに娘がいましたというだけにも思えるのだ。
本気で母親としての自覚に目覚めたようには見えんぞ。

それと、モナが娘のことを明かした後に、審査員がモナの最終審査を認め、観客がモナ・コールをして「モナがミスコンに新しい境地を開いた」ということにしてあるのは最悪。
なんで社会的メッセージを持った映画みたいになってんのさ。
娘を選ぶ代わりに、ミスコンの資格は失うべきだろうが。
「これまで娘を娘とも思わず友人に預けて身勝手に生きてきて、急に娘のことを明かしたら拍手喝采で賞賛を浴びました」って、あまりにも虫が良すぎるじゃないか。


第23回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪の演出センス】部門[サリー・フィールド]

 

*ポンコツ映画愛護協会