『ビーチ・バム まじめに不真面目』:2019、アメリカ

詩人のムーンドッグは全く詩を書かず、フロリダ州キーウェストで酒を飲んで遊び回る日々を送っていた。彼は人気者で、どこへ行っても歓迎された。妻のミニーは大金持ちで、マイアミの豪邸で暮らしていた。ムーンドッグは全く家に帰らず、キーウェストで過ごしていた。彼はミニーからの電話で娘であるヘザーの結婚式の準備を手伝うよう頼まれた。しかしムーンドッグは手伝う気が無く、「結婚式を楽しみにしてる」と電話を切った。彼は家族への関心が薄く、娘の年齢さえ分かっていなかった。
酔っ払ったムーンドッグは転倒し、頭に怪我を負った。メイドに包帯を巻いてもらった彼は、久々に自宅へ戻った。「新作を書く気は?」とミニーに問われたムーンドッグは、「まだ書いてない新作の件でエージェントと会う」と答えた。「ヘザーの式だから早く帰ってきてね。絶対に遅れないで」と言われた彼は、軽く受け流した。ミニーは友人のランジェリーが牧師の資格を取ったこと、自宅で挙式できるようになったことを語った。
ムーンドッグは出版社の社長を務めるルイスとゴルフに出掛け、「アンタは女と酒に溺れて才能を無駄にした」と指摘された。カフェに入ったムーンドッグはシャルダンという女性を口説き、厨房でセックスした。結婚式に遅刻した彼は全く悪びれず、新郎であるフランクのの股間を握った。ミニーはヘザーから「危うく式が台無しよ」と言われ、「別次元の人間だと認めるしか無いの」と告げた。ランジェリーとの浮気について「パパは知ってるの?」とヘザーが訊くと、彼女は「あの人は遠くにいて気にしない」と述べた。
ムーンドッグはランジェリーと会場を抜け出し、酒を飲んでマリファナを吸った。彼は詩を朗読するが、D・H・ロレンスの作品だった。ミニーとランジェリーが抱き合ってキスする様子を目撃したムーンドッグは、プールに入ってマリファナを吸った。彼がバーに出掛けて客に絡んでいると、ミニーが迎えに来た。ムーンドッグは「ドライブに行こう」と誘い、ミニーが運転する車に乗り込んだ。ミニーは事故を起こして死亡するが、ムーンドッグはエアバッグのおかげで怪我一つ負わなかった。
ムーンドッグは弁護士から、ミニーの遺書に書かれている内容を知らされた。遺産の半分はヘザーが相続し、残りはムーンドッグが小説を書けば受け取れることになっていた。弁護士はミニーがムーンドッグの浪費を心配し、詩集の出版を望んでいたことを語る。条件を満たすまで口座が凍結されることになり、ムーンドッグは無一文で豪邸から追い出されてしまった。彼はヘザーに当座の金を貸してほしいと頼むが、「愛してるけどダメよ。準備が出来たら戻って」と告げられる。ムーンドッグはフランクを扱き下ろし、その場を去った。
ムーンドッグはルイスに電話を掛けて金を貸してほしいと頼むが、「原稿を貰っていないから」と断られた。彼はランジェリーの住む船を訪ねるが、ジャマイカへ出掛けていて不在だった。ムーンドッグは詩集を書く気など無く、ホームレスのフィルたちを率いて豪邸に乗り込むとピアノやソファーなど調度品を次々に破壊した。彼は警察に逮捕され、面会に訪れたヘザーが破壊の理由を訊くと悪びれずに「ノリで楽しんだだけだ」と答えた。
判事はムーンドッグに、ヘザーの保護下で更生施設に送ってもらうよう指示した。ヘザーはムーンドッグを車で更生施設まで送り、応援の言葉を掛けて別れた。ムーンドッグは施設のブログラムを馬鹿にして、真面目に取り組もうとしなかった。彼は患者のフリッカーに誘われ、窓ガラスを割って脱走した。2人は桟橋で挙式していた新郎を海に突き落とし、ボートを奪って逃亡した。彼らは男性を殴り倒して金を奪い、遊興費に使った。
フリッカーと別れたムーンドッグは、友人であるワック船長の元を訪れた。ワックはイルカツアーで儲けており、自分の下で働かないかと持ち掛けた。彼のツアーでは8年で4人の客が死亡し、5回も免許を?奪されていた。ムーンドッグとワックは家族の観光客を船に乗せ、ツアーの解説で下ネタを連発した。イルカの群れが現れても一家が海に入ることを嫌がったため、ワックが飛び込んだ。しかしイルカではなくサメの群れで、ワックは右足を食い千切られた。
ワックと別れたムーンドッグは、ランジェリーと友人であるジミー・バフェットの元を訪れた。脱走して警察に追われている噂について彼らが触れると、ムーンドッグは「その通り」と何食わぬ顔で答えた。ランジェリーは何年もミニーと浮気していたことを告白し、「彼女は俺を愛してない。アンタのいない間の遊び相手だ。彼女はアンタを個々の底から愛してた」と語った。警察が来たことを知った彼は、ムーンドッグに金を渡してキーウェストへ逃がすことにした…。

脚本&監督はハーモニー・コリン、製作はジョン・レッシャー&シャルル=マリー・アントニオーズ&モーラ・ベルケダール&ニコラ・レルミット&スティーヴ・ゴリン、製作総指揮はカール・シュポエリ&マルク・シュミットハイニー&ニック・バウアー&ディーパック・ナヤール&ウィル・ワイスク&トーステン・シューマッハー&キアラ・ジェラルディン&エメリン・ヤン・ハンキンズ&エディー・モレッティー&シェーン・スミス&ダニー・ガバイ、共同製作はジャド・アリソン、製作協力はディラン・ウェザーレッド、撮影はブノワ・デビエ、美術はエリオット・ホステッター、編集はダグラス・クリーゼ、衣装はハイジ・ビーヴェンズ、音楽はジョン・デブニー。
出演はマシュー・マコノヒー、スヌープ・ドッグ、アイラ・フィッシャー、マーティン・ローレンス、ザック・エフロン、ステファニア・ラヴィー・オーウェン、ジミー・バフェット、ジョナ・ヒル、ドノヴァン・ウィリアムズ、デヴィッド・ベネット、クリントン・アーチャムボールト、ジョシュア・ローゼン、トーニャ・オリヴァー、チェラ・アリアス、リカルド・B・マタラーニャ、ジョシュア・リッター、ジョーマリー・ペイトン、カーラ・グッドウィン、デブラ・ステイシー・コーエン、アラン・フランケル、A・アリ・フローレス、ハンター・リアデン、レフティー・ベル・コリーン他。


『ミスター・ロンリー』『スプリング・ブレイカーズ』のハーモニー・コリンが脚本&監督を務めた作品。
ムーンドッグをマシュー・マコノヒー、ランジェリーをスヌープ・ドッグ、ミニーをアイラ・フィッシャー、ワックをマーティン・ローレンス、フリッカーをザック・エフロン、ヘザーをステファニア・ラヴィー・オーウェン、ルイスをジョナ・ヒル、フランクをジョシュア・リッターが演じている。
歌手のジミー・バフェットとバーティー・ヒギンズが、本人役で出演している。

序盤のムーンドッグは酒とドラッグに溺れて遊び惚け、浮気三昧の日々を送っている。
妻が金持ちなので自堕落な生活を送り、詩を書く気が一切無い。家庭を顧みることは無く、娘の年齢さえ分かっていない。自宅には全く寄り付かず、娘の結婚式の準備も手伝わない。
結婚式にも女遊びで遅刻し、新郎のチンコを握ってヘラヘラする。すぐに式場を抜け出し、ランジェリーとドラッグを楽しむ。
ミニーが事故死した直後は少しだけ落ち込むが、遺言に伴って無一文で追い出された後は、喪失感を引きずる様子など皆無だ。また酒とドラッグに溺れ、豪邸に乗り込んで室内を荒らす。

更生施設に送られてもムーンドッグの態度は全く変わらず、すぐに脱走する。挙式中の新郎を海に突き落としてボートを奪い、男性を殴り倒して金を奪う。
その金で遊んだ後、ワックに誘われてイルカツアーに同行するが、下ネタを口にするだけで全く働いていない。
ワックが右足を食い千切られるとランジェリーとジミーの元へ戻り、自堕落な生活を続けようとする。
警察が来るとキーウェストに逃げるが、ここでも生活は全く変わらない。
彼は何が起きようと反省も後悔もしないし、自分の生活スタイルを変えようとしない。

文章で書くとサイテーでドイヒーなだけの男だが、周囲の人々は誰も彼を叱ったり責めたりしない。ムーンドッグのことが大好きで、彼が何をやっても笑顔で歓迎する。
家族にしても、ずっと彼を愛している。
ミニーは放蕩生活を容認し、女遊びにも腹を立てたりしない。自分がランジェリーと不倫しているから、負い目があるということではない。
彼女はムーンドッグを愛していて、近くにいてくれないから性欲を解消するためにランジェリーを利用しているだけだ。

ヘザーにしても、ムーンドッグは結婚式の準備を手伝ってくれないし、下手すりゃ台無しになるような言動を取っても怒ったりしない。
金を貸してくれという頼みは断るが、これも拒絶しているわけではなくて、愛しているからこそ生活を改めてほしいという思いがあるのだ。
自分の夫が馬鹿にされても怒らず、腹を立てるフランクに「彼はクズだけど才能があるの。貴方は頼りになるけど凡人よ」と静かに酷いことを言い放つ。
「頼りになる夫よりも、クズな父親を選ぶ」と宣言しているようなモノだ。

ヘザーはムーンドッグに豪邸を荒らされても全く怒らず、面会に出向いて優しい態度を取る。更生施設に送る時も、車で送り届けて応援の言葉を掛ける。
判事にしても、ムーンドッグが失礼極まりない言動を取っても「貴方の作品のファンだった。応援してるから頑張って」とエールを送っている。
客観的に見るとサイテーのクズ男であるムーンドッグは、劇中では「愛すべきタメ人間」として描かれている。
普通に考えると何をどう愛せばいいのか全く分からないかもしれないが、解釈の方法は簡単だ。
ようするに、「才能のある人間は何をやっても許される」ってことなのだ。

ムーンドッグはキーウェストに逃げても自堕落な生活を続けているが、その一方で詩集は執筆している。仕事に集中している様子は全く見られず、「遊興の片手間として適当に新作を書いた」という感じだ。
しかし新作が発表されると絶賛され、ピュリツァー賞の候補になり、そして受賞する。お気楽なノリで適当に詩集を書いても、才能があるから傑作を作れてしまうのだ。
彼は取材を受け、「超ポジティブ思考で、俺のために世界があると思ってる。楽しむことが好きというのが原動力だ」と語る。本当に才能がある人間は、楽しんで生活する中で詩を書いても素晴らしい物が完成するってことだ。
で、だから何なのかってことだわな。
最後にムーンドッグが船は爆発させて大金を燃やすシーンがあるけど、それで全てを風刺に染めようとしても無理があるわ。

(観賞日:2022年12月4日)

 

*ポンコツ映画愛護協会