『Be Cool/ビー・クール』:2005、アメリカ

映画プロデューサーとして成功したチリ・パーマーだが、友人のトミー・アセンズを乗せて車を運転している最中、「前の仕事に戻るよ」と口にする。映画業界に嫌気が差していたからだ。するとトミーは、業界から足を洗う前に自分がオーナーを務めるレコードレーベル“NTL”の映画を作らないかと持ち掛けた。トミーはチリに、リンダ・ムーンという有望な歌手を見つけたことを語る。チリはリンダに「トミーが成功の手助けをしてくれる」と約束し、彼女はヴァイパー・ルームというナイトクラブで待っているらしい。
呆れたチリがトイレへ行っている間に、殺し屋がトミーを銃殺した。チリは現場検証にやって来た顔見知りの刑事マーラたちに、犯人がカツラを被っていたことを告げた。犯人がチリの車を撃って壊したので、チリはレンタカー会社のグレンが車を用意してもらう。しかし頼んだのはキャデラックだったのにインサイトが用意されていたので、チリは渋い顔をする。ヴァイパー・ルームへ出向いたチリは、友人である大物俳優マーティン・ウィアーと遭遇した。彼は主演作のサントラを担当したハイ・ゴードンと一緒だった。
店に入ったチリは、リンダの歌を聴いた。リンダは他の女性2人と3人で、チックスというグループを組んでいた。ステージを終えたリンダはチリのテーブルへ来て、「お金が入ったら今の契約を打ち切りたい」と漏らす。彼女は安いギャラで働かされ、マネージャーのラジからは「辞めたら殺す」と脅されているのだという。ラジはキャロセル・エンターテインメントという事務所を営む音楽プロモーターのニック・カーと組んでおり、リンダは5年も契約が残っている。ラジは店に来ており、ボディー・ガードのエリオット・ウィルヘルムと一緒だった。エリオットは映画俳優になることを夢見る同性愛者だ。
チリはラジの元へ行き、「リンダは事務所を辞める。契約はキャンセルだ。俺はリンダの新しいマネージャーだ」と告げる。チリがリンダを連れて店を出ようとするので、ラジはエリオットに止めるよう命じる。だが、チリが映画プロデューサーだと知ったエリオットは、「君は見所がある。写真を送ってくれ。オーディションに呼ぶ」と言われて喜んだ。チリはトミーの妻イーディーの元を訪れ、背中に掘られたエアロスミスのタトゥーに気付く。イーディーはエアロスミスの熱狂的なグルーピーで、一緒にツアーを回っていたことがあるのだ。チリはトミーの秘書をしていたティファニーから、彼がカツラを被ったロシア訛りのある男とトラブルになっていたことを聞く。
ラジは事務所に戻り、チリがリンダのマネージャーになると言っていることをニックに報告した。ニックはチリのことを知っており、彼を消すために殺し屋のジョー・ループを雇うことにした。トミーに30万ドルを貸していた大物音楽プロデューサーのシン・ラサールは、新聞で彼の死を知った。シンはラッパーのダブたちが所属するレーベル“ダブMDs”のプロデューサーで、ラジオのプログラム・ディレクターを拉致し、銃を向けて「ウチの曲を掛けろ」と脅すような男だった。
チリはイーディーを連れ出し、リンダに会わせることにした。音楽業界に関わろうとするチリに、イーディーは「映画業界とは違うの。とてもリスクが大きいわ」と忠告する。だが、チリは「もっとクリエイティブにやりたい」と前向きだ。そこへリンダが来たので、チリとイーディーは彼女がピアノを使わせてもらっているスタジオに入る。リンダがピアノを弾きながら自作の曲を歌うと、イーディーは「気に入ったわ。レコードを作りましょう」と告げる。
エアロスミスのスティーヴン・タイラーがライブで来ていることを知ったチリは、イーディーに「電話してリンダの歌を聴いてもらおう。気に入られたら、ライヴに出してもらえるかもしれない」と言う。チリが帰宅すると、ロシア人のイワンという殺し屋が銃を構えて椅子に座っていた。だが、イワンは窓の外から何者かに狙撃され、命を落としていた。翌日、新聞記事でその事件を知ったニックはラジに電話を掛け、「ループはチリを殺すんじゃなかったのか」と叱責した。ラジはループと会うが、新たに5千ドルの報酬を要求される。
チリとイーディーはゴードンにリンダの歌を聴いてもらい、プロデュースを依頼した。リンダがニックと契約していたことを知ったリンダは、チリに「正式に彼女と契約しないと、困ったことになるわよ」と困惑の表情を浮かべる。NTLのオフィスにシンと手下たちが現れ、30万ドルの返済を要求した。イーディーは「ロシア人に騙し取られた」と言い訳するが、シンは「そんな話を信じると思ったか。帳簿を見せろ」と威圧する。チリは「金曜まで待ってくれたら、利子を付けて返す」と約束し、シンたちを帰らせた。
チリはニックの元へ行き、「リンダと契約させてもらう。その代わり、ウチに来たロシア人のことは目をつぶる」と述べた。ラジはループと会って金を渡すが、バカにされてカッとなり、金属バットで殴り殺してしまう。チリはイーディーとナイトクラブへ行き、バンドの演奏に合わせて2人で踊る。チリはダリルからの情報で、トミーを殺した犯人が質屋を営むローマン・バルキンだと知る。ローマンはロシアン・マフィアで、彼の店は警察に監視されていた。チリはローマンと仲間たちがいる店に乗り込み、「次に殺し屋を差し向けるなら、俺がいる時にしろ」と告げて立ち去った。
チリはマーラから声を掛けられ、ループの殺害犯を追っていることを聞かされる。質屋から出て来たローマンはチリを見つけ、手を拳銃の形にして彼に見せ付けた。その様子を、買い物に来ていたエリオットが目撃した。夜、チリはイーディーを連れてNBAの試合会場へ行き、観戦に来ていたスティーヴンと会わせた。ニックはエリオットから昼間の目撃談を聞かされ、「チリを殺したがってい
る奴が他にもいる。それならロシア人に殺しをやらせよう」と喜ぶ。 チリとイーディーはリンダの音源をスティーヴンに聴いてもらい、「彼女は成功するために映画に出たがっている」と告げる。するとスティーヴンは「シンガーが映画に出るのは好きじゃない」と難色を示す。チリは言葉巧みにスティーヴンを丸め込み、リンダと共演する返事を引き出した。チリがイーディーと共に彼女の邸宅へ戻ると、エリオットが勝手に侵入して待ち受けていた。「電話すると言ったのに、まるで連絡して来ない」と憤る彼に、チリは「オーディションに呼ぶと言ったんだ。おとなしく待ってろ」と告げる。「一人芝居ならいつでも出来る」とエリオットが言い出すので、チリは「やってみろ」と促した。エリオットが1人2役で女性の役を演じたので、チリは「一人芝居をする時は、1人の台詞だけを喋ればいい。それと、男の役を演じた方がいい」とアドバイスしてやった。
翌日、ニックはローマンの店を訪れ、手を組もうと持ち掛けた。その夜、ニックがリンダをチックスのライブに出すと知ったチリは、会場であるクラブへ赴いた。チリはリンダを連れ戻しに行くが、ニックは拒否した。チリはラジがループを殺したことを見抜いており、それを指摘して動揺を誘う。チリは「週末にはエアロスミスと共演する」とリンダに言い、喜ぶ彼女を連れて店を後にした。ニックはラジの行動に呆れ果て、悪態をついた。
翌日、ニックがオフィスにいると、秘書のロビンがニックの「リンダに近付いたら足を折るぞ」というメッセーージを伝えられる。腹を立てているラジに、エリオットは「もうニックは必要が無いんだろ。消したらどうだ。罠に掛けるんだ」と持ち掛けた。ラジはシンに匿名で電話を掛けて嘘を吹き込み、彼がニックを狙うよう仕向ける。すぐにリダイヤルしたシンは、掛けて来たのがラジだと知った。一方、チリもトラブルを解決するため、ニックが持っていた質屋の貸し入れ券を利用する…。

監督はF・ゲイリー・グレイ、原作はエルモア・レナード、脚本はピーター・スタインフェルド、製作はダニー・デヴィート&マイケル・シャンバーグ&ステイシー・シェール&デヴィッド・ニックセイ、製作協力はリンダ・ファヴィラ&アンソン・ダウンズ&アンディー・ゴーズ、製作総指揮はF・ゲイリー・グレイ&エルモア・レナード&マイケル・シーゲル、撮影はジェフリー・L・キンボール、編集はシェルドン・カーン、美術はマイケル・コレンブリス、衣装はマーク・ブリッジス、音楽はジョン・パウエル、音楽監修はメアリー・ラモス。
出演はジョン・トラヴォルタ、ユマ・サーマン、ダニー・デヴィート、ザ・ロック、ハーヴェイ・カイテル、ヴィンス・ヴォーン、セドリック・ジ・エンターテイナー、アンドレ・ベンジャミン、スティーヴン・タイラー、ロバート・パストレッリ、クリスティーナ・ミリアン、ポール・アデルスタイン、デビ・メイザー、グレッグアラン・ウィリアムズ、ジェームズ・ウッズ、ワイクリフ・ジョン、フレッド・ダースト、セルジオ・メンデス、ジーン・シモンズ、RZA、ジョー・ペリー、アンナ・ニコル・スミス、アンソニー・J・リブステッロ、スティーヴ・メイ、アレックス・クビック、ダレン・カーター他。


エルモア・レナードの小説を基にした1995年の映画『ゲット・ショーティ』の続編。
監督は『ミニミニ大作戦』『ブルドッグ』のF・ゲイリー・グレイ、脚本は『アナライズ・ユー』のピーター・スタインフェルド。
チリ役のジョン・トラヴォルタ、マーティン役のダニー・デヴィートは前作からの続投。イーディーをユマ・サーマン、エリオットをザ・ロック、ニックをハーヴェイ・カイテル、ラジをヴィンス・ヴォーン、シンをセドリック・ジ・エンターテイナー、ダブをアンドレ・ベンジャミン、ループをロバート・パストレッリ、リンダをクリスティーナ・ミリアンが演じている。
ロバート・パストレッリは、これが遺作となった。映画が公開される前の2004年3月8日、ヘロインの過剰摂取による中毒で死亡したからだ。

イーディーにユマ・サーマンを起用したのはジョン・トラヴォルタの意向らしいが、その組み合わせの段階で『パルプ・フィクション』を連想する人は少なくないだろう。
しかも、ナイトクラブでブラック・アイド・ピースとセルジオ・メンデスの演奏に合わせて一緒に踊るシーンまであるのだ。
そのシーンがパロディーとして用意されているなのであれば、まだ分からんでもない。
でも、そこにパロディーとしての意識は感じられないし、どういう意図で2人のダンスを用意したのか、ちょっと理解に苦しむなあ。

一言で説明するならば、これは本人役で登場する有名人の顔触れを楽しむ映画である。やはり音楽業界が舞台ということで、その業界の面々が多く登場する。そもそも役名付きで登場する面々の中にも、アウトキャストのアンドレ3000や歌手のクリスティーナ・ミリアンがいるしね。
で、それ以外に、本人役で登場して大きな扱いを受けているのは、エアロスミスのスティーヴン・タイラーだ。彼の盟友であるギタリストのジョー・ペリーも、そしてエアロスミスの他のメンバーも登場する。
他にも、元フージーズのワイクリフ・ジョン、リンプ・ビズキットのフレッド・ダースト、ボサノヴァ歌手のセルジオ・メンデス、キッスのジーン・シモンズ、ラッパーのRZA、ザ・ブラック・アイド・ピーズの4人、ジャズやブルースを演奏するバンド“スティーヴ・ラッキー&ザ・ルンバ・バムズ”が本人役で登場する。
音楽関係者ではないが、元プレイメイトのアンナ・ニコル・スミスも本人役で出演している。また、アンクレジットだが、セス・グリーンがPV監督のショットガン役で出演している。

で、この映画の見所は、そこに尽きると言ってもいいかもしれない。
しかも、オールスター映画であれば「スターのそれぞれに見せ場を与える」という作業が施されているが(それが上手く行っているかどうかは別にして)、これはオールスター映画ではなく、あくまでも「カメオ出演の豪華さ」というだけだ。
だから、主要キャストの1人であるスティーヴン・タイラー、演奏シーンがあるエアロスミス、ザ・ブラック・アイド・ピーズ&セルジオ・メンデスは別にして、「それぞれに見せ場を用意する」ということは無い。
「有名人が出演している」ということだけで満足して下さいという作りになっている。

序盤、チリは目の前でトミーが殺されても全く動じず、殺し屋に銃を向けられても平然と煙草に火を付ける。
そのシーンに代表されるように、クールでスタイリッシュな雰囲気を出そうとしていることは分かるし、それが丸っきり失敗しているとは思わない。
小粋な雰囲気は、かなり出ていると言ってもいいだろう。
ただ、それが映画の面白さに繋がっているのかと考えると、そこが微妙なんだよなあ。

映画の中の、どこでもいいから主要キャラが会話を交わしている1シーンを切り取って観賞したら、「オシャレな雰囲気のコメディー」として魅力的に感じるかもしれない。
ただ、そういう断片が組み合わさって1本の長編映画として仕上がると、イマイチ面白くないんだよな。
「どこがどのようにダメなのか」「どこをどう変えれば面白くなるのか」と問われると、ちょっと考え込んでしまう。「何となく面白味に欠ける」という感じなのね。
まあ全体的に味付けが薄い、捻りが足りないということかな。

ただし、ザ・ロック様だけは存在感をアピールしまくっていて、チリよりも遥かに魅力的。
チリに「才能が有りそうだ。演技は出来る?」と問われて、得意げに「これを見てくれ」と右の眉を吊り上げるザ・ロック様。ブーツ店で姿見の前に立ってポーズを取り、嬉しそうに「フォーッ!」と叫ぶザ・ロック様。
自分で作ったPVの中で、カウボーイ・ハットを被って軽妙なノリのカントリー音楽を歌うザ・ロック様。
一人芝居をやってみるよう促され、一人二役で女性の役を演じてしまうザ・ロック様。
MTV Video Music Awardsのステージでリンダのバックダンサーとしてノリノリでサモアンダンスを踊るザ・ロック様。
ああ、そう考えると、この映画の見所があったな。
この映画、おバカなキャラをノリノリで演じているザ・ロック様を楽しむ映画だわ。

(観賞日:2013年5月17日)


第28回スティンカーズ最悪映画賞(2005年)

ノミネート:【最悪の続編】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会