『ベアリー・リーサル』:2015、アメリカ

メーガンは両親を知らずに育ち、幼い頃から暗殺者養成学校「プレスコット」で訓練を受けて来た。教官のハードマンはメーガンだけでなく、多くの少女を暗殺者として養成している。メーガンの成績は優秀だったが、本当は友達が欲しいと思っていた。しかしライバル視するヘザーを始め、他の生徒たちと友達になることは出来なかった。メーガンは同期の中で最初に任務を与えられ、外の世界へ出た。そこで彼女は楽しそうに暮らす同年代の若者たちを目撃し、憧れを抱いた。
メーガンは人気ドラマを観賞し、普通の生活に関する情報を集めた。そんな中、メーガンやヘザーたちはハードマンから、ヴィクトリア・ノックスという殺し屋を標的にした任務を命じられた。しかしハードマンがヴィクトリアを生け捕りにする任務をメーガンに与えたので、Bチームに指名されたヘザーは腹を立てた。チェチェンへ飛んだメーガンはヴィクトリアを捕まえ、ロープを掴んで輸送機に乗り込もうとする。しかしヴィクトリアが発砲して来たので、川へ飛び込んで銃撃を逃れた。
チャンスだと考えたメーガンはハードマンからの呼び出しを無視し、通信機を捨てた。メーガンはネットでホスト・ファミリーを検索し、カナダの交換留学生としてアメリカのニュートンへ赴いた。彼女はレジーナという偽名を使い、ホスト・ファミリーのラーソン一家に会う。母親のペニーは既に離婚し、娘のリズと息子のパーカーの3人で暮らしていた。ペニーとパーカーはメーガンを歓迎するが、高校生のリズは冷淡な態度を取った。
翌日、メーガンはスクールバスに乗り、ニュートン高校へ赴いた。しかし彼女の服装と化粧が独特だったので、生徒たちの注目を集める羽目になった。リズは呆れた様子で注意し、「私には話し掛けないで」と告げた。メーガンは留学生交換プログラムの参加者として、朝礼で挨拶することになった。舞台袖で待機していた彼女は、裏方を務めるロジャーと知り合った。メーガンが校長の紹介でステージに出ると、グーチを始めとする生徒たちが馬鹿にした態度で囃し立てた。
そこへギターを抱えたキャッシュが現れて歌い始め、メーガンを助けてくれた。校長がメーガンを下がらせると、キュッシュがボーカルを務める学生バンドが演奏を始めた。女子生徒たちが声援を送り、会場は大いに盛り上がった。メーガンが学食に行くと、チアリーダーのミッシーと仲間たちが歓迎するつもりで話し掛けて来た。しかしドラマの情報に毒されているメーガンは彼女らがチアリーダーだと知り、「警戒心を無くさせておいて、辱めるつもりでしょ。残念ね」と立ち去った。
化学の教室へ赴いたメーガンは、ロジャーの隣でドラム先生の授業を受けた。キャッシュに好意を抱いたメーガンは深夜の学校へ忍び込み、パソコンを操作して彼の隣に席を入れ替えた。キャッシュのファンである女子生徒たちはメーガンを敵視し、「彼に好かれたいのなら、チアリーディングのマスコットに入ればいい」と嘘を吹き込んだ。ラーソン家や学校の前で停止する不審な車に気付いたメーガンは、自分を見張っているのだと確信した。
チアリーディングの練習中に覆面の連中が襲って来たので、メーガンは軽く退治した。すると覆面を剥がれた1人は、「リンカーン高校の2年生だ。マスコットを誘拐する伝統なんだ」と説明した。恥をかかされたと感じたメーガンは、その場から逃げ出した。メーガンに思いを寄せるロジャーは後を追うが、まるで相手にされなかった。ラーソン家に戻ったメーガンは、自分が予習していた情報は全て間違っていたと気付いて嘆く。しかしペニーに励まされて、元気を取り戻した。
翌日、メーガンが登校すると、生徒たちは拍手で出迎えた。格闘シーンの動画がネットにアップされ、一日にしてメーガンは人気者へと変化したのだ。「ネットはマズい」と焦るメーガンだが、キャッシュから練習を見に来ないかと誘われて浮かれる。バンドの練習を見た後、メーガンはキャッチュの家に招かれて一緒にビデオゲームを楽しむ。金曜にグーチの家で開くパーティーに誘われ、メーガンは喜んだ。しかしネットの動画でメーガンの居場所を嗅ぎ付けたハードマンとヘザーが、彼女を捕まえて連行した。
ハードマンから逃亡理由について尋問されたメーガンは、普通の暮らしを望んでいたのだと主張する。ハードマンが連れ戻そうとすると、メーガンは「このまま私が行方不明だと誘拐事件になる」と告げる。そこでハードマンは上手く対処するよう命令し、メーガンを一時的に解放した。ラーソン家に戻ったメーガンは、リズに「貴方は私だけじゃなく、世の中の全てを恐れてる。でも、みんなは本当の貴方が見たいのよ」と説いた。
リズは母に、「彼女をグーチのパーティーに行かせるなんて危険よ」と訴える。しかし母から「だったら一緒に行きなさい」と言われたため、メーガンに同行した。メーガンがパーティー会場へ行くと、ヘザーが女子生徒たちと喋っていた。驚いたメーガンがトイレへ連れ込んで事情説明を求めると、ヘザーは見張り役だと告げた。ヘザーがキャッシュに目を付けて積極的にアタックするので、メーガンは強い対抗心を燃やした。
翌日、メーガンが高校へ行こうとすると、ハードマンはスクールバスの運転手として登場した。彼はノックスが逃走したこと、メーガンの命を狙っていることを告げ、「取引は無しだ。安全な場所へ連れて行く」と言う。しかしメーガンが「私は戻らない」と主張しのたで、ハードマンは「だったら一人で戦え。私は助けない」と告げて解放した。黒の車に襲われたメーガンは何とか撃退するが、運転手は姿を見せずに逃走する。残っていた香水の匂いから、メーガンは襲って来たのがヘザーであること、彼女がヴィクトリアの手下であることに気付いた…。

監督はカイル・ニューマン、脚本はジョン・ダルコ、製作はブレット・ラトナー&ジョン・チェン&ヴァネッサ・コイフマン&テッド・ハートリー&シュキー・チュウ、共同製作はフィリップ・ローズ&スザンヌ・ローゼンクランス、製作総指揮はケヴィン・コーニッシュ&アリアンヌ・フレイザー&モリー・ハッセル&デルフィーヌ・ペリエ&ピーター・グレアム&スティーヴン・ヘイズ&レオ・カイリー&ジェームズ・リーチ&ハリソン・コーデスタニ&ブリジット・ミューラー&ポール・リー&アーティ・モディー&C・C・ハン&アレクシス・ビショップ、共同製作はビル・カイリー&ジョセフ・マッケルヒアー、製作協力はナンシー・ヴァル&マーカス・ケイ&クリスティー・チャム&デイル・ウィンザー・タンギー、撮影はピーター・コリスター、美術はアンドリュー・ネスコロムニー、編集はリサ・ゼノ・チャーギン、衣装はフランシン・ジェイミソン=タンチャック、音楽はマテオ・メッシーナ、音楽監修はクー・アブアリ。
出演はヘイリー・スタインフェルド、トーマス・マン、サミュエル・L・ジャクソン、ジェシカ・アルバ、ソフィー・ターナー、ダヴ・キャメロン、トビー・セバスチャン、ガブリエル・バッソ、ジェイミー・キング、レイチェル・ハリス、ジェイソン・ドラッカー、アレクサンドラ・クロスニー、エマ・ホルツァー、ダン・フォグラー、ロブ・ヒューベル、スティーヴ・グローヴァー、フィネシー・ミッチェル、ブルーノ・ガン、キャメロン・フラー、トム・ビショップス、ダニエル・スピンク、ケイティー・ニーランド他。


14歳の時の出演作『トゥルー・グリット』でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたヘイリー・スタインフェルドの主演作。
監督は『ファンボーイズ』のカイル・ニューマン。
脚本のジョン・ダルコは、これが初長編。
メーガンをヘイリー・スタインフェルド、ロジャーをトーマス・マン、ハードマンをサミュエル・L・ジャクソン、ヴィクトリアをジェシカ・アルバ、ヘザーをソフィー・ターナー、リズをダヴ・キャメロン、キャッシュをトビー・セバスチャン、グーチをガブリエル・バッソが演じている。

この手の作品で細かいディティールを要求するのが御門違いなのかもしれないけど、それにしても大雑把だ。
まず、暗殺者養成学校の設定がボンヤリしている。
どうやら孤児を集めて訓練しているようだが、卒業生に関する情報は無い。だからメーガンたちが一期生のように思えるが、だとすれば「なぜ孤児の少女ばかりを集めた暗殺者養成学校がスタートしたのか」という部分が引っ掛かる。
そこはデタラメな設定でもいいから、何か用意しておいた方がスムーズに入り込みやすい。

暗殺者として育成しているのだから、本番の前に予行演習的な手順があるのかと思ったら、いきなりメーガンは最初の任務を与えられている。で、彼女が最初に任務を与えられる生徒なので、それをキッチリと遂行できるかどうかってのは何よりも重要なはずだ。
ところが、彼女が無事に任務を果たしたかどうかは全く分からない。そもそも何の任務だったのかさえ、分からないのだ。
完全ネタバレになるが、後半になって「実は殺人の経験が無い」とメーガンが明かすので、それを観客に知られないための策略だったんだろうってのは理解できる。
でも、「だったら仕方がないよね」とは思わないぞ。

メーガンに殺しをさせたくないってのは、基本的にティーンズ向けの映画であることを考えても、充分に納得できる余地はある。
ヒロインを殺人者にしたままコメディーを作るのは、そう簡単な作業ではないしね。
ただ、「序盤におけるメーガンの任務は不明だし、達成したかどうかも分からない」ってのを甘受することは無理だ。
そういう設定を用意するにしても、「最初に殺人指令を受けるのはヴィクトリアの時で、それまでは準備として殺人以外の仕事を任されていた」ってことにするとか、何らかの対策は取るべきだろう。

っていうかさ、ヴィクトリアの時はハードマンから生け捕りにして連れて来いと命じられており、殺害命令じゃないのよね。
つまり暗殺者として養成されたけど、殺しが専門じゃないってことでしょ。
それなら、「メーガンが一度も殺しを経験しないまま外の世界へ出る」という展開なんて、変な策略を用意しなくても普通に描けたでしょ。
それどころか、いっそのこと観客が最初から「メーガンは一度も殺人を経験していない」と明確に分かった状態で鑑賞する形になっていたとしても、そんなに支障は無いぞ。

メーガンはモノローグで「成績は優秀でトップだった」と説明しているけど、具体的に「彼女の能力がズバ抜けている」と思わせるような描写は少ない。
後の展開を考えれば、そこで「いかにもメーガンが暗殺者として優秀か」ってのをアピールしておくことは重要な意味を持つ。そうすることによって、普通の高校生として暮らし始めた時のギャップが大きくなるからだ。「凄腕の暗殺者が普通の高校生に」という部分のギャップが大きい方が、コメディーとしての面白味が増すことは言うまでも無いだろう。
それを考えると、まだメーガンが優秀な暗殺者であることも、クール&タフガイとして行動している様子も充分にアピールしない内に、「普通の若者に憧れ、『ミーン・ガールズ』のビデオを見て楽しむ」という様子に入ったのは、得策とは思えない。
っていうか、そもそも「脱出する前に充分な予習をしている」という設定からして、どうなのかと。何も知らないまま外へ出た方が、「暗殺者」と「普通の若者の生活」のギャップは大きくなるはずで。

メーガンが高校生として暮らし始めると、「事前に映画やTVドラマで得た情報を鵜呑みにした言動を取る」というトコで笑いを作ろうとする。
ようするに、この映画の「ギャップ」の作り方は、そこにあるのだ。「映画やドラマで描かれる高校生と、実際の高校生とは全く違うよね」ってトコを使っているのだ。
それ自体が絶対にダメってわけではない。そういうコメディー映画があっても別にいいだろう。
ただし問題は、「そうなると、ヒロインが暗殺者という設定は、ほとんど無意味でしょ」ってことだ。

メーガンは事前に「普通の高校生」になるための予習を済ませているので、ニュートン高校に通い始めても、あっさりと順応できてしまう。初めて体験することばかりのはずだが、「その度に驚いたり失敗したり」という描写は無い。
また、周囲の人間が、メーガンのヘンテコな言動に戸惑ったり振り回されたりする様子も無い。
映画やドラマで知識を得ているので、風変わりではあるだろうが、高校生らしくないわけではない。
「普通の高校生らしくない」というだけである。ここは文字にすると些細な違いだが、実際は大きな違いだ。

本来なら、メーガンは「暗殺者らしさ」が強くなきゃダメなのだ。そんなヒロインが高校に通う中で、少しずつ高校生らしくなっていく変化を描くべきなのだ。
それなのに、この映画だと、「風変わりな高校生が、次第に他の生徒たちと仲良くなっていく」という部分の方が圧倒的に強い。
メーガンが暗殺者という設定を使うシーンが全く無いわけではないが、「設定として持ち込んだから、とりあえず使っておこう」という程度だ。
そこを最大限に活用するなら、メーガンが情報を事前に入手しておくとか、あっさりと高校生活に順応するとか、そういうのって邪魔なだけだからね。

その素養が本人に備わっているかどうかはともかく、製作サイドとしては「ヘイリー・スタインフェルドのアイドル映画」を意識していたようだ。
つまり、これは「ティーンズ・アイドル主演の青春コメディー」として作られているわけだ。
そんなのはベタ中のベタであり、今までに幾らでも作られて来た。ディズニー・チャンネルでも、たぶん何本も放送されてきただろう。
だから、そこに暗殺者という要素をプラスして、変化を付けようと目論んだのかもしれない。

骨格がベタでも、付け加えた要素が安易でも、そんなのは一向に構わない。
それを仕上げる過程で上手くやれば、面白い映画になる可能性は幾らでもあるだろう。
しかし本作品には、「暗殺者が普通の高校生活を送るようになる」という設定を活用しようという意識が乏しい。
そこの設定をバッサリと削除して、例えば、「外界から隔離されたような状態で暮らして来た田舎娘が、普通の若者に憧れて情報を集め、周囲に内緒で都会に出て高校生活を始める」という設定でも、大して変わらないのだ。

そういう設定にした場合、「メーガンが暗殺者の能力で生徒を捻じ伏せる」といった描写は作れない。だけど、例えば「田舎で格闘技を学んでいた」ってことにすると、実は大抵のシーンがそのまま使えるんだよな。この映画だと、暗殺者じゃなくて「格闘技の能力があるヒロイン」でも事足りる。
また、「組織に追われる」とか「殺し屋に狙われる」といった要素も、ものすごくヌルくて薄っぺらい扱いになっている。そこでサスペンスが高まるようなことも全く無い。
何しろヘザーは監視の任務よりキャッシュに夢中だから、そこも「高校生の恋愛劇」になるし。ハードマンにしても、強硬手段でメーガンを連れ戻そうとはせず、ものすごく甘い対応を取るし。
ヘザーが車で襲撃して来ると、ようやくサスペンスやアクションとしてのテイストが生じるけど、すぐにヌルい空気へ戻ってしまうし。

っていうか、そもそも学園物としてのドラマも、同じぐらいヌルくて薄っぺらいんだよね。
初期設定を考えれば、「冒険を恐れる臆病なリズが、メーガンに感化されて変化する」というドラマが描かれるべきなのに、ちっとも膨らまない。
リズがグーチとカップルになる展開にも、メーガンは全く関与していない。
「メーガンがキュッシュに惚れて、ロジャーがメーガンに惚れて」という三角関係の恋愛ドラマにしても、最終的にメーガンがロジャーを選ぶ予定調和がバレバレなのは別にいいけど、そこに向けた展開が空っぽだし。

(観賞日:2016年11月8日)

 

*ポンコツ映画愛護協会