『バーバレラ』:1968、フランス&イタリア

女性宇宙飛行士のバーバレラの元に、大統領からの通信が入った。大統領は重大な機密事項として、科学者のデュラン・デュランがタウ・セティー系を宇宙飛行中に行方不明となったことを明かす。デュラン・デュランは兵器であるポジトロン光線の発見者だ。内情の不明なタウ・セティー系にポジトロン光線の秘密を知られ、宇宙の平和が脅かされることを大統領は危惧していた。そこで彼はバーバレラに対し、デュラン・デュランを見つけ出す使命を与えた。デュラン・デュランの資料は、顔の判別が不可能な一枚の写真しか無かった。大統領はバーバレラに、脳波探知機と博物館から借りた武器を与えた。
バーバレラは宇宙船のコンピュータに行き先を指示し、眠りに就いた。しばらくしてコンピュータに起こされたバーバレラは、強い磁気嵐に見舞われた。宇宙船は故障して制御不能となり、氷に覆われたタウ・セティー系第16惑星に不時着した。そこに2人の少女が現れたので、バーバレラは通訳機を使って会話しようとする。しかし少女たちは氷の球をぶつけてバーバレラを気絶させ、両手を縛り上げた。少女たちは意識を取り戻したバーバレラをスキーに乗せ、不時着して壊れたデュランの宇宙船へと連行した。
そこには子供たちが暮らしており、バーバレラを柱に拘束した。子供たちが人形を使ってバーバレラを襲っていると、マーク・ハンドという男が現れた。マークはロボットに子供たちを捕まえさせ、バーバレラを救出した。バーバレラが宇宙船のことを尋ねると、マークは「俺がキャッチマンになる前から存在した」と言う。彼は子供たちを捕まえ、使える年になったら官憲に引き渡すことを生業としていた。彼は「氷山の向こうにあるソゴーへ行けば情報が得られるのではないか」と言い、宇宙船の修理も引き受けた。
バーバレラが宇宙船を発進させると、地下へ突入してしまった。彼女は天使のような姿をした有翼人のパイガーと遭遇し、そこが死の迷路だと教えてもらう。盲目のパイガーは、「この星に不時着したら、悪の都であるソゴーへ連行された。そこで両目を潰され、死の迷路に捨てられた」と語った。デュラン・デュランについてバーバレラが尋ねると、ピング教授なら知っているかもしれないとパイガーは言う。彼はバーバレラを、ピングの元へ案内した。
ビングは地球人の女性であるバーバレラを見ると、興奮した様子を見せた。彼はバーバレラに、「ソゴーにはあらゆる悪をたしなむ皇帝がいる。悪人でない者は、迷路に追放される」と語った。デュラン・デュランについてバーバレラが訊くと、ピングは「ソゴーにいる」と告げた。ピングは宇宙船の修理を引き受けるが、どれほど時間が掛かるか分からないと言う。バーバレラはパイガーに「私を運んで」と頼むが、「翼の筋肉が就職しているから無理だ」と断られた。
ピングはバーバレラに、「パイガーに肉体に問題は無い。意欲の問題だ」と教えた。バーバレラはパイガーに、家まで案内してほしいと持ち掛けた。近衛兵に襲われたバーバレラは、パイガーに銃を拾って攻撃するよう促した。パイガーが発砲すると近衛兵は爆発し、空っぽの中身が露呈した。気力を取り戻したパイガーは、空を飛べるようになった。バーバレラはパイガーに抱えられ、ソゴーへ向かう。途中で近衛兵の戦闘機が襲って来るが、バーバレラが銃で撃ち落とした。
バーバレラとパイガーはソゴーに潜入するが、悪党2人組に襲われる。バーバレラは連れ去られるが、眼帯の女に救われる。しかし女が「遊ばない?」と口説いて来たので、バーバレラは早々に立ち去った。彼女は見世物になっていたパイガーを連れ出すが、最終修理室に閉じ込められてしまう。そこには、3つのドアから1つを選び、間違えれば死が訪れる試練が待ち受けていた。覚悟を決めたバーバレラが1つのドアを開けようとした時、入り口の扉が開いた。そこには宰相がいて、バーバレラとパイガーに「こっちへ」と促した。
宰相はパイガーを捕まえ、バーバレラを女帝の所へ連行した。悪漢たちからバーバレラを助けた眼帯女は、女帝の変装だった。女帝はバーバレラの行動に憤慨し、パイガーを縛り上げていた。バーバレラは隙を見て女帝に銃を突き付け、パイガーを解放させる。しかし宰相は銃のエネルギーが無いことを見抜き、簡単に奪い取った。バーバレラは閉じ込められるが、突如として開いた床穴から脱出した。彼女が穴を滑り落ちた先には、革命軍のディルダノ司令がいた。革命軍は国のあちこちに秘密の脱出口を作り、本部に繋げているのだ。
ディルダノはバーバレラに、「皇帝ならデュラン・デュランを知っている。彼はドリーム室では無防備だ。合鍵を渡すから、君の武器を貸してくれないか」と持ち掛けた。バーバレラはピングと通信し、宇宙船が直ったかどうか尋ねる。ピングは「修理は終わったが、敵に見つかった。迷路の外に隠れるようプログラムしておいた」と説明した。取引を承諾したバーバレラはディルダノから合鍵を受け取り、ドリーム室に忍び込もうとする。しかし宰相に捕まり、拷問を受ける…。

監督はロジェ・ヴァディム、原作はジャン=クロード・フォレスト、脚本はテリー・サザーン&ロジェ・ヴァディム、共同脚本はクロード・ブリュレ&ヴィットリオ・ボニチェリ&クレマン・ビドル・ウッド&ブライアン・デガス&チューダー・ゲイツ&ジャン=クロード・フォレスト、製作はディノ・デ・ラウレンティス、撮影はクロード・ルノワール、編集はヴィクトリア・メルカントン、美術はマリオ・ガルブリア、衣装はジャック・フォンテレイ、作詞&作曲はボブ・クリュー&チャールズ・フォックス。
主演はジェーン・フォンダ、共演はジョン・フィリップ・ロー、アニタ・パレンバーグ、ウーゴ・トニャッツィー、デヴィッド・ヘミングス、ミロ・オーシャ、マルセル・マルソー、クロード・ドーファン、ヴェロニク・ヴェンデル、ジャンカルロ・コベリ、セルジュ・マルカン、ニーノ・ムスコ、フランコ・グラ、カトリーヌ・シュヴァリエ、マリー・テレーゼ・シュヴァリエ、ウンベルト・ディ・グラツィア他。


フランスの同名SFコミックを基にした作品。
監督は『悪徳の栄え』『獲物の分け前』のロジェ・ヴァディム。製作は『気狂いピエロ』『天地創造』のディノ・デ・ラウレンティス。
脚本にはロジェ・ヴァディム監督や原作者のジャン=クロード・フォレスト、『博士の異常な愛情』『シンシナティ・キッド』のテリー・サザーン、『楽園を求めて』『天地創造』のヴィットリオ・ボニチェリ、『黄金の眼』のブライアン・デガス&チューダー・ゲイツ、『血とバラ』『パリジェンヌ』のクロード・ブリュレらが携わっている。
バーバレラをジェーン・フォンダ、パイガーをジョン・フィリップ・ロー、女帝をアニタ・パレンバーグ、マークをウーゴ・トニャッツィー、ディルダノをデヴィッド・ヘミングス、宰相をミロ・オーシャ、ピングをパントマイム・アーティストのマルセル・マルソー、大統領をクロード・ドーファンが演じている。
バーバレラの衣装の内、最後のシークエンスで用いられる一着だけは、パコ・ラバンヌのデザインから着想を得ている。
伴奏音楽を最初に手掛けたのはミシェル・マーニュだったが、制作会社のパラマウントが納得せず、フォー・シーズンズのプロデューサーだったボブ・クリューと、後に『あの空に太陽が』『ファール・プレイ』でアカデミー賞歌曲賞候補となるチャールズ・フォックスが起用された。演奏はボブ・クリュー・ジェネレーションによるもので、劇中で使われる歌曲はザ・グリッターハウスが担当している。

ロジェ・ヴァディムはプレイボーイとして有名で、多くの女優と浮名を流した人だ。
彼は1952年に当時18歳だったブリジット・バルドーと結婚し、1956年には彼女をヒロインに起用した『素直な悪女』で監督デビューした。ブリジット・バルドーはセックス・シンボルとして高い人気を得るようになったが、ヴァディムは1957年に離婚した。
その後、1958年にはアネット・ストロイベリと結婚し、『危険な関係』『血とバラ』に起用した。
そんな風に、自分の奥さんをセックス・シンボルに仕立て上げたい人、それがロジェ・ヴァディムだ。

そんなヴァディムはアネットと2年で離婚した後、カトリーヌ・ドヌーヴとの交際を経て、1965年にジェーン・フォンダと結婚した。
それまでは決してセックス・シンボル的な方向性じゃなかったジェーン・フォンダは、この映画でセクシー路線に転向した。
ヴァディムが今回も奥さんをセックス・シンボルに仕立て上げようと目論み、そういう狙いで『バーバレラ』を撮ったので、セクシー路線に転向する形となったのだ。

ザックリ言うならば、これは900万ドルの製作費を投じたバカ&エロ映画である。
一応のストーリーはあるが、そんなのは映画としての体裁を整えるための言い訳に過ぎない。
だからストーリーの面白味なんて全く無いけど、そもそもストーリーに面白味を持たせようなんて意識が最初から無かったんじゃないかと思う。
きっとロジェ・ヴァディムは、「とにかくジェーン・フォンダをエロティックに見せたい、エロい描写をテンコ盛りにしたい」ということに集中していたんじゃないかと思う。

ただし、単にエロい描写を多く持ち込むだけなら、低予算のソフト・ポルノ映画だって出来る。
なぜ900万ドルもの予算が必要だったかというと、それは美術や装置を含む映像表現の部分に金を掛けたからだ。
でも、ロジェ・ヴァディムとか、ジェーン・フォンダとか、ディノ・デ・ラウレンティスとか、そういう名前を除外して、単純に映画のシナリオだけで考えたら、一片の隙も無いZ級のポンコツ映画なんだけどね。
つまり、これは映像をオシャレに飾り付けたエロ映画ってことだ。

映像に凝りまくるのなら、その気になれば本格的なハードSFにしたりスペース・オペラにしたりってことも可能だったはずだ。
しかし、そういう方向へ舵を切らず、あくまでも「おバカでエロい映画」ということに徹底する辺りのセンス、嫌いじゃないぞ。
もちろん、そういうチャレンジが出来るのは「ロジェ・ヴァディムだから」という部分が大きいし、それとプロデューサーがディノ・デ・ラウレンティスだったってのも大きい。
色々と悪評も多いディノ・デ・ラウレンティスだけど、良くも悪くも節操が無いので、映画監督のワガママも大目に見るんだよな。

冒頭、無重力の状態でフワフワと宙に浮かぶバーバレラが、ゆっくり回転しながら宇宙服を脱いでいく。下着は付けていないので、宇宙服を脱いだら、すぐに全裸だ。
ストーリーとしてはヌードになる必要性なんて全く無いんだけど、オシャレなエロ映画の掴みとしては最高だ。そのオープニングで、これがどういう類の映画なのか良く分かるしね。
無駄に爽やかで気持ちのいい主題歌『Barbarella』も素晴らしい。その時のジェーン・フォンダの表情や仕草が、いちいち過剰なぐらいに色気を振り撒くのもイイよね。
その無重力ストリップが行われるオープニングが、この映画の最大の見せ場だ。ハッキリ言っちゃうけど、そこが本作品のピークだ。

大統領からの指令を聞いている際、ずっとバーバレラは裸のままだ。
無意味だしバカバカしいけど、そのバカバカしさは好きだ。
どうして大統領が大事な使命をバーバレラに指示するのか、バーバレラはどんだけ凄い奴なのかなんて、余計なことは考えちゃいけない。完全に頭を空っぽにして、「バカでエロいぬるま湯」に浸かっていればいいのだ。
っていうか、そうじゃないとマトモに見ていられないぞ。

磁気嵐で制御不能になるなど、一応は次から次へとバーバレラにピンチが訪れるのだが、見事なぐらいに緊迫感は無い。
そのユルい雰囲気の徹底ぶりは、ある意味では潔い。
ストーリーとしては「ある場所にバーバレラが到着する」→「そこで出会った連中からエロいことをされる」というパターンか基本的には繰り返される。
ようするに、「ある場所に移動する」という手順自体が、ストーリーを面白く展開させるためにあるのではなく、エロいシーンを盛り込むための手段に過ぎないってことだ。

最初に到着した氷の星では、子供たちが不気味な人形を機械で操作し、人形の尖った歯でバーバレラに噛み付かせる。痛がるバーバレラの反応は、妙にエロい。
マークに救助されたバーバレラは、「政府に頼んでお礼をさせるわ。何がいい?」と告げる。それに対するマークの「それなら君とセックスさせてくれ」という台詞が、既にバカでしょ。
そんな要求にバーバレラは特に動揺もせず、「地球ではリズムが合わないとセックスしないのよ」と冷静に説明する。まるでセックスを嫌がらないバーバレラは、「地球ではリズムが合えばビルを飲んで手を合わせるの。1分ぐらいで満足するわ」と言う。
マークが「面白くない。俺はベッドでやりたい」と告げると、バーバレラは「あれは古いわ。貧しい人しかやらない」と反対する。しかし「嫌なのか」と問われると、「お望みならどうぞ」と簡単にセックスをする。
まるでアダルトビデオのタイトルのように、セックスのハードルが低い世界なのである。

マークはセックスを終えた後、「服も汚れてるから着替えな」と告げる。
そこでバーバレラは長い尻尾の付いた毛皮のコートに着替えるが、それも「ジェーン・フォンダに色んな恰好をさせたい」というだけだ。
しかも毛皮だけど下半身はミニスカートの丈という露出度の高さを留めている辺り、監督は徹底している。
で、宇宙船が地下に突っ込んで迷路に出る時、もうバーバレラは別の衣装に着替えている。いつの間に着替えたんだかサッパリ分からんけど、そんなのはどうでもいいのだ。

宇宙船を出たバーバレラは足を枝に引っ掛けて転び、瓦礫が崩れて気絶する。またバーバレラが気絶して、また宇宙船も壊れてしまう。
で、そこにパイガーが来て体をベタベタと触るのも、エロさを第一に考えた演出だ。
そんなパイガーは「ここは死の迷路」と言うのだが、そんなに道が入り組んでいるわけではないし、宇宙船があれば簡単に脱出できてしまう。
っていうか宇宙船が無くても、その気になれば脱出できそうだし。ただ単に、そこにいる連中が気力を失っているだけにしか見えない。
ちなみに、そこには蘭を食料にしている妖しい雰囲気の連中がいるけど、特に何をするわけでもない。

死の迷路ではピングが宇宙船を修理してくれて、バーバレラはパイガーとセックスする。
セックスシーンが直接的に描写されるわけじゃないけど、終わった後らしき描写があるのだ。
「バーバレラが失神し、すぐに意識を取り戻す」「宇宙船が故障するが、親切な男が修理してくれる」「バーバレラが男とセックスし、そいつの助力で次の目的地へ向かう」という風に、マークの時と同じパターンとなっている。
で、ソゴーへ向かう時には、またバーバレラは衣装を着替えている。

女帝はパイガーをセックスに誘い、宰相はバーバレラを閉じ込めて無数のインコに襲わせる。ディルダノに救われたバーバレラが「政府にお礼をさせるわ」と言うと、ディルダノは「それなら望みがある」と口にする。
バーバレラが「分かるわ」とセックスを始めようとすると、「それじゃない。地球式で。ピルも持ってる」とディルダノは手合わせ方式を求める。
「ソゴー式でやらない?習慣でしょ」と、むしろバーバレラが旧式のセックスをやりたがる。でも「野蛮だ」とディルダノが嫌がるので、手合わせ方式を始める。
すると体がガタガタと揺れ、頭髪が逆立ってカールし、手から煙が出て、勇ましいBGMが流れるという良く分からない展開になる。

手合わせセックスを終えたバーバレラは、また新しい衣装に着替える(これがパコ・ラバンヌから着想を得た服)。 宰相に捕まった彼女は、セックス・マシーンに拘束される。宰相が演奏するとバーバレラの体の上にある長い鍵盤が動き、快楽が高まって悶え死ぬという珍妙な機械である。
しかしバーバレラのエロいパワーが強すぎて、マシーンが壊れてしまう。
凄いよ、バーバレラ。
何しろ、彼女は特に戦闘能力が高いわけじゃないのに、お色気だけで任務を果たそうとするんだから、そりゃあエロのパワーは凄いはずだわ。

宰相の正体がデュラン・デュランだと露呈した後は、彼がバーバレラと女帝を閉じ込めて帝王になったり、革命軍が蜂起してヌルい戦闘シーンがあったり、キレた女帝が生物兵器のマトモスを放って自分の星を滅ぼすというメチャクチャな展開があったりする。
でも、その辺りはどうでもいい。
ぶっちゃけ、ちゃんと話を収束しようとすると、つまらなくなってしまうという困った状態に陥っている。
つまらなくなる理由は簡単で、バーバレラが無駄に色気を振り撒くバカなエロ描写が無くなるからだ。
ようするに、この映画は「エロって素晴らしい」という大切なことを我々に教えてくれる映画なのだ。

(観賞日:2015年5月26日)

 

*ポンコツ映画愛護協会