『バンコック・デンジャラス』:2008年、アメリカ

チェコのプラハ。暗殺者のジョーは、取り調べのために警察署へ護送されてきた犯罪者を狙撃して始末した。部屋に戻ったジョーがプラハ を去る準備をしていると、今回の仕事で助手に雇った男が報酬を受け取って戻って来た。ジョーは男をスタンガンで気絶させ、薬を注射 して始末した。ジョーは「質問するな」「仕事以外の人間と関わるな」「痕跡を残すな」「引き際を知れ」という4つのルールを順守し、 世界を股に掛けて仕事をこなしてきた。暗殺の成功率は100%だ。
ジョーは最後の仕事と決めて、タイのバンコクへ赴いた。そこでは4人を暗殺する仕事が待ち受けている。ジョーは郊外の一軒家に荷物を 置き、夜の街へと繰り出した。彼は観光客を相手に英語で偽物のロレックスを売り付けようとしているコンという若者に目を付け、仕事の 手伝いを持ち掛ける。ジョーは彼に連絡用の携帯電話と腕時計を渡し、「呼ばれたら必ず来い。時間を厳守しろ」と要求した。
ジョーはコンに、「カリビアン・クラブという店へ行き、オームというダンサーに会え」と仕事を指示した。そしてバツ印の書いてある 紙幣を差し出し、「これを渡して鞄を受け取れ。中身は見るな」と告げた。店に到着したコンは、オームに紙幣を見せてスーツケースを 受け取った。バイクを走らせるコンを、ジョーが尾行する。するとコンは信号無視でパトカーに追跡された。パトカーを撒いたコンが家へ 行くと、ジョーは警察に追われたことを叱責して「今日の報酬は無しだ」と告げた。
ジョーは家に入り、スーツケースを開けた。中にあった封筒を開くと、最初の標的の写真と資料が入っていた。ジョーはバイクで標的を 尾行し、暗殺の準備を行う。翌日、ジョーはバイクを走らせ、標的が乗っている車が信号で停まるタイミングを計算する。そして車が停止 している間にサブマシンガンを乱射して標的を始末し、その場から逃走した。隠れ家に戻る途中、ジョーは道に飛び出した少女をかわして 左肩を負傷した。隠れ家に戻ったジョーは依頼者である裏社会の大物スラットに連絡を入れ、報酬を送金するよう指示した。
ジョーが薬局へ赴いて薬を探していると、聾唖の店員フォンが近付いてきた。ジョーが傷を見せると、彼女は消毒薬を選んで差し出した。 質問すると、彼女は身振り手振りで用法を説明した。オームに惚れたコンは、彼女のために指輪を買ってプレゼントした。スーツケースを 受け取って店を去ったコンは、チンピラたちに襲撃された。彼は殴られながら何とか逃げ出し、ジョーの隠れ家へ辿り着いた。
チンピラたちが鞄を開けたため、コンは次の標的を知っていた。「そいつは悪党だ。殺すの?」と彼は問い掛ける。コンが「俺を鍛えて くれ。何でも手伝う」と言うと、ジョーは激怒して掴み掛かった。しかしコンが「殺しを教えてくれ」と頼むと、ジョーは入門編の格闘術 を教えた。そして翌日以降、ジョーはコンを暗殺者の弟子として鍛え始める。ジョーはシェラトンホテルに侵入し、プールで泳いでいた 2番目の標的を捕まえて溺死させた。
再び薬局を訪れたジョーは、フォンをディナーに誘った。ジョーはレストランヘ出掛けてフォンと食事を取り、彼女が舞台で踊るのを見物 する。ジョーはコンが一定のレベルに達したと認め、バイクを与える。コンはスーツケースの受け取りを通して何度もオームと会う中で、 彼女との距離を近付けて行く。スラットは暗殺者の素性を知っておく必要があると考え、側近のアランにコンの尾行を命じた。
ジョーはフォンとデートに出掛け、彼女に促されて象を触った。そこへコンから電話が掛かり、尾行されていることを聞かされる。ジョー は「船着き場に向かえ。鞄を開けて、携帯を入れて捨てろ」と指示した。アランはコンが投げ捨てたスーツケースを回収し、妻と食事を しているスラットの元へ戻る。すると、スーツケースの中に入っていた携帯が鳴り響いた。掛けたのはジョーだ。彼はスラットに対し、 「ルールを守れ。今度やったらお前の女房を殺す」と脅しを掛けた。
ジョーはフォンから自宅に招待され、彼女の母親と会った。仕事を問われたジョーが「バンキング」と答えると、母親は銀行員だと理解 した。3番目の標的の資料が届き、ジョーはコンを伴って水上マーケットへ出掛けた。ジョーは船に乗って標的を狙うが、写真を撮影して いる男に気付いてタイミングを逸した。標的はジョーを察知し、慌てて逃げ出した。ジョーは後を追い、何とか仕事を遂行した。
ジョーはフォンの案内で洞窟へ行き、涅槃像を見学する。夜、ジョーは彼女を家まで送る途中、公園でメモを渡される。そこには「貴方と 一緒にいると幸せよ」と英語で記されていた。彼女が離れた直後、財布を盗もうとした強盗たちがジョーに駆け寄り、銃で脅した。ジョー は一味を射殺し、その血が飛び散って前にいるフォンの服に付着した。フォンは血に気付いて振り向き、拳銃を持って死体を眺めるジョー を目にして驚愕する。彼女は怯えた表情で、公園から逃げ出した。
自分の決めた4つのルールを再確認したジョーは、4人目の標的の資料を受け取った。それはコンがテレビで見た時に「人々を助けている 善人だ」と評していた政治家だった。ジョーは戸惑いを感じつつも、仕事の準備を進める。一方、自分たちの存在をジョーに知られたこと に、スラットは危機感を覚えていた。スラットの命令を受けたアランは、オームを拉致して暴行し、コンに電話を掛けろと脅した。
電話で誘い出されたコンは、スラットたちに暴行を受けた。オームを人質に取られたコンは、ジョーの居場所を吐くよう脅される。一方、 ジョーはコンが捕まったことなど知らず、最後の標的を始末する準備を進めていた。彼はパレードに参加する標的を狙撃しようと考え、 建物からライフルを構える。だが、撃てずにためらっている間に、警備の狙撃部隊に気付かれた。発砲を受けたジョーは、その場から逃走 した。ジョーが隠れ家へ戻ると、スラットの手下たちが待ち受けていた…。

監督はザ・パン・ブラザーズ(オキサイド・パン&ダニー・パン)、脚本はジェイソン・リッチマン、製作はジェイソン・シューマン& ウィリアム・シェラック&ニコラス・ケイジ&ノーム・ゴライトリー、製作協力はリアノン・メイアー&マット・サマーズ、製作総指揮は アンドリュー・フェッファー&デレク・ドーチー&デニス・オサリヴァン&ベン・ウェイスブレン、撮影はデーチャー・スリマントラ、 編集はマイク・ジャクソン&カーレン・パン、美術はジェームズ・ニューポート、衣装はスラサック・ワラーイットチャローン& クリスティン・バーク、音楽はブライアン・タイラー。
主演はニコラス・ケイジ、共演はシャクリット・ヤムナーム、チャーリー・ヤン、ペンワード・ハーマニー、 ニラティサイ・カルヤルーク、ドム・ヘトラクル、タック・ナパスコーン、スティーヴ・バルドッチ、クリス・ヒービンク、ジェームズ・ ウィズ、ピーター・シャドリン、アルタジッド・ペングヴィチャー、ドゥアングジャイ・スリサワング、ヴィーラサック・ブーンチャルド 、サコル・パルヴァニチクル、サンラーダ・カオ=イム、アラチポルン・サティード、ワイナイ・タワッターナ他。


オキサイド&ダニーのパン兄弟がハリウッドに招聘され、タイで手掛けた映画『レイン』をセルフリメイクした作品。
ジョーをニコラス・ケイジ、コンをシャクリット・ヤムナーム、フォンをチャーリー・ヤン、オームをペンワード・ハーマニーが演じて いる。
オリジナル版では聾唖のコン青年が暗殺者のジョーに見込まれ、殺し屋として育成されるという展開だったが、このリメイク版ではフォンが 聾唖という設定に変更されている。

ジョーはバンコクで一軒家を隠れ家にするけど、どうやって家を見つけ、どうやって借りたのか。
バンコクへ来てすぐに車で一軒家へ行っているけど、ってことはバンコクに入る前から既に用意されていたってことだよね。
スラットはジョーの居場所を知らないんだから、依頼主サイドで用意していたわけじゃないってことだ。
ってことはジョーが見つけたんだろうけど、バンコクへ到着する前に、隠れ家を用意するのは無理でしょ。
まだ現地には協力者がいないんだからさ。

その日の内にジョーは車とバイクも調達しているけど、どうやって調達したの。
そりゃあ「調達するシーンは省略した」ってことなのかもしれんけど、そこを描かないことが雑に思えてしまうんだよね。
これがおバカなコメディーだったりしたら、そこの省略を受け入れられたかもしれんが、「完璧に仕事をこなす成功率100%の男」という 設定のキャラクターをシリアスなタッチで描いているのでね。

ジョーは「最後の仕事でバンコクへ」とナレーションで語っているけど、それを最後の仕事と決めるきっかけとなるような出来事は、何も 描かれていない。
「精神的に疲れて、そろそろ限界を感じたんだろうなあ」ということはボンヤリと分かる。
だけど、どういう心境の変化があったのか、なぜ長年に渡って続けてきた仕事から引退しようと思ったのか、その気持ちがハッキリと表現 されることは無い。

コンのキャラ造形は失敗だろう。
彼はインチキ商売をしているチンピラ風の男で、最初から屁理屈を言ったりゴネたりしている。とてもじゃないが、忠実に仕事を遂行 しそうな雰囲気は無い。
完璧な仕事をこなしてきたはずのジョーが、なぜそんなテキトーそうな軽薄な奴に大事な仕事を任せるのか。指示を出しても、それを 守らないかもしれないぞ。そういう匂いがプンプンと漂っているのだ。
そんで実際、依頼してすぐに信号無視でパトカーに追われるというヘマをやらかしている。
っていうか、コンがスーツケースを運ぶのを尾行するぐらいなら、ジョーはテメエでスーツケースの受け取りに行けばいいでしょうに。
変装すれば顔もバレないんだし。

プラハでの暗殺は遠距離からの狙撃だったけど、バンコクでの最初の仕事は「停まっている車にバイクで近づいてサブマシンガンを乱射」 という手口なのよね。
なんで遠距離からの狙撃じゃなくて、そういうリスクの大きい方法を取るのか理解できない。
ヘルメットで顔を隠しているとは言え、他の車もあるから犯行現場の目撃者は大勢いるわけだし、もちろん居場所は分かっているわけ だから、逃げる時に追跡される可能性も狙撃より遥かに大きい。
「今回の標的は遠距離からの狙撃が不可能だ」という理由でもあるなら、そういう手口も仕方がないかもしれないけど、そういう言い訳は 用意されていないから、ジョーがただのアホにしか見えないんだよね。
2番目の標的の際には、スーツケースに入っていた写真の裏に「シェラトンホテル 事故死」とあるので殺し方も指定されているようだが 、1人目の時には何も書かれていなかったし。

フォンと出会ったジョーは、すぐに笑顔を浮かべているが、なんか軽いんだよなあ。
凄腕の暗殺者が、なぜフォンに対してはすぐに心を許して微笑を浮かべるのか、まるで理解できない。
「特別なモノを感じても最初はクールに振る舞っていたけど、何度か会う内に表情を緩めるようになる」という手順を経てくれれば付いて いけたのかもしれないが、最初からニヤニヤしているんだよな。
だから、「以前からジョーは、女の前では簡単にニヤつく奴」と見えてしまう。
「フォンに出会ったことで変わった」とは受け取りにくいのよ。

まだ二度しか会ったことの無い客からディナーに誘われて、ホイホイと付いて行くフォンの軽さは不自然だぞ。
相手の名前も素性も全く知らないのに。
しかも相手は外国人だし、こっちは聾唖者だ。もっと警戒心を強く持っている方が自然じゃないか。
それとも、フォンは最初にジョーと会った時、好意を抱いたという設定だったりするのか。
そういう設定だったとしたら、その設定自体にバカバカしさを感じるわ。

初めて家に招待して母親に会わせるまで、フォンはジョーの国籍も仕事も全く知らないのだ。それどころか、まだ名前も聞いてないよな。
一方のジョーも相手の名前を知らず、そこで初めて、フォンの方から教えている。
すげえ関係だな。
あと、バンコクが舞台なのに、そこで暮らしている設定のヒロインが香港の女優って、そりゃあ無いんじゃないの。
そこはタイの女優を起用しなさいよ。香港の女優を起用するのであれば、舞台も香港にしなさいよ。

それと、フォンが聾唖だという設定が、まるで意味の無いモノになっているよな。
フォンの背後でジョーが強盗たちを射殺するシーンがあるのだが、その時点では「フォンは聾唖だから全く気付かない」という形になって いるものの、すぐにフォンは振り向いて気付いてしまうのだ。
それだと、あまり上手く活用されているとは言い難い。
っていうか、どうして聾唖のキャラクターをコンからフォンに変更してしまったのか、良く分からないなあ。

なぜコンがジョーに「鍛えてくれ、弟子にしてくれ」と頼むのか分からない。
チンピラに襲われたから、護身術を学びたいということなら、まだ分かるよ。でも彼の場合、ジョーが暗殺者と分かっていて、「何でも 手伝うから教えてくれ」と頼んでいるのよね。
それは即ち、「殺しの仕事を教えてくれ」ってことだ。
なぜ殺し屋になりたがるのか、その理由が全く分からない。
後から理由が説明されるシーンがあるのかと思ったら、そういうのも無いし。

一方のジョーも、なぜ簡単にコンを弟子にするのか、全く理解できない。
「最初は無視したり、激怒して突き放したりするけど、何度も懇願される内、少しずつ心境が変化し、やがて教え始める」というのなら、 まだ分からないではない。
あるいは、コンが殺しの技術を学びたい理由を知って、教えてやることにするという展開があれば、それも分かりやすい。
でも、そのように「展開に説得力を生じさせるための仕掛け」は、何も用意されていないのだ。

(観賞日:2012年6月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会