『バリスティック』:2002、アメリカ&ドイツ

DIA(国防情報局)長官ロバート・ガントの息子マイケルが、ヨーロッパから戻って来た。ガントの妻レインは空港で息子を出迎え、車 に乗せた。帰宅すると、邸宅の前にガントの部下カーティスが現れた。マイケルをガントの元へ連れて行くという。ヨーロッパへ連れて いったかと思うと5日で帰し、帰国すると即座に連れて行くと言われ、レインは腹を立てた。
カーティスたちはマイケルを車に乗せてガントの元へ向かうが、その途中、いきなり目の前で爆発が起きた。車を停めると、そこへ一人の女 が現れてカーティス達を襲撃した。女はマイケルを拉致し、姿を消した。ガントはカーティスから報告を受け、失態を犯した彼を始末した。 ガントは腹心のロスに、タイムリミットである28時間以内にマイケルを連れ戻すよう命じた。
元FBI捜査官ジェレミー・エクスは、7年前に妻ヴィンを眼前の爆発事故で失った。それ以来、彼は酒浸りの生活を送っていた。そんな 彼の元を、旧友であるFBI副長官マーティンが訪れた。マーティンは録音したヴィンの音声テープを聞かせ、「携帯を盗聴した。彼女は 生きている」と告げる。そして、ヴィンの居所を教える代わりに、捜査に協力するよう持ち掛けた。
エクスは多国籍特別班に組み込まれ、ガントがソフトキルと呼ばれる小型の新兵器を入手したことをマーティンから知らされる。以前から ガントは、究極の殺人兵器を求めていた。ソフトキルは人間の体内に埋め込めば、ボタン一つで心臓発作や脳梗塞を起こせる兵器だ。 ベルリンの生物兵器工場からガントが盗み出し、空港のチェックを潜り抜けて国内に持ち込んだのだ。
FBI捜査官ハリーからマイケル誘拐事件の現場を録画した監視カメラの映像を見せられた。女の姿を確認したエクスは、DIAが育成 した中国人の工作員ではないかと推測した。マーティンはエクスに、その女を見つけ出すよう依頼した。エクスはハリーと共に、ロスが 現れたことが確認されているバンクーバーへと赴いた。一方、ロスやガントの手下ゼインたちは狙撃チームを用意し、街を歩く女を監視した。 ただし殺すつもりは無く、生け捕りにする作戦だ。
ガントの部下の一人は女に接近し、銃を突き付けて「止まれ」と命じた。しかし尾行に気付いていた女は、男を倒して銃を奪う。市民が 逃げ惑う中、女は空への発砲で自分の存在をロスたちに知らしめた。女が狙撃チームに向けて発砲する中、ロスの手下の通報を受けた警察が 現場に駆け付けた。警官隊とDIAが包囲する中、女は激しい発砲を繰り広げて姿を消した。
エクスとマーティンが到着した時、現場は落ち着きを見せていた。だが、エクスは女が仕掛けてくると察知した。刹那、女は物陰から 現れてマーティンを撃ち、その場から逃走した。倒れたマーティンは、エクスに「彼女がヴィンのことを知っている」と告げた。女は車を 奪い、トラックを爆破して逃走を図る。しかしエクスが銃撃で車を横転させたため、女は車を捨てた。
ロスは部下に連絡し、高い場所から女を捜すよう命じた。エクスは女を発見し、格闘を繰り広げる。ゼインと狙撃チームは、ビル屋上で 格闘する2人の姿を離れた場所から確認した。ロスはゼインに、「殺し合いは防いでくれ」と連絡した。狙撃チームはエクスと女を 引き離すため、ビル屋上に向けて威嚇射撃を行った。エクスと女は別々に逃走した。
エクスはハリーから、マーティンは心臓から1センチ弾丸が外れていたため命を取り留めたことを聞かされた。エクスは、それが女の 狙い通りだと確信した。女はアジトに戻り、監禁しているマイケルの体内からソフトキルを摘出した。ガントは殺人兵器を持ち出すために、 息子の体を利用していたのだ。シーバーはソフトキルを銃に装填した。
エクスはパソコンでDIAのデータを調べ、女が元工作員シーバーだと知った。一方、シーバーもエクスのデータを調べ、ヴィンのことを 知った。エクスはマーティンを撃った犯人として、警察に逮捕された。シーバーはガントに電話を掛け、「目的は貴方の命よ」と告げた。 彼女はガントに赤ん坊を殺されていた。ガントはロスから、警察がエクスを逮捕したとの報告を受け、「放っておけ」と告げた。ロスは バンクーバー警察の警部に、エクスを護送するよう命じた。
エクスを乗せた護送車を、シーバーは陸橋の上から銃撃した。エクスは転倒した車から抜け出し、近くにあったバイクで逃走する。ガント の手下が追跡して来るが、シーバーが助けに入った。シーバーはエクスにメモを渡し、その場を去った。エクスが水族館へ赴くと、そこに レインの姿があった。エクスは彼女と抱き合った。レインは、エクスの妻ヴィンだった。
ヴィンはエクスに、「ガントが自分達をハメた」と語る。エクスのFBI時代の同僚クラークは、ヴィンに横恋慕していた。ある時、 クラークはエクスが乗り込もうとしていた車を爆破した。爆風でエクスが倒れこんだ直後、クラークは近くにあった自らの車を爆発させた。 そして、車に自分とヴィンが乗り込んでいたように偽装して、その場から逃走した。その後、クラークはガントとなり、ヴィンは彼の妻 レインとなった。ヴィンはエクスに、「マイケルは貴方の息子よ」と告げた。
エクスとヴィンの前に、シーバーが現れた。シーバーは2人を車に乗せ、隠れ家に案内した。エクスはマイケルと顔を合わせるが、自分が 父親であることは明かさなかった。エクスとシーバーは、ヴィンとマイケルを上の階に避難させ、武器を手に取った。2人が列車の格納場 に赴くと、ガントの一味が待ち受けていた。エクスとシーバーは、一味との戦いに挑む…。

監督はカオス、脚本はアラン・マッケルロイ、製作はエリー・サマハ&クリス・リー&カオス、共同製作はジェームズ・ホルト&ピーター ・M・レンコフ、製作協力はエルンスト・オーギュスト・シュナイダー&ウォルフガング・シャムブルグ、製作総指揮はアンドリュー・ スティーヴンス&タラク・ベン・アマール&トレイシー・スタンリー&オリヴァー・ヘングスト、撮影はジュリオ・マカット、編集は ジェイ・キャシディー&キャロライン・ロス、美術はダグ・ヒギンズ、衣装はマギャリー・ギダッチ、音楽はドン・デイヴィス、 音楽監修はマイケル・ロイド。
出演はアントニオ・バンデラス、ルーシー・リュー、グレッグ・ヘンリー、レイ・パーク、タリサ・ソト、ミゲル・サンドヴァル、テリー ・チェン、ロジャー・R・クロス、サンドリン・ホルト、スティーヴ・ベーシック、 エイダン・ドラモンド、エリック・ブレッカー、トニー・アルカンター、デヴィッド・パーカー、ジョセフィン・ジェイコブ、デヴィッド ・パルフィー、デヴィッド・アラン・ピアソン他。


初監督作品『Fah』が母国タイで歴代興行収入1位を記録したカオスが、ハリウッドに招かれて手掛けたアクション映画。
カオスはタイのバンコク生まれだが海外生活が長く、米国のエマーソン大学映画科を卒業している。
もちろん「カオス」というのはニックネームで、ウィッチ・カオサヤナンダが本名。
脚本は『ラピッド・ファイアー』『スポーン』のアラン・マッケルロイ。
エクスをアントニオ・バンデラス、シーバーをルーシー・リュー、ガントをグレッグ・ヘンリー、ロスをレイ・パーク、ヴィンをタリサ・ ソト、マーティンをミゲル・サンドヴァル、ハリーをテリー・チェン、ゼインをロジャー・R・クロスが演じている。

シーバーはマイケルを拉致するため、彼が乗せられている車の眼前で爆発を起こす。
もっと静かに済ませる手口もありそうなものだが、この映画、やたらと爆破したがる。
回想シーンでも、ガントはエクスの車と自分の車を爆破する。
他にも、とにかく無理をしてでも爆発シーンを入れてくる。
カオス監督は、レニー・ハーリンでもリスペクトしているんだろうか。

エクスは「俺は妻が死んだのを見た」と言っているが、実際には爆発を目撃しただけで、妻の遺体があったわけでもない。
何しろエクスは棺さえ確認していない。
マーティンはエクスにヴィンが生きていることを告げるが、なぜ7年も経ってから、そのことを知ったのかは不明。
彼はエクスに「君にしか出来ない」と仕事を頼むが、エクスにしか出来ない仕事だとは思えない。

ガントは完璧な暗殺を目指しており、そのためにソフトキルを盗み出したという設定だ。
しかし、ソフトキルが完璧な殺人兵器だとは思えないぞ。
「暗殺者は人間なので心の脆さがある。しかしソフトキルは体内に埋め込めばボタン一つで自由に殺せる」ということらしいが、ソフト キルを埋め込むのは人間の仕事であり、その実行者には暗殺者と同様に脆さがあるんじゃないのか。

エクスの手下たちは、図書館の前にいるシーバーの姿を確認する。
で、遠くの建物の屋上から狙撃手が狙っているのに、なぜか一人の手下がシーバーに近付き、銃を突き付けて捕まえようとする。
だったら狙撃手の意味は何なのか。
大体、「殺さずに捕獲せよ」という指令なのに、なぜ狙撃手を用意しているのか。
で、シーバーに声を掛けた男は、なぜか銃だけでなく、遠距離攻撃も可能なマシンガンまで携帯している。なので、シーバーはそれを 奪って、遠くの建物にいる狙撃手らを攻撃することも出来ている。

シーバーが敵と格闘すると、現場にいた人々はパニックになって逃げ出す。
シーバーは人込みに紛れて逃走すればいいのに、わざわざ空に向かって発砲して市民を座らせ、自分の位置をガント一味に分かりやすく している。
その後にも逃走のチャンスはあるが、なぜかエクスたちが到着するまで現場に潜んでおり、マーティンを撃ってから逃げ出す。
マーティンを撃つ必要性は不明。

図書館前から車で逃走したシーバーは、なぜかトラックを爆破する。
その必要性は全く無い。
シーバーを追い掛けたエクスは、なぜかショットガンを捨てて拳銃に持ち替える。
シーバーは振り切って逃げるチャンスがあるのに、エクスが「これからだぞ」と叫ぶと、なぜか踵を返して彼と格闘を始める。
それを別の建物から観察していたガントの手下たちは、シーバーを捕獲する目的を持っている。
捕獲するには接近する必要があるはずだが、また遠くから狙撃しようとする。

ロスはゼインに、殺し合いは避けるよう命じる。なぜ殺し合いを避けるのかは不明。
エクスはどう考えても邪魔な存在なんだし、始末した方がいいんじゃないのか。
とにかく、命令を受けた手下は、威嚇射撃でエクスとシーバーを引き離す。
どうやら、エクスを引き離して、シーバーだけを撃ちたいらしい。
そうやって狙い通り2人を引き離した後、どうなるのかというと、エクスもシーバーも逃走している。
敵は何がしたかったのか、サッパリ分からない。

エクスはマーティン殺人未遂の容疑で逮捕されるが、それがガントの仕掛けた罠なのか、シーバーの作戦なのか、単なる警察の捜査ミス なのか、その辺りは良く分からない。
シーバーは陸橋の上から、エクスの護送車を攻撃して横転&炎上させる。どうやらエクスを救出する目的だったらしい。
だが、車を横転炎上させたら、エクスが死ぬ可能性だって充分に考えられるぞ。

シーバーの目的はガントを殺すことにあるらしいが、そのためにマイケルを拉致するというのはワケが分からん。
あれだけ工作員として優秀なら、いきなり命を狙えばいいんじゃないのか。
マイケルを拉致したことで、何のメリットがあるのか。
息子と引き換えに誘い出す作戦を立てたところで、ガントがノコノコと現われることも無いだろうし。
シーバーがガントを狙うのは、彼に家族を殺されたからという設定だ。
だが、なぜガントがシーバーの家族を殺したのかは分からない。

FBI捜査官だったクラークは、その素性を隠して、7年後にはガントという名前でDIAのトップに立っている。エクスとヴィンは7年 もの間、互いの生存を知らないまま生活している。
ヴィンは「自分を手に入れるためにクラークはエクスを騙した」と言うが、女を手に入れるために、エクスの車と自分の車を爆破すると いう派手なことをやらかしたのか。
そこまでするぐらいなら、エクスを爆死させておけばいいだろ。
自分とヴィンが死んだように見せ掛けるより、そっちの方が得策だぞ。

最終決戦では、エクスもシーバーもガントも、みんな爆発させまくる。
しかも、敵を倒すための爆破だけでなく、単なる威嚇としての爆破もやらかす。
ガントはエクスの前に現れ、「クラークは死んだ。ロバート・ガントになるために」と言うが、なんだ、そりゃ。
で、エクスは地雷(いつの間に仕掛けたのか)を踏み付けたままでガントをおびき寄せ、「お前が逃げ延びたら、神はお前の味方だ」と クールに言う。
で、足を離して逃げ出す際、自分は落ちてきた鉄パイプの束の下敷きになって負傷する。
アホすぎるぞ。

終盤のバトルでは、ガントは、すぐ近くにシーバーがいるのに、なぜか手にしている銃を撃たず、手榴弾を投げて爆発を起こす。
ガントがヴィンとマイケルを発見すると、そこにエクスが現われる。
ガントがソフトキルを摘出しようとするので、エクスは見守る。シーバーからソフトキルを摘出したことを教えられていないからだ。
いや、教えろよ。
で、シーバーが現れ、ソフトキルを撃ち込んでガントを殺すが、普通に狙撃しても一緒だよ。ソフトキルを使う意味はゼロ。

完全にアクション(というか火薬を使うこと)に特化して作られており、ストーリーやキャラクターには全く重点が置かれていない。
「オツムをカラッポにして見て下さい」というタイプの映画なのに、無駄に話がややこしい。
その話のややこしさが、面白さには全く繋がっていない。
撮影しながら話を作っていったのかと思うぐらい、シナリオがデタラメ放題。

企画段階では、エクスをウェズリー・スナイプス、シーバーをジェット・リーという配役も候補に挙がったらしい(シーバーは男性キャラ として想定されていた)。
この2人が出演していたら、もっと格闘の色が濃い内容になったのかもしれない。
その配役なら、終盤に用意されているシーバーとロスの格闘アクションは、ジェット・リーとレイ・パークの対決ということになる。
それは、ちよっと見てみたいぞ。
まあ、その配役でも、映画が駄作であることに変わりは無かっただろうけど。

(観賞日:2009年4月30日)


第25回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪の主演女優】部門[ルーシー・リュー]

 

*ポンコツ映画愛護協会