『バガー・ヴァンスの伝説』:2000、アメリカ

ゴルフを楽しんでいた老人ハーディー・グリーヴスが、心臓発作で倒れた。彼は、この10年間で5回も発作を起こしている。芝生で仰向けになりながら、ハーディーは事の始まりを思い出す。1928年、ジョージア州サバナのグリーヴス金物店。まだ子供だったハーディーは、大人達がゴルファーのボビー・ジョーンズとウォルター・ヘーゲンについて話すのを聞いていた。2人とも優れたゴルファーだったが、大人達は「どちらもラナルフ・ジュナには叶わない」という意見で一致していた。
ラナルフ・ジュナは地元で3年連続の優勝を飾った偉大なるゴルファーで、サバナの人々にとっての英雄だった。ハーディーは、ジュナのようになるのが夢だった。ただし、ジュナが活躍したのは、まだハーディーが生まれる前のことだ。ジュナは国で最高のゴルファーになると期待され、サバナで一番の富豪ジョン・インヴァーゴードンの娘アデールと交際していた。
しかし第一次大戦が、ジュナの人生を変えた。出征した彼は、戦地の惨さに直面した。帰国したジュナはアデールを捨て、姿を消した。アデールは、クリュー島にゴルフ・リゾートを建設するという父の夢に身を投じた。ハーディーが10歳の頃、ジュナはひっそりとサバナに戻った。それから1年が経たない内に、大恐慌が押し寄せた。
失業者が溢れる中、インヴァーゴードンは念願のゴルフ・リゾートをオープンさせた。しかしリゾートに客は全く訪れず、彼は自殺した。出資者から島の売却を迫られたアデールは、客を呼ぶためにエキシビジョン・マッチを開催すると宣言した。ジョーンズとヘーゲンを招き、1万ドルの賞金を懸けるというものだ。アデールは巧みな弁舌で、ジョーンズとヘーゲンの出場を取り付けた。
出資者の1人ネスカルーサ判事は住民達を集め、反対運動を画策した。すると住民の中からは、地元出身のゴルファーも挑戦者として参加させるべきだという声が挙がった。集会に来ていたハーディーは、ジュナの名前を叫んだ。住民達はジュナに出場を要請するが、彼は「スイングを無くした」と言って拒否した。アデールが頼みに来ても、その考えは変わらなかった。
アデールが帰った後、ジュナは暗闇でスイングを始めた。そこへ見知らぬ黒人の男が現れ、5ドルでキャディーを請け負うと口にした。その男バガー・ヴァンスにスイングをさせたジュナは、彼と契約を交わすことにした。ジュナはネスカルーサ判事やアデールの元へ行き、エキシビジョン・マッチに参加することを伝えた。
ジョーンズとヘーゲンが、サバナにやって来た。アトランタ・ジャーナルのジョーンズ番記者O・B・キーラーや、ヘーゲンびいきで知られるスペック・ハモンドも一緒だ。全米一のスポーツ記者グラントランド・ライスは試合の期間中、ハーディーの家で下宿することになっている。グリーヴス家は生活費捻出のため、下宿を始めたのだ。
会見でジョーンズとヘーゲンの優秀な成績を知ったジュナは、町から逃げ出そうと考える。そんな彼を見ても、バガーは必死で制止しようという素振りは示さない。荷物をまとめて車を走らせたジュナだが、期待する住民に囲まれてしまい、逃亡を断念した。ハーディーはバガーに会い、キャディーの助手にしてもらった。バガーはハーディーに、ゴルフを教えた。
いよいよエキシビジョン・マッチが始まった。4日間72ホールの勝負だ。最初の5ホールを終わったところで、ジョーンズとヘーゲンがイーヴン・パーなのに対し、ジュナは12オーヴァーと大きく差を付けられた。だが、バガーは何のアドバイスも送ろうとしない。ようやくジュナに掛けた言葉は、「OBを出して後は気楽にやれ」というものだった。
結局、ジュナは初日のプレーを12オーヴァーで終えた。そんな彼に対し、バガーは「昔のジュナは永遠に戻らない」と告げる。2日目、バガーはジュナに、ジョーンズやヘーゲンの立ち振る舞いについて講釈を垂れた。それを聞いたジュナは自分のゴルフを見つけ出し、8オーヴァーまで盛り返して2日目を終了した…。

監督はロバート・レッドフォード、原作はスティーヴン・プレスフィールド、脚本はジェレミー・レヴェン、製作はロバート・レッドフォード&マイケル・ノジック&ジェイク・エバーツ、共同製作はクリス・ブリガム&ジョセフ・レイディー、製作総指揮はカレン・テンコフ、撮影はミヒャエル・バルハウス、編集はハンク・コーウィン、美術はスチュアート・クレイグ、衣装はジュディアナ・マコフスキー、視覚効果監修はリチャード・チュアン、音楽はレイチェル・ポートマン、音楽監修はジョン・ビッセル。
出演はウィル・スミス、マット・デイモン、シャーリーズ・セロン、J・マイケル・モンクリーフ、ブルース・マッギル、ジョエル・グレッチ、レイン・スミス、ハーヴ・プレスネル、ピーター・ゲレッティー、マイケル・オニール、トーマス・ジェイ・ライアン、トリップ・ハミルトン、ダーモット・クロウリー、ダニー・ネルソン、ボブ・ペニー、マイケル・マッカーティー、キャリー・プレストン、ターナー・グリーン、ブレイク・キング他。


スティーヴン・プレスフィールドの小説を基にした作品。
バガーをウィル・スミス、ジュナをマット・デイモン、アデールをシャーリーズ・セロン、ハーディー少年をJ・マイケル・モンクリーフ、ヘーゲンをブルース・マッギル、ジョーンズをジョエル・グレッチ、ライスをレイン・スミス、インヴァーゴードンをハーヴ・プレスネル、ネスカルーサをピーター・ゲレッティーが演じている。
アンクレジットだが、ハーディー老人役でジャック・レモンが出演しており、これが彼の遺作となった。

タイトルに偽りありで、バガー・ヴァンスの伝説でも何でもない。
そもそもバガー・ヴァンス、出番が少ないぞ。
そりゃ出番が少なくても圧倒的な存在感を見せ付けてくれれば問題は無いが、そうじゃないし。
ちょっと人間関係を欲張りすぎたんじゃないかな。ジュナとバガーの関係を重要視すべきなのに、他にもアデールやハーディーとの関係があるし、バガーとハーディーの関係まである。
ハーディーは単なる語り手にして、ジュナとの関係は、もう少し控え目にしておいた方が良かったんじゃないかな。
あと、アデールは脇の脇へ引っ込めていい。というか、なんなら要らないし。
でもハリウッド映画だから、ヒロインは必要なんだろうな。だけど、この映画で彼女とのロマンスという部分は、ホントに邪魔でしかないんだよな。アデールが魅力的ってわけでもないし。

開始から20分ほど経過した辺りで、「エキシビジョン・マッチにジュナを出そう」という住民集会のシーンがある。だが、この時点で、どれほどジュナがサバナの人々にとって偉大な英雄なのか、その描写が乏しい。それと、最初の内に、まだ輝いていた頃のジュナの様子を、もっと見せておくべきだろう。
その2つが、セリフで簡単に処理されているが、描写にボリュームを出すべきだ。それによって、「大恐慌で暗く沈んでいるサバナの人々にとって、ジュナは希望の光だ」ということが強く印象付けられるはずだ。

ただし残念なことに、ジュナを演じるマット・ディモンに、「戦争の無残さにショックを受けてゴルフを捨てた」という打ちのめされた感が全く無い。
極端に言えば、自堕落な意識で酒とギャンブルに溺れているだけにしか見えない。
再びゴルフを始めた姿は、かなり元気に見える。少なくとも、肉体的にはエナジー充分にしか見える。
「人生に背を向けた悲哀の男」ではなく、「ちょっとスランプに入ったエリートのアスリート」ってな感じである。

一方、バガーがウィル・スミスってのも、そりゃ無いだろう。
バガーってのは「禅問答みたいなアドバイスや佇まいに惹き付けるモノがある」という人じゃなきゃダメなのに、それがウィル・スミスでは発する言葉に説得力が無いし、逆に疎ましい。
まだ若すぎるというのもある。もっと人生の酸いも甘いも噛み分けた年配の男の方が、言葉に説得力は出るだろう。

最初に予定していた通り、レッドフォードがジュナ役、モーガン・フリーマンがバガー役で作れば遥かにマシな内容になっただろう。
なんでレッドフォードは「もっと若い人が演じた方がいいだろう」とかバカなことを思っちゃったのか。
いや、別にジュナ役はアンタじゃなくてもいいよ。だけど、バガー役は絶対にモーガン・フリーマンにすべきでしょ。彼ならば、シナリオが抱える欠点を補って、「含蓄のある言葉で惹き付ける力を持つ謎めいた男」としてのキャラに説得力を持たせることが出来たはずだ。

あと、この作品に御伽噺としてのイメージを全く感じ取ることが出来なかったんだが、それでいいのか。
これって御伽噺だからこそ成立する話じゃないのか。
例えばジャック・レモンの登場から1928年の回想に戻る辺りで、「これは御伽噺ですよ」ということを示すための演出、観客を入り込ませるためのケレン味があった方が良かったんじゃないの。

 

*ポンコツ映画愛護協会