『バッド・ティーチャー』:2011、アメリカ

夏休み前の終業日を迎え、ジョン・アダムス中学の教師たちが集まって1年の統括が行われていた。スナー校長は優れた学習企画を行ったサンディーたちを褒めた後、1年で学校を去ることになったエリザベス・ハルジーにスピーチを促した。結婚退職の決まったエリザベスは「先生や生徒たちと別れるのが寂しい」と言うが、真っ赤な嘘だった。実際の彼女は、教師や生徒と関わることを出来る限り避けていた。車に乗り込んだ彼女は煙草を吸いながら、猛スピードで恋人の元へ向かう。すると恋人は母親と一緒に待ち受けており、別れを切り出す。恋人の母親は、エリザベスが1ヶ月で1万6千ドルも使い込んだことを指摘した。エリザベスは金目当ての結婚であることを否定しようとするが、恋人の誕生日さえ知らなかった。
3ヶ月後、新学期を迎えた学校に、やる気の無さそうなエリザベスが出勤した。同僚のエイミーは「今までの貴方は適当だったけど、今度こそ教職に目覚めるわ」と言うが、エリザベスは「バカバカしい」と吐き捨てた。同僚のリンがランチに誘うが、エリザベスは断った。しかしリンが御馳走すると言うので、態度を変えた。エリザベスはリンに、「私だって正当な理由があって教師になった。残業も責任も無くて、夏休みはある」と話す。彼女は「これからは男探しに全力を尽くす。オッパイを大きくする」と宣言した。
エイミーは最初の授業でパイロットに成り切り、張り切って生徒たちにアピールする。だが、生徒たちの反応は鈍く、呆れたような表情を浮かべる者もいた。一方、エリザベスは新入生のサンディーから母親が作ったクッキーを渡されるが、面倒そうに対応した。クッキーを口にした彼女は、「すごくマズい」と顔を歪めた。エリザベスはテレビを用意させて映画『落ちこぼれの天使たち』を生徒のギャレットやチェイス、モーガンたちに観賞させ、自分は居眠りを始めた。
朝食の時間、エリザベスが食堂にいると、体育教師のラッセルが話し掛けて来た。ラッセルから食事に誘われた彼女は、「同僚は嫌」と冷たく断った。エリザベスはエイミーから、「貴方がサボッた朝のオリエンテーションで、ランチ監視を提案したの。4人の当番教師で担当することになったわ」と告げられる。エリザベスが「メモにでも書いてくれる」と適当に告げて去ろうとすると、エイミーは「初日の授業で映画を見せたんですって?余計なお世話かもしれないけど、もっと交流を深めた方が良くない?」と語る。エリザベスは「私に文句でもあるわけ?」と苛立ち、エイミーへの不快感を示した。
エリザベスは代理教師のスコットを見つけ、イケメンなので声を掛けた。彼が有名時計会社の御曹司だと知ったエリザベスは、興奮する気持ちを隠せなかった。エリザベスが独身かどうか尋ねると、スコットは恋人のキャサリンと別れたばかりだと話す。携帯電話に残されたキャサリンの写真を、スコットはエリザベスに見せた。キャサリンは豊満な胸の持ち主だった。
エリザベスは形成外科医の元を訪れ、豊胸手術について相談する。費用が9300ドルで前金が必要だと説明を受けたエリザベスは、元カレに結婚破棄の慰謝料を払ってもらおうとするが、あっさりと拒絶された。ルームメイトのカークは、今月の家賃も危ないことをエリザベスに告げた。エリザベスは相変わらず真面目に授業をやらず、映画を見せ続けていた。ある日の授業後、彼女はサーシャから「週末は洗車デーです。収益を遠足費に回します。去年は6千ドルも儲かりました」と聞かされ、目を輝かせた。
エリザベスはスナーから、「1週間も映画を見せ続けているらしいね」と指摘される。エリザベスはスナーが大好きなイルカに強い興味があるように装い、彼の機嫌を取った。それから彼女は、洗車デーを担当させてほしいと持ち掛けた。本来はエイミーが担当教師なのだが、エリサベスは「彼女は多忙だから休みが必要です」と告げた。セクシーな格好で洗車デーに参加したエリザベスは、色気を振り撒いて客を集めた。仕事を終えて一人になったエリザベスが稼ぎを数えている様子を、エイミーが目撃していた。
エイミーはスナーに、エリザベスが洗車デーの儲けを着服していると報告した。しかしスナーは信用せず、「洗車デーは大盛況だった。エリザベスのおかげだ。君も見習え。同僚を疑うなら証拠を出せ」と告げた。エリザベスは食堂でエイミーが親身になって生徒と話している様子を眺め、リンに「偽善者よ」と言う。リンは「筋金入りのね」と同意するが、「でも生徒思いよ」と言葉を添えた。エリザベスはエイミーを嫌悪しており、彼女がスコットと仲良くしているのも気に入らなかった。
クラスの保護者会に参加したエリザベスは、サーシャの母親からテスト対策について質問される。エリザベスは「私は優秀だから雇われています。対策について詳しく説明する気はありません」と告げた。エリザベスはモーガンの父親から、「ウチの息子を頼みます」と密かに金を渡された。エリザベスはチェイスの両親に話し掛け、「必ず好成績を取らせます」と約束して賄賂を要求した。彼女は学校の落とし物を盗むなどして、どんどん手術費用を溜めていった。一方、エイミーはスコットに『食べて、祈って、恋をして』という本をプレゼントした。たまたまスコットの好きな作品だったことから、2人の距離は近付いていった。
車でマリファナを吸っていたエリザベスはサーシャに見つかり、「医療用よ」と嘘をついた。冬に開かれた学校のダンス・パーティーで、エリザベスはラッセルから「外で一緒にマリファナを吸わないか」と誘われる。断った直後、今度はスコットから「2人で話せないか」と誘われ、彼女は喜んで応じた。しかしスコットに「エイミーのことが好きになった」と打ち明けられ、エリザベスは「彼女は金目当てよ。数か月後、私の豊胸手術が終わったら、互いに最高の相手を探し合いましょう」と告げた。エリザベスはムシャクシャする気持ちを発散するため、ラッセルを誘って体育館でマリファナを吸った。
クリスマス、マリファナが切れたエリザベスは買いに出掛けるが、どの店も閉まっていた。ギャレットとシングルマザーのメロディーが乗る車が通り掛かり、エリザベスを夕食に誘った。腹だけ満たして帰ろうとしたエリザベスだが、詩の朗読に付き合わされた。ギャレットはチェイスへの熱い恋心を詩にしていた。エリザベスはメロディーたちの目を盗み、イルカの置物を盗んだ。ギャレットが「素直な思いを伝えれば分かってくれる」と信じているので、エリザベスは「それは無い。アンタはチェイスの対象外よ」と告げた。
年が明けても、エリザベスは生徒たちに勉強を教えず、映画を見せるだけだった。それどころか彼女は、生徒たちの目を盗んでマリファナをやっていた。リンから教師バンドのライブを見に行こうと誘われたエリザベスは、「死んでも行かない」と断った。しかしスコットから「僕もギターとコーラスで参加するんだ」と言われると、喜んで会場の酒場へ出掛ける。酒場にはラッセルも来ていて「君を追い続ける」と言うが、エリザベスは冷たくあしらった。
スコットは「大切な人のために作った」と言い、エイミーを見つめながら歌った。エリザベスが帰りの車中で荒れていると、リンは「教師に専念したら?共通テストで1位になったクラスの担任はボーナスとして5700ドルが貰えるわ」と告げた。それを聞いたエリザベスは、次の日から生徒たちにスパルタ指導で勉強を教え始めた。彼女が熱心な態度を見せるので、スコットは「本物の教育者だ」と称賛した。エイミーは焦りを覚え、サーシャからエリザベスの情報を収集した。
エイミーはエリザベスが医療用大麻を使っていたと聞き、スナーに教師の薬物検査を行うよう進言した。スナーが「そんなことをすれば教員組合の怒りを買う」と難色を示すと、エイミーは激しい苛立ちを示す。スナーはエリザベスからイルカの置物をプレゼントされており、彼女を称賛した。エイミーが「騙されている」と荒れるので、スナーは「また神経をやられるぞ。2008年みたいに」となだめた。
エリザベスは生徒たちに模擬テストを実施するが、散々な結果だった。問題用紙を手に入れようと企んだ彼女は、イリノイ州テスト事務所に記者を詐称して連絡を入れた。エリザベスは職員のカールに「テストの内容に人種偏見の疑惑がある」と告げ、確認のためにテスト用紙を見せて欲しいと持ち掛けた。カールが「極秘なので」と断ると、エリザベスは一緒に酒を飲んで誘惑した。彼女は事務所に上がり込み、テスト用紙を盗んだ。1ヶ月後、エリザベスのクラスはクック郡1位の成績を上げ、彼女はボーナスを手に入れた…。

監督はジェイク・カスダン、脚本はジーン・スタプニツキー&リー・アイゼンバーグ、製作はジミー・ミラー&デヴィッド・ハウスホルター、製作総指揮はジョージア・カカンデス&ジェイク・カスダン&リー・アイゼンバーグ&ジーン・スタプニツキー、製作協力はケアリー・ディートリッヒ&メルヴィン・マー&M・ライリー、撮影はアラー・キヴィロ、編集はタラ・ティムポーン、美術はジェファーソン・セイジ、衣装はデブラ・マクガイア、音楽はマイケル・アンドリュース、音楽監修はマニシュ・ラヴァル&トム・ウルフ。
主演はキャメロン・ディアス、共演はジャスティン・ティンバーレイク、ジェイソン・シーゲル、ルーシー・パンチ、ジョン・マイケル・ヒギンズ、フィリス・スミス、トーマス・レノン、モリー・シャノン、エリック・ストーンストリート、デイヴ・“グルーバー”・アレン、マシュー・J・エヴァンス、ケイトリン・デヴァー、ジリアン・アルメナンテ、キャスリン・ニュートン、イガル・ベン・ヤイール、アジャ・バイール、アンドラ・ネチタ、ノア・マンチク、フィニアス・オコネル、ダニエル・カストロ、エイドリアン・カリ・ターナー他。


『オレンジカウンティ』『ウォーク・ハード ロックへの階段』のジェイク・カスダンが監督を務めた作品。ちなみに彼の父親は、『白いドレスの女』や『偶然の旅行者』などを手掛けたローレンス・カスダン監督。
脚本は『紀元1年が、こんなんだったら!?』のジーン・スタプニツキーとリー・アイゼンバーグ。
エリザベス役はキャメロン・ディアスで、スコット役は実生活で元カレだったジャスティン・ティンバーレイク。
ラッセルをジェイソン・シーゲル、エイミーをルーシー・パンチ、スナーをジョン・マイケル・ヒギンズ、リンをフィリス・スミス、カールをトーマス・レノン、メロディーをモリー・シャノンが演じている。形成外科医のヴォーゲル役でデヴィッド・ペイマーが出演している。

冒頭シーン、エリザベスのスピーチが真っ赤な嘘であることは、同僚や生徒を避けていることを示すインサート映像で伝わる。彼女が煙草を吸いながら猛スピードで車を走らせる描写で、バッドな教師であることも伝わる。
ただし、伝わることは伝わるが、ややアピールとして物足りなさは感じる。
もっと感じるのは、「金目当てで恋人と結婚しようと目論んでいた」ってことのアピール。
っていうか、金目当てがバレて結婚破棄になったという冒頭シーンって、そんなに上手く機能したり、後の展開に繋がったりしていないんだよね。

新学期になって登校したエリザベスは、エイミーから「今までの貴方は適当だったけど、今度こそ教職に目覚めるわ」と言われると冷たい態度を取る。エイミーの前だけでなく、リンや生徒たちの前でも、平気で面倒そうな態度、疎ましそうな態度を取る。
そうなると、冒頭のスピーチにおける態度は何だったのか。本音を隠して、教師や生徒たちの前では猫を被っていたわけではなかったのか。スピーチの時だけ、結婚退職が決まって浮かれていたから殊勝な態度だったのか。それとも、校長のいる場所でだけは本性を隠すってことなのか。
どういう設定であれ、スピーチのシーンで「本性を隠して教師をやっている」という間違ったイメージを観客に与えることになるわけで。
だったらスピーチの様子は邪魔だし、描かない方がいい。

エリザベスが本性を隠していたわけではなく、授業をマトモにやらず、同僚や生徒たちの前でも面倒そうな態度を取っていたのなら、それで1年間も教師を続けていたこと、にも関わらず同僚教師が結婚退職する彼女を温かく送り出したことは、大いに引っ掛かる。
また、1年も学校にいたのに、エリザベスが同僚の顔や名前を全く覚えていないってのも、さすがに無理があると感じる。
だったら、新しい学校に新任教師として赴任する形にでもした方がスムーズだったんじゃないか。

この映画の大きな欠点は、エリザベスに魅力を見出すことが難しく、共感や応援したい気持ちが喚起されないってことだ。
キャメロン・ディアスが演じていることで、随分と助けられている部分はある。
しかしコメディエンヌとして優れたセンスを持つキャメロン・ディアスでも全てをリカバリーしてプラスに転換するのは困難なほど、徹底的に利己的なエリザベスの生き方や考え方は相当に不快感が強い。
ただし利己的なキャラクターが必ずしもヒロインとして不適格ということではなく、その度合いや種類、見せ方の問題だ。

エリザベスの場合、教師としての仕事をやろうという気が全く無い。教師として異端だとか、教育方法が過激だとか、そういうことではない。ただ単に、やる気が無いのだ。
彼女は男と金のことしか考えていない。しかも、マトモに生徒たちを指導しないだけでなく、数多くの犯罪に手を染めている。
せめて、それが生徒たちのためであればともかく、全て自分のための行動だ。
例え口調や態度が悪かったり、行動が過激だったりしても、エリザベスが生徒のことを真剣に思っていれば、そこに主人公としての魅力を見出すことは簡単だろう。あるいは、自分のことしか考えていなかったり、適当なことばかり繰り返していたりしても、結果的に生徒たちの役に立ったり、学力アップに繋がったりすれば、コメディーとしては有りだろう。
しかし本作品は、そういう形にもなっていない。

洗車デーにセクシーな格好で客を集めるだけなら、教師としては普通じゃないけど、コメディーとしては有りだ。しかし集めた金を自分のために着服するとなると、それは限度を超えている。
遠足費用を着服し、マリファナを愛用し、保護者に金を要求し、生徒の家から置物を盗むという数々の犯罪行為も、全く笑えない。
エリザベスがボーナス目当てで熱心に勉強を教え始めるのは、動機は不純でも、結果的に生徒たちの学力が向上すれば、それはコメディーとして有りだ。
しかしテスト用紙を盗んだ時点で、エリザベスは超えちゃいけないラインを超えてしまう。

エイミーの見せ方が中途半端なのも引っ掛かる。
エリザベスのライバルというポジションではあるんだが、悪役としての印象は強くない。
エリザベスは彼女を偽善者呼ばわりするが、リンの言うように生徒思いで行動しているように見える。
で、「張り切っているけど空回りしており、生徒からの受けはイマイチ」という見せ方をするのかと思ったら、それは新学期の最初の授業シーンだけ。
そこも中途半端に感じるし、じゃあ結局のところ、生徒たちのエイミーに対する評価がどうなっているのかは良く分からない。

エイミーはエリザベスの着服をスナーに報告するが、それは行動として全く間違っていない。
エイミーは「エリザベスが自分と異なる教育方針だから敵視する」とか、「自分にとって邪魔な存在だから排除しようとする」とか、そういう意識で行動しているわけではない。
単純に、エリザベスが悪いことをしているから、それを正そうとしているだけだ。
「もっと生徒と交流を持つべき」と説いたり、当番でのランチ監視を始めたりするのも、ハナに付く部分はあるけど、教師として間違っているわけではない。

エイミーは途中からハッキリとした形でエリザベスを敵視するが、基本的に卑劣な方法は取っていない。むしろ卑劣なのはエリザベスの方で、エイミーが指導している演劇を邪魔するために舞台用のカツラを隠しバス、旅行の引率を妨害するためにアレルギー物質を付着させたリンゴを食べさせる。
それに対して、エイミーがエリザベスの机の鍵を入手してマリファナを発見したり、カールを尋問してテスト問題を盗んだことを突き止めたりするのは、「やり方に少々の問題はあるけど、エリザベスに比べたら遥かにマシだし、目的を比較しても明らかに大きな差がある」と感じる。
ところが、じゃあエイミーを「行き過ぎた面もあるけど真っ直ぐな善人」として好意的に捉えることが出来るのかというと、そうでもない。だからと言って、エイミーを不愉快な悪役と捉え、そんな彼女と戦うエリザベスを応援できるかっていうと、それも無い。
2人の対比を考えると、エイミーは「教育熱心で正義感に溢れ、真っ直ぐでクソ真面目な女」という設定にしておいた方が良かったんじゃないか。

終盤、エリザベスはクラスメイトの前でチェイスに告白して玉砕したギャレットを励まし、名誉回復のための案まで授けてやる。
そこでエリザベスの株を上げようと目論んだのかもしれないが、まるで足りないし、そこだけ急に生徒の親身になって行動するのは違和感がある。
そんなことをギクシャクした形&中途半端に盛り込むぐらいなら、前半から「エリザベスの良い所」をチラホラと散りばめておくべきだ。
ひょっとして、大統領を目指すサーシャに「それは両親の希望でしょ、いつか痛い目に遭うわよ」と言ったり、ギャレットに「アンタはチェイスの対象外」と告げたりしているところで良さをアピールしているつもりかもしれんが、だとしたら全く足りてないよ。どっちのケースでも、単に面倒そうにしているだけだし、生徒思いの言葉じゃないし。

しかもギャレットの名誉回復を手伝ってやったのは、エリザベスの考え方が変化した結果としての行動じゃなくて、気まぐれでしかない。
その後に、カールを脅して証言を妨害したり、エイミーを陥れてマリファナ所持の罪を被せたりしているんだから、性根は全く変わっていないのだ。
で、そんな性根が腐った奴のまま、最後は生活指導教師になっているんだけど、そのオチは笑えない。シニカルなコメディーを狙っているとしても、成功していない。
あと、エリザベスがスコットではなくラッセルとカップルになるのは、そこの恋愛劇が薄いので無理がありすぎ。金目当てで男を選んでいたエリザベスの心変わりも、まるで描写できていないし。

(観賞日:2014年12月6日)

 

*ポンコツ映画愛護協会