『バックトレース』:2018、アメリカ

工場の敷地から出て来たマクドナルド、フォスター、トルビーは車に乗り、その場を後にした。運転するトルビーが「計画と違う」と言うと、助手席のフォスターが「誰も傷付けない約束だろ」と口にする。後部座席のマクドナルドが落ち着くよう諭すが、トルビーは「計画を変更したのはお前だろ」とフォスターを批判する。マクドナルドが「死者は出ない約束だ」と怒鳴ると、彼は「一生怯えて暮らす気か」と反論する。マクドナルドは声を荒らげ、「盗まれた物を取り戻しただけだ」と主張した。
しばらく行くと車を停めた2人の男たちが待ち受けており、マクドナルドは「誰だ?」と言う。トルビーが「初めての顔だ」と答えると、マクドナルドは「嫌な予感がする」と漏らす。フォスターは「俺に任せてくれ」と述べ、3人は車を降りた。マクドナルドが金の入った鞄を投げると、2人組の1人は「残りは?」と尋ねる。フォスターが「俺たちの取り分だ」と言うと、相手は「約束が違う。半分以下だろ」と語る。するとフォスターは、「2千万ドルを4等分し、俺たちが500万ずつだ」と、強気な態度を示した。
2人組の1人が「お前たちに金を洗浄できるのか」と問い掛けると、フォスターは「気にするな」と余裕を見せる。2人組は拳銃を構え、金を渡すよう要求した。トルビーは慌てるが、フォスターは「金は埋めた。殺したら見つからないぞ」と怯まない。激しい口論から銃撃戦が勃発し、トルビーとフォスターは射殺された。マクドナルドは林の中を逃走するが、追って来た1人に頭を撃たれて卒倒する。相手は近寄って止めを刺そうとするが、相棒に呼ばれたので立ち去った。
2人組が車で去った後、しばらくしてマクドナルドは意識を取り戻した。彼は少し歩き、また倒れて気を失った。銃撃事件に関する通報を受けた警官が、付近を捜索してマクドナルドを発見した。ジョージア州サヴァンナ警察重大犯罪課のサイクス刑事は、部下のカーターから報告を受けた。トルビーはセントラル・シティー銀行の警備員だと聞いたサイクスは、「昨日、強盗事件があった場所だな」と口にした。マクドナルドは外傷センターに移送され、ストーヴァー警部は会見を開いて強盗事件についてコメントした。
7年後、マクドナルドは記憶が戻らず、外傷センターでの入院治療が続いていた。彼が食堂にいると、ルーカスという男が声を掛けてきた。ルーカスが3日間の精神鑑定で来たばかりだと話すと、マクドナルドは「何となく見覚えがある」と言う。ルーカスは「勘違いだ」と関係性を否定し、「外に出たいか?協力者がいて、出してやれる」と告げる。「目的は?」とマクドナルドが訊くと、「例の2千万だ」と彼は答えた。マクドナルドは「ここに入る前の記憶が無い」と言うが、ルーカスは「出たいなら乗るべきだ」と持ち掛けた。
マクドナルドは薬の錠剤を受け取り、ルーカスが検査に呼ばれて立ち去ってから服用する。彼は意識を失って倒れ、気が付くと医務室にいた。看護師のエリンは「落ち着くから」と言い、マクドナルドに錠剤を飲ませた。警備員のファレンは監視室に忍び込み、監視カメラのディスクを密かに抜き取った。エリンはマクドナルドをクルマのトランクに隠れさせ、外傷センターを出ようとする。警備員のアリシアがトランクを確認しようとすると、後ろから来たファレンが急ぐよう要求した。彼が執拗に文句を言うと、アリシアはトランクを確認せずにエリンを通過させた。
エリンは民家に到着し、待っていたルーカスと共にマクドナルドを車から出した。連絡を受けて外傷センターに赴いたサイクスはファレンが音信不通になっていると聞き、カーターに彼の家へ向かうよう命じた。マクドナルドはルーカスとエリンに、自分の過去に関する真実が知りたいと告げる。するとエリンは「協力するわ」と言い、薬の準備を始めた。ファレンも合流する中、マクドナルドは3人に対して強い警戒心を抱いた。するとルーカスは「少し話そう」と告げ、彼を2階へ連れて行った。すると部屋には強盗事件に関する大量の資料があり、マクドナルドはフォスターとトルビーを殺したのが自分ではない可能性の高さを感じた。
サイクスが検問の設置を指示していると、FBIのフランクス捜査官と部下のヒックスがやって来た。フランクスはサイクスに、「被疑者が逃げた以上、今後は私が捜査する」と告げる。サイクスが「そっちが情報を渡さなかったからだ」と批判すると、ストーヴァーも同調した。彼は協力と引き換えに、強盗事件の全ての情報を提供するようフランクスに要求した。フランクスはサイクスに、「強盗された銀行は、不正を疑われていた。セメント工場のオーナーが3千万ドル借りて、従業員の年金を担保にした。破産申請の直前、オーナーはボーナスとして自分に2千4百万ドルを振り込み、従業員を見捨てた。しかし証拠が無くて起訴できなかった」と説明した。
カーターは部下たちを率いてファレンの家に乗り込むが誰もおらず、強盗事件に関する資料が残されていた。エリンはLPT促進剤という薬の注射をマクドナルドに持ち掛け、記憶を司る前頭葉を刺激する効能があるのだと語った。強い副作用があり、2割は死ぬという薬だが、マクドナルドは覚悟を決めて注射を投与された。サイクスはフランクスに、マクドナルドがセメント工場で勤務していたこと、フォスターが工場のセメントを仕事に使っていたことを教えた。さらにサイクスは、フォスターとトルビーの殺害に使用された銃が現場に無かったことから別の関与者がいる可能性が高いという考えを語った。
マクドナルドは激しい頭痛に見舞われる中、「この家に来たことがある」と口にした。保安官が来たのでファレンはマクドナルドを2階へ連れて行き、ルーカスとエリンが外へ出て応対した。保安官が「ここは差し押さえ物件だ」と言うと、ルーカスは購入を検討していると嘘をついた。保安官が去ったので、ルーカスとエリンは屋内に戻った。ファレンはマクドナルドに「ここはアンタの家だ」と言い、ルーカスが「だから連れて来た」と付け加えた。
ルーカスたちはマクドナルドを車に乗せ、フォスターの会社へ連れて行く。ファレンが「警察に追われてる。チンタラするのはよそう」と言うと、エリンは「記憶の再構築には手順を踏む必要があるの」と説明した。マクドナルドの脳裏に記憶の断片がよぎり、彼はトルビーが「彼が逃がしてくれる」と警官を仲間に引き入れたことを思い出した。しかし、その警官が誰なのかも、金の隠し場所も、マクドナルドは思い出すことが出来なかった。
マクドナルドは必死で記憶を辿り、「セメント工場の塔がある」と言い出した。ルーカスたちは苦しむ彼をクルマに乗せ、セメント工場へ向かう。サイクスはカーターからの連絡で、ファレンの家では何の手掛かりも得られなかったことを聞く。彼はカーターに、セメント工場で未確認の場所があるかもしれないので調べるよう指示した。セメント工場に着いたマクドナルドは頭を押さえて苦しみ、エリンは休息を取らせることにした。
マクドナルドは記憶の断片を繋ぎ合わせ、金の入った鞄を誤ってコンベヤーから貯蔵庫へ落としてしまったことを思い出す。ルーカスたちが捜索するが何も発見できず、マクドナルドは廃棄物用の箱だろうと告げる。カーターが車で工場にやって来たため、彼らは身を隠した。フランクスは手下の2人組からカーターが工場へ来たことを知らされ、手を打って追い払うよう命じた。マクドナルドは隠れている最中、エリンが自分の妻でルーカスとファレンが息子だと思い出した…。

監督はブライアン・A・ミラー、脚本はマイク・メイプルズ、製作はランドール・エメット&ジョージ・ファーラ&マーク・スチュワート&アンバー・チルダース&マット・ルーバー、製作総指揮はアレックス・エッカート&テッド・フォックス&ヴァンス・オーウェン&マーク・ローヤー&マーティン・リチャード・ブレンカウ&サイモン・ウィリアムズ&クリステル・コナン&アリアンヌ・フレイザー&デルフィーネ・ペリアー&ヘンリー・ウィンタースターン&サム・スレイター&デヴィッド・バーノン&スコット・カーメル&セルジオ・リズート&マーク・ゴールドバーグ&ノエル・アシュマン&ブライアン・ブラックス&ウェイン・マーク・ゴッドフリー&ロバート・ジョーンズ&メドウ・ウィリアムズ&スウェン・テメル&バリー・ブルッカー&スタン・ワートリーブ、共同製作総指揮はライアン・ブラック、共同製作はティム・サリヴァン&アンソニー・コーリー&ブリントン・ブライアン&共同製作はアラナ・クロウ&マイケル・J・ウラン、製作協力はサイモン・ルイス&ババク・エフテカリ&ウミダ・ウマーベコヴァ&ファリバ・マージョール&ラース・アルフグリーン&アンダース・テルヴ&ウェスト・エンド・レーン&マルコ・ヴァン・エンブデン&スチュワート・ピーター&ジェームズ・カッタン、撮影はピーター・A・ホランド、美術はラッセル・M・ジェーガー、編集はトーマス・カルデロン、衣装はレイチェル・ストリングフェロー、音楽はティム・ジョーンズ、音楽監修はマイク・バーンズ。
出演はライアン・グスマン、シルヴェスター・スタローン、マシュー・モディーン、メドウ・ウィリアムズ、クリストファー・マクドナルド、コリン・エッグレスフィールド、リディア・ハル、タイラー・ジョン・オルソン、セルヒオ・リズート、スウェン・テメル、ヘザー・ジョハンセン、ジェナ・ウィリス、ベイリー・カーラン、タマラ・ベロース、アラナ・トレンブレイ、カール・アンソニー・ネスポリ、ジェシー・プルエット、ヤン・ドロン、レスリー・エメット、チック・バーンハード、ジェフ・リーヴス他。


『コードネーム: プリンス』『デッド・シティ2055』のブライアン・A・ミラーが監督を務めた作品。
脚本のマイク・メイプルズは、これが劇場映画デビュー。
ルーカスをライアン・グスマン、サイクスをシルヴェスター・スタローン、マクドナルドをマシュー・モディーン、エリンをメドウ・ウィリアムズ、フランクスをクリストファー・マクドナルド、カーターをコリン・エッグレスフィールド、ニコルズをリディア・ハル、ファレンをタイラー・ジョン・オルソンが演じている。

ライアン・グスマンとシルヴェスター・スタローンがタイトルの前に表記され、表面的にはダブル主演のような形となっている。
しかし実際は『ジェニファー・ロペス 戦慄の誘惑』『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』のライアン・ガスマンが主役で、シルヴェスター・スタローンは完全に脇役だ。
むしろスライよりはマシュー・モディーンの方が、ダブル主演っぽい。
っていうか彼が主演で、ライアン・グスマンとシルヴェスター・スタローンが助演と言われた方が、しっくり来るぐらいだ。

2010年代に入って以降、ブルース・ウィリスやアーノルド・シュワルツェネッガーなど、かつてアクション映画のスターとしてバリバリに活躍していた俳優が、B級映画に出演して脇に回るケースが増えてきた。
年を取って主演を張ることが厳しくなる中で、しかし知名度だけは相変わらず充分にある。B級映画だと、監督や主演の訴求力ってのは、そんなに期待できない。
だから、B級映画に箔を付けるために「かつてのスター」が名前を貸して訴求力に貢献する形を取っているわけだ。
そして、そんな名義貸しの世界に、いよいよスライも本格的に参戦するようになったわけだ。

粗筋に書いたように、冒頭シーンでは車中でマクドナルド&フォスター&トルビーの口論が繰り広げられる。
最初にトルビーが「計画と違う」と言い、フォスターが「誰も傷付けない約束だろ」と口にする。落ち着くよう諭すマクドナルドだが、「死者は出ない約束だ」と怒鳴る。
詳細は分からないが、つまり全員が「計画と違う」ってことを批判する形になっているんだよね。
そうなると、「誰が悪いのか」ってことになっちゃうし、無駄にゴチャゴチャしてるわ。そこはマクドナルドだけが批判する形にした方がいいんじゃないか。

2人組はフォスターとトルビーを始末した後、1人がマクドナルドを追う。頭を撃たれたマクドナルドが倒れると、男は歩み寄って止めを刺そうとする。ところが相棒が「ここを離れるぞ」と呼ぶと、少しためらいつつも戻る。
だけど、マクドナルドを撃つぐらいの時間はあるだろ。
少し迷ってから止めを刺さずに立ち去る理由が全く無い。
それと、相棒が「ここを離れるぞ」と急がせる理由も不明。誰かが現場に近付いてきたわけでもないんだから。

この映画は観客を騙したいがために、ルーカス&エリン&ファレンに「劇中の人物」としては全く必要性の無い不可解な嘘をつかせている。
説明のために完全ネタバレを書くが、ルーカス&ファレンはマクドナルドの息子で、エリンはマクドナルドの妻だ。
それなのに、事実をマクドナルドに打ち明けないまま行動している理由がサッパリ分からない。
マクドナルドは3人を警戒しているけど、事実を打ち明けて目的も説明しちゃった方が、信頼してもらえるし、計画も進めやすいだろうに。

おまけにルーカスたちは、マクドナルドを助けたくて行動しているはずなのに、2割は死ぬという薬を注射するのだ。
だったら、なおさら家族であることを打ち明けて目的を教えた方がいいだろ。
誰だか分からず、金が目的で行動していると嘘をついている連中に「2割は死ぬし副作用も酷い」という薬を投与されるよりも、自分のために頑張ってくれている家族に投与される方が、受け入れやすいだろ。
ルーカスたちが嘘をつき続けるのは、目的の達成にとって明らかにマイナスなのよ。

フランクスはサイクスからマクドナルドやフォスターに関する情報を知らされた時、「良く調べたな」と言う。
だけど、マクドナルドがセメント工場で働いていたこと、フォスターが仕事で工場のセメントを使っていたことなんて、ものすごく簡単に突き止められる情報だろ。
そこでフランクスに「良く調べたな」と言わせるのなら、そう簡単には分からないような情報をサイクスに言わせなきゃダメだろ。
っていうか、「良く調べたな」とか、そんな台詞を言わせなきゃ済む話だろ。

ファレンが「警察に追われてるんだ。チンタラするのはよそう」と言った時、エリンは「記憶の再構築には手順を踏む必要があるの」と説明する。
もちろん、「自分たちは家族だ」と打ち明けたところで、それでマクドナルドの記憶が蘇るかどうかは分からない。
でも、その事実を伝えた上で、エリンが説明するような手順を踏めばいいんじゃないのか。
「治験に失敗した患者は記憶を信じようとしなかった。この方法しか無かったの」とエリンは話すけど、それで納得できることなんて何一つ無いぞ。

カーターはセメント工場を調べに行く時、なぜか単独行動を取る。もちろん、それはストーリー展開の都合である。
ここでマクドナルドが「トルビーが警官を仲間に引き入れた」という記憶を思い出すシーンを挟むのは、「カーターが黒幕」というミスリードを狙った描写だ。
でも、そこまでの描写を見ているとカーターが悪党じゃないのはバレバレなので、そのミスリードは完全に外している。
しかも、その直後にはフランクスが黒幕なのをバラしているので、ますますミスリードの意味が無いぞ。

単独行動を取るのはカーターだけでなく、サイクスが彼の元へ向かう時も1人で動いている。お前らに信頼できる仲間はいないのか。
で、カーターは殺し屋2人組に始末されるが、サイクスが駆け付けた時にはフランクスがチームを率いて来ているので敵は増えているのに無傷で全員を片付けている。そこはスライのスターとしての格の違いを見せ付けるのね。
そしてサイクスは一味を倒すとマクドナルドを逮捕せず見逃してやるのだが、だったらファレンが2人組に殺される展開なんて要らなかっただろ。
シンプルなハッピーエンドを、なぜ半端な形で拒むのか。

(観賞日:2020年8月16日)

 

*ポンコツ映画愛護協会