『バビロン A.D.』:2008、アメリカ&フランス&イギリス

6日前、東欧の新セルビア。世界各地でテロが多発している情勢の中、傭兵のトーロップはアパートで静かに過ごしていた。しかし食事中に傭兵部隊が部屋へ突入し、一斉に銃を構えた。リーダーのカールはトーロップと顔見知りだった。トーロップはカールを脅し、依頼主がマフィアのゴルスキーであることを聞き出した。トーロップはカールを冷徹に始末し、落ち着いて出掛ける準備を整えた。
トーロップは部隊に導かれて装甲車に入り、ゴルスキーと対面した。ゴルスキーは彼に、若い娘を6日でニューヨークまで届ける仕事を要請した。テロリストとしてアメリカから追われる身となっているトーロップだが、ゴルスキーは「国境を渡る時に、これを打て。犯罪歴の無い一般人になれる」と告げて注射器を渡した。トーロップは話が上手すぎることに疑問を抱くが、50万ドルで引き受けた。
トーロップはヘリコプターで運ばれ、古い修道院に辿り着いた。彼の仕事は、オーロラという少女と保護者であるシスター・レベッカを連れて行くだった。トーロップはトロイツクからベーリング海峡、そしてカナダからアメリカに入るルートを取ることにした。トロイツクに到着したトーロップたちは、列車の駅へ向かう。その様子を、密かに監視している連中がいた。オーロラは人込みの中で急に怯えた様子を示し、その場から逃げ出す。トーロップとレベッカが慌てて追い掛けると、彼女は「逃げないと死ぬ」と口にした。その直後、人込みの中で爆発が起きた。
列車に乗り込んだオーロラは、トーロップに「駅の前にいた虎は偽物でしょ。シベリアン・タイガーは2017年に絶滅したわ」と語る。トーロップは「さっきのは何だ?」とレベッカに尋ねるが、明確な答えは貰えなかった。ロシアのウラジオストクにある難民キャンプへ赴いたトーロップは、密輸業者のフィンに協力を求めた。トーロップは5万ドルの報酬で、乗船チケットと対岸で使うスノーモービル2台を要求した。その間、オーロラは賭け試合の選手である野獣のような男、キラーに関心を示していた。
トーロップたち立ち去ろうとすると、謎の一団が立ちはだかった。彼らはトーロップに「100万ドルで手を引け」と言い、鞄に入った札束を見せた。トーロップは金を撒いて騒ぎを起こし、その間にオーロラとレベッカを連れて逃げようとする。しかしトーロップとレベッカが戦っている間に、一味はオーロラを拉致しようとする。そこへキラーが現れ、オーロラをケージの中に連れ込んだ。トーロップはケージに入り、キラーと戦う。彼がキラーの首を絞めていると、オーロラが「殺さないで。彼は私を守ろうとしたの」と止めに入った。
オーロラは一味のリーダーから「お父さんの所へ行こう」と誘われると、「行くわ」と返答して彼らに付いて行く。トーロップは後を追い、銃を構えて「オーロラを返せ」と脅す。トーロップが1人を射殺すると、リーダーは「命懸けで君を守る。行こう」とオーロラに告げる。しかしオーロラは「誰も死なせない」と言い、トーロップとレベッカの元へ戻った。オーロラはトーロップを厳しく非難した。
翌朝、トーロップたちはフィンに連れられ、難民に混じって氷の大地を進む。しばらく行くと潜水艦が浮上し、艦長は「衛星探知される。2分で潜航するぞ」と急ぐよう促す。難民たちは我先にと潜水艦に群がり、トーロップは他の連中を掴んで投げ落としながら潜水艦に乗り込もうとする。2分が経過し、艦長は難民たちを銃で撃ち始めた。最初に潜水艦へ入ったオーロラは、「みんな死んでしまう。早く助けないと」と喚き、勝手に計器を動かす。オーロラが銃を構えたので、トーロップは隙を見て取り押さえた。
レベッカはトーロップに、「サンフランシスコで荒れた生活を送っていた頃、教主と出会った。ノーライト派に参加し、修道院に入った。施設で働いていると、赤ん坊のオーロラがやって来た。父親は死亡し、母親もどこにいるか分からない。私は彼女を我が子のように育てた。でも3ヶ月前、医者が来て薬を飲ませてから、彼女はおかしくなった」と語る。トーロップが「それにしても、30年前の潜水艦を、なぜ動かせた?」と疑問を口にすると、彼女は「オーロラは初めての物でも理解できる。2歳で19ヶ国語を話せた」と述べた。それから彼女は、アメリカなら最高の治療を受けさせられると言われ、渡米を決めたと話す。
フィンはトーロップに、「2年前、ウスベキスタンでウイルス爆弾が爆発し、全員が死んだ。あの娘はウイルスの保菌者だ。異常な行動も、それで説明が付く。あの娘は歩く殺人兵器だ。高く売れるぞ」と言う。トーロップは「もしも保菌者なら、俺が殺して遺体を焼く」と告げた。潜水艦を降りたトーロップたちは、ベーリング海峡の軍事地帯をスノーモービルで移動する途中で無人戦闘機の攻撃を受けた。トーロップは囮になるが、砲撃を受けて怪我を負う。オーロラはレベッカに手伝ってもらい、治療に当たる。フィンはオーロラに「一緒に来い」と告げ、レベッカを銃殺しようとするが、意識を取り戻したトーロップに始末された。
トーロップたちはカナダのキティーマット、中立地帯でテントを張った。オーロラから「なぜ命懸けで私を守ったの?」と訊かれた彼は、「俺は今まで金のために人殺しをしてきたが、もう抜け出したい。ニューヨーク北部に両親の残した農場がある。そこへ行く」と語った。一行はモーテルで休息を取った後、飛行機に乗ってニューヨークに向かった。用意された高級アパートに入ったオーロラは、テレビのニュースで修道院がミサイル攻撃を受けたことを知り、ショックを受けた。
トーロップはゴルスキーからの連絡を受け、「仕事は終わりだ。医者を行かせる。問題が無ければ、お前は自由だ」と告げられた。彼が窓の外を見ると、ノーライト派のチンピラたちとゴルスキーの手下たちが待機していた。トーロップはレベッカに、「連中は俺たちを殺すつもりだ。修道院の奴らの仕業だ」と言う。しばらくすると医者のニュートンが来て、奥の部屋にいるオーロラを診察した。ニュートンは診察を終えると、「もう少し検査が必要だ」とトーロップたちに告げて部屋を出て行った。
トーロップはレベッカに「何を隠してる?オーロラがウイルス保菌者なら、大勢の人々が死ぬぞ」と詰め寄った。レベッカが「何か知っていたら教えるわ」と釈明していると、オーロラが部屋から出て来た。彼女はトーロップに「私、妊娠してるの。双子よ。彼らの狙いは赤ちゃんよ」と言う。それはレベッカも初めて知らされることだった。トーロップは教主からの電話を受け、「オーロラをリムジンに乗せて。それで任務完了よ」と言われる。
外に出たトーロップは、ニュートンの待っているリムジンに近付くが、オーロラの引き渡しを拒否した。トーロップはオーロラとレベッカを駅へ向かわせようとして、激しい戦いを繰り広げる。しかしトーロップとレベッカが戦っていると、オーロラは無防備な様子でフラフラと歩き始めた。レベッカはオーロラを助けに行こうとするが、撃たれて命を落とす。トーロップがオーロラの元へ駆け寄ると、彼女は涙を浮かべて「生きて」と漏らす。トーロップはオーロラの銃撃を腹部に受け、命を落とした。しかし死んだはずの彼は目を覚まし、どこかの施設で復活する。そしてトーロップの前に一人の男が現れ、「私はダルクワンディエ博士。オーロラの父親だ」と口にした…。

監督はマチュー・カソヴィッツ、原作はモーリス・G・ダンテック、脚本はマチュー・カソヴィッツ&エリック・ベナール、製作はイーラン・ゴールドマン、製作総指揮はアヴラム・ブッチ・カプラン&デヴィッド・ヴァルデス、撮影はティエリー・アルボガスト、編集はベンジャミン・ウェイル、美術はソーニャ・クラウス&ポール・クロス、衣装はシャトゥーヌ&ファブ、音楽はアトリ・オーヴァーソン、歌はThe RZA&シャヴォ・オダジアン。
主演はヴィン・ディーゼル、共演はミシェル・ヨー、メラニー・ティエリー、ランベール・ウィルソン、マーク・ストロング、ジェラール・ドパルデュー、シャーロット・ランプリング、ジェロム・レ・バンナ、ジョエル・カービー、スレイマン・ディコー、ダヴィッド・ベル、ラデク・ブルーナ、ヤン・アンガー、アブラハム・ベラガ、ゲイリー・コーワン、ダヴィッド・ガズマン、レミー・コンスタンティン他。


モーリス・G・ダンテックのSF小説『Babylon Babies』を基にした作品。
ただし内容は大幅に異なるらしい。
トーロップをヴィン・ディーゼル、レベッカをミシェル・ヨー、オーロラをメラニー・ティエリー、ダルクワンディエをランベール・ウィルソン、フィンをマーク・ストロング、ゴルスキーをジェラール・ドパルデュー、教主をシャーロット・ランプリング、キラーを格闘家のジェロム・レ・バンナ、ニュートンをジョエル・カービーが演じている。

まず序盤、世界観の説明やキャラクター紹介が薄く、全体的にボンヤリした印象になっていると感じる。
それを意図的にやっていて、物語が進む中で少しずつ輪郭がクッキリと見えてくるような狙いがあるのかと思ったりもしたが、そういうことは無かった。
キャラクター紹介がボンヤリしていることも手伝って、トーロップが魅力的に見えない。
ハードボイルドなアンチ・ヒーローという、言ってみりゃヴィン・ディーゼルが得意とするようなキャラクター(『ピッチブラック』でも『ワイルド・スピード』でも『トリプルX』でも、そんな感じの役柄だった)をやらせているんだろうけど、なんか薄味。

レベッカはトーロップが来た時、「3つのルールを守って。いつも私はオーロラと一緒。彼女と俗世間の接触は出来る限り避けて。卑しい言葉は使わないで」と要求している。
でも、トーロップは全く守ろうとしない。
それに対して、レベッカは最初に少し怒った様子を見せるものの、それだけで終わり。
それ以降、そのルールを順守するよう求めることも無いし、それをトーロップが守らないからって何があるわけでもない。
その3つのルールがネタ振りになっていて、後で使われるようなことも無い。

トーロップは100万ドルで手を引くよう要求された時、それを拒絶する。
だけど、なぜ拒絶するのかは良く分からない。
「相手の態度が偉そうだったから」というわけではなさそうだ(実際、そんなに偉そうではない)。正義感や使命感に燃えているようなキャラじゃないし、「オーロラのために頑張ろう」と考えるようになるような出来事も見当たらなかったし。
そもそも、オーロラをアメリカへ送り届ける理由は聞かされていないし、ゴルスキーは悪党のボスだから、トーロップが依頼された仕事の方も胡散臭いんだよな。
だから、「向こうは悪い奴らに決まっている」ということにもならない。
そのシーンは、「こういう状況では、主人公は手を引くよう言われると拒否する」というパターンに従って、段取りとして拒否させているだけに見えてしまう。

レベッカはトーロップが人を殺すと激しい言葉で非難し、潜水艦のシーンでも「みんな死んでしまう、助けないと」と喚き散らす。
それは人道主義ってことなんだろうけど、なんかウザい奴に見えちゃう。
で、さんざん人殺しを批判し、「誰も死なせない」とか言っていたのに、ニューヨークで激しい戦いが勃発すると、フラフラと歩き始め、助けに行こうとしたレベッカの死を招いている。
でも、それに対してオーロラが悲しんだり怒ったりすることは無い。
どないやねん。

レベッカは単なるオーロラの母親代わりなのかと思ったら、難民キャンプのシーンではマーシャルアーツを使って敵と戦う。
まあ演じているのがミシェル・ヨーだから、そりゃあ戦わせた方がいいに決まってるわな。
ただ、そんなに活躍するわけじゃなくて、ニューヨークで再び戦って、あっさりと死ぬ。つまり格闘するのは2回だけ。それに、そんなに強い女としての存在感もアピールできていない。
あと、アクションシーンは、やたらとカメラが動きまくり、カットを細かく割っているせいで、ゴチャゴチャしている。

それと、そこでオーロラを拉致しようとした連中は、その後は二度と手を出して来ない。
オーロラを奪取するのが目的だったはずなのに、あっさりと手を引いてしまう理由は何なのか。
とにかく色々と謎が多いまま物語が進んでいくが、それがミステリーとしての面白さや物語の深みに繋がっているわけではない。
全ての謎がダメだとは言わないが、大半の要素に関しては、無駄に話をややこしくしているだけにしか思えない。

かなりサクサクと先へ進んでいくが、テンポ良く畳み掛けて行くジェットコースター・ムービーになっているわけではない。もっと長いオリジナル版があって、それのダイジェスト版を見せられているような感じだ。
場所が変わる度に何かしらの出来事は描かれているが、「1つ片付けたら、さっさと次へ」という感じで、段取り芝居を淡々と片付けているような印象を受ける。
登場人物の感情表現は薄いし、ドラマの盛り上がりにも乏しい。
テンションの上がるシーンも、緊迫感にハラハラドキドキするシーンも無い。

説明不足のせいで、オーロラも良く分からないキャラクターになっている。
どうやら予知能力があるようだが、それほど効果的に使われているわけではない。
モーテルでトーロップがシャワーを浴び終えたところへオーロラが来て、キスしようとするが、いつの間に惚れたのか。
で、急に「双子を妊娠している」と言い出す。
レベッカは「いつも一緒にいた」と言っているし、オーロラはトーロップとキスしようとしているが、それ以上のことは無い。
福音書におけるイエス・キリストの母マリアのように、処女懐胎という設定なのか。

レベッカは「オーロラにアメリカで治療を受けさせたい」と考えていたようだが、トーロップに仕事を依頼したゴルスキーの目的が何かは分からない。
途中で教主が登場するが、彼女が何を考えているのかも良く分からない。
トロイツクでトーロップたちを監視している連中の狙いも良く分からない。
爆発が起きるので彼らの仕業かと思ったら、どうやら違うみたいだ。それは全く無関係のテロ事件という設定のようだが、無駄にややこしいわ。

トーロップたちがアメリカに到着すると、まずゴルスキーが「医者を行かせる」と連絡してくる。その後、教主が「オーロラをリムジンに乗せれば任務完了」と言う。
ってことは、外で待機しているノーライト派のチンピラたちとゴルスキーの手下は同じグループなのかと思ったら、トーロップが引き渡しを拒否した後、この2つの集団が戦っている。
どういうことなのか。
もしも敵対する別グループだったとすれば、それまで戦わずに待機していた意味は何なのか。

で、その戦いの中、なぜかフラフラと歩き出したオーロラは、トーロップに「生きて」と告げ、撃ち殺す。
でもトーロップは目を覚まし、ダルクワンディエの部下たちが死体を運んで蘇らせたことが判明する。
だけど、どうやってダルクワンディエがトーロップの死を知り、どうやって埋葬場所から遺体を運んだのかは良く分からない。
それに、彼らが見連れて処置を施さなければトーロップは復活しないわけで、オーロラの行動は、ものすごくギャンブル性が高いぞ。

ダルクワンディエの説明により、20年前に学会を追放された彼がノーライト派から「世界の英知を備えた超人を作れ」と持ち掛けられたこと、スーパーコンピュータを母親代わりに知識を吸収して誕生したのがオーロラであること、いざ誕生してみるとダルクワンディエの中で父性愛が芽生えたこと、手放すのを拒否するとノーライト派がゴルスキーを雇ってオーロラを奪ったこと、教主がオーロラを広告塔にしようと企んでいることが説明される。
なぜ今までダルクワンディエが動かなかったのかは、良く分からない。
で、教主はゴルスキーを始末し、ダルクワンディエがオーロラの居場所を言わなかったので射殺し、「トーロップが居場所を知ってるわ」と口にする。そのトーロップはオーロラを見つけ出し、オーロラは出産のために入院する。
で、なんだか良く分からんが、オーロラは出産すると死ぬことになっていたらしく、「双子の父親になって」とトーロップに頼んで死亡する。そこで話は終わっている。
ノーライト派がトーロップを捜し出すとか、トーロップがノーライト派を壊滅させるとか、そんな展開は無いままだ。
いやいや、何も終わっちゃいないぞ。しかも、続編を匂わせるような終わり方ってわけでもないし。

監督は『クリムゾン・リバー』『ゴシカ』のマチュー・カソヴィッツだが、彼の思い通りには撮影できた部分は皆無らしく、インタビューを受けて「酷い映画だ」と言っている。
製作した20世紀FOXが撮影現場に弁護士を派遣して細かく口を出した上、2時間40分あるはずの映画を90分に短縮してしまったらしい。
そのせいで、「子供たちをちゃんと教育することが、地球の未来に繋がる」というテーマも全く分からない状態にされてしまったそうだ。

なるほど、そう言われてみれば、20世紀FOXが深く考えず、多くの場面を適当にカットしたんだろうなあという形跡が窺える。
登場人物の行動が支離滅裂になっていたり、やたらと意味不明な箇所が多かったりするのは、そういう理由だろう。
だからマチュー・カソヴィッツが腹を立てるのも分からないではない。
ただし、この映画を2時間40分の尺で作っている時点で間違いじゃないのかという気もする。
そもそも、ヴィン・ディーゼル主演のアクション映画に、高尚なテーマなんか要らんだろ。
「高尚なテーマ性を持った2時間40分のヴィン・ディーゼル主演作」を作っている時点で、「そりゃアンタにも非はあるよ」と言いたくなってしまう。

(観賞日:2013年6月18日)

 

*ポンコツ映画愛護協会