『ピラミッド』:1980、イギリス

18年前、考古学者マシュー・コーベックは古代エジプトの遺跡調査に没頭していた。カイロでの発掘作業には妊娠中の妻アンも同行していたが、コーベックは彼女への気遣いを全く見せず、助手ジェーンと共に王妃カラの謎を探ることで頭が一杯だった。アンは腹痛を訴えて病院に移送されるが、コーベックは彼女を置いて再び発掘作業に戻った。
アンは妊娠8ヶ月にも関わらず出産するが、赤ん坊は死亡が確認された。一方、コーベックとジェーンは遺跡の調査を続けた結果、ついにカラの棺を発見した。時を同じくして、病院では死んだはずの赤ん坊が息を吹き返した。病院に戻ったコーベックは娘マーガレットの誕生を喜ぶが、アンは赤ん坊を連れて彼の元を去った。
18年後、コーベックはジェーンと共にイギリスで暮らしていた。一方、アンとマーガレットはアメリカに住んでいた。コーベックは18歳の誕生日を迎えたマーガレットに、あるプレゼントを贈った。それは、18年前の発掘作業で手に入れたカラの手鏡だった。
コーベックはロンドン博物館のポール・ウィッティアから、カラの腐食が進んでいるとの報告を受けた。コーベックはカイロへ飛び、カラの棺をロンドンへ移送することにした。勝手な判断に現地の担当者は激怒するが、その直後に交通事故で死亡した。
ロンドンに戻ったコーベックの元を、マーガレットが訪れた。コーベックはマーガレットに、カラの恐ろしくも悲しい伝説を語った。マーガレットはポールと親しくなり、デートをする関係になった。だが、そんな中で、カラの魂がマーガレットに乗り移ろうとしていた…。

監督はマイク・ニューウェル、原作はブラム・ストーカー、脚本はアラン・スコット&クリス・ブライアント&クライヴ・エクストン、製作はロバート・ソロ、共同製作はアンドリュー・シェインマン&マーティン・シェーファー、製作協力はハリー・ベン、撮影はジャック・カーディフ、編集はテリー・ローリングス、美術はマイケル・ストリンガー、衣装はフィリス・ダルトン、音楽はクロード・ボラン。
主演はチャールトン・ヘストン、共演はスザンナ・ヨーク、ステファニー・ジンバリスト、ジル・タウンゼント、パトリック・ドルリー、ブルース・マイヤーズ、ナディム・サワラー、ミリアム・マーゴリーズ、イアン・マクダーミッド、アーメッド・オスマン、マイケル・メリンジャー、レナード・マグワイア、アイシャ・ベニソン、マドハヴ・シャーマ、マイケル・ハルフィー他。


ドラキュラの生みの親として有名なブラム・ストーカーの小説を映画化した作品。
コーベックをチャールトン・ヘストン、ジェーンをスザンナ・ヨーク、マーガレットをステファニー・ジンバリスト、アンをジル・タウンゼント、ポールをパトリック・ドルリーが演じている。
チャールトン・ヘストンは、かつて『オーメン』のオファーを断ったらしい。で、後に今作品には出演しているんだから、その判断は大きなミスだったということだ。『スター・ウォーズ』を断って、『1941』は受けてしまった三船敏郎みたいなモンか(ちょっと違うな)。

18年前に「誕生した娘さんに贈ってあげて」と渡された手鏡を、なぜ18年後になってプレゼントするのか良く分からないとか、まあ色々とストーリー展開の部分にも問題はあるんだろうが、あえて黙殺することにしよう。なんせ、雰囲気とショック描写で勝負るタイプの作品だからね。
しかし、その肝心の雰囲気作りとショック描写がダメなんだよな。

まず序盤、陣痛に襲われたアンの表情で、不安や恐怖を演出しようとする。その表情だと既に何かが憑依しているようにも思えるのだが、実際のところ、彼女は全く憑依とは無関係。だったら、彼女の表情で「何か」を匂わせるのはポイントがズレている。
発掘した遺品の運び出し作業を妨害しようとした役人が、設備のトラブルによる事故で死亡する。ここが、初めて「カラの呪い」を感じさせるシーンになる。ところが、その死の描写にはケレン味のカケラも無い。残酷度は低く、呪いを匂わせる表現も無い。

次に、カラの棺をロンドンへ移送することに反対した博士が、今度は交通事故で死亡する。だが、これまたケレン味は無く、簡単に処理されてしまう。そういう死のシーンでショッキングな描写によって盛り上げずして、いったい、どこで盛り上げるというのか。
成長したマーガレットが登場して以降は、いよいよオカルトやホラーのテイストを強めていかなきゃならないはずが、どうにも停滞ムード。怪しげな雰囲気を醸し出す人物とか、意味ありげな言葉を吐く人物とか、そういう盛り上げ担当の脇役もいない。

コーベックがマーガレットを連れて遺跡を歩く下りでは、横から刃物が飛び出す仕掛けでコーベックが死にそうになるというシーンがある。でも、それはアドベンチャー映画におけるスリルだろう。「目に見えぬ王妃の魔力」という恐怖ではない。方向性が違う。
ジェーンが死ぬシーンで、ようやくケレン味を感じさせる描写が覗える。でも、「残酷な殺人シーンを効果的に見せる映像表現」というのは、それがやっと。最後にはコーベックも死ぬのだが、ここも普通に遺跡の下敷きで死ぬだけ。何の残酷性も無い。

マーガレットが憑依されて変貌するという描写も、ほんの少しだけ。
『エクソシスト』のリンダ・ブレアのような怪演は、ステファニー・ジンバリストには無い。
まあ、女優としてどうなのか、と考えると、それで良かったということになるのかもしれないが。

 

*ポンコツ映画愛護協会