『ボクらのママに近づくな!』:2005、アメリカ&カナダ

リンジーとケヴィンのキングストン姉弟は、いつかパパが帰って来ると信じている。その日のために2人は、シングルマザーであるママのスザンヌをフリーにしておく必要があると考えている。そこでリンジーとケヴィンはママを口説く男性には酷い悪戯を仕掛け、片っ端から追い払っている。姉弟の次なる標的となったのは、そんな事情など何も知らない、そして子供が大嫌いなニック・パーソンズだった。
スポーツ・グッズの店を営むニックは、かなり稼ぎがいい。彼は念願だった高級車を購入し、大事にしているサチェル・ペイジの人形を飾って店に戻った。何度も店に来ては万引きしようとするガキどもを荒っぽく追い払った彼は、不愉快そうにドアを掃除しようとする。その時、向かいのビルから出て来たスザンヌに彼は一目惚れした。スザンヌはパーティー企画会社で勤め始めたばかりだった。ニックは声を掛けようとするが、彼女が2人の子持ちだと知り、すぐに退散した。
後日、大雨の夜に帰路を急いでいたニックは、車が故障して立ち往生しているスザンヌから助けを求められた。スザンヌを自分の車に乗せたニックは、サチェル・ペイジの話題で盛り上がった。ニックは彼女を家まで送り届けてデートに誘おうとするが、リンジーとケヴィンが出て来たので言い出せなかった。姉弟に睨まれたニックが帰ろうとすると、スザンヌは「悪いんだけど、明日の朝、会社まで送ってくれない」と頼んだ。ニックは喜んで承諾し、不愉快そうな姉弟の視線を浴びながら立ち去った。
翌日以降、ニックがスザンヌの送り迎えをする日々が続く。一緒に買い物に出掛けたニックはスザンヌにキスしようとするが、「そう簡単には行かないわ。私はシングルマザーなのよ。お友達のままでいましょう」と言われる。諦めきれないニックに、親友のマーティーは「キッパリと関係を断ち切れ。惨めな付き合いを続けるな」と促した。するとニックは「友達のままじゃ終わらない」と宣言した。しかし仕事でバンクーバーへ出張するスザンヌを空港まで送ったニックは「ありがとう、いい友達だわ」と言われて落胆した。
スザンヌは別れた夫のフランクから電話を受け、激しい口調で抗議する。電話を切って溜め息をついて彼女は、「元夫が病気で来られなくなったって。出張は中止」と言う。ベビーシッターのメイブルが仲間とベガスに出掛けるため、子供たちの面倒を見る人がいないのだ。「パパと一緒に大晦日を過ごすのを楽しみにしていたのに、またガッカリさせるわ。仕事もクビね」と悲しそうに漏らすスザンヌを見て、ニックは「俺が子供たちをバンクーバーまで送るよ」と申し出た。
スザンヌが「飛行機のチケットを3枚取るわ」と言い出すので、ニックは困惑して「空港まで送るだけのつもりだったんだけど」と話す。するとスザンヌは「子供たちだけで飛行機に乗せるの?ケヴィンは喘息持ちだから、機内で発作が起きるかもしれないし」と不安そうに言う。そこで仕方なく、ニックは向こうまで同行することにした。ニックは姉弟を迎えに行き、土産を要求された。何も用意していないニックだが、とりあえずリンジーにはピザのクーポン券、ケヴィンにはコルク抜きを差し出した。
ニックは空港に到着するが、ケヴィンがドアを乱暴に開けて新車を傷付けた。ニックが怒鳴るとケヴィンが泣き出したので、10ドルを支払って黙らせた。リンジーを黙らせるためには、倍額を支払う羽目になった。金属探知機を通る際、リンジーに脅されたケヴィンは、コルク抜きをニックの上着のポケットに忍ばせた。何も知らないニックは金属探知機に引っ掛かり、警備員に取り押さえられた。
空港を追い出されたニックは、電車を使おうとする。しかしケヴィンが小便をしたり靴ひもを直したりしたせいで、乗り遅れそうになる。何とか間に合ったが、ケヴィンは持っていた人形のマントが無いのに気付き、それを取りに戻ってしまう。ニックはリンジーとケヴィンが降りたのに気付かないまま荷物を運び込み、列車が出発してから2人が駅にいるのを発見する。仕方なく、彼は列車から飛び降りた。
ニックは新車を使い、姉弟をバンクーバーまで送り届けることにした。ニックは2人にルールを説明し、ちゃんと守るよう強く要求した。リンジーは嫌味っぽく、「ママと付き合おうとしてるなら無駄よ。まだパパと愛し合ってるんだから」と告げた。リンジーとケヴィンが些細なことから言い争いを始めたので、ニックは「いいかげんにしろ」と怒鳴った。ケヴィンのジュースを取り上げようとしたニックだが、誤って車内に飛び散らせてしまった。
渋滞を抜けてスピードを上げるニックだが、ケヴィンが尿意を催した。ニックはケヴィンを連れてコンビニのトイレに駆け込むが、どれも使えなかったので洗面所に排尿させた。マーティーから電話が掛かって来て、ニックは子供たちに「クソガキどもの相手はどうだ?もし嫌われたら彼女にデートしてもらえないぞ」という彼の言葉を聞かれてしまった。2人はニックを騙して車から追い出し、ドアをロックしてしまう。リンジーはハンドルを握り、車を発進させる。ニックは車に飛び乗り、何とか停止させた。
ニックは子供たちを後部座席に乗せ、ハイウェイに戻った。リンジーは彼に気付かれないように「助けて」と紙に書き、隣を走っていたトラック運転手のアルに見せる。アルは無線で仲間を呼び、路肩に寄せて来る。突破しようとしたニックは運転を誤り、道路を外れて森に突っ込んだ。。タイヤがパンクした車で道に戻ったニックは修理工場に駆け込むが、中国人工員は大晦日なので修理を請け合ってくれない。ニックはヤオ・ミンのカードをプレゼントし、何とか修理を承知してもらった。
ニックが車に戻ると、リンジーとケヴィンの姿が消えていた。貨物列車に2人がいるのを見つけたニックは、馬を借りて追い掛ける。だが障害物を飛び越えられず、落馬してしまった。姉弟はパパの住むレドモンドへ行くが、彼が新しい妻子と仲良くしているのを見てショックを受けた。そこへニックが現れ、落ち込む2人を車に乗せた。彼はダイナーで食事を取らせて元気付けようとするが、姉弟は暗いままだった。ニックは自分も同じ年頃で父親が家を出て行ったことを話し、2人を励ました。
ケヴィンが使っている吸入器のカートリッジが切れていることが分かり、ニックは薬局に立ち寄ろうとする。しかし薬剤師が休んでいるということで、目の前で店を閉められた。ニックは店員を睨み付け、薬剤師の住所を書かせた。学校でイジメを受けているというケヴィンに、ニックは凄みを効かせて相手を怯ませる方法を教えた。薬剤師はバザー会場で道化師をやっていた。ニックが事情を説明すると、彼は「ギブ・アンド・テイクだ」と代わりに道化師をやるよう要求した。
ママから甘い物を止められていたリンジーとケヴィンだが、たくさんのデザートを見て我慢できずに手を伸ばす。ケヴィンは大柄な少年にブラウニーを奪われそうになるが、ニックから教わった方法で退散させた。ニックが大勢の子供たちに飛び掛かられるのを見たリンジーは舞台に上がってマイクを握り、「カラオケの時間よ」と告げた。彼女は音楽に合わせて歌い踊り、参加者の喝采を浴びた。ニックたちは薬剤師からカートリッジを受け取って出発するが、誤って車を爆発させてしまう…。

監督はブライアン・レヴァント、原案はスティーヴン・ゲイリー・バンクス&クローディア・グラジオソ、脚本はスティーヴン・ゲイリー・バンクス&クローディア・グラジオソ&J・デヴィッド・ステム デヴィッド・N・ワイス、製作はダン・コルスラッド&アイス・キューブ&マット・アルヴァレス、製作総指揮はトッド・ガーナー&デレク・ドーチー、撮影はトーマス・アッカーマン、編集はローレンス・ジョーダン、美術はステヴン・ラインウィーヴァー、衣装はガーシャ・フィリップス、音楽はデヴィッド・ニューマン。
主演はアイス・キューブ、共演はニア・ロング、ジェイ・モーア、M・C・ゲイニー、アレイシャ・アレン、フィリップ・ダニエル・ボールデン、ニシェル・ニコルズ、ヘンリー・シモンズ、ジェリー・ハーデイン、デレク・ロウ、ナンシー・ロバートソン、C・エルンスト・ハース、デヴィッド・マッケイ、ケイシー・デュボワ、JB・マッコーン、ケニアン・ルイス、ダニエル・カドモア、ティモシー・ポール・ペレス、エイドリアン・ホームズ、デナルダ・ウィリアムズ、ヴィヴ・リーコック、レイ・ガレッティー、アン・ウォーン・ペッグ、フランク・C・ターナー他。
声の出演はトレイシー・モーガン。


『フリントストーン/モダン石器時代』『ジングル・オール・ザ・ウェイ』のブライアン・レヴァントが監督を務めた作品。
ニックをアイス・キューブ、スザンヌをニア・ロング、マーティーをジェイ・モーア、アルをM・C・ゲイニー、リンジーをアレイシャ・アレン、ケヴィンをフィリップ・ダニエル・ボールデン、メイブルをニシェル・ニコルズが演じている。
サチェル・ペイジ人形の声をトレイシー・モーガンが担当している。

ニックが大事にしている首振り人形のサチェル・ペイジは、ニグロ・リーグ(黒人だけのリーグ)出身者として初めて野球殿堂入りしたピッチャーであり、黒人社会においてはジャッキー・ロビンソンに匹敵するほど特別な存在。
で、「果たして、そんな特別な存在であるペイジを、人形とはいえギャグに使って、黒人としてはOKなのかな」と少し考えてしまった。
日本で例えるのは難しいのだが、例えば王さんや長嶋さんの人形をギャグ的に使ったとして、プロ野球ファンや巨人ファンの怒りを買わないのかなと。
あと、そもそもサチェルの人形に喋らせている意味も、ほとんど感じないんだよな。
物語には全く影響を及ぼさないのよ、この人形のトークって。たまにニックがリアクションを取る程度で、ほぼ一人で喋ってるだけだし。

これは個人的な趣味が大きく関係して来るのかもしれないが、ニア・ロングって、ただ普通に歩いているのを写しただけで「ニックが一目惚れした」というところに説得力を持たせることが出来ほどの美女なのかな。
いや、決して不細工とは言わないよ。
だけど、そこにいるだけで美女として万人を納得させられるほどの力は無いようにも思えるんだけどなあ。
それなのに、BGMも含めて「絶世の美女が現れた」という感じで演出されているので、どうにも違和感が拭えない。

冒頭、リンジーとケヴィンが「いつかパパが帰って来る」と信じていること、そのためにママに近付く男を『ホーム・アローン』ばりに追い払っていることが描かれる。その後、ニックが登場して彼の子供嫌いが描写され、それから「スザンヌに一目惚れするけど子持ちなので退散し、でも助けを求められてから親しくなって」という順番になっている。
だが、これは構成として上手くないと感じる。
それよりも、例えば最初にニックを登場させてキャラ紹介を済ませ、そこから「スザンヌに一目惚れする」→「子持ちだと知るけど既に気持ちが盛り上がっているので悩む」といった展開にした方がいいのではないか。
この映画の流れだと、ニックが登場した時点で、その後の大まかな展開が全て読めてしまう。

それと、「ニックがスザンヌに惹かれて話し掛けようとするが、子供たちが彼女に駆け寄るのを見て撤退する」という手順が無駄にしか思えない。
どうせ、その直後に彼女から助けを求められて親しくなるんだし。
リンジーとケヴィンが「いつかパパが帰って来る」と信じていることを最初に明かしてしまうのも、勿体無いなあと感じる。
そこを隠したままで「リンジーとケヴィンがニックを徹底的に攻撃する」という展開を描き、後半に入って「攻撃する理由は、いつかパパが帰って来て家族4人で仲良く暮らせると信じているからだ」と明かせば、「ただ単に生意気で無礼なガキどもではなく、パパを愛しており、寂しさを感じている可哀想な子供たちなのだ」という見せ方をすることも出来たはずなんだし。

ニックが助けを求めたスザンヌを自宅まで送り届けると、リンジーとケヴィンは露骨に敵対的な態度を示す。
ところが、スザンヌが翌日からの送り迎えを頼み、「何度もそれをやりました」ってのがダイジェストとして描写される中で、この姉弟は全く関与していないのだ。
毎日の送り迎えをしている時点で「ママに近付く男」に該当するはずなんだから、排除するための行動を取るべきじゃないのか。
そこで全く関与しないのは違和感がある。

で、そこでニックを排除する動きを取らせないのなら、「リンジーとケヴィンはママに近付く男を排除している」というのを見せない方がいいのだ。
いっそのこと、ママの前では良い子として振る舞っており、だからニックも「この2人となら上手くやっていけるかも」と期待を抱く、という形にでもしておけばいい。
そして、「ママがいなくなった途端に子供たちは本性を現し、ニックを攻撃する」という展開にして、そこで初めてリンジーとケヴィンの裏の顔を見せればいいのではないか。

やりたいのが「子供嫌いの主人公が、反抗的なガキどもと一緒に過ごす羽目になり、最初はいがみ合っていたが次第に仲良くなる」という話だってのは良く分かる。
ただ、子供嫌いのニックが姉弟と仲良くしようとする理由は「スザンヌと仲良くなりたい」ってトコロにあるわけで、その男女関係の描写があまりにも薄すぎるってのは引っ掛かる。
まだスザンヌってニックを友達としか考えていない状態で、その段階で物語から一時退場し、終盤まではニックと子供たちの話になっちゃうんだよね。ニック&子供たちの話と、ニック&スザンヌの恋愛劇を並行して描くわけではないのだ。
恋愛劇を完全に停止させてしまうのなら、スザンヌが一時退場する時点で、「もうニックと彼女は愛し合っていて、子供の問題だけが障害」という状態にしておいた方がスムーズに話が転がるはずだ。

ニックが子供たちを迎えに行くと土産を要求され、ケヴィンは「中国人の真似」と言って股間を蹴り上げる。
しかし、それは「ママに近付く男を排除する」という目的を持った行動には全く見えない。単純に「生意気なガキども」というだけである。
それに、ケヴィンは土産を貰って素直に喜び、新車に傷を付けて怒られると素直に「ごめん」と謝っている。
スザンヌを送って行った時の攻撃的な姿勢は、どこへ行ったのか。
リンジーの方も、生意気ではあるが、排除しようという姿勢は無い。

ケヴィンが空港でコルク抜きを上着のポケットに忍ばせるのも、列車の駅で小便へ行ったり靴紐を直したりしてグズグズするのも、ニックを困らせてやろうという意図があるわけではない。
そんなことをしてパパと会えなくなるのは自分なのだから、何のメリットも無いんだし。
で、そうなると、冒頭シーンの描写は何だったのかと。そこで予想させた展開と、まるで違っているぞ。
その予想外の展開は、決して歓迎できるモノではない。
そこは予定調和で行くべきでしょ。

これだと、単に「子供嫌いのニックが、自由奔放で行儀の悪い子供たちに苦労させられる」というだけではないか。「姉弟がママに近付く男を排除しようとする」という設定は、すっかり消えているぞ。
それに、リンジーがケヴィンを注意し、ケヴィンがリンジーに反抗するという関係性もあって、2人が結託してニックに対抗するというわけでもないんだよな。
「姉弟が結託し、ママを口説くために家へ来た男を攻撃する」という冒頭の描写さえ無ければ、それでも違和感は無いのよ。
つまり、冒頭シーンが大きなマイナスになっているのだ。

マーティーからの電話があって、ようやくリンジーとケヴィンがニックを攻撃しよう、排除しようとする動きが見られるようになる。
最後まで「生意気なガキにニックが苦労する」という展開で行くのかと思ったら、そうじゃないのね。
ただ、映画開始から40分ほど経過して、そういう展開に行くのなら、なぜ最初からやらないのかと思ってしまう。
そこまで子供たちを「ただ生意気なだけ」にしておいて、そこに何の意味があるのかと。

リンジーとケヴィンがフランクの生活を見てショックを受け、そんな2人をニックが励ますと、もう敵対関係はすっかり無くなっている。
その後は、「切れたカートリッジを手に入れようとする」とか、「ケヴィンがゲロを吐く」とか、「夜道で鹿と遭遇する」とか、どこへ向かっているのか良く分からないフラフラしたエピソードが続く。
「バザー会場でリンジーが歌う」という展開があったりもするが、ただ唐突なだけにしか感じない。

「子供たちがフランクの家へ行く」という目的が消滅した後も、「バンクーバーにいるスザンヌの元へ行く」という目的が残っている。
だが、ニックと姉弟が仲良くなったのだから、それは普通にしていれば達成できることだ。
で、それだと話が盛り上がらないから色々と騒ぎを起こしているのだが、ほぼ蛇足になってるんだよな。
旅が終わった後に「スザンヌが誤解してニックを遠ざけようとする」→「ニックが誤解を解いて仲直り」という展開があるが、これまた蛇足になっているし、構成に難があるなあ。

(観賞日:2014年1月28日)

 

*ポンコツ映画愛護協会