『フライングハイ』:1980、アメリカ

客室乗務員のイレイン・ディッキンソンが乗務のため空港に着くと、恋人のテッド・ストライカーが追い掛けて来た。テッドはイレインを見つけ、「家に行ったら君の置き手紙があった」と言う。「愛想を尽かすのは当然だが、少し我慢してくれたら昔のように戻る」と彼が訴えると、エレインは「我慢したけど貴方は意見を聞かなかった。尊敬できない人とは暮らせない」と告げて立ち去った。オバー機長はブロディー医師から電話を受け、シカゴ行き209便に乗るリサ・デービスという少女の心臓移植について聞かされる。ブロディーはオバーに、6時間以内に患者を手術室へ届けてもらいたいと要請した。
テッドはイレインを追い掛けて粘るが、「なぜボーイング社の仕事を断ったの」と詰め寄られる。彼が「戦争以来、飛行機が苦手になった。応募しても戦歴で切られる」と話すと、イレインは「戦争中のことなんて誰も問題にしない。問題は戦後の貴方よ。シカゴから戻ったら一人で出直すわ」と突き放した。オバーは操縦室で、航空士のロジャーに副操縦士のバスタを紹介した。テッドはイレインを諦め切れず、彼女が乗務するシカゴ行き209便のチケットを購入した。彼は飛行機に搭乗し、シートベルトを締めた。
飛行機が離陸した後、イレインはテッドと遭遇する。テッドが「話があるんだ」と話し掛けると、彼女は「今は忙しいの」と仕事を続けた。テッドは隣の老女から「なぜ仲違いしたの?」と問われ、「全てです」と言う。彼は「初めて会ったのは戦争中で、僕は空軍でアフリカ北部にいた」と話す。テッドは酒場に入り浸っていた時、イレインを見て心を奪われた。彼はイレインを誘い、一緒に踊った。テッドは席を移り、他の乗客にも思い出を語った。その様子を見たイレインは、テッドに出撃命令が下った時のことを振り返った。
ジョーイという少年が操縦室へ行きたがると、イレインはオバーの許可を得て案内した。テッドはイレインに「いずれ昔のように戻るさ」と訴えるが、「無理よ、貴方が過去に生きている限りは」と指摘された。テッドは戦場で爆撃に失敗し、アメリカ陸軍病院の神経科に収容された。見舞いに訪れたイレインは、本部から電報が来たことを教えた。「貴方の罪ではないって」と彼女が言うと、テッドは「しかし、判断を間違えて6人も死なせた」と告げる。イレインはジップが今朝になって死んだので、合計7人だと知らせた。同室のジェリン大尉は、まだ戦場で戦っている気持ちのままだった。
客室乗務員のランディーは尼僧がギターを持っているのに気付き、「病気の少女を元気付けたいのです」と告げて貸してもらった。彼女はリサの元へ行き、ギターを弾いて歌った。テッドは乗客に向かい、まだ思い出話を続けていた。戦後に彼とイレインは平和部隊に志願し、辺境に暮らすモロンボ族を担当した。2人は西洋の文明を教え、やがて信頼されるようになった。イレインから「戦争前の計画通り、帰国して家庭を持ちましょう」と言われても、テッドは賛同しなかった。それでも彼は帰国するが、酒に溺れて職を転々とした。
ある女性客が体調の異変を訴えたため、イレインはオバーの指示で医者を捜す。ルーマックという医者が搭乗しており、女性を診察した。彼はイレインに、入院させるために一刻も早く着陸するよう告げた。しかしオバーはルーマックに、霧が出ているので着陸まで2時間は掛かると話す。バスタとロジャーが次々に倒れ、乗客にも3名の病人が出た。ルーマックはイレインに食事を調べさせ、倒れた全員が魚を選んでいることを聞く。彼は「魚を食べた者は30分以内に発病する」と言い、具体的な症状を説明した。
魚を食べていたオバーも意識を失ったため、イレインはルーマックの指示で自動操縦に切り替えた。マクロスキー管制官から通信が入ると、イレインは機長も副操縦士も倒れたことを伝える。マクロスキーは他の旅客機の離陸を全て禁止し、508便の着陸に備える。部下は彼に、霧のために着陸可能な空港はシカゴだけだと知らせる。最高のプロが必要だと考えた彼は、クレーマー機長を呼ぶことにした。イレインはマクロスキーの指示を受け、飛行機の速度や高度を報告した。
ルーマックはイレインに、「機の責任者として考えろ。病院を入院させるには着陸が必要だ。乗客の中から操縦できる者を捜せ」と語った。ランディーから「飛行機を操縦できる人を捜しています」と言われたテッドは、ためらいながらも操縦室へ出向いた。彼は「戦闘機の経験しか無い。それに飛行機は6年ぶりだ」と難色を示すが、ルーマックは「君が頼みの綱だ」と訴えた。呼び出しを受けて空港へ向かうクレーマーは、テッドが操縦することを知った。テッドの戦友であるクレーマーは、彼の精神面の脆さを心配した。
管制官のヘンショーたちがいる管制塔に着いたクレーマーは、マクロスキーに「あいつは戦争で自信を失った。まずは悪夢を忘れさせる必要がある」と語った。クレーマーは無線でテッドに呼び掛け、旅客機の操縦は簡単だと嘘をつく。テッドが操縦を始めると、クレーマーはイレインを隣の副操縦席に座らせて無線を担当させるよう指示した。テッドは精神を集中し、シカゴ空港へ旅客機を向かわせる。しかし第4エンジンから火が噴き出すと、不安に見舞われたテッドは操縦室から逃げ出してしまう…。

監督はジム・エイブラハムズ&デヴィッド・ザッカー&ジェリー・ザッカー、脚本はジム・エイブラハムズ&デヴィッド・ザッカー&ジェリー・ザッカー、製作はジョン・デイヴィソン、製作総指揮はジム・エイブラハムズ&デヴィッド・ザッカー&ジェリー・ザッカー、製作協力はハント・ロウリー、撮影はジョセフ・バイロック、美術はワード・プレストン、編集はパトリック・ケネディー、衣装はロザンナ・ノートン、音楽はエルマー・バーンスタイン。
出演はロバート・ヘイズ、ジュリー・ハガティー、カリーム・アブドゥル=ジャバー、ロイド・ブリッジス、ピーター・グレイヴス、レスリー・ニールセン、ローナ・パターソン、ロバート・スタック、スティーヴン・スタッカー、ジム・エイブラハムズ、フランク・アシュモア、ジョナサン・バンクス、クレイグ・ベレンゾン、バーバラ・ビリングスリー、リー・ブライアント、ジョイス・バリファント、メイ・E・キャンベル、テッド・チャップマン、ジェシー・エメット、ノーマン・アレクサンダー・ギブズ他。


『ケンタッキー・フライド・ムービー』の脚本を手掛けたZAZトリオ(デヴィッド・ザッカー&ジム・エイブラハムズ&ジェリー・ザッカー)が、初監督を務めた作品。
テッドをロバート・ヘイズ、イレインをジュリー・ハガティー、マードックをカリーム・アブドゥル=ジャバー、マクロスキーをロイド・ブリッジス、オバーをピーター・グレイヴス、ルーマックをレスリー・ニールセン、ランディーをローナ・パターソン、クレーマーをロバート・スタック、ヘンショーをスティーヴン・スタッカーが演じている。
尼僧役でモーリーン・マクガヴァン、ハーウィッツ大尉役でエセル・マーマンが出演している。

『大空港』から始まる「エアポート」シリーズと、1975年の日本未公開作品『Zero Hour!』がパロディーのベースになっている。
それ以外でも、色々な映画のネタが色々と持ち込まれている。
例えばオープニングシーン、雲の上に旅客機の垂直尾翼だけが見えて動き回るのは、『ジョーズ』が元ネタ。アフリカの酒場でテッドとイレインが踊るシーンは、流れる曲もそのまんまで『サタデーナイト・フィーバー』。
元ネタをパニック映画だけに絞っているわけではない。
また、パロディーではない小ネタも多く持ち込まれている。っていうか、そっちの方が遥かに多いと思う。
私が気付かなかったパロディーも色々とあるんだろうけどね。

本編が始まると、空港では教会への寄付を求める人々がいて、声を掛けられた仏僧たちは「相手を見な」と言う。
金属製品を全て出すよう係員に指示された男は、義手と義足を渡す。
旅客機を誘導していたスタッフは同僚からフォークリフトの場所を問われ、ライトスティックで場所を示す。旅客機も誘導されてしまい、建物に突っ込む。
オバーはアナウンスで白電話を取るよう指示され、誤って赤電話を取ると「白です」と言われる。オバーは白を取ったのに「白を取ってください」と言われ、「白を取った」と告げると会話が始まる。

ブロディー医師がオバーに電話する時、机には寄贈された心臓を置いてあり、それがピクピクして飛び回る。
飛行機に乗ることを決めたテッドか煙草を吸うと言うと、グランドスタッフは煙がモクモクしているチケットを渡す。
カップルは別れを惜しみ、男が乗り込むと扉が閉まらない内に飛行機は動き出す。女は飛行機を追い掛け、塔を次々に薙ぎ倒す。
飛行機が離陸すると、尼僧は『BOY'S LIFE』という雑誌を読んでおり、少年は『NUN'S LIFE』を読んでいる。

テッドとイレインがビーチで抱き合う回想シーンでは、大波が来て2人が飲まれたり、昆布まみれになったりする。
オバーはジョーイに「操縦室は初めてかい?」と尋ね、「飛行機が初めてだ」という答えに「男の裸を見たことは?スポーツ・ジムには良く行くかい?」と質問する。
ジョーイはロジャーを見て、「レイカーズのカリームだ。何度も試合を見た」と言う。ロジャーは「人違いだ」と否定するが、ジョーイが「パパの説だと守備が弱いって。練習が足りないから」と話すと「大学でもそう言われた。だが毎晩の連中は辛いぞ」と告げる。
怯えるジョーイに、オバーは「映画ファンに転向しろ」と言う。

病院でテッドは、イレインに同室の患者を紹介する。彼が「ハーウィッツ中尉は被爆後、エセル・マーマンになった」と言うと、エセル・マーマンがベッドから起き上がって歌を披露するが、すぐに看護師たちに取り押さえられる。
エセル・マーマンは1930年からブロードウェイで活躍し、「ブロードウェイの女王」と呼ばれたミュージカル界のレジェンドだ。
ランディーは尼僧からギターを借り、それを運ぶ時には乗客の頭に次々とぶつける。
彼女は歌い出すと乗客も乗務員も笑顔になるが、ギターがぶつかって点滴が外れたのに全く気付かない。
リサが苦しみ始めて付き添いの母親が慌てる中、乗客は笑顔で合唱する。

ルーマックが病気の婦人を診察すると、彼女は口から次々に卵を吐き出す。
ルーマックが病気の症状について話すのを聞いていたオバーは、それに合わせて苦しみ始める。
「最後は腐ったゼリーになる」とルーマックが語ってカットが切り替わると、ゼリーがプルプルと揺れる様子が写し出され、女性客のオッパイもプルプルと揺れる。
ランディーが自動操縦のスイッチを押すと、ゴム人形のオットーが膨らんで操縦桿を握る。

オットーが萎み始めると、マクロスキーはイレインに「股にあるチューブで膨らませろ」と指示する。イレインがチューブに息を吹き込むと、それを背後から見たルーマックはフェラチオだと勘違いする。
オットーを膨らませたイレインは、まるで一戦交えた後のように煙草を吸う。
ルーマックから操縦を依頼されたテッドが操縦席を見ると、カメラが右へのパンを続け、ずっと機器が続く。
機体の揺れが続くことに耐え切れなくなった女性が「今すぐ飛び降りるわ」と騒ぐと、ランディーが両肩を揺らして落ち着くよう諭す。別の男が「私がやろう」と言い、さらに激しく揺らしてビンタする。
そうやって次々に担当者が交代しながら、行動をエスカレートさせていく。

空港に到着したクレーマーは、話し掛けてくる連中を追い払う。最初の男は軽く突き飛ばすだけだが、次の男は腹を殴る。次は蹴り飛ばし、その次は投げ飛ばす。そうやって、まるで敵が襲って来たかのように全員を撃退する。
セルフサービスの荷物受け取り所では、人間がレーンに座っていて流れて来る。
クレーマーは無線でテッドに呼び掛け、マクロスキーには「自信を付けさせるために芝居を」と告げる。だが、「彼では無理だ」「湖へ落とせば命は助かる」といった内緒話も、全て無線でテッドに聞こえている。

テッドが操縦を始めると機体は激しく揺れ、オットーがフワフワと浮かぶ。いつの間にかオットーはイレインの背後に回り、両手で彼女のオッパイを揉む形になる。
ルーマックが乗客に「騒ぐ必要は無い」「副操縦士の病気は軽い」「残る2人が無事に操縦している」などと嘘を重ねると、どんどん鼻が伸びる。
オバー夫人が管制塔から呼び出されると、ベッドの隣には浮気相手の馬が寝ている。
男性客から酒を勧められた老婦人は「お酒なんて」と断り、コカインを吸う。

そんな風に次から次へとネタが出て来て、基本的には「質より量」だと思っていいだろう。「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」なんていうことわざがあるけど、そんな感じかな。
ただ、全米脚本家組合賞の最優秀脚色賞を受賞したり、ゴールデン・グローブ賞作品賞にノミネートされたりしているんだから、パロディー映画としては立派なモンだよ。
ちなみにZAZトリオは、その後も『トップ・シークレット』や『裸の銃を持つ男』などを手掛けた。別々の活動が増えた後も、デヴィッド・ザッカーとジム・エイブラハムズは『ホット・ショット』や『最'狂'絶叫計画』といったパロディー映画に携わっている。
そうそう、すっかり書き忘れていたけど、スティンカーズ最悪映画賞の候補になったジル・ウィーランは、リサを演じた子役ね。

(観賞日:2020年4月25日)


1980年スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最悪の子役】部門[ジル・ウィーラン]

 

*ポンコツ映画愛護協会