『8mm』:1999、アメリカ&ドイツ

私立探偵のトム・ウェルズはマイアミでの調査を終え、ペンシルヴァニアのハリスバーグ空港へ戻った。彼は依頼主であるマイケルソン 上院議員を訪ね、娘の夫の浮気調査について報告した。帰宅した彼は編集の仕事をしている妻のエイミーと会話を交わし、生まれて間も ない娘のシンディーを抱き上げる。翌朝、弁護士のダニエル・ロングデイルから仕事を依頼する電話が入った。ウェルズはロングデイルが 顧問弁護士を務めるクリスチャン家の豪邸へ赴いた。
ウェルズはクリスチャン夫人から、死去したばかりの夫の遺品について相談を受ける。金庫に保管されていた8ミリフィルムに、若い娘の 殺人現場が映っていたというのだ。ウェルズは「作り物ですよ」と言うが、夫人は「とにかくフィルムを見て、本物ではないという証拠を 見つけてほしい」と告げる。フィルムを映写機に掛けてみると、下着姿の少女が黒いマスクを被った人物に暴力を受けて惨殺される場面が 映っていた。それはウェルズが目を背けたくなるような、おぞましい映像だった。
ウェルズは「警察の専門家に鑑定を依頼すべきです」と進言するが、ロングデイルは「故人の名に傷が付く」と拒み、調査を依頼した。 「フィルムを破棄すれば全て闇に葬れるんですよ」とウェルズは夫人に告げるが、「あの娘が無事であることを知りたいの」という言葉が 返って来た。調査を開始したウェルズは、まず使われていたフィルムが1992年に製造中止になっていることを突き止めた。つまり、撮影は 1992年より以前に行われていたということだ。
さらに調査を進めたウェルズは、フィルムの少女の素性を突き止めた。1993年に失踪した当時16歳のメアリー・アン・マシューズという 少女だ。ウェルズは彼女の母ジャネットを訪ね、州公認の調査員と偽称して話を聞く。メアリー・アンはジャネットや義理の父デイヴと 口論が絶えず、学校でもトラブルばかり起こしていたという。デイヴはメアリー・アンが家出した後、蒸発していた。ジャネットは、自分 が手を上げてしまったせいで娘が家出したのだと、罪の意識を感じていた。
ウェルズがジャネットの許可を得て家を調べると、トイレのタンクにメアリー・アンの日記帳が隠されていた。そこにはジャネットへの 手紙が挟まれており、女優志願だったメアリー・アンがハリウッドへ行くこと、同じく俳優志望である恋人ウォーレン・アンダーソンと 同居を始めることが記されていた。ウェルズは手紙や日記帳のことをジャネットに明かさず、ウォーレンの父を訪ねて息子のことを訊く。 すると、ウォーレンは家宅侵入罪で刑務所に入っていた。
ウェルズは刑務所へ赴いてウォーレンと面会し、メアリー・アンのことを質問した。するとウォーレンは冷たい態度で、「ロスへ移る時に 捨てたら後を追ってきやがったから、蹴り出してやった。その後は知らねえ。高校時代にヤッただけの女だ」と告げる。ジャネットの元へ 戻ったウェルズは、「貴方はどちらを選びますか。娘さんがどこかで幸せに暮らしていると想像するが、真実は分からない。あるいは、 最悪の事態で娘さんに不幸が起きているが、何があったのかを知らされる」と質問した。ジャネットは少し考え、「真実を知りたいわ」と 答えた。ウェルズは日記帳をジャネットにも分かる場所に置き、彼女の家を後にした。
ウェルズはハリウッドへ飛んでメアリー・アンの行方を捜索するが、なかなか手掛かりは掴めない。一軒のアダルト書店に立ち寄った彼は 、スナッフ・フィルムの男が被っていた黒マスクが売られているのを発見した。改めてフィルムをチェックした彼は、撮影者と黒マスクの 男の他に、物陰から覗いている3人の男がいることに気付く。ウェルズはデジタル処理の会社に依頼し、コンピュータで写真を鮮明な画像 にしてもらった。
再びアダルト書店を訪れたウェルズは、店員のマックスに報酬を約束して調査協力を依頼した。ウェルズが「闇ポルノに関わっている人間 を知りたい」と言うと、マックスは「ハマッたら抜けられない世界だ」と警告した上で、闇ポルノを取り扱っている連中の元へ案内する。 だが、「スナッフはあるか」とマックスが尋ねると男たち激昂し、拳銃を取り出した。慌ててウェルズが金を渡すと、連中は2人を乱暴に 追い払った。ウェルズはマックスに連れられてマニアたちが集まる闇市場に赴くが、スナッフ・フィルムは無かった。
ウェルズはマックスの仲介でスティックという男と会い、数本のスナッフ・フィルムを購入した。しかし映像を見ると、複数の作品で同じ 女が殺されており、すぐに偽物だと判明した。翌日、救済センターを訪れたウェルズは、メアリー・アンが1ヶ月ほど暮らしていたこと、 急に消息を絶ったことを尼僧から聞いた。メアリー・アンが残していったバッグを調べると、電話番号のメモがあった。掛けてみると 使われていなかったが、ウェルズは調査してセレブリティー・フィルムズというポルノ映画製作会社に辿り着いた。
ウェルズはセレブリティー・フィルムズを訪れ、社長のプールにメアリー・アンの写真を見せて「会ったことは?」と質問した。プールは 「知らないね」と答えるが、その態度にウェルズは疑いを抱いた。彼は向かいのビルの一室を借りてプールを監視し、電話を盗聴した。 プールが外出したので、ウェルズは尾行した。すると、ある邸宅で闇ポルノの撮影が行われようとしていた。密かに覗いていたウェルズは 、プールの仲間に気付かれて逃走した。
別の日、ウェルズが監視と盗聴を続けていると、プールは誰かに「6年前の少女のことが気付かれたぞ。彼女に何をした?お前は仲間と 少女を殺した。撮影しただろ。全てバレたぞ」と電話を掛けた。それから別の男に「マズいことになった。電話じゃ話せない。そっちへ 行く」と電話した。ウェルズが2つ目の電話番号を調べると、相手はニューヨークのディーノ・ヴェルヴェットという男だった。
ウェルズはマックスに、ディーノのことを尋ねた。マックスによると、ディーノは変態ポルノの監督で、SM界のジム・ジャームッシュと 呼ばれているらしい。芸術家気取りで、あまり市場に作品が出回らず、たまにSM雑誌で広告が掲載される程度だ。法律スレスレの作品も 、注文を受ければ撮るという噂があるという。ウェルズは、ディーノに近い人物を知っているというマックスと共にニューヨークへ行く。 ディーノの作品を購入して観賞すると、あの黒マスクの男が出演していた。マックスによると、マシーンと呼ばれているディーノ作品の 常連俳優だという。
ウェルズはマックスに仲介してもらい、ディーノの事務所を訪れた。ウェルズはファンを装い、ディーノに映画製作を依頼した。彼は 1万ドルの製作費を提示し、「撮影の様子を見たい」「マシーンを起用してほしい」という2つの条件を付ける。ディーノは予算の増額と 引き換えに、その条件を承諾した。大きな危険が伴うと考えたウェルズは、マックスに報酬を渡し、ロスへ帰るよう指示した。
翌日、ウェルズは拳銃を携帯し、撮影場所へ向かった。するとディーノとマシーンが待っていたが、俳優の姿は無かった。ディーノは クロスボウを構え、ウェルズに「隠している銃を渡してもらおう」と告げる。彼の正体は、ディーノに気付かれていたのだ。そこへ車で プールが現れ、「あいつだ」とディーノに言う。拳銃を取り上げられたウェルズは、手錠を掛けられ、ベッドに拘束された。
ディーノは「古い知り合いが全て明かしてくれたよ」とウェルズに告げ、現場に現れたロングデイルを紹介した。ロングデイルはディーノ に、ウェルズを片付けるよう要求した。ディーノたちはマックスを捕まえ、激しい暴行を加えていた。彼らは拘束したマックスの姿を ウェルズに見せ付け、「フィルムを持って来い。さもなければ、奴を殺して、それを撮影する。それで不充分なら、次はお前の家族だ」と 脅迫する…。

監督はジョエル・シューマッカー、脚本はアンドリュー・ケヴィン・ウォーカー、製作はギャヴィン・ポローン&ジュディー・ホフランド &ジョエル・シューマカー、共同製作はジェフ・レヴィン、製作総指揮はジョセフ・M・カラッシオロ、撮影はロバート・エルスウィット 、編集はマーク・スティーヴンス、美術はゲイリー・ウィスナー、衣装はモナ・メイ、音楽はマイケル・ダナ。
主演はニコラス・ケイジ、共演はホアキン・フェニックス、ジェームズ・ガンドルフィーニ、ピーター・ストーメア、アンソニー・ ヒールド、クリス・バウアー、キャサリン・キーナー、マイラ・カーター、エイミー・モートン、 ジェニー・パウエル、アン・ジー・バード、ジャック・ベッツ、ルイス・オロペサ、レイチェル・シンガー、ドン・クリーチ、ノーマン・ リーダス、フラン・ベネット、ウィルマ・ボネット他。


『セブン』『ハイダウェイ』のアンドリュー・ケヴィン・ウォーカーが脚本を執筆し、『評決のとき』『バットマン&ロビン/Mr. フリーズの逆襲』のジョエル・シューマッカーが監督を務めた作品。
ウェルズをニコラス・ケイジ、マックスをホアキン・フェニックス、 プールをジェームズ・ガンドルフィーニ、ディーノをピーター・ストーメア、ロングデイルをアンソニー・ヒールド、マシーンをクリス・ バウアー、エイミーをキャサリン・キーナー、クリスチャン夫人をマイラ・カーター、ジャネットをエイミー・モートンが 演じている。
ウォーレンを演じているのは、まだ俳優として売れる前のノーマン・リーダスだ。

まだ何も始まっておらず、ウェルズは上院議員の娘の夫の浮気調査で動いているのに、もう冒頭から不安や恐怖を煽るような音楽が流れる 。
だけど、これってサニーサイド・オブ・ザ・ストリートを歩いていた主人公が、ダークサイドに足を踏み入れるという話なんじゃないのか 。
だったら、まだダークサイドに足を踏み入れる前から、不穏な雰囲気を漂わせすぎるってのは違うんじゃないのかと思うぞ。
バカみたいに明るく陽気にやれってわけじゃないけどさ、家族がいて幸せに暮らしているんだから、不安を最初から煽るのは違うだろうと。

それと、家族のシーンでも、無意味に不自然な箇所があるんだよなあ。
夫婦で情事にふけっていた時、娘が夜泣きしたのでウェルズがあやしに行くシーンがあるんだけど、ここでエイミーが「貴方、愛してるわ 」と言い、ウェルズが「僕もだ」と返すのは変じゃないか。
そのタイミングでエイミーが「愛してるわ」は、あまりにも唐突でしょ。
そんな時にでも愛の確認をしなきゃダメなぐらい、夫婦が何か問題を抱えているのかと思ってしまったぞ。

ウェルズがマックスの案内で複数の闇ポルノ市場を巡ったり、2つ目の場所にいた男に「スナッフはあるか。金に糸目は付けない」と 問い掛けて「そんな物は無い」と断られたり、SM映画の上映会を見学したり、そういう様子の描写って、筋書きだけを考えれば全く 必要性が無い。いきなりスティックの元へ行き、スナッフ・フィルムを買う手順に入ればいいだけだ。
そういうシーンを挟んでいるのは、「ウェルズが次第にダークサイドに染まっていく」という様子を描くためなんじゃないのか。
だけどマックスが言うところの「悪魔と踊れば悪に染まる」になっているべきなのに、そんな感じは無いんだよな。
妻への電話を忘れるとか、妻の電話に出ないとか、そういうのはダークサイドに染まりつつあるということじゃなくて、単純に「調査に 没頭している」ということに過ぎないし。

あと、ウェルズ役にニコラス・ケイジってのもミスキャストじゃないの。
なんか妙に辛気臭くて、「家族を大切にする小市民からの変貌」ってのが見えにくい。
最初から、ダークサイドに染まってはいないものの、片足ぐらいは突っ込んでいるような雰囲気さえあるんだよな。
「闇ポルノなんかに全く興味は無かったし、近付こうともしなかった」という、サニーサイドの住人としてのイメージは弱い。

「ロングデイルがクリスチャンの依頼を受け、本物のスナッフ・フィルムをディーノたちに撮らせた」という事件の真相が全て明らかに なったら、そこからは後片付けを済ませるだけのはず。
ところが、全て明らかになった時点で、まだ40分以上の尺が残されている。で、そこから何を描くのかというと、まずは脱出アクションで 、その後に私刑アクションが待っている。
私刑アクションについては後述するとして、脱出アクションの時点で、どうかと思うんだよな。
サスペンスやミステリーで主人公が行き詰ったりピンチに陥ったりした時、アクションで解決するってのは良くあるケースだけど、それ って大抵の場合、物語の質を下げる結果になるんだよな。
なぜかというと、筋書きとして「安易な逃避」に見えちゃうからだ。

ウェルズはクリスチャン夫人に「フィルムは貴方の主人のために撮影された本物です」と連絡し、自殺に追い込む。
彼女の自殺を知ってウェルズは衝撃を受けているが、そもそも、そんなことを何の迷いも無く明かしている時点で、彼の神経を疑いたく なる。
夫人は45年の結婚生活を送り、「自分を大事にしてくれていた。心から愛していました」と旦那のことを語っている。それほど深く旦那 を愛している老婦人に「貴方の旦那は殺人フィルムを撮影させていた」と明かしたら、そりゃあショックを受けることは分かり切って いる。
夫人に真実を明かす前に、「本当に言うべきだろうか」と、もう少し逡巡したらどうなのか。

で、そこで真実を明かしてしまったことにウェルズが罪の意識を覚えるのかと思いきや、そうではない。彼は「スナッフ・フィルムを 作った連中が全て悪いのだ」と考え、怒りの必殺私刑人へと変貌する。
そして脱出アクションで生き延びたプールとマシーンの始末に向かうのだ。
そりゃあ、もちろんスナッフ・フィルムを撮った連中はクズ野郎だよ。だけど、夫人が自殺して、「プールとマシーンを殺して決着を 付けてやる」と怒りに燃えるのは、思考回路がおかしいでしょ。
夫人を自殺に追い込んだ直接の原因は、アンタの軽率な行動なんだからさ。

マシーンを殺して決着を付けようとするのは、ウェルズが自分の失態を責任転嫁しようとする行為にしか思えない。
「スナッフ・フィルムを作った連中を始末してやる」と考えるのであれば、それは「いたいけな少女の夢と希望を奪ったことに怒りを 覚える」とか、「娘を奪われた母親の悲しみを感じて怒りに燃える」とか、そういうことじゃないと筋が通らないんじゃないの。
っていうか、そういう形であったとしても、やっぱり終盤になって「私刑人」に変貌するのは、やっぱり違和感が否めないなあ。

しかも、ウェルズはプールを始末する直前、ジャネットに電話して「数人の男が娘さんを犯して殺して埋めました。その男たちに罰を 与えたい。その許可を下さい」と告げる。
ジャネットが「聞きたくない」と泣き出しているのに、「娘さんを愛していたと言って下さい」と要求し、それを聞いてからプールを 殺すのだ。
そりゃあ確かにジャネットは「真実を知りたい」とは言っていたよ。だけどさ、もう少し、真実を明かすのに適した状況を作ってから、 そして実際に会って話すべきでしょ。
しかも、メアリー・アンが殺されたことをウェルズが明かすのは、ジャネットのためではない。自分がプールを殺す許可を貰うため なのだ。
真実の告白でクリスチャン夫人は自殺したのに、ジャネットに対して真実を明かすことについて、ウェルズは全く苦悩したり葛藤したり しないし、ヒドいよ。

で、そんなウェルズを「ダークサイドに染まったおぞましい男」として描いているならともかく、そうじゃないんだよな。
最終的には、ジャネットから感謝の手紙を貰って救われた気持ちになり、家族との幸せな生活に戻っている。そりゃ無いわ。
ウェルズって、救われちゃダメな類の男だぞ。
ただし、彼が救われない結末になったとしたら、この映画の評価が大きく変わったのかというと、そうでもないんだけどね。そこだけが 問題ってわけじゃないのでね。
結末を変えても、そこまでの負債を返せるわけじゃないからね。

(観賞日:2012年8月7日)


第22回スティンカーズ最悪映画賞(1999年)

ノミネート:【最悪の演出センス】部門[ジョエル・シューマッカー]
<*『8mm』『フローレス』の2作でのノミネート>

 

*ポンコツ映画愛護協会