『フィフス・ウェイブ』:2016、アメリカ

アメリカのオハイオ州。高校生のキャシー・サリヴァンはライフルを片手に森を抜け、車道に出た。荒らされている無人のコンビニに足を踏み入れた彼女は、物資を漁ってリュックに詰めた。「助けてくれ、怪我しいる」という男の声が聞こえたため、キャシーは警戒しながら銃を構えて奥へ向かう。怪我を負った男が拳銃を握っていたため、キャシーは下ろすよう要求した。拳銃を下ろした男は左手を腹に当てており、「左手を離すと内臓が飛び出す」と説明した。男の胸元に光る物を見たキャシーは、発砲して射殺した。しかし調べると、光っていたのは十字架のネックレスだった。
かつてキャシーは、ごく普通の女子高生だった。彼女は同級生のベン・パリッシュに片想いしていたが、2人になると上手く話せなかった。キャシーは父のオリヴァー、母のベス、弟のサムと4人で暮らしていた。ある日、巨大な飛行物体が飛来しで動画が拡散され、ニュース番組でも大きく報じられた。飛行物体は地球の上空を周回し、オハイオにも現れた。飛行物体は10日間に渡って沈黙し、「アザーズ」と呼ばれるようになった。
不安を抱いて田舎へ引っ越す人々も多かったが、キャシーは留まって学校にも通い続けた。飛行物体は攻撃の第1波として、電磁パルスで全ての電子機器を破壊した。あらゆるエンジンが止まり、電気や水道が使えなくなった。続く第2波では地震で大津波が発生し、あらゆる沿岸都市や島が消えた。第3波では、鳥インフルエンザウイルスの致死性を強めて、地球上に鳥を拡散させた。市民は診断に集められ、感染者は隔離された、キャシーの親友であるリズベスも隔離対象となり、施設で働いていたベスは感染して死亡した。
キャシーの一家は家を捨て、難民キャンプへ行くことにした。キャシーからアザーズの目的を問われたオリヴァーは、「地球を乗っ取りたいのさ」と答えた。難民キャンプでテント生活に入ったオリヴァーはキャシーに拳銃を渡して使い方を教え、「誰にも言わずに持ち歩け。もう安全な場所は無い」と述べた。米陸軍のヴォーシュ大佐と部隊がジープとスクールバスで難民キャンプに現れ、「救出に来た」と告げた。安堵する人々に、彼は「大人は説明会のため食堂へ。子供はスクールバスへ」と指示した。オリヴァーは子供たちに同行することを希望したが、ヴォーシュの説得を受けて承諾した。
スクールバスに乗ったサムがクマのヌイグルミを忘れたため、キャシーが取りに戻る。その間にスクールバスは出発してしまい、キャシーは置き去りにされた。食堂では説明会が始まり、ヴォーシュは「アザーズは船を出て地上に降りた。人間に寄生し、言動を操る力がある。このキャンプにも紛れ込んでいるらしい。子供は基地で検査できるが、大人の検査は複雑だ。全員を別の施設へ移送する」と語った。その様子を、キャシーは食堂の外から密かに観察していた。
子供に会えないと知った数名の大人たちが騒ぎ出し、銃を持ち出して喚く者まで現れた。激しい銃撃戦が勃発したため、キャシーは慌てて離脱する。軍隊が去ってからキャシーが食堂に戻ると、難民キャンプの大人たちは全滅していた。一方、スクールバスの子供たちは基地へ移送され、待機を命じられた。ベンはレズニック軍曹に呼ばれ、医務室で個人面接を受ける。感染から復活した彼は、隔離所でゾンビと呼ばれていた。彼は地震で妹を、ウイルスで両親を亡くしていた。
レズニックはベンにアザーズを追跡する探知器を渡し、戦うよう求めた。彼女はベンに、マジックミラーで遮られている隣の部屋を見るよう指示した。部屋では少年が拘束され、装置が頭部に取り付けられていた。レズニックはスコープを覗かせ、少年にアザーズが寄生していることを教えた。「薬は効かないし、手術しても無意味だ。宿主を殺す以外に方法は無い」と彼女は言い、ボタンを渡して押すよう指示する。ベンがボタンを押すと、少年は死亡した。
キャシーはコンビニで十字架の男を殺した後、高速道路に出たところで何者かに撃たれた。右太腿に被弾したキャシーは倒れ込み、道路脇で意識を失った。ヴォーシュは基地の子供たちに「アザーズは第5波を準備しているらしい」と言い、兵士としての厳しい訓練を積ませた。キャシーが意識を取り戻すと、エヴァン・ウォーカーという青年の家で介抱されていた。撃たれてから1週間が経っていることを知ったキャシーは、基地へ行って弟を救出する考えを口にした。
ベンをリーダーとする班には、サム、ダンボ、ティーカップ、パウンドケーキ、フリントストーンらのメンバーがいた。そこへ新入り隊員として、レズニックがリンガーという少女を連れて来た。別の班でリーダーだった彼女は、ベンたちに攻撃的な態度を示した。キャシーはエヴァンが自分の銃を隠していたと知り、激しく非難した。エヴァンは「仕方ないだろ、アザーズかもしれない」と釈明するが、疑念を抱いたキャシーは1人で基地へ行こうと考えた。するとエヴァンは「1人じゃ無理だ」と言い、同行を申し出た。
ベンは格闘訓練の際、リンガーに「俺が勝ったら射撃を教えろ」と持ち掛けた。彼はリンガーに勝利し、班の全員で射撃を教えてもらった。ベンはヴォーシュに呼ばれ、「複数の都市が同時に襲われた。これは第5波だ」と告げられる。ヴォーシュは医務室のスコープを応用したヘルメットを渡し、「レンズを通すと敵は緑に見える。実戦で試したいので、4班を出動させる」と述べた。翌日、ベンはサムを縛り付けてトイレに隠し、班を率いて実戦の場所へ向かった…。

監督はJ・ブレイクソン、原作はリック・ヤンシー、脚本はスザンナ・グラント&アキヴァ・ゴールズマン&ジェフ・ピンクナー、製作はトビー・マグワイア&グレアム・キング&マシュー・プルーフ&リン・ハリス、製作総指揮はデニス・オサリヴァン&リチャード・ミドルトン&ベン・ウェイスブレン、撮影はエンリケ・シャディアック、美術はジョン・ビリントン、編集はポール・ルベル、衣装はシャレン・デイヴィス、音楽はヘンリー・ジャックマン。
出演はクロエ・グレース・モレッツ、ニック・ロビンソン、ロン・リヴィングストン、リーヴ・シュレイバー、マギー・シフ、アレックス・ロー、マリア・ベロ、マイカ・モンロー、ザカリー・アーサー、トニー・レヴォロリ、タリタ・ベイトマン、ナジ・ジーター、アレックス・マクニコル、ガブリエラ・ロペス、マシュー・ザク、デレク・ロバーツ、ケイド・キャノン・ボール、フリン・マクヒュー、マイケル・ビーズリー、テリー・サーピコ、デイヴ・マルドナード、ベイリー・ボーダーズ、チャーミン・リー、パーカー・ウィアーリング他。


リック・ヤンシーによる同名のヤングアダルト小説を基にした作品。
監督は『アリス・クリードの失踪』のJ・ブレイクソン。
脚本は『シャーロットのおくりもの』『路上のソリスト』のスザンナ・グラント、『アイ・アム・レジェンド』『天使と悪魔』のアキヴァ・ゴールズマン、『アメイジング・スパイダーマン2』のジェフ・ピンクナーによる共同。
キャシーをクロエ・グレース・モレッツ、ベンをニック・ロビンソン、オリヴァーをロン・リヴィングストン、ヴォーシュをリーヴ・シュレイバー、リサをマギー・シフ、エヴァンをアレックス・ロー、レズニックをマリア・ベロ、リンガーをマイカ・モンロー、サムをザカリー・アーサーが演じている。

良くも悪くも、「まさにヤングアダルト小説」と言いたくなる映画である。
ヤングアダルト小説の映画化作品には「ファンタジーやSFなど非現実の世界観の中で恋愛劇を描く」「非人間のキャラクターが登場する」「ヒロインが戦いの中で成長する」「仲間だと思っていた奴が裏切り、敵だと思っていた奴が味方になる」といった幾つかの定型がある。
それらを全て使っているのが、この作品だ。
ってことで、ツッコミ所の多さやディティールの粗さも含めてヤングアダルト小説が大好きな人なら、間違いなくハマるはずだ。
そうじゃない人でも、ツッコミを入れながら「バッカじゃなかろか」と笑ってポンコツ映画を堪能できる人なら楽しめる。
ようするに、そういうタイプの映画である。

その手の映画が好物の人には有り難いことに、ツッコミ所は序盤から次から次へと訪れる。
まず「飛行物体が10日も沈黙していたのなら、その間にアメリカ政府や国際機関が接触を試みたり分析したりするはずだよね。向こうが沈黙していても、攻撃しようと考える国だって出てくるんじゃないか」と感じる。
そういう「政府や専門家の動き」に全く触れていないので、第1波まで何もせずにボーッとしていただけのボンクラにしか思えない。
そもそも「10日も沈黙している意味って何なのよ」とは言いたくなるが、そこは「地球人を観察して分析し、攻撃方法を練っていた」とでも解釈しておこう。

で、アザーズは第1波で電子機器を破壊し、第2波で地震を発生させる。これに伴って、第1波では「旅客機が墜落する」、第2波では「大津波に大都市が飲み込まれる」という映像が描かれる。
その程度の描写は色んな映画でやっているので、もはや大した効果なんて得られない。とは言え狙いとしては、分からんでもない。
ところが第3波に入って「鳥インフルエンザウイルスの致死性を強める」という攻撃になるので、「はあっ?」と言いたくなる。
こういうのって、どんどんエスカレートさせていくのがセオリーでしょ。そりゃ鳥インフルも怖いけど、「電子機器を破壊」から「地震や大津波」と来た3つ目がそれって、すんげえ地味じゃないかと。
そもそも、アザーズの目的が人類を滅ぼして地球を乗っ取ることにあるのなら、第1波と第2波だけでも何とかなるんじゃないかと。生き残る面々もいるだろうけど、何度か繰り返していれば、いずれ全滅させられるでしょ。
それぐらい強い攻撃力を持っている連中が、なぜ「鳥インフルエンザウイルスの致死性を強める」という方法を新たに取るのか理解に苦しむ。

第1波で電気も水道も使えなくなっているはずなのだが、それにしては第3波の時点で登場する面々が小奇麗にしている。
さすがに難民キャンプから逃げた後のキャシーは顔も汚れているけど、ディティールの細かさは感じない。
それと、もう第1波の時点で大都市の機能は完全に停止しているだろうから、その後で「大津波に飲まれる」という出来事を描かれると、「だったら、その津波だけで良くねえか」と思ってしまう。

難民キャンプにヴォーシュの部隊が来た時、キャシーは「車が動くの?」と驚いている。だが、それをオリヴァーは全く気にしないし、キャシーも疑念を抱いて調べようとはしない。
でも電子機器が使えない状況下なのにヴォーシュたちがジープやスクールバスで来た時点で、ちょっと勘のいい人なら「こいつらがアザーズだな」と気付くだろう。基地のシーンでは普通に電気も使っているので、それが確信に変化してもおかしくない。
でも、そこにいる子供たちは、誰も疑問を抱いたり調べたりしないのよね。
っていうか、まるで気付かない人間もボンクラなら、人間に化けているのに平気で電気を使うアザーズもボンクラだろ。

まあアザーズは実際にバカまっしぐらだからこそ、無駄で無意味な手間や時間を掛けまくっているんだよね。何しろ、第4波は「人間に寄生して1人ずつ操る」という作戦だ。
いやいや、操れるぐらいなら、そいつを殺せばいいだろ。操ることで、具体的に何がしたいのかはサッパリ分からないし。第4波まで来て、なんで安全地帯である宇宙船から出てまで、人間に寄生するという方法を取るのか。
キャシーの語りで「種を淘汰するには、まず弱くて無防備な個体を出来るだけ効率的に殺す。それが第1波から第3波だ。しぶとい奴もいるので、奴らは1人ずつ狙って退治し始めた」と説明するが、説得力はゼロだ。
とりあえず面白そうな要素は深く考えずに集めているだけであり、ものすごく無造作なのよね。それを上手く使いこなし、綺麗に形を整えようという作業をサボっているので、ツギハギだらけの穴だらけになっている。
スケールの大きな攻撃から、どんどんスケールダウンして地味にしていくって、どういうセンスなのかと。

そもそもヴォーシュが説明する第4波の時点でバカバカしいのだが、それが嘘であり、実際は別の作戦だったことが明らかにされると、ますますバカバカしさが強くなる。
なんとアザーズの仕掛けた第4波は、「子供たちを騙して殺し合いをさせる」というモノだったのだ。
そのために彼らは大人を抹殺し、子供だけを集めて嘘の説明をして、兵士としての訓練を積ませている。そこまで手間と時間を掛けるだけの意味が、全く見えて来ない。
騙して集めることが出来たのなら、さっさと殺せばいいでしょ。実際、大人は簡単に殺しているわけで。
なぜ子供だけを残して殺し合いをさせるのか、サッパリ分からん。『ハンガー・ゲーム』っぽいことをやりたかったのかもしれないが、デタラメでメチャクチャだ。

わざわざ時系列をいじって「キャシーがアザーズと間違えて人間の男を殺してしまう」というシーンを冒頭に配置するぐらいだから、彼女が人を殺したことへの罪悪感を抱き続けるとか、苦悩を吹っ切って前へ進もうとするとか、そういうドラマが描かれるのかと思ったが、そんなモノは何も無い。
キャシーは人間を殺したことなど簡単に忘れ去り、さっさと次の行動に移る。後から思い出して葛藤することも無い。
一応、そのシーンを最初に持って来ることで、観客に「何があったのか」と感じさせる意味はある。時系列順に並べたら、最初は「平穏な日々」だからね。
でも、冒頭に配置したことに見合うほどの効果は得られていない。「別に時系列順でも良くね?ナレーションで今から何かが起きることを匂わせておけば、それだけで充分じゃね?」と思ってしまう。

最初はキャシーが単独の主人公として動かされているが、途中からベンのパートも並行して描かれるようになる。
ナレーションはキャシーだけで続けるので、その時点で構成に難があるように感じるが、そこは置いておくとしよう。
それよりも、2つの話を並行して勧める構成にしたことが、映画の面白さに何ら貢献していないってのが問題だ。
「ヒロインの出番が減ることで、おのずと存在感が薄くなる」というデメリットばかりが気になる。
肝心な「敵の企みに気付いて反撃に出る」というトコで、キャシーは全く関わっていないのよね。終盤の戦いにおいても、彼女はお客さんに近い状態だし。

ラブストーリーの方も、ちっとも上手く収まっていない。
序盤でキャシーがベンに片想いしていることが示されるが、この2人は終盤まで離れたままだ。そして離れている最終、互いに相手を思い出すようなことは全く無い。
そんな中でキャシーはエヴァンと出会い、ここで恋愛劇を作ろうという意識が見える。終盤に入ると、2人のキスシーンまで用意されている。
しかしエヴァンは「若者たちを乗せた輸送機が出たら基地を爆破する。基地を出ろ」とキャシーに告げて走り去った後、そのまま二度と登場しない。そしてベンと合流したキャシーは、エヴァンのことなど完全に忘れしまう。ベンに「幸せの源は貴方よ」と言っており、仲良くする気満々だ。
そりゃあエヴァンの片想いで、キャシーはベンに対する思いが全くブレていなかったのかもしれんが、すんげえ薄情な奴に見えちゃうぞ。

エヴァンの死が描かれていたわけではないので、私は未読だが、原作は3部作になっている。
だから、2作目以降でエヴァンが再登場して、YA小説では定番である「ヒロインが2人の男から愛される」という三角関係が描かれていくのもしれない。
もちろん映画版の方も、恋の行方だけでなく色んなことが未解決のままで終わっているので、3部作として企画されていたんだろう。
しかし少なくとも映画版の方では、その続きが描かれる可能性は低いだろう。
何しろ、この1作目が酷評を浴びて興行的に惨敗しちゃったからね。

(観賞日:2018年4月3日)

 

*ポンコツ映画愛護協会