『ピザボーイ 史上最凶のご注文』:2011、アメリカ

ピザ配達員のニックは注文先の家に到着するが、待っていた少年2人組から4分遅れなので無料にするよう要求される。「2つも隣の町じゃ無理だ」とニックは言うが、「だからマズいのに注文した」と聞いて納得する。ビールを買ってきてくれと頼まれたニックは、「ママか貰ったピザ代で買ってきてやる」と持ち掛け、金を受け取った。その夜、ニックは親友であるチェットの帰りを玄関先で待ち受け、一緒にビールを飲もうと誘った。
ドウェインは友人のトラヴィスと共に、ネットで調べて作った爆弾の威力を試して楽しんだ。2人がホームシアターで3D映画を観賞していると、ドウェインの父である少佐がやって来た。少佐は遊び呆けている息子を叱責し、仕事をするよう説教した。腹を立てたドウェインがトラヴィスと共に豪邸を出ると、少佐が購入した新車が停めてあった。ニックはチェットの妹であるケイトが働く花屋に、ピザを配達した。彼は一緒にピザを食べフォーシーズンズ・ホテルに研修生として採用されたことをケイトから聞かされる。ニックは「おめでとう」と言うが、アトランタの特別イベント課で勤務すると知って動揺した。
ドウェインはストリップバーへ繰り出し、ストリッパーのジューシーに父への不満を語った。「遺産が減る前に早く死んでくれねえかな」と彼は言い、少佐が軍を退役して宝くじを買い始めたこと、1998年に1000万ドルを当てたことを話した。少佐が派手な浪費を続けたため、現在では100万から200万ドルにまで減っていた。少佐が死ねば全財産は手に入るので、ジューシーは「遺産相続を手伝うわ。デトロイトの友達が解決してくれる」と持ち掛けた。報酬10万ドルで少佐を殺すと言われ、ドウェインは彼女の話に乗った。
次の日、ニックはチェットに会い、「ケイトがアトランタに行くのは困った判断だ。彼女には腐った男が寄って来る」と語る。チェットはニックが妹とセックスしたがっていると確信し、腹を立てる。「お前がジェニー・リフキンに振られた次の週に、彼女とセックスした」とチェットが言うと、ニックは彼の祖父の形見を勝手に売ったことを暴露する。するとチェットは「お前のママの浮気をバラしたのは俺だ」と言い、両親の離婚の原因を作ったのが彼だと知ったニックは憤慨する。ニックが卒業式の夜にケイトとセックスしたことを明かすと、チェットは激怒して2人は喧嘩になった。ニックに罵られたチェットは、「今日限りで縁を切る」と言い放った。
トラヴィスはドウェインから少佐を殺す計画を打ち明けられ、「やり過ぎだ」と反対する。しかしドウェインが日焼けサロンと売春の共同経営を持ち掛けると、すぐにトラヴィスは協力を快諾した。ドウェインが殺し屋を雇うことを話すと、トラヴィスは「10万ドルはどこにある?」と訊く。するとドウェインは、「誰かに銀行強盗をやらせる」と告げた。ドウェインはトラヴィスに、「人妻が近所の子供と卑猥な行為に及ぶ様子を盗撮し、映像を公表すると旦那を脅して強盗させる」という計画を説明した。トラヴィスは「そんな人妻が火曜日までに見つかるか?」と言い、誰かに爆弾を装着して脅すことを提案した。ドウェインも賛同し、2人はヴィトのピザ屋のTVコマーシャルを見て配達員を使うことに決めた。
ニックは注文を受けて指定されたスクラップ工場へ出向き、マスクで顔を隠したドウェインとトラヴィスに捕まった。ドウェインたちはニックを薬で眠らせ、時限式の爆弾ベストを装着させる。彼らは目を覚ましたニックにナショナル銀行から10万ドルを強奪するよう命じ、無理に脱ごうとすれば爆発すること、携帯電話で遠隔からも爆破できることを説明する。2人は10時間で時限装置をセットしてメモを渡し、「ここに電話しろ。金の受け渡し場所を指示する。成功したらタイマー解除の暗証コードを教える」と告げた。
ニックは銃で脅され、車に乗り込んでスクラップ工場を後にした。彼は学校で授業をしているチェットの元へ行き、事情を説明して強盗の手伝いを頼む。チェットは「お前を爆死させたら良心が痛む」と言い、仕方なく承諾した。ジャクリーンは恋人のチャンゴと会い、「金を貰ったら連中を殺して逃げる」と計画を確認される。ジャクリーンは「分かってる。連絡待ちよ」と告げ、彼の車に乗り込む。チェットはネットで爆弾の解除法を調べるが、あまりにも情報が多すぎた。彼は妹に近付かないとニックに約束させ、強盗の準備に取り掛かる。ニックとチェットはスーパーで必要な道具を購入し、その様子をドウェインとトラヴィスが車内で観察していた。
ニックはチェットに「自分の車を使ったらナンバーから足が付く」と言い、強盗のための車を盗むことにした。彼が狙いを付けたのは、チェットの親の友人であるフィッシャーだ。ニックとチェットはガレージに侵入し、車のキーを探した。そこへフィッシャーが来たので、彼らは慌てて覆面を被った。2人は玩具の銃でフィッシャーを脅し、ダットサンを奪い去った。ニックは「店長にくたばれと言う」と告げ、ピザ屋へ向かう。しかし彼はピザ屋から少し離れた場所に車を停め、チェットを車に残して走り出した。
ニックの行動に不審を抱いたドウェインが爆破ボタンを押そうとすると、トラヴィスが制止して偵察に向かった。ニックはケイトに電話を掛けて呼び出し、愛を告白して走り去った。彼はピザ屋に駆け込んでヴィトに「店を辞める。くたばれ」と言い放ち、チェットの元へ戻る。ニックとチェットは偽名を決め、覆面を被って銀行に乗り込んだ。彼らは玩具の銃を構え、行員と客を脅して床に伏せさせる。2人は警備員に、銃を捨てるよう命じる。捨てられた銃を拾ってしまった女性は慌てて捨てるが、誤って銃弾が放たれてしまい、男性客の太腿に弾丸が命中した。
2人は銀行員のサンドラに指示し、金庫の10万ドルを袋に詰めさせた。しかし怪我をした男性に侘びとして少しだけ金を分けようとした時、仕掛けられていたペイント弾が発動した。そこでニックたちはゴミ袋に金を入れさせるが、支店長が押してあった警報が鳴り響く。銀行を出た彼らが覆面を捨てると、そこへパトカーの警官が駆け付ける。しかしニックが爆弾ベストを見せて脅すと、警官は逃亡した。ニックとチェットは車で逃走するが、パトカーに追跡される…。

監督はルーベン・フライシャー、原案はマイケル・ディリバーティー&マシュー・サリヴァン、脚本はマイケル・ディリバーティー、製作はスチュアート・コーンフェルド&ベン・スティラー&ジェレミー・クレイマー、製作総指揮はモニカ・レヴィンソン&ブライアン・レヴィー、製作協力はキット・ジョルダーノ、撮影はジェス・ホール、美術はメイハー・アーマッド、編集はアラン・ボームガーテン、衣装はクリスティー・ウィッテンボーン、音楽はルートヴィッヒ・ヨーランソン。
出演はジェシー・アイゼンバーグ、ダニー・マクブライド、フレッド・ウォード、アジズ・アンサリ、ニック・スウォードソン、マイケル・ペーニャ、ビアンカ・カジリッチ、ディルシャッド・ヴァザリア、サム・ジョンストン、ジャック・フォーリー、エリザベス・ライト・シャピロ、ブレット・ゲルマン、ポール・ティアニー、ステイシー・フレッチャー、ゲイリー・ブリチェット、イリッサ・フレイディン、グレース・ヒームストラ、トーリー・アドキンス、レベッカ・コックス、リック・アーウィン、サム・テデスコ、ウェイン・ビブス、ジョセフ・ライマン他。


『ゾンビランド』のルーベン・フライシャーが、再びジェシー・アイゼンバーグを主役に迎えた作品。
脚本のマイケル・ディリバーティーは、これがデビュー作。
ニックをジェシー・アイゼンバーグ、ドウェインをダニー・マクブライド、ジェリーをフレッド・ウォード、チェットをアジズ・アンサリ、トラヴィスをニック・スウォードソン、チャンゴをマイケル・ペーニャ、ジャクリーンをビアンカ・カジリッチ、ケイトをディルシャッド・ヴァザリアが演じている。

冒頭、ニックがピザを配達するシーンが描かれる。少年2人からビールを買ってきてくれと頼まれた彼は、金を受け取る。そして車で走り去ると、カットが切り替わって夜になる。
ニックがノンアルコールビールの銘柄を言っているのに少年2人組が気付かないので、それでオチたという判断なのだろうか。
っていうか、たぶん「そのままニックは少年たちの元に戻らず、受け取った金で自分が飲むビールを購入してトンズラこいた」ってことなんだろうと思う。
でも、そこの処理が上手くないから、「ニックが金だけ受け取って逃げた」ってことがイマイチ分かりにくいんだよね。

ニックはチェットを待ち受け、レンタルした映画を一緒に見ようと誘う。チェットが「アクション映画を見るほど暇じゃないんだ」と言うと、ニックは「TVゲームはどうだ」と誘う。チェットはOKし、2人は家に入る。ここでカットが切り替わり、ドウェインとトラヴィスのパートになる。
切り替える直前のシーンの「これで次に移ってホントにいいのか」という淡白さは、ひとまず置いておくとしよう。
それよりも気になるのは、切り替わったら昼間のシーンになっているってことだ。
そこは同じ夜の方が絶対にいいでしょ。っていうか、そうすべきでしょ。

そこから再びニックのパートに切り替わると、夜になっている。ってことは、つまりニックのパートだけで言うと「次の夜」ってことだ。
そしてドウェインたちのパートでも、夜になる。こちらの方は、昼間から夜への時間経過だ。
だったら、ニックの方も同じでいいでしょ。つまり、チェットと話す様子を昼間のシーンにしておけばいい。そうすれば、「ドウェインたちのパートになったら翌日の昼」というトコの無駄な引っ掛かりが解消できる。
ものすごく細かいことかもしれないけど、丁寧な作業が足りていないってことよ。
そんでドウェインからニックに切り替わると今度は昼になっているけど、序盤から昼と夜の無駄な切り替えが多すぎるのよ。

チェットはニックがケイトとセックスしたがっていると察知し、腹を立てる。
これは分かるが、そこから「お前がジェニー・リフキンに振られた次の週に、彼女とセックスした」と挑発するような言葉を口にするのは、どういうつもりなのかと言いたくなる。
そこから2人は「実はこんなことをしていた」と暴露合戦を始めるのだが、これが強引な展開にしか感じられない。先に「2人を喧嘩させる」と決めた上での逆算だったとしても構わないけど、計算能力がゼロに等しいのよ。
たぶん「どっちもガキでバカ」ってことなんだろうけど、ちっとも笑えないし。
そうなのよ、色々と問題はあるけど、「笑えない」ってのが致命的なのよね。

強引と言えば、「ニックが父親の殺害を目論む」ってのも決してスムーズとは言えない。
そこを受け入れるにしても、「殺し屋を雇うために10万ドルが必要で、そのために誰かを脅して銀行強盗をやらせる」という計画のバカバカしさは相当にキツいモノがある。
これも「バカだから」ってことなんだろうけど、何もかも「だってバカだからしょうがないじゃないか」で受け入れるのは難しい。
しかも前述したように、その「バカな連中のバカな話」が微塵も笑えないんだから、どうしようもない。

「バカがバカを脅して銀行強盗を要求する」というだけなら、まだ笑える余地は充分に残されている。
だけど、その方法が「爆弾ベストを装着する」ということになると、その途端に笑いの要素はゼロだと言ってもいい。何しろ、爆発したらホントに死者が出るわけだからね。
そして作戦を主導するドウェインにしても、バカではあるがマジでヤバい犯罪者なわけで。そうなると、ほぼ普通の犯罪サスペンスでしょ。
たぶんダーク・コメディーを狙っているんだろうと思われるが、笑える箇所はほとんど無いのよね。
その理由は、出てくる奴らが単純に不愉快でしかないってことだ。

実のところ、「ドウェインとトラヴィスがニックに爆弾ベストを装着して脅す」という点を除けば、それ以外の部分はコメディーとして成立する。
ドウェインとトラヴィスが日焼けサロンについて無駄話をするシーンにしても、ニックとチェットがフィッシャーから車を奪うシーンにしても、不快感も無ければ緊迫感も無い。
それが面白いかどうかは別にして、全て「バカな連中のボンクラな犯罪」を描いた喜劇になっている。
だけど爆弾ベストという道具が、全てのシーンからコメディーの空気を吸い取ってしまうのだ。

この作品を見て、ある事件を連想した人もいるだろう。
それは2003年8月28日にアメリカで発生した事件だ。ピザの配達員が銃で脅されて首輪型の時限爆弾を装着され、銀行強盗を強要されて爆死した事件である。当時はアメリカだけでなく、日本でも大きく報じられた。
前述したように本作品の出来栄えは芳しくないが、それ以上に問題なのは、「それを笑いの道具にしてもいいのか」ってことではないだろうか。
製作サイドは「事件のことは意識していなかった」とコメントしているようだが、それは大いに疑わしい。
仮に監督や脚本家が全く意識に無かったとしても、撮影に入る前に関係者の誰かは絶対に気付くはずで。

映画にモラルは必要不可欠なのかと問われたら、そうとは言えないだろう。アンチモラルの中に、面白さを見出せる場合もあるだろう。
品行方正でロールモデルになるような作品ばかりだったら、映画の世界は退屈に覆われてしまう。実際、悪趣味だけど面白い映画もあるし、危ないネタを扱っているけど笑える映画もある。
だけど、これはダメだわ。
喜劇のネタとして「どこまでがOKで、どこからがアウトなのか」というハッキリとした基準は無いけど、「これは茶化しちゃマズいだろ」と感じたので、やっぱりアウトだわ。

(観賞日:2019年8月17日)

 

*ポンコツ映画愛護協会