『なんちゃって家族』:2013、アメリカ

マリファナの売人であるデヴィッド・クラークは、主婦やコックなど顧客の元を回って商売をしている。リックという大学時代の同級生に声を掛けられた彼は、表面的な挨拶を交わす。未だにデヴィッドが売人を続けていると知ったリックは、「妻も子供も無しで自由な暮らしなんて、羨ましいよ」と口にする。デヴィッドのアパートには、ローズというストリッパーが暮らしている。ローズの恋人にツケで薬を売っているデヴィッドは、その男について質問する。「実家へ戻った」と言われたデヴィッドは、肩代わりを持ち掛ける。デヴィッドを嫌悪しているローズは「絶対に嫌」と言い放ち、その場を去る。
デヴィッドのアパートには、遊び好きで家を空けてばかりいる母を持つ18歳のケニーも住んでいる。大人の世界に憧れているケニーはマリファナを売ってもらおうとするが、デヴィッドは断る。アパートの近くでホームレス少女のケイシーがチンピラたちに絡まれる様子を目撃したケニーは、すぐに駆け付ける。しかし、簡単に捕まったので、デヴィッドは仕方なく助けに赴いた。ケニーが「彼は売人だ」と余計なことを言ったせいで、チンピラたちはデヴィッドにナイフを突き付けて「薬を寄越せ」と要求した。
デヴィッドは隙を見てチンピラたちを突き飛ばし、ケニーと共に逃亡する。その間にケイシーは、平然と立ち去った。デヴィッドは一味に捕まって暴行を受け、マリファナと金庫の金を奪われた。デヴィッドは屈強な男たちに拉致され、元締めであるブラッドの元へ連行される。「金と薬は奪われた」とデヴィッドが釈明すると、彼は「メキシコから少量のブツを運べ。いつもの運び屋は殺された。日曜の夜までに戻ればツケはチャラにした上、報酬として10万ドルを支払う」と持ち掛けた。
ブラッドはデヴィッドに、「この住所へ行って、パブロ・シャコンの使いだと言え」と指示した。メキシコ警察に捕まれば最低でも25年の懲役刑を食らうため、デヴィッドは断ろうとする。しかしブラッドは、「お前に断る権利は無い」と指摘した。キャンピングカーに乗った旅行中の一家が道に迷っている様子を目撃したデヴィッドは、無事にマリファナを運ぶための名案を思い付いた。「ミラー家」という偽の家族を装い、国境を突破しようというのが彼のアイデアだった。
ケニーが息子役を快諾したため、デヴィッドはローズに自分の妻を演じてもらおうと考える。彼は1万ドルの報酬で誘うが、冷徹に拒否された。「どうしても女が必要だ」というデヴィッドの言葉で、ケニーはケイシーの居場所を教える。デヴィッドはケイシーに娘役を持ち掛け、「ベッドで眠れるし、タダ飯も食えるぞ」と告げる。ケイシーが千ドルを要求するので、デヴィッドは了承した。一方、ローズは店を経営するトッドから売春を始めると言われ、仕事を辞めた。アパートに戻った彼女は、家賃を滞納していたせいで立ち退きの通告書が貼られているのを目にした。
デヴィッド、ケイシー、ケニーの3人は新しい服を購入し、髪を整えてデンバー国際空港へ赴いた。3人が飛行機に搭乗すると、ローズがやって来た。3万ドルを要求されたデヴィッドは、仕方なく承知した。4人はツーソンで飛行機を降り、キャンピング・カーに乗り込んだ。国境を越えて指定された場所へ行くと、柵に囲まれたアジトがあった。デヴィッドが監視していたワン・アイという男に声を掛けると、銃を突き付けられた。しかし「パブロ・シャコンの使いだ」と言うと、デヴィッドは建物へ通された。
デヴィッドは少量と聞いていたが、そこにいた一味は2トンのマリファナをキャンピング・カーに積み込んだ。デヴィッドはブラッドに電話を入れ、話が違うと抗議する。しかしブラッドは何食わぬ顔で受け流し、「国境の検査官は買収済みだ。一番レーンを通れ」と告げた。パブロのアジトを出た直後、デヴィッドたちは白バイ警官に停止を求められた。「パブロのアジトから出て来たやつの積荷は分かってる。賄賂を寄越せ」と、警官は口にした。
千ドルの賄賂を求められたデヴィッドは、「そんな大金は持っていない」と告げる。すると警官は「代わりのモノでもいいぞ」と言い、男のフェラを要求した。デヴィッドはケニーを言いくるめて、警官にフェラさせようとする。しかし賄賂の通過がドルではなくペソだったと知り、デヴィッドは百ドルを渡す。国境の検問所に到達した一行は、ドンとエディーというキャンピング・カーの夫婦に声を掛けられた。デヴィッドたちは仕方なく、挨拶を返した。夫婦の娘であるメリッサを見たケニーは、すっかり心を奪われた。マリファナがローズの目の前に落下し、彼女はシーツに包んで隠した。ドンたちに赤ん坊だと誤解され、デヴィッドとローズは適当に取り繕った。
検問所を通過する際、デヴィッドは緊張で何も話せなくなってしまった。麻薬犬が吠えたこともあり、デヴィッドたちは車から降りるよう指示される。警官たちは車を調べようとするが、不法入国者が逃亡したため、そちらの追跡に回った。難を逃れたデヴィッドたちは、無事に国境を越えて喜び合った。一方、パブロがアジトに到着したことで、ワン・アイがデヴィッドが偽者の使いだと知った。デヴィッドはブラッドから「パブロ・シャコン」は偽名だと聞かされていたが、パブロという麻薬組織のボスが実在したのだ。ブラッドはパブロのブツを盗もうと企み、デヴィッドを欺いたのだった。
デヴィッドたちは坂道を進んでいたが、キャンピング・カーがエンストしてしまった。そこへフィッツジェラルド一家の車が通り掛かり、近くの修理工場まで牽引してくれることになった。フィッツジェラルドの車に乗せてもらったデヴィッドたちは、拳銃とバッジを見つけて驚いた。ドンは22年に渡って麻薬取締局の捜査官だったこと、年齢を理由に現場を外されたことを語った。デヴィッドたちは後ろに移動して家族会議を開き、「すぐに口実を作って別れよう」と決めた。
一行は修理工場に到着するが、営業していなかった。ドンはデヴィッドに、「土曜の夕食後は、どこの工場も閉まっている。開くのは明日の朝だよ」と告げる。フィッツジェラルド一家はテントを張り、デヴィッドたちは車で一泊することになった。「赤ん坊を抱かせて」とエディーにせがまれたローズは、咄嗟にシーツの包みを道路へ投げ捨てた。そこへ車が走って来てシーツを踏み潰し、エディーは絶叫する。ケイシーは「あれは草の塊です」と告げ、デヴィッドやローズたちも「若者の妊娠を戒めるための宿題です」「本物の赤ん坊として扱うようにいました」などど話を合わせた。
デヴィッドはローズに、「ドンたちが寝静まったらテントへ潜入し、車の鍵を盗む。ドンの車で工場へ行き、ラジエータを交換する」と告げた。ケニーがメリッサと話す様子を、他の3人はキャンピング・カーから密かに観察した。いい雰囲気になったのに、臆病なケニーはキスできなかった。ハグでメリッサと別れたケニーが落ち込んでいるのを見たローズとケイシーは、男同士で話すようデヴィッドに促した。デヴィッドはケニーの元へ行き、「ビビったら3つ数えて行動しろ。人生が変わるぞ」と助言した。
深夜、デヴィッドとローズはテントに忍び込むが、ドンたちに気付かれてしまう。しかし夫妻は2人がスワッピングに来たと誤解しており、「その願望は無い」と述べた。ケイシーはケニーから「キスの経験が無い」と聞いて同情し、キスを教えてやった。そこへローズがデヴィッドと共に戻り、キスのコーチに加わった。ケニーがローズとケイシーからキスされている様子をメリッサが目撃し、ショックを受けて立ち去った。翌朝、フィッツジェラルド一家が去った後、デヴィッドはブラッドに連絡を入れる。そこへパブロが手下を率いて現れ、デヴィッドたちを始末しようとする…。

監督はローソン・マーシャル・サーバー、原案はボブ・フィッシャー&スティーヴ・フェイバー、脚本はボブ・フィッシャー&スティーヴ・フェイバー&ショーン・アンダース&ジョン・モリス、製作はヴィンセント・ニューマン&タッカー・トゥーリー&ハッピー・ウォルターズ&クリス・ベンダー、製作総指揮はデヴィッド・ハイマン&J・C・スピンク&トビー・エメリッヒ&リチャード・ブレナー&デイヴ・ノイスタッター&マーカス・ヴィシディー、撮影はバリー・ピーターソン、美術はクレイトン・ハートリー、編集はマイク・セイル、衣装はシェイ・カンリフ、振付はデニース・フェイ、音楽はセオドア・シャピロ&ルートヴィッヒ・ヨーランソン、音楽監修はジョージ・ドラコウリアス。
出演はジェニファー・アニストン、ジェイソン・サダイキス、エマ・ロバーツ、エド・ヘルムズ、ニック・オファーマン、キャスリン・ハーン、ウィル・ポールター、モリー・クイン、トメル・シスレー、マシュー・ウィリグ、ルイス・ガスマン、トーマス・レノン、マーク・L・ヤング、ケン・マリーノ、ローラ=リー、クリスタル・ニコル、ディックソン・オバホー、ブレット・ジェンティル、ケリー・リンツ、J・リン・トーリー、アラン・ギルマー、サム・リチャードソン他。


『ドッジボール』のローソン・マーシャル・サーバーが監督を務めた作品。
『ウエディング・クラッシャーズ』のボブ・フィッシャー&スティーヴ・フェイバー、『空飛ぶペンギン』のショーン・アンダース&ジョン・モリスの4人が脚本家として名を連ねている。
ローズをジェニファー・アニストン、デヴィッドをジェイソン・サダイキス、ケイシーをエマ・ロバーツ、ブラッドをエド・ヘルムズ、ドンをニック・オファーマン、エディーをキャスリン・ハーン、ケニーをウィル・ポールター、メリッサをモリー・クイン、パブロをトメル・シスレー、ワン・アイをマシュー・ウィリグ、メキシコの汚職警官をルイス・ガスマンが演じている。
アンクレジットだが、ピアノ教師役でベン・フォールズが出演している。

この映画の欠点は、弾け切れていないってことだ。ドラッグを密輸する話に下品なネタを持ち込んでいるけど、中途半端でヌルイのだ。
最終的にハートウォーミングなポイントへ着地するのは、一向に構わない。
こういう話だからって、最後までハチャメチャなまま終わるべきだとか、そんなことは全く思っちゃいない。
ただ、ハートウォーミングな結末を用意するにしても、それは弾けた物語を通過した上で辿り着くべきじゃないかと思うのよね。

冒頭、マリファナを売りさばく仕事を終えたデヴィッドは、リックに声を掛けられる。
「妻も子供もいない自由な暮らしなんて羨ましい」と告げたリックは、家族のシールを貼ってある車で去る(彼は真っ当な仕事に就き、妻と2人の子供がいる)。
それをデヴィッドがじっと見つめる様子を捉えるシーンからして、もう「主人公が家族の素晴らしさに気付く」というハートウォーミングな結末へ辿り着く匂いがプンプンと漂って来るんだよね。

そりゃあ、伏線をキッチリと張っておいて、それを巧みに回収した方がいい場合もあるよ。でも、そこは違うわ。
伏線だとしても、露骨に答えを見せ過ぎている。
っていうか、何も言わずに見送るデヴィッドの表情が「ホントに羨ましそう」に見えちゃうのがマイナスなのよ。
そこは、むしろハッキリと「デヴィッドは家族を持つことに全く興味が無い」ってことをアピールするリアクションをさせておけば、その上で「自堕落、あるいは無作為に生きていたけど、疑似家族としてローズたちと過ごす内に、家族の素晴らしさに気付く」という流れに持って行けるはずで。

デヴィッドが成り行きで仕方なくケニーを助けるシーンや、チンピラたちにマリファナと金を奪われるシーンは、本来なら喜劇としてのモノになっているべきだろうに、ちっとも笑いが足りていない。だからって、徹底してシリアスに描かれているわけではない。
もちろんコメディー映画だから、シリアス一辺倒にしないのは正解だ。だけど、笑いの薄いコメディー映画になってしまっては意味が無いでしょ。
そりゃあ「コメディー」と一口に言っても、スカした笑いを狙う映画もあれば、オフビートな喜劇もある。ブラックな笑いを描く映画もあれば、淡々とした中でクスッと笑わせる作品もある。様々な種類があるので、必ずしも弾けまくればいいというものではない。
でも、この映画は明らかに弾けてこそ面白味が出るタイプで、それなのに弾け切れていないのよ。

飛行機に乗り込んだ際、客室乗務員に話し掛けられたケイシーは、「生理が遅れてるの。アナル専門だから有り得ないんだけど」と、微笑を浮かべながら話す。
で、それを聞いた客室乗務員が戸惑うわけだが、そういったシーンであれば、「下ネタを淡々と口にする」という演出も効果的だ。
そこで大げさな喋り方をしろとか、派手なジェスチャーを交えろとか、そんなバカなことは言わない。
だけど、この映画は、それ以外の部分でも妙におとなしいんだよな。もっとパワー全開で描いた方がいいのに。

そもそもデヴィッドからして、どうにも元気が足りないのよね。だからと言って、「常に落ち着き払ってトボけた笑いを生み出す」というキャラではない。
例えば焦っているシーンや、何とか誤魔化そうとするシーンでも、それなりのリアクションは取るんだけど、それが弱い。
そうじゃなくて、例えばジャック・ブラックぐらいクドさのある人物造形にした方がいいんじゃないかと。
ジェイソン・サダイキスにコメディーのセンスが欠けているってことじゃないはずでしょ、なんせ『サタデー・ナイト・ライヴ』のキャストなんだし。

メキシコへ向かう途中で売店を見つけたケイシーとケニーがロケット花火を欲しがり、ローズが「買ってあげれば」と言うと、デヴィッドは怒って「お前らは俺の家族じゃない。単なる仕事だけの関係だ」と声を荒らげる。
そこからカットが切り替わると彼がロケット花火を1本だけ打ち上げて、すぐに「満足したか。行くぞ」と車へ戻る様子が写る。
落差を付けて、メリハリで笑わせようとする意図は分かるが、あっさりとロケット花火を終えて即座に車へ戻り、ケイシーとケニーが全く楽しんでいる様子も無いので、それだと笑いに昇華しない。
いっそのこと「結果的にデヴィッドの方が楽しむ」という形にすれば、それはそれで笑いになったかもしれないけど。

デヴィッドがケニーを言いくるめて汚職警官にフェラチオさせようとするシーンは、「下ネタがユルくて中途半端」と強く感じる箇所だ。
アホのケニーがデヴィッドの詭弁でフェラする覚悟を決めるトコロまで到達したのなら、「賄賂の要求がドルじゃなくてペソだと判明」というオチは、もはやオチとしての力を持たないのよ。
覚悟を決めたケニーがフェラしようとして、その段階で何かしらのハプニングを起こす形にでもしないと、ちゃんとオチないのよ。
そこまで下ネタをやっておきながら、なんで腰が引けちゃってんのかと。

エンストを起こしてフィッツジェラルド一家に車を牽引してもらう際、エディーが「生理用ナプキンがNGでタンポンを試したら、ずっと半分出ている状態だった。それで分かったの、私のヴァギナが浅いってこと」と饒舌に語り、デヴィッドがどう反応していいか困った様子を示すシーンがある。
だけど、そういう台詞をエディーに言わせてどうすんのよ。あけすけに下ネタを喋る役回りは、ローズやケイシーに任せておくべきでしょ。
エディーが下ネタを平然と喋って、デヴィッドやローズが受け手に回るシーンを作ってしまうと、役割分担がボンヤリしてしまう。
しかも、その夜にキャンプでケニーの描く絵から答えを導き出すゲームをする際にはローズが大声で「ペニス、ペニス。大きなチンポ。ブラック・コック・ダウン」と叫び、ドンとエディーが無表情でリアクションに困っている様子が描かれるわけで。
昼間にナプキンやヴァギナのことを平然と話していたエディーなのに、完全にキャラがブレちゃってるじゃねえか。

もっと弾けるべきだとは思うが、その一方で「デヴィッドたちが疑似家族の絆に目覚め、今後も一緒に暮らそうと決める」という着地に向けた作業は必要だ。
弾けっぷりが弱いのなら、そっちに重心が傾いているのかと思いきや、そこも弱いのよね。
まるで見当たらないわけじゃなくて、もちろんチラホラと用意されているのよ。
例えば、デヴィッドがドンとエディーから夫婦の出会いについて話すよう促されるシーン。デヴィッドはローズがアパートへ来た時のことを話して「一目惚れだった」と言うが、出来事の描写が事実に即していたので、ローズが何かを感じているような表情を浮かべる。
ただ、取って付けた感じが強いんだよね。

そこは例えば、その前にデヴィッドとローズが初めて出会った時にことに言及するシーンを用意しておくと、かなり印象が変わって来るだろう。
その時点ではデヴィッドに「エディーと初めて出会った時のことを覚えていない」と言わせたり、あるいは「出会った時から不快な女だと思っていた」と喋らせたりしておく。
その上で、夫婦の出会いを話すよう求められた時に、実は当時のことを詳細に覚えていたことが判明して、ローズのデヴィッドに対する気持ちが変化するという流れに繋げれば、いい前フリになっただろう。

デヴィッドはブラッドに騙されてパブロのマリファナを盗む羽目になるのだが、そこから「パプロの一味に追われ、必死の逃走を続ける中で疑似家族の絆が深まる」という展開に移行するのかと思いきや、そういう意識は薄い。デヴィッドたちが一味に追われる立場だと認識し、逃亡状態に入るのは、終盤の30分程度なのよね。
ようするに、「パブロのマリファナを持ち出す」ってのは、疑似一家が一緒に行動する状態を作るための、きっかけに過ぎないのだ。
でも、ほとんど「きっかけ」としての意味しか無いにしては、「騙されてマリファナを盗み出し、麻薬組織に命を狙われる羽目になる」という筋書きは、要素として大きすぎる。
実際、きっかけだけで済ませるわけには行かず、パブロの一味に追われる展開が待っているわけで。
それなのに、「パブロ一味が気付いて追い掛ける」という手順の後、デヴィッドたちが何も知らないまま旅を続ける時間帯がしばらく持続するってのは、構成としてどうなのかと。

もっと問題なのは、パブロ一味に捕まったデヴィッドたちが逃げ出した後、そこの筋だけでサスペンスとコメディーを膨らませて最後まで畳み掛ければいいものを、そういう展開にしていないことだ。
「蜘蛛に金玉を噛まれたケイシーが病院で診察を受ける」とか、「ケイシーが病院で出会ったスコッティーという男にナンパされて出掛ける」とか、そういう「パブロ一味から追われる」という筋書きとは全く無関係な要素を入れて、すぐに元のペースへと戻ってしまうのだ。
やっぱり、パブロ一味に追われる筋書きが邪魔になってるんじゃないのかと。
だったら疑似家族を形成する理由を全く別のモノにして、純然たるロード・ムービーとして物語を構築した方が良かったんじゃないかと。

あと、これは映画の問題じゃなくて翻訳の問題であり、本作品に限ったことじゃないんだけど、「日本人に合わせた意訳」にはゲンナリさせられることがあるんだよね。
メキシコへ向かう途中で売店を見つけたケイシーとケニーがロケット花火を欲しがり、ローズが「買ってあげれば」と言った時に怒ったデヴィッドの発する台詞が、日本語字幕では「俺はジュリーで、お前らはタイガースだ」になっているのが、この映画ではゲンナリさせられた。
それって絶対にデヴィッドが発しない言葉でしょ。アメリカ人には、ジュリーもタイガースも理解できないわけで。
つまり、日本人に合わせた意訳ってことだ。

その部分、実際のセリフを直訳すると「俺はマーキー・マークで、お前らはファンキー・バンチだ」になる。
マーキー・マークってのは、かつてマーク・ウォールバーグが音楽活動をしていた頃に名乗っていた名前だ。その時に彼が組んでいたヒップホップ・グループが、「マーキー・マーク&ザ・ファンキー・バンチ」なのだ。
もちろん、そのまま直訳しても、分からない日本人が多いだろう。だから意訳するのは理解できるけど、その結果として「絶対にアメリカ人は言わないであろう例え」になっちゃうと、それはそれでゲンナリするのよ。
だったら、例えを使わない意訳にしてくれた方が遥かにマシだわ。
だってさ、「俺はジュリーで、お前らはタイガースだ」という例えを使われても、そんなネタ、これっぽっちも面白くないからね。

(観賞日:2016年3月22日)

 

*ポンコツ映画愛護協会