『ニューヨークのいたずら』:1991、アメリカ

ルーイ・クリツキーは幼少時代、たくさんのアパートを所有する父のビッグ・ルーに連れられ、しばしばキャデラックで外出した。ルーは家賃を滞納している借家人のウィリーを張り込み、執拗に追い掛けて捕獲した。ウィリーが「1週間待ってくれ」と頼むと、ルーはルーイに「どうする、待ってやるか」と問い掛けた。ルーイが「いいよ」と軽く答えると、ルーは「お前に毎週3ドルやってるが、あれは小遣いじゃなくて歩合だ。こいつを逃がすと金額が減るぞ。他の借家人も延滞したら、すぐに取り分はゼロになるぞ」と言う。ルーはウィリーを恫喝し、所持金を吐き出させた。
成長したルーイは、ニューヨークのスラム街にあるアパート1棟を誕生日プレゼントとして父から与えられた。ルーは彼に、「第一歩だ。いずれは俺のビル全部がお前の物になる」と告げる。彼は借家人のディアス夫妻に対し、「ドアを一日に何度も開閉するな。そのせいでドアが壊れた」と文句を付け、「ドアが安物だから簡単に壊れた」という訴えを受け入れない。借家人のエレノアから停電なので修理してくれと要求されると、「自分で直せ、そんなことより家賃を払え」と傲慢な態度で告げた。
借家人のレオータからネズミがいることを指摘されたルーイだが、「文句を言う前に家賃を払え」と何の対処もしない。借家人のマーロンやギリアムに対して、ルーイは馬鹿にする態度を取った。外へ出たルーイは、弁護士のナオミ・ベンシンガーから声を掛けられた。彼女はアパートに数々の違反があることを告げて書類を渡し、起訴するつもりだと告げる。しかしルーイは軽く受け流し、その場を去った。
ルーイは自宅に戻り、「住宅局は苦手だ。違反の摘発で、すぐに告訴する」と愚痴をこぼす。ルーは彼に、「ニューヨークでは毎年、違反の摘発が200万件もある。だが、有罪は0件だ。どうせ少額の罰金で済む」と告げる。しかし翌日の公判で、スミス判事はルーイに有罪を宣告した。傍聴した借家人たちが大喜びする中、スミスはルーイに「実刑を与えても建物は改善されない。そこでアパートの一室に120日、あるいは建物が州条例に従って改善されるまで住むという刑罰を与える」と説明し、ナオミには監視役を指示した。
スミスは食料の買い出しと急病、ビル改修の用件以外での外出を禁じ、ルーイに広告で「最高の物件」と紹介されている5Cの部屋に管理人として住むよう命じた。そして5Cは決して改善せず、他の部屋の改修を優先するよう指示した。120日以内に改修しなければ服役だというスミスの通告に、借家人たちは喝采を送った。ルーは「弁護士を雇って上訴する」と腹を立てるが、ルーイにはアパートで住むよう促す。「抜け道は無いの?」と嫌がるルーイに、彼は「裏工作には時間が掛かる」と説明した。
ルーイは「あんなアパートには1日も住みたくない」と駄々をこねるが、ルーは「じゃあ諦めるんだな」と言い、遺言状の内容を確認させる。彼は鋭い口調で、「相続人はお前だが、あのアパートを少しでも修繕したら遺言から名前を削除する」と告げた。遺産相続のためにも、ルーイはアパートで暮らすことにした。しかし部屋は雨漏りがしており、ドアを閉めると大量の埃が降って来た。室内は古い廃墟のように薄汚く、水道も冷蔵庫もソファーも壊れていた。壁が薄いので、隣の部屋の声は丸聞こえだった。
ベッドが使えないので寝袋で就寝したルーイが翌朝になって目を覚ますと、エレノアの孫であるティトが目の前にいた。「高価な品物を持ち込んだね?」と言うティトは、ルーイは邪険に追い払った。ティトがラジカセに触ったのではないかと疑った彼はコンセントを差し込むが、すぐに小爆発を起こした。ティトは呆れた様子で、「このビルの電気を修理しないとダメさ」と告げた。ルーイが外へ出ると、停めてあった愛車のコルベットはすっかり解体されていた。
ルーイはワインを買うため、食料品店へ赴いた。しかしコルクの付いていない古いワインしか無く、食料を買おうとするとカチカチのパンしか置いていなかった。店を出ると、待っていたティトが「袋を持つよ」と言う。その店で働いているというティトに、ルーイは「消えてくれ。なぜ付いて来るんだ」と疎ましそうな顔で言う。ティトと話したルーイは、初めてエレノアが母親ではなく祖母であること、母親がいないことを知った。食料品店の報酬がチップだけだと知ったルーイは袋を運ぶよう指示し、ティトに5ドルを渡した。
マーロンが路上でカード賭博をやっている現場を目撃したルーイは、参加するよう促される。最初は断ったルーイだが、マローンが目を話している隙に客の男がカードに目印を付けたので、60ドルを賭けた。しかしマローンが「高い方を受けよう」と言い、隣の客がどんどん賭け金を吊り上げたので、ルーイは200ドルで勝負することになった。だが、それは全てマローンが仲間と結託したインチキで、ルーイはまんまと金を巻き上げられてしまった。
恋人のヘザーがアパートへ来たので、ルーイは部屋に連れ込んだ。しかし酷すぎる部屋にヘザーは顔を歪め、すぐに逃げ出した。ルーイは排尿しようとするが、汚水が詰まっていてトイレは使えなかった。彼はエレノアにトイレを貸してもらおうとするが、冷たく断られた。ルーイは修理工を呼んで自分の部屋だけ配線を修理してもらおうとするが、無理だと告げられた。ナオミが状況の観察に来ると、ルーイは彼女を口説いた。まるで相手にされないルーイだが、「脈はあるな」と自信を見せた。
ルイはマローンに誘われ、3on3に参加した。ルーイは何度もゴールを決めて勝利し、調子に乗って「もう1ゲームだ」と言う。相手チームから金を賭けようと提案されて承諾するが、今度は惨敗した。今度もマローンの仕掛けたインチキで、またルーイは金を失う羽目になった。アパートの視察に訪れたルーは、新しい灯りが付いているのを見つけて驚いた。ルーイがステレオを聴くために配線を修理したことを明かすと、ルーは「もっと覚悟を決めろ。まだまだ保釈は無理だ」と激怒した。
アパートで音楽が聴けるようになったので、住人たちは大音量で曲を流してパーティーを開く。ルーイが注意しても、完全に無視された。腹を立てたルーイが地団太を踏むと、床が抜けて下の階に落ちてしまった。ルーイは床を修理するため、多額の金を支払った。ギリアムが夜中に廊下を金槌で叩いて大きな音を立てるので、ルーイは文句を言う。ギリアムは「ネズミの穴を塞ぐ」と言うが、ルーイは「ネズミなんか来ない」と口にする。しかし部屋に戻ったルーイはネズミを目撃し、すぐに駆除業者を呼んだ。ボイラーが完全に壊れて暖房が使えなくなり、住民たちは抗議する。ルーイは「我慢しろ」と追い返すが、ティトが軽蔑の眼差しで見ているのに気付く…。

監督はロッド・ダニエル、脚本はサム・サイモン、製作はチャールズ・ゴードン、製作総指揮はロン・フレイザー、製作協力はスティーヴン・フェルダー、撮影はブルース・サーティース、編集はジャック・ホフストラ、美術はクリスティー・ジー、衣装はオード・ブロンソン・ハワード、音楽はマイルズ・グッドマン。
出演はジョー・ペシ、ヴィンセント・ガーディニア、ルーベン・ブラデス、マドリン・スミス・オズボーン、ステイシー・トラヴィス、キャロル・シェリー、ケニー・ブランク、ポール・ベンジャミン、ベアトリス・ウィンド、ブベシ・ボディブ、アブドゥライエ・ンゴム、キャロル・ジーン・ルイス、アンソニー・ヒールド、ダニエル・バルツマン、ジャック・ホーレット、スティーヴン・ロドリケス、アイリーン・ギャリンド、ラターニャ・リチャードソン他。


『ティーン・ウルフ』『K-9/友情に輝く星』のロッド・ダニエルが監督を務めた作品。
脚本はTVシリーズ『シンプソンズ』のエグゼクティヴ・プロデューサーであるサム・サイモンが担当。
ルーイをジョー・ペシ、ルーをヴィンセント・ガーディニア、マーロンをルーベン・ブラデス、ナオミをマドリン・スミス・オズボーン、ヘザーをステイシー・トラヴィス、ルーイの母のアイリーンをキャロル・シェリー、ティトをケニー・ブランク、ギリアムをポール・ベンジャミン、レオータをベアトリス・ウィンドが演じている。

冒頭、少年時代のルーの様子が描かれ、借家人に容赦しない父親の影響を強く受けたことが示される。
そうやって物語を始めたら、次は「成長したルーが父親と同じように借家人から容赦なく取り立てている」という姿に繋げばいい。
ところが、そこに直結させず、誕生日プレゼントとしてアパートをプレゼントされるシーンが描かれる。
これは無駄なだけでなく、構成として邪魔。そもそも「そのプレゼントを貰った時点でルーは何歳なのか」と思ってしまう。

既にプレゼントを貰う段階ではルーをジョー・ペシが演じているので、決して若くないはずだ。
だけど「父親が息子に最初のアパートをプレゼントした」ということからすると、20歳や21歳ぐらいの誕生日だとしても、別に不思議ではないだろう。
しかしジョー・ペシは20代になど絶対に見えないわけで、色んな意味で邪魔だわ、そのシーン。
そんなのカットして、いきなり「父から譲り受けたアパートを所有し、高慢で理不尽な家主として借家人から嫌われている」というところから入った方が、遥かにスムーズだ。

アパートをプレゼントされたシーンの後、ルーイが借家人の元を回って家賃を取り立てている様子が描かれる。
それはプレゼントされた直後ではなく、何年か経過してからの出来事ということだろう。
でも、ルーイの見た目も周囲の風景も大きく変化していないし、テロップで「何年後」と出るわけでもないから、時間経過が分かりにくい。
ここも、アパートをプレゼントされるシーンをカットし、いきなり家賃の取り立てシーンに移れば、何の問題もなく通過することが出来る。

家賃の取り立てを終えたルーイが車に戻ると、ナオミが書類を渡して起訴するつもりだと告げる。
これは展開として早すぎる。ナオミの登場は、もう少し後に回すべきだ。
そのシーンは、「ルーイが父親の影響を強く受けた悪徳家主である」ということをアピールするだけで終わらせた方がいい。
起訴が通達されると、ルーイが軽く受け流そうと、こっちには「彼は裁判に掛けられるし、そうなれば当然の如く状況は変化する」ってことは伝わり、「起から「承」への転換が見えてしまう。
それは望ましいことではない。

その段階では、まだ「ルーイは悪徳大家だけど、それで何の問題もなく暮らしている」という状況をアピールしておくべきだ。
そこから1つ間を取ってナオミを登場させ、ルーイが軽く受け流したとしても、すぐにテンポ良く裁判のシーンへ突入し(例えば、ルーイがバカにして笑い飛ばしたらパッとカットが切り替わり、裁判シーンに移るというぐらいの流れでもいい)、ルーイの状況が変化するという「起」から「承」への転換へ移った方がいい。
ルーが「どうせ裁判では少額の罰金で済む」と軽く言った後、裁判で有罪が宣告されるという展開へ繋いでいるけど、ちょっとタイミングが遅い。
それと、ヘザーとの会話を挟んだりするので、ちょっとテンポが悪くなっている。

家賃の取り立てシーンでは、ルーイが不愉快で傲慢な家主であることは充分に表現されている。
ただし問題は、「借家人は真っ当な連中なのか」という部分のアピールが弱いってこと。
最初のディアス夫妻に関しては、どうやら哀れな弱者らしいってことが伝わってくる。だが、エレノアやレオータたちは、それほどでもない。
それより気になるのは、マーロンが家賃を滞納しているってこと。
もちろんルーイは悪徳大家だけど、家賃を滞納している場合、「文句を言える立場じゃないでしょ」ってことになるんじゃないかと。

ルーイがアパートで暮らす羽目になってから散々な目に遭うってのは、予定調和でベタベタだけど、そこは他に選択肢が無いだろうし、変に捻ろうとしても失敗する可能性が濃厚だから、それは別にいい。
ただし、「停めてあったコルベットが夜の内に解体されている」という部分に関しては、描かない方が良かった。
なぜなら、それは「アパートが違反だらけでオンボロ」という問題と無関係な災難だからだ。
ルーイが散々な目に遭うのは、「自分がアパートを改修せずに放置し、色んな物が壊れていたり使えなかったりするから」というところだけに原因を置くべきだ。仮にアパートを改修していたとしても、悪い奴に目を付けられたら車は解体されるわけで。
それは「スラム街の風紀が悪い」という問題であり、アパートの違反とは別問題だ。

食料品店で古いワインやカチカチのパンしか置いていないってのも、それはスラム街の住環境が問題なのであって、アパートが云々という問題ではない。
「スラム街の生活環境が良くない」という部分に関しては、ルーイには何の責任も無いのだから、そこで彼が不幸な目に遭うってのは、少しズレているように感じる。
そこは「因果応報」の面白さを描くべきであって、だから「今まで放置してきて借家人たちが難儀していた問題が、自分自身にも降り掛かる」という事柄に徹底しておくべきだろう。

テイトがルーイに付きまとうのは、ものすごく無理がある。なぜルーイに興味を持つのか、その理由がサッパリ分からない。
以前から彼は家賃の取り立てでアパートに来ていたわけで、相手がどれだけ嫌な奴なのかは分かっているはず。
「そういうタイプの人間を初めて見たから興味を持った」という解釈も成り立たない。ルーイの気持ちが変化するきっかけとしてティトを使いたいために、かなり無理をして接近させているように思える。
一方のルーイが、ティトに袋を持たせて5ドルのチップをやるのは行動として不可解。その段階では、まだルーイが借家人に対して優しさを見せるのは早すぎるよ。

マーロンからバスケットに誘われたルーイが、Bボーイのファッションに身を包んでやる気満々で参加するってのは、何をどう見せたいがためのシーンなのかサッパリ分からない。
それはルーイの悪徳ぶりをアピールすることにも繋がっていないし、守銭奴ぶりを示すことにも繋がっていない。
あえて言うなら「ノリのいい男」という印象には繋がるが、そんなのを見せても意味が無いでしょ。
むしろ、そこで彼を「ノリのいい男」として見せちゃうと、キャラがブレるわ。

アパートの住人たちが大音量で音楽を流し、大勢が集まって夜遅くまで踊り狂うってのは、「うるさいのでルーイが困る」というところへ繋げているけど、それは普通のアパートであっても迷惑な行為だろ。
あえてルーイを困らせるためにやっているならともかく、そういうことでもなさそうなんだよな。
仮に大家が優しい人だったとして、それで同じことをやったら、完全に住人側が悪玉ってことになるわけで。
大家が誰なのかということに関わらず、住人サイドは決して悪玉にならないような行動を取らせておいた方がいい。

「いいかげんにしろ、眠りたい人もいるんだぞ」というルーイの主張は、尤もでしょ。
それを無視して騒ぎ続ける住民たちは、単なる迷惑な奴らってことになってしまう。そして、そういう描写を入れることで、ルーイに同情したくなってしまう。
でも、それじゃダメでしょ。「ルーイが次から次へと散々な目に遭う」という様子を笑える形が続かないとダメでしょ。
ルーイが心を入れ替えてビルの改修に乗り出した後も、また住人たちは大音量で音楽を流してパーティーを開き、そこを「ルーイも参加してノリノリで踊る」ということで「全て丸く収まった」という形にしているけど、それは違うだろ。

暖房の一件でティトの軽蔑の眼差しに気付いた後、ティトは言い争いの声を聞く。それはエレノアが自転車を買って来たティトの父親に「ヤクを売った金で買ったんだろ」と告げ、追い払おうとしている言い争いだった。
その場にいたティトが走って屋上へ行くのを見て、ルーイは後を追う。ルーイが「君のパパは悪いことをした。エレノアは正しい」と言うと、ティトは「おじさんも僕のパパと変わらない。ビルを直せば住む人を幸せに出来て、自分も幸せになれるのに」と告げる。
で、翌日になってルーイは全面的なアパート改修を開始するという流れになる。
やりたいことは分かるけど、流れに無理があるし、説得力に乏しい。

ルーイをガラリと変化させるきっかけとして、その出来事はあまりにも弱い。
そこでルーイの気持ちが変化するぐらいなら、もっと早くに変化していたんじゃないかと思ってしまう。
今まで住人からさんざん悪態をつかれ、罵られても、ルーイは平然と受け流し、冷徹な態度を取り続けていた。そんなルーイが、なぜティトに軽蔑の眼差しを向けられ、説教じみた言葉を告げられると、急に心を入れ替えるのか。
彼の中でティトだけが特別扱いされる理由が、良く分からないのだ。

せめて「ルーイの気持ちには少しずつ揺らぎが生じており、あと少しで完全にビル改修へと舵を切るところまで来ていた。決断するための背中を押したのがティトの言葉だった」ということなら、まだ受け入れやすかったかもしれない。
だけど、ホントに急激な転換なのよね。
あと、ルーイが変化するには、単に「心を入れ替える」というだけでなく「父の呪縛から解放される」ということも伝えるべきだと思うんだけど、そういうのは全く表現できていないんだよなあ。
ルーイの心情の変化を上手く描写できていないので、終盤になって彼がビルの改修に乗り出して「善人」になっても、まるで心地良さが無いし、感情移入も出来ないのよ。

(観賞日:2014年10月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会