『2分の1の魔法』:2020、アメリカ

遠い昔、世界は不思議に溢れていた。魔法は皆の役に立っていたが、簡単には使えなかった。だから世界は楽な道へ進み、やがて魔法は消えていった。現在。エルフのイアン・ライトフットは兄のバーリー、母のローレルの3人で暮らしている。16歳の誕生日を迎えた彼は、亡き父であるウィルデンのパーカーを着てみた。歴史好きのバーリーは遺跡が取り壊されるたびに妨害しており、母の恋人で警官のコルト・ブロンコから注意された。
19歳のバーリーは少しだけ父のことを覚えているが、イアンは産まれる前に亡くなっているので何も記憶が無かった。学校へ向かう途中、彼は父の大学時代の友人だったガクストンと遭遇し、「ウィルデンは凄い奴だった。オーラがあって大胆だった」と知らされた。イアンは手帳を開いて「新しい僕」と書き、「もっと意見を言う」「運転を習う」「友達を誕生パーティーに呼ぶ」「お父さんみたいになる」という目標を列挙した。
学校に着いたイアンは、いつも自分の椅子に足を掛ける後ろのクラスメイトに「足を掛けないでほしいんだけど」と穏やかに頼む。しかし強い態度で拒まれると、それ以上は注意できずに受け入れた。イアンは運転の教習を受けるが、高速道路に合流することを怖がった。彼はクラスメイト4人を思い切ってパーティーに誘い、OKを貰った。彼は喜んで「バスで家まで行こう」と言うが、勇者の紛争をした兄がグウィネヴィアと名付けたオンボロ車で迎えに来る。イアンは恥ずかしくなり、「予定は無かった」とクラスメイトに嘘をついてバーリーの車に乗り込んだ。
帰宅したイアンは、ローレルに「父さんに会いたかったな」と漏らす。ローレルは「病気になった時も、貴方に会いたくて頑張っていた」と話し、イアンが16歳になったら子供たちに渡すよう言われていた物があると教える。彼女は屋根裏に行き、何かを包んだ布を息子たちに渡した。バーリーが布を開くと杖が入っており、彼は「魔法の杖だ」と興奮した。イアンは添えられた手紙を発見し、そこには「君たちに魔法の力が残っていることを願っている」と綴られていた。
手紙には復活の呪文が書いてあり、死者が1日だけ蘇ると知ったバーリーは喜ぶ。彼は父と会うために杖を握って何度も呪文を唱えるが、何も起きなかった。しかし自室に杖を持ち込んだイアンが何気なく呪文を唱えると、反応があった。部屋に来たバーリーが驚く中、父の体は足から少しずつ出現する。しかし途中で杖に装着されていた石が粉砕し、ウィルデンは下半身だけが復活してしまった。
翌日の夕暮れには完全に姿が消滅してしまうため、バーリーは一刻も早く完全な状態で父をを蘇らせようと考える。そのためには石が必要だが、バーリーはゲームのカードを取り出して「全ての冒険はマンティコアの酒場から始まる」と話す。イアンは「これはゲームだよ」と呆れるが、バーリーは「歴史に基づいている」と自信満々に告げる。2人は置手紙を残し、グウィネヴィアでマンティコアの酒場へ向かう。ローレルは彼らが酒場へ向かったことを知り、すぐに後を追った。
マンティコアの酒場に到着したバーリーは、店主のコーリーに「地図を貸してほしい」と頼んだ。コーリーがお子様メニューの地図を示すと、バーリーは不思議の石の地図だと説明する。店には地図が飾ってあったが、コーリーは「危険だから、大冒険に送り出すのはやめた」と貸し出しを拒否する。イアンは説得しようとするが、彼女は「冒険者が怪我をしたら訴えられて店を失う」と言う。しかし「命の危険を顧みず、出掛けよう冒険に」と呼び掛けていたのが自分だと指摘されたコーリーは、かつての自分を思い出した。
コーリーは変貌して客を追い出し、炎を吐いて暴れ回る。地図は燃えてしまい、イアンとバーリーは店から脱出しようとする。梁が折れてウィルデンの頭上に落下しそうになると、イアンは慌てて呪文を唱えた。すると魔法が発動したので、イアンとバーリーはウィルデンを救助して店から逃げ出した。バーリーはお子様メニューの地図を持ち出しており、客の少女がパズルを解いて「カラスダケ」という答えを出していた。バーリーはカラスダケに石があると断言し、グウィネヴィアを走らせた。
酒場に到着したローレルは、コーリーから息子たちがいたことを知らされる。コーリーが「呪いのことを話し忘れた。でも助けられる」と言うので、ローレルは彼女を車に乗せてイアンとバーリーを追った。グウィネヴィアはガソリンが残りわずかになり、動かなくなった。バーリーはイアンに、「魔法でタンクを大きくすればガソリンの残量も増える」と告げる。イアンは呪文を唱えるが失敗し、バーリーの体が小さくなってしまった。
イアンはガソリンスタンドを見つけて給油し、売店で買い物をする。ウィルデンがデュードロップ率いる妖精グループのバイクを倒してしまったため、イアンたちは慌てて逃げ出した。すぐに妖精グループが追って来て攻撃するが、イアンたちは何とか逃亡した。バーリーの体は魔法が解けて元のサイズに戻るが、誤ってクラッチを踏んだために車のスピードが上がる。そのせいでパトカーに停止を要求され、イアンは魔法でコルトに変身してやり過ごそうとする。嘘をつくと魔法が解けてしまうため、イアンはバーリーを厄介者扱いしていることがバレてしまった。イアンたちが去った後、スペクターは足跡を怪しんでコルトに連絡を取った。
イアンはバーリーの怒りを買って険悪な雰囲気になるが、滑稽なダンスを披露した父を見ている内に2人とも笑い出した。兄弟は仲直りし、バーリーは恐ろしの道を使って山へ向かうべきだと主張した。彼が「今夜だけは俺に任せてくれ。直感を試させてくれ」と口にすると、イアンは承知した。ローレルとコーリーは呪いを解く魔法の剣を手に入れるため、グレックリンの質屋を訪れた。グレックリンは高値を吹っ掛けるが、コーリーが毒針で痺れさせた。ローレルはコルトからの電話で、息子たちが北へ向かったことを知った。
翌朝、イアンとバーリーは恐ろしの道で山を目指すが、途中で深い谷間に行く手を塞がれた。谷間を渡る跳ね橋は上がっており、それを動かすレバーは向こう岸だった。イアンはバーリーの指示で呪文を唱え、魔法の橋を作る。最初は失敗するが、「お前なら出来る」という兄の言葉で成功した。彼は向こう岸に渡り、レバーを使って跳ね橋を下ろした。カラスの石像が2つあるのを見つけたバーリーは、それを辿れば石に辿り着くと確信した。
そこへコルトが現れ、イアンとバーリーに家へ戻るよう指示した。イアンはウィルデンの姿を見せて事情を説明するが、コルトは車に乗るよう要求する。イアンはバーリーとウィルデンを連れてグウィネヴィアに乗り込むが、そのままコルトから逃走する。すぐにバトカーが追い掛けて来て、コルトも加わった。バーリーはイアンに、魔法で岩を落として道を塞ぐよう指示した。しかしイアンは岩を落とすことが出来ず、バーリーはグウィネヴィアを犠牲にして道を塞いだ。兄弟は石像にあった手掛かりを読み解き、川を辿って洞窟に入った…。

監督はダン・スキャンロン、原案はダン・スキャンロン&キース・ブーニン&ジェイソン・ヘッドリー、脚本はダン・スキャンロン&ジェイソン・ヘッドリー&キース・ブーニン、製作はコリ・レイ、製作総指揮はピート・ドクター、製作協力はベッキー・ネイマン=コブ、編集はキャサリン・アップル、プロダクション・デザイナーはノア・クロセク、撮影はシャロン・カラハン&アダム・ハビブ、ストーリー・スーパーバイザーはケルシー・マン、スーパーバイジング・テクニカル・ディレクターはサンジェイ・バクシ、アニメーション・スーパーバイザーはマイケル・ストッカー&ロブ・ドゥケット・トンプソン、キャラクター・スーパーバイザーはジェレミー・タルボット、音楽はマイケル・ダナ&ジェフ・ダナ。
声の出演はトム・ホランド、クリス・プラット、ジュリア・ルイス=ドレイファス、オクタヴィア・スペンサー、メル・ロドリゲス、カイル・ボーンハイマー、リナ・ウェイス、アリ・ウォン、グレイ・グリフィン、トレイシー・ウルマン、ウィルマー・バルデラマ、ジョージ・プサラス、ジョン・ラッツェンバーガー他。


ピクサー・アニメーション・スタジオが『トイ・ストーリー4』の次に公開した長編映画。
監督は『モンスターズ・ユニバーシティ』のダン・スキャンロン。
イアンの声をトム・ホランド、バーリーをクリス・プラット、ローレルをジュリア・ルイス=ドレイファス、コーリーをオクタヴィア・スペンサー、コルトをメル・ロドリゲス、ウィルデンをカイル・ボーンハイマー、スペクターをリナ・ウェイス、ゴアをアリ・ウォン、デュードロップをグレイ・グリフィンが担当している。

ボードゲームにしろ、お子様メニューの地図にしろ、「古い話に基づいている」という設定で、魔法の石に関する正確な情報が記載されている。
しかし魔法に関する重要な情報を、そんなに簡単に誰でも分かるような形で広めてもいいのか。
イアンとバーリーは父を蘇らせたいという目的で動いているが、そんな真剣で純粋なケースばかりではないだろう。軽い興味本位であったり、あるいは悪事のために魔法を利用しようと企む奴もいるだろうに。
遊び半分の連中が余計なことをして色んなトコに迷惑が掛かるのも、犯罪者に魔法が利用されるのも、どちらも避けたい事態のはず。
それを防ぐ意味でも、情報は統制した方がいいだろうに。

根本的な問題として、この映画の世界観が今一つ分からないんだよね。バーリーは杖を見て興奮するし、その杖をイアンが使うと魔法が発動するんだけど、そういう展開に気持ちが乗らないんだよね。
ザックリ言うと、ずっと「しっくり来ない」という状態が続くのだ。
主人公はエルフで、他にもマンティコアやケンタウロスなどファンタジー世界の種族が次々に登場する。人間サイズの種族だけではなく、小さな妖精たちが集団で人間サイズのバイクを操縦している設定もある。しかし舞台はファンタジー世界ではなく、人間社会のように学校やファミレスがあり、車や高速道路がある。
その中で「魔法が消えた世界」という話を描かれても、すんなりと入っていけない。没入感を邪魔する要素だらけになっているのだ。
「魔法が消えた世界で、魔法を使って父を蘇らせようとする兄弟」という物語を描きたいのなら、舞台は「人間たちの世界」にしておいた方がいいでしょ。

読イアンが地図を渡してほしいと頼むと、コーリーは「冒険に送り出して怪我でもされたら訴えられる。この店を失うのは誰だと思う?」と言う。しかしイアンは彼女の気持ちなど全く考えず、地図を渡すよう要求する。
もちろん父に会いたいのは分かるが、そこでのゴリ押しは自分勝手にしか思えない。
しかも、自分のせいでコーリーが暴れて店が火事になったのに、まるで罪悪感を覚えることもなく去っている。
イアンは妖精たちのバイカー軍団に追われて高速道路で危険な運転をするが、下手をすると大勢が巻き込まれる事故が起きかねない状況だ。だが、イアンは「周囲に迷惑を掛けてしまった」という意識を全く抱かない。
目的を果たすためなら、周囲にどれだけ迷惑を掛けても構わないという感じなのだ。

イアンが厄介者扱いしていると知ったバーリーは腹を立て、弟が否定して「今夜は何もかも上手く行ってない」と弁明すると「俺に任せてないからだ。俺を信用してない」と告げる。しかしウィルデンのダンスを見て兄弟は笑い、すぐに和解する。
どうやら作品のテーマは「兄弟の絆」にあるらしいが、それにしては処理が薄味だ。
その後にも、兄弟関係が悪化しそうな出来事はある。谷間を渡る魔法の橋は目に見えず、「あると信じれば渡れる」というシロモノだ。
バーリーは命綱を使ってイアンに渡らせるが、途中で外れてしまう。イアンは渡り切る寸前で命綱が外れていることに気付き、危うく墜落しそうになる。
しかし、そのことでイアンがバーリーに激怒し、関係が不穏になるようなことは無い。
様々な問題が起きるが、全て淡白に片付けられる。

そもそも兄弟の絆を描くドラマにしては、物語の入り方からして違和感がある。
導入部の描写からすると、「引っ込み思案なイアンが冒険を通じて成長する」という物語なんだろうと思う。また、「イアンは父を知らない」という設定が示されているので、「父を知るための冒険」が描かれるんだろうとも思う。
それなのに「兄弟の絆を描く物語」になっていくのは、なんか違うんじゃないかと。
ミスリードを狙う意味は無いので、ストーリー進行に難があるとしか思えない。

ローレルもコルトもイアンとバーリーを追い掛けており、そこで家族ドラマも描こうとしているようだが、明らかに欲張り過ぎだ。
しかもウィルデンの存在が、ほぼマクガフィンと化しているんだよね。ウィルデンがどのような人間だったのか、イアンの父に対する気持ちがどんなモノなのか、そういうことは、ほぼ無意味になっている。
イアンとバーリーが手に入れようとする対象が父じゃなくて財宝か何かでも、ほぼ大差が無い内容に仕上がる。
さすがに終盤は「父との再会」を大きく扱うけど、それは目的が父の復活なので当然の流れであり、そこに向けたドラマを上手く盛り上げることが出来ているとは言えない。

終盤に入り、イアンは「父とやりたいことリスト」の全てをバーリーと一緒にやっていたことに気付く。
そうなると、その後の「バーリーが石を見つけるが、呪いが発動して石の恐竜が暴れる」とか、「ローレルとコーリーが駆け付けて恐竜と戦う」といった展開は、「別に無くてもいいんじゃないか」と思ってしまう。
「バーリーに父との別れを実現させるため、イアンが会うのを諦めて恐竜と戦う」という展開を用意することで、意味を持たせようとはしている。
だけど、大して感動するようなシーンになっていないんだよね。

(観賞日:2022年11月8日)

 

*ポンコツ映画愛護協会