『ノー・グッド・シングス』:2002、アメリカ
窃盗課刑事のジャックは自宅でチェコを演奏し、冷蔵庫に入れてあるインシュリンを注射した。彼がバルコニーに出て酒を飲んでいると、隣人のエイミーが「手を貸して。また娘のコニーが家出したの」と呼び掛けた。彼女はコニーがジップという不良と付き合っていること、ターク通りに住んでいることを説明する。ジャックは「俺は窃盗課だ。失踪人課に」と言うが、エイミーは「もう3日も戻らない」と話す。「休暇を取って音楽祭に行くんでしょ。無理は言えない」と彼女が泣くので、仕方なくジャックは捜索を引き受けた。
ジャックはエイミーから、コニーとジップが並ぶ写真を借りた。彼は車でターク通りで聞き込みを行うが、何の情報も得られなかった。車に戻った彼はインシュリンを打とうとするが、瓶は空になっていた。老夫婦のイザベルがポーチの階段を踏み外して転ぶのを見たジャックは、車を降りて駆け寄った。彼は買い物袋を拾う時に写真を落とすが、全く気付かなかった。イザベルはジャックに荷物を運んでもらい、夫のトーマスに紹介した。
ジャックはイザベルに「お友達を捜してるの?」と問われ、「容疑者です。若い男です」と答える。「刑事さんなのね」とイザベルは言い、ジャックが去ろうとすると「お茶ぐらい飲んでいって」と引き留める。トーマスはジャックに、自慢のパイプを見せた。イザベルから容疑者について「一匹狼なの、それともギャングなの?」と質問されたジャックは、「たぶん一匹狼でしょうね」と告げる。トーマスが「どんな男だ?」と訊くのでジャックは写真を見せようとして、紛失したことに気付いた。
ジャックが「ブロンドの髪で、瞳は青い男です」と見た目の説明を始めると、背後からフープという男が現れて拳銃を突き付けた。フープが「なぜ分かった?」と凄むので、ジャックは「君は誰だ?」と戸惑う。フープは「とぼけんな」と声を荒らげ、ジャックを殴り付けて昏倒させた。ジャックが意識を取り戻すと、椅子に縛り付けられていた。フープは奥の部屋にいたボスのタイロンに、「刑事が俺を捜しに来た」と報告した。タイロンが「仲間がいたらどうするんだ」と言うと、彼は「殺す」と即答する。タイロンは「代償が高く付く」と却下し、「予定を一回繰り上げよう。今日だ」と述べた。
そこへエリンが現れ、フープを刺激するような仕草を見せた。タイロンはエリンを中庭に連れ出し、「もっとフープを上手く操れ」と指示した。エリンはフープと2人になり、「これが最後の仕事よ」と語る。フープが「それで奴と別れるのか」と尋ねると、彼女は「なぜ?」と尋ねる。フープは彼女に、「奴は君を傷付け、俺を踏みにじった」と告げた。タイロンはトーマスに、「午前2時にはバミューダに着け。ケイマン諸島にはフープが飛ばす」と話す。フープが薬を飲んでいると聞いたトーマスが「操縦中にキレても知らんぞ」と言うと、彼は「私が管理する」と述べた。
タイロンはジャックに、「フープは頭の怪我で精神障害が残り、私が面倒を見てる」と話す。銀行員のデヴィッドが訪ねて来ると、彼はイザベルに時間稼ぎを命じた。イザベルが玄関先でデヴィッドと話している間に、タイロンはエリンを着替えさせた。エリンはトーマスとイザベルの孫娘としてデヴィッドと接し、彼の心を奪っていた。エリンは車に戻るデヴィッドを追い掛け、計画が今日になったことを語る。デヴィッどは「無理だ」と顔をしかめるが、エリンは「私たちのためよ」と銀行に戻って準備するよう頼んだ。
タイロンはエリンに、家へ残ってジャックの相手をするよう命じた。「デヴィッドは私を待ってる」とエリンが話すと、彼は「私が何とかする」と告げた。タイロンたちは荷物をまとめ、車で出発した。エリンはジャックに「逃がしてくれ」と言われ、「彼からは逃げられない。これは見せしめよ」と左足の人差し指が切断されているのを見せた。ジャックはエリンに、写真を探すよう頼んだ。写真は見つからず、エリンが戻って来るとジャックは意識を失っていた。ネックレスを見たエリンは、彼が糖尿病患者だと知った。彼女はジャックの上着を調べるが、インシュリンは無かった。エリンは車を飛ばしてジャックの家へ行き、冷蔵庫のインシュリンを発見した。
フープは作業員を装って銀行へ赴き、配電盤の前で仕事を開始した。トーマスとイザベルは、知人のウィリーが経営する空港に到着した。タイロンは客として銀行を訪れ、デヴィッドと会った。ジャックはインシュリン注射で意識を取り戻し、エリンに「借りが出来た」と言う。エリンはジャックの家からチェロを運び出しており、「荷造りをしてたわね。どこへ行く気だったの?」と尋ねる。ジャックは彼女に、「クラシック版のファンの集いだ」と答えた。
タイロンはデヴィッドから「エリンに会わせろ」と要求され、「だったら電話しろ。家にいる」と告げる。デヴィッドは電話を掛けるが、話し中になっていた。タイロンはフープからの連絡で、「予備電源の接続が複雑だ。少し時間が掛かる」と聞かされた。エリンはピアノを演奏し、ジャックに「ソ連崩壊までは特待生だった」と話す。ジャックが「私は窃盗課で、家出娘を捜してた」と語ると、エリンは拘束を解いた。彼女はジャックに突き付け、立つよう命じた。
フープが作業を終わらせ、銀行は停電になった。タイロンは大声で、「早く送金しろ」と怒鳴った。支配人が慌てて駆け付けると、彼は「6時までに送金してもらうぞ」と凄んだ。支配人は狼狽し、奥の部屋に案内した。エリンは拳銃を置き、チェロでピアノと合奏するようジャックに要求した。ジャックは承諾し、初見の譜面で合奏した。タイロンは「このままだと1億ドルの契約を失う」と言うと、支配人はノートパソコンでの手続きを始めた。
エリンはジャックに銃を向け、「借りが出来たと言ったわね。返してもらうわ。私にチェロの弾き方を教えて」と要求する。ジャックは半ば呆れた様子を見せるが、エリンが銃を置くと了承した。彼はエリンの後ろに座り、体を密着させてチェロの弾き方を教えた。支配人は送金に必要な情報をフロッピーディスクにコピーし、タイロンに渡して「後は書類だけです」と述べた。タイロンとフープは銀行を出て車に乗り、デヴィッドの家へ向かった。デヴィッドは家へ向かう途中で衝突事故を起こしそうになり、慌ててハンドルを切った。車は路肩に突っ込み、壊れて動かなくなった。
タイロンはデヴィッドの自宅前で帰りを待ち、エリンに電話を掛ける。しかしエリンは電話に出ず、フープは「2人はグルなのかも」と口にする。タイロンはフープにデヴィッドを待つよう命じ、車から降ろした。フープはドアを開け、デヴィッドの家に侵入した。タイロンはヒッチハイク中のデヴィッドを見つけ、車に乗せて苛立ちをぶつけた。エリンは気付いていなかったが、ジャックは密かに別室の受話器を外していた。エリンはジャックを再び椅子に縛り、「タイロンとフープが戻ったら正当防衛で殺せる。1億ドルは私たちの物に出来る」と手を組むよう持ち掛けた。しかしジャックは、まるで話に乗る態度を示さなかった。
タイロンはデヴィッドを連れて、彼の家に到着した。デヴィッドはディスクのパスワードを教える条件として、エリンに会わせるよう要求した。ジャックはエリンに「電話が来ないぞ。君はお払い箱になったんだ」と言い、警察で事情を話すよう促した。しかしエリンは、別室の受話器が外れていることに気付いて元に戻した。そこへタイロンから連絡が入り、「デヴィッドを連れて行く。奴と寝て機嫌を取れ」とエリンに命じた。
エリンがシャワーを浴びている間に、ジャックはガスレンジの火で足のロープを焼き切った。彼はシャワー室をつっかえ棒で封鎖し、その間に拳銃を手に入れた。エリンがシャワー室から抜け出すと、ジャックは拳銃を向けて制圧しようとする。しかしフープが戻り、背後からジャックを殴って昏倒させた。エリンはフープに、ディスクとパスワードを手に入れたらタイロンを始末するよう指示した。タイロンはデヴィッドを連れて戻り、フープに「15分だけ時間を与えろ」と命じた。
デヴィッドはエリンと寝室に入り、「一緒にケイマンへ行く」と言い出した。エリンは「タイロンと一緒にいるのを見られたらマズい」と説き、「数日間、留守にするだけよ」その後は計画通りに高飛びよ」と丸め込んだ。タイロンはトーマスからの電話で「どうなってる?」と問われ、「窮地に陥ってる」と答えた。トーマスは馬鹿にするような態度を取り、「銀行は気付くぞ」と告げた。15分が経つとフープは寝室に飛び込み、デヴィッドに暴行した。デヴィッドが抵抗すると、フープは怒りに任せて殺害した。
パスワードが聞き出せなくなったため、タイロンは適当に打ち込むが全て間違いだった。しかしエリンが試しに自分の名前を入力すると、それが正解だった。タイロンはエリンとフープを伴って車で出発し、トーマスからの電話を無視した。彼はエリンたちに老夫婦を排除する考えを伝え、「目的地には車で行く。分け前も増える」と述べた。目的地について問われた彼は、「オールバニーに馴染みの銀行がある。3時間もあればカナダ国境だ」と説明した。
フープはエリンの目配せに気付くと、「ガソリンが無い」とタイロンに言ってガソリンスタンドで車を停めた。エリンはトイレへ行き、タイロンの写真に細工を施してジャックが持っていたように偽装した。彼はタイロンに写真を見せ、「刑事が捜していたのは貴方だった」と嘘を吹き込んだ。タイロンはエリンに拳銃を渡し、フープにジャックを始末させるよう指示した。エリンはタイロンに言葉をフープに伝えるが、「そうじゃないわよ」と釘を刺した。フープは人気の無い場所で車を停め、タイロンに銃を向けた。しかしタイロンの言葉で決心が揺らぎ、最終的にはエリンが止める形になった。彼らは家に戻り、タイロンはフープにジャックの殺害を命じた…。監督はボブ・ラフェルソン、原案はダシール・ハメット、脚本はクリストファー・カナーン&スティーヴ・バランシック、製作はサム・パールミュッター&デヴィッド・ブラウン&マクシム・レミラール&アンドレ・ルーロー&ハーブ・ナナス&バリー・バーグ、製作総指揮はジュリアン・レミラール&デヴィッド・E・アレン&フランク・ヒューブナー&ジャン・ファントル、製作協力はマシュー・キーン・スミス、撮影はフアン・ルイス=アンチア、美術はポール・ピータース、編集はウィリアム・シャーフ、衣装はメアリー・クレア・ハナン、音楽はジェフ・ビール。
出演はサミュエル・L・ジャクソン、ミラ・ジョヴォヴィッチ、ステラン・スカルスガルド、グレイス・ザブリスキー、ダグ・ハッチソン、ジョス・アクランド、ジョナサン・ヒギンズ、シャノン・ローソン、ロバート・ウェルチ、フランシス・X・マッカーシー、ノエル・バートン、ロベルト・ブリザード、ショーン・ロバーツ、テレンス・ボウマン、ボブ・ブリュースター、ピーター・ブラスキ、ジェニファー・セグイン、ラリー・デイ、アンドリュー・キャンベル、キャロル・ブリュー他。
ダシール・ハメットの小説『ターク通りの家』を基にした作品。
監督は『お気にめすまま』『ブラッド&ワイン』のボブ・ラフェルソン。
脚本は『ロビンソン・クルーソー』のクリストファー・カナーンと『甘い毒』のスティーヴ・バランシックによる共同。
ジャックをサミュエル・L・ジャクソン、エリンをミラ・ジョヴォヴィッチ、タイロンをステラン・スカルスガルド、イザベルをグレイス・ザブリスキー、フープをダグ・ハッチソン、トーマスをジョス・アクランドが演じている。犯罪映画やサスペンス映画が陥りがちな失敗として、「犯人がアホすぎて白ける」というパターンがある。この映画は、その典型的なケースと言っていいだろう。
しかもアホすぎるのは1人じゃなくて、犯人グループが揃いも揃ってアホばかりなのだ。利口な奴は、1人もいない。
だから彼らが計画を実行に移す前の段階で、失敗に終わることがハッキリと見えてしまう。
そのため、「その計画は成功するのか」といったハラハラドキドキは、全く無い。っていうか、犯人グループが主役じゃないんだから、ホントは「計画が成功するか否か」という形で話を進めている時点で問題がある。
ジャックが主役なんだから、本来なら「ジャックは無事に脱出できるのか、そして計画を阻止して犯人グループを退治できるのか」という部分で観客の関心を引き付けなきゃいけないはず。
ところが、ジャックはずっと家にいて、「計画を阻止する」とか「犯人グループを逮捕する」という意識で動こうとしない。それどころか、脱出しようという様子さえ見せない。そして彼が全く関与しない場所で、どんどん犯人グループの計画は進行しているのだ。
そしてジャックが何もしていないのに、犯人グループがバカだらけのせいで、ピンチが訪れたり仲間割れが起きたりする。
そんな形でのトラブルやハプニングで緊迫感を煽ろうとしても、全く刺さるモノは無いのよ。そもそも、ジャックが刑事だと分かった時に、無理して引き留める必要性からして乏しいんじゃないかと。引き留めるのなら、彼の目的を詳しく聞いて、自分たちと関係があるのかどうかを確かめるべきだろう。
ところが、「ブロンドの髪で青い瞳の男を捜している」というだけで、フープが「俺を捜しに来た」と決め付けて殴り倒してしまう。
こうなると、もはや殺して処分するしか手は無いと思うのだが、タイロンは殺さずに済ませる。
でも、ずっと拘束しておくわけにもいかないんだから、どこかのタイミングで釈放することになるわけで。
それを考えると、全員が堂々とジャックに顔を見せて本名で呼び合うのは、愚の骨頂でしかないでしょ。フープは些細なことで頭に血が昇る面倒な男で、短絡的な行動に走る。仲間が相手でもお構いなしで、トーマスと口論になったりする。
こんな奴を計画に参加させるのはリスクが大きすぎるのに、なぜかタイロンは彼を重用する。
銀行を停電にする作業を担当しているので、そっち方面の能力があるってことなんだろう。ただ、そういうことを考慮しても、やはりデメリットの方が遥かに大きいと感じるぞ。後半には彼がキレてデヴィッドを殺したせいで、パスワードが分からないという大ピンチが訪れているし。
ただ、エリンが自分の名前を入れて簡単に正解を出してしまうので、そういうピンチもマトモに活用できていないのよね。エリンはジャックが糖尿病患者だと知ると、自宅まで車で赴いてインシュリンを見つける。
でも、どうやって自宅の住所を知ったのか。そんな情報を入手する手順は、どこにも無かったはず。
っていうか、「わざわざ車で家まで赴いて云々」という手順の必要性も無いでしょ。「インシュリンの瓶が空っぽ」という手順を無くして、「エリンが上着のポケットを探ってインシュリンを発見する」という形でもいいでしょうに。
「車で出掛けている間にタイロンやデヴィッドから電話が入り、エリンが出ないので怪しまれる」みたいな展開があるわけでもないんだし。無理をしてまでエリンをジャックの家に行かせるのは、「チェロを見つけて持ち出す」という手順のためだ。
で、その手順を用意したのは、「エリンのピアノとジャックのチェロで合奏する」「エリンがジャックにチェロを教えてもらう」という展開に持ち込むためだ。
でも、合奏シーンの必要性を全く感じないのよね。
そこでエロティックな雰囲気を出そうとしているけど、ピアノとチェロの存在意義が高いわけではないし。あと、エリンをファム・ファタールとして設定し、ジャックが心を乱される展開に持ち込もうとしているけど、そこにも色々と無理を感じるし。
エリンがジャックに色目を使うのは、最初から「仲間に引き入れてタイロンたちを始末してもらう」という狙いがあったからなのか。
だとすると、もっとキビキビと迅速に動かないとダメだろ。たまたまタイロンたちはトラブルが重なって予定より大幅に行動が遅れている けど、下手をすると家に帰って来るかもしれないんだし。
しかも再び椅子に縛り付けたとは言え、呑気にシャワーに入るとか、隙があり過ぎる。どういう神経をしているのかと。エリンはタイロン、フープ、デヴィッドを誘惑し、手玉に取ろうとしている。そこにジャックも加えて、都合良く利用しようと目論んでいる。
ただ、色目を使ってもジャックが乗って来ないので、エリンは犯人グループが起こす内輪揉めの中心にいるだけの存在と化している。例えるなら、オタサーの姫みたいな感じかな。
そして犯人グループが勝手に自滅していくので、ジャックは何のためにいるのかサッパリ分からない状態になっている。
あと、ジャックは隣人から頼まれた調査活動をこなす過程で巻き込まれたはずなのに、肝心の「家出娘を捜索する」という目的は完全に忘却の彼方へ去っているんだよね。終盤に入ると、ジャックがフープを返り討ちにした後、バカな仲間割れでトーマスとイザベルが死亡する。ここでジャックはタイロンに、自分を仲間に加えるよう持ち掛ける。
その辺りになって、ようやくジャックが存在意義をアピールしているわけだ。
とは言え、仲間にしろという要求が建て前で、本心では悪党に加わるつもりが無いことは一目瞭然だ。
だから、彼が「国境を越えたらエリンを自由に」と要求するのは、どういうことか良く分からない。それは全く必要の無い要求だし、計画の阻止や悪党の逮捕にも関連していない。なので疑問を抱いていたら、タイロンが警官隊に射殺された後、ジャックはエリンを逃がそうとするんだよね。そんで最終的には警官に「逮捕しろ」と指示するので、何がしたいのかと言いたくなる。
たぶん「最後までジャックの気持ちは揺らいでいた」ってことなんだろう。
でも、ジャックとエリンの関係性を軸にして物語を進めていたわけじゃないし、ジャックの揺らぎも全く見えていなかった。
なので最後の最後で帳尻を合わせようとしても、それは無理な相談だよ。(観賞日:2023年5月21日)