『ニンジャ・アサシン』:2009、アメリカ&ドイツ

大阪、町井ヤクザクラブ。ヤクザの親分であるハリウッドは、刺青師に刺青を彫らせていた。そこへ子分が来て、手紙が届いたことをハリウッドに知らせる。手紙を開封すると、中身は黒い砂だった。すると刺青師は顔を強張らせ、「昔、これと同じ封筒を開けた男を見たことがある。大勢が一緒だった。そこにアレが出て来て、現場は血の池になった」と話す。「何が出て来た?」というハリウッドの問い掛けに、彼は「それは口に出せない」と怯えた様子で答えた。
刺青師の胸にある忍者の刺青を見たハリウッドは、彼が口に出せなかった言葉が「忍者」だと知って嘲笑った。直後、目に見えない敵が町井ヤクザクラブを襲撃し、ハリウッドの子分たちを全滅させた。ハリウッドが震えながら取り引きを持ち掛けると、刺青師は「取り引きは無理だ。なぜなら相手は人間ではなく、地獄から来た悪魔だからだ」と述べた。そしてハリウッドも殺され、姿を見せた忍者によって刺青師も始末された。
ベルリンのユーロポール本部ビル。科学捜査官のミカ・コレッティーは上司のマスローに、忍者が実在することを熱く語る。古い裁判記録を調べた彼女は、忍者の報酬が金塊100ポンドであることを知った。大阪の事件の後には、役小角(えんのおづぬ)の一族に同じ量の金塊が支払われていた。ミカは調査を進め、ロシアのズーコフ首相が暗殺された前日に金塊100ポンドが送金されている情報も突き止めた。彼女は「忍者は要人を暗殺するため、子供をさらって育成しているのよ」と語った。
一族の忍者である雷蔵は、ベルリンのコインランドリーで女性に声を掛けられた。相手が別の一族の忍者だと見抜いた彼は、戦って始末した。マスローはミカに、友人の協力で手に入れた資料を見せた。それはアレクセイ・サバティンというKGBの職員が冷戦中に書いた報告書で、過去の要人暗殺は大半が「九つの一族」という古い組織に遂行された可能性があることが記されていた。その職員は精神異常と判断され、解雇されていた。ミカは持論への確信を深めるが、マスローは忍者の存在に否定的だった。
アパートに戻った雷蔵は、幼少時代のことを思い出す。孤児だった彼は小角の一族に拾われ、他の子供たちと共に暗殺者としての訓練を積んだ。実戦形式の訓練で負けた子供は、命を失った。少しでも弱さを見せると、小角の折檻を受けた。足の裏が傷だらけになった雷蔵が眠れずに苦しんでいると、霧子という少女が内緒で手当てしてくれた。小角の折檻で付けられた傷は、今も雷蔵の体に残っていた。
ミカはサバティン夫人の元を訪れ、詳しい話を聞く。夫人は「約2年前、ズーコフ首相が暗殺された後、あの報告書が目を付けられた。それ以後、全てが変わった」と話し、アレクセイが家の警備システムを厳重にしたことを話す。彼は「影を作っちゃいけない」と言い、照明装置を取り付けた。ある日、若い男が訪れてアレクセイと話し、そして立ち去った。夫人はアレクセイが怯えているのを悟った。そしてアレクセイは、何者かに殺害された。
サバティン夫人は「これを持って行って」と言い、金属製の箱を渡した。中にはアレクセイが残した資料とビデオテープが入っていた。テープを再生すると、それは監視カメラの映像だった。そこには雷蔵の姿が写し出されていた。その雷蔵はアパートで武術の稽古を積み、過去を思い出す。10代に成長した彼は、先輩の武との稽古で打撃を浴びた。小角は「それが痛みだと思ったら大間違いだ」と告げ、雷蔵の腹部に手刀を捻じ込んで苦悶させた。
ミカがサバティンについて調べていると、内務調査官のザブランスキーがやって来てマスローのことを尋ねた。「彼が何かしたの?」というミカの質問に、彼は「定期調査だ。ストレスや疲労が無いか確認してる」と告げた。ミカはマスローと会い、ザブランスキーが彼の元にも来たことを知る。「私たちを監視してるってことね」とミカが言うと、マスローは「これは明らかな警告だ。君の仮説が正しければ、その一族は強大な権力に守られている」と語り、今後は慎重に行動するよう促した。
雷蔵は10代の頃を回想する。彼は霧子に仄かな行為を抱くようになっていた。彼は小角から、五感に頼らずに戦う訓練を積まされた。霧子は戦いに敗れた仲間を斬るよう小角に命じられ、それを拒んだ。小角は「掟がある」と言い、彼女の頬に深い切り傷を付けた。竹の牢に監禁された霧子に、雷蔵は内緒で水を与えた。雨の夜、霧子が脱走しようとするのを見つけた雷蔵は、「掟がある。心臓を抉り取られる」と制止した。霧子は「心までは触らせない」と告げ、彼にキスをした。「一緒に来て」と誘われた雷蔵は、「外に何がある?」と告げる。霧子は「人生よ」と答えた。雷蔵が「俺の人生はここにある」と口にすると、彼女は悲しそうな表情を浮かべて塀を登った。
アパートにいた雷蔵は、電話で「明日の夜」と短いメッセージを受けた。彼はミカの住所が記された写真を手にして、外へ出た。ミカが地下駐車場で車に乗り込もうとすると、マスローが現れた。彼は「あらゆる組織が来て、私のオフィスを調べてる」と告げ、「君は帰宅し、旅行に出ろ」と指示して足の付かない拳銃を渡した。ミカがアパートへ戻ると、停電になっていた。ミカが懐中電灯で照らしながら部屋に入ると、手紙が置いてあった。手紙を開封すると、中身は黒い砂だった。
潜んでいた忍者が姿を現し、ミカを殺そうとする。だが、別の忍者が現れ、その忍者と戦い始めた。それは雷蔵だった。雷蔵は刺客を始末した後、ミカに「奴らはまた来る。君が死ぬまで奴らはやめない。銃は役に立たない。俺を信用するなら、君を助けてやる」と述べた。彼が覆面を脱いだので、ミカは監視カメラに写っていた男だと気付いた。新たな忍者たちの襲来に気付いた雷蔵は、ミカを連れて逃げ出した。2人が去った後、部屋には武と手下たちが入って来た。雷蔵たちが逃げても、武は全く動じていなかった。
霧子は屋敷から脱出したものの、すぐに武の率いる追っ手の一団が来て捕まった。翌朝、小角は武に、霧子の処刑を命じた。武は雷蔵に見せ付けるようにして、霧子の胸に刀を突き刺した。ミカは雷蔵を乗せて車を走らせ、「どこへ行けばいい?」と尋ねた。雷蔵は「どこ出もいい。奴らは匂いで追って来る」と告げた。ミカの質問を受けた彼は、過去を回想する。彼は小角から、キングピンという男を始末して金の腕時計を持って来るよう命じられた。キングピンの反撃を受けながらも、雷蔵は仕事を遂行した。腕時計を持ち帰ると、小角は「取っておけ。お前の人生の全てが私からの賜物だという印になる」と述べた。小角は手下たちの前で、逃げ出そうとした一族の女を始末するよう雷蔵に命じた。雷蔵は小角に襲い掛かり、忍者集団の反撃を受けた。深手を負った彼は、高層ビルの屋上から転落した。
ミカが「保護するわ」と持ち掛けると、雷蔵は「嫌だ。俺は小角を倒す。手を貸してくれ」と言う。雷蔵はミカの服を着替えさせ、石鹸を使わずに体を洗わせた。匂いを変えるためだ。ミカはマスローに電話を掛け、「ビデオに写っていた男が一緒なの。彼は味方よ」と話す。彼女は雷蔵を伴い、マスローと会う。だが、マスローはユーロポールの部隊を呼んでおり、雷蔵は拘束された。非難するミカに、マスローは「こういう命令なんだ」と釈明した。
雷蔵は施設に収容され、ミカはマスローに抗議する。マスローは「真相は分からないが、誰かが裏で糸を引いている。彼を逮捕しろという命令も、敵が手を回したんだろう。慎重な行動が必要だ。勝手に動くなよ」と話し、ミカに小型発信器を手渡した。雷蔵はミカに、敵が襲って来ることを教えた。施設は停電になり、武の率いる忍者集団が侵入してユーロポールの部隊を次々に始末していく。エージェントの死体から鍵を奪い取ったミカは、雷蔵を拘束から解いた。雷蔵はミカを連れて脱出を図るが、敵が立ちはだかる…。

監督はジェームズ・マクティーグ、原案はマシュー・サンド、脚本はマシュー・サンド&J・マイケル・ストラジンスキー、製作はジョエル・シルヴァー&アンディー・ウォシャウスキー&ラリー・ウォシャウスキー&グラント・ヒル、共同製作はロベルト・マレーバ&ジェシカ・アラン&ヘニング・モルフェンター&カール・L・ウォーケン&クリストファー・フィッサー、製作総指揮はトーマス・タル&ジョン・ジャシュニ&ウィリアム・フェイ&スティーヴ・リチャーズ、製作協力はアーロン・オーシュ、撮影はカール・ウォルター・リンデンローブ、編集はジアン・ガンジアーノ&ジョセフ・ジェット・サリー、美術はグレアム・“グレイス”・ウォーカー、衣装はカルロ・ポッジョーリ、視覚効果監修はダン・グラス、音楽はイラン・エシュケリ。
出演はRAIN、ナオミ・ハリス、ベン・マイルズ、リック・ユーン、ショー・コスギ、ランドール・ダク・キム、サン・カン、イ・ジュン、アンナ・サワイ、リーク・カイ・ファン、ジョナサン・チャン=ペンズリー、エレノア・ワイスゲルバー、スティーヴン・マーカス、グイド・フェーダーヴァイサー、ソーストン・マンダーレイ、アドリアナ・アルタラス、ハンス・ホールベイン、ウラジミール・タラジャンス、リン=ダン・ファム、ユン・サンウォン、カイリー・リヤ・ゴールドステイン、キム・イルヤン、ユーキ・イワモト他。


『Vフォー・ヴェンデッタ』に続いて、ウォシャウスキー兄弟(現在は姉弟)がプロデューサーを務め、ジェームズ・マクティーグが監督を務めた作品。
雷蔵をRAIN(ピ)、ミカをナオミ・ハリス、マスローをベン・マイルズ、武をリック・ユーン、小角をショー・コスギ、刺青師をランドール・ダク・キム、ハリウッドをサン・カンが演じている。
脚本は、これが映画デビューとなるマシュー・サンド(原案も担当)と、『チェンジリング』のJ・マイケル・ストラジンスキー。

話はデタラメ&ペラペラだ。
そもそも冒頭の「大阪・町井ヤクザクラブ」って何やねん。しかも日本のヤクザなのに役名が「ハリウッド」って、どういうことやねん。
ミカはマスローに「忍者は実在する」と語るが、実在するとして、だから何なのか。
役小角の一族に金塊が支払われていることは分かっているんでしょ。だったら、その相手が忍者かどうかってのは、そんなに重要ではない。
とにかく、まずは犯人を捕まえることを考えるべきで、そのために何をすべきかってのを考えるべきじゃないのかと。

小角は子供たちに、「肉体は精神に従う。飢えも乾きも、血でさえも肉体の弱点となる」と語る。
それから小刀で掌を切って出血させた後、九字(臨・兵・闘・者・皆・陣・列・前)を唱えると血も傷も消えているというのを見せる。
彼は「これこそが忍者の道なのだ」と語るが、それは忍術じゃなくて手品だ。
それと、子供たちは全て丸坊主にされているが、たぶん中国武術(っていうか少林寺)と混同している。

雷蔵は一族でも特に腕の立つ忍者なのに、なぜか忍者装束で顔を隠さず、監視カメラにバッチリと撮られている。キングピンを始末する仕事を命じられた時も、怪力の相手に反撃を受けてダメージを負っている。
ってことは、その時点では腕の立つ忍者ではなかったが、一族を抜けた後にトレーニングを積んでレベルアップしたってことなのか。
そこは違和感があるぞ。
もう抜ける前の段階で凄腕の忍者ってことにしておくべきだったんじゃないのか。

あと、雷蔵が反旗を翻すタイミングにも、違和感がある。彼は抜けようとした女の始末を命じられ、(たぶん)霧子を思い出して小角に攻撃を仕掛けているんだけど、その直前には指令を受けて遂行しているんだよね。
つまり、霧子が殺された後も、雷蔵の中で一族に対する反抗心は芽生えていなかったってことになる。
たぶん女の始末を命じられなかったら、それ以降も暗殺の仕事を普通にこなしていたんじゃないか。
でも、それもスッキリしないんだよなあ。そうではなく、霧子が殺されたことで復讐心が芽生えるという形にした方がいい。
その後もしばらく一族に残っている設定にするのなら、「復讐できる力を付けるため、しばらくは気持ちを隠して稽古を続けていた」ということにでもすればいいだろう。

ミカは「どうして私を助けてくれたの?」と尋ねるが、私も疑問に感じる。
それに対する雷蔵の答えは無い。彼がミカを助ける理由って、何も無いんだよね。
それまでに、雷蔵はミカと全く面識が無い。ミカと目的が共通しているわけでもない。
雷蔵と一族の戦いにミカが巻き込まれたから成り行きで助けたとか、雷蔵のせいで迷惑が掛かったから助けたとか、そういうことでもない。
雷蔵の目的は復讐であり、ミカに協力してもらおうってことらしいが、なぜ彼女が必要なのかは分からない。

この映画にあるのは、「残虐な血みどろ格闘アクションを見せたい」というワン・イシューだけだ。
冒頭のアクションシーンから、顔が真っ二つにされたり、腕や足がスパッと切り落とされたり、首チョンパになったりして、血がビシャッーと吹き出し、ドバッーと飛び散る。
ただし前半はアクション・シーンは少なめで、それよりも「ミカが忍者について調査する」という部分が大きく扱われる。それと並行して、雷蔵の過去が描かれる。
で、そこが酷く退屈なのだ。
ってことは、前半は退屈を余儀なくされるわけだ。

忍者がどういう一族だとか、どういう仕事をしているとか、そんなの、どうでもいいでしょ。それについて詳しい情報が分かったところで、別にミステリーの種明かしみたいな満足感が味わえるわけではない。「で、だから?」と思うだけだ。
一方、雷蔵の回想シーンも、そこまで丁寧に描く必要性を全く感じない。バッサリとカットしろとは言わないが、そんな作業はもっと短く切り詰めて、本来の目的であるスプラッター・アクションを増やした方がいいだろうに。訓練のシーンではアクションもやっているけど、血みどろじゃないし。
それが一番の売り、っていうか唯一の売りと言ってもいいのに、なんでスプラッター・アクションを出し惜しみしたのか分からん。
しかも、後半にもアクションシーンは用意されているものの、冒頭シーンがピークで、それを超えるような見せ場は無い。

この映画を語る上で一番の面白ポイントは、ピ大先生が主演しているってことだろう。
この偉大なる大先生は、ウォシャウスキー姉弟が脚本&監督&製作を務めた2008年の『スピード・レーサー』に出演した時、オファーを受けたのは日本人役だったのに、直談判して韓国人の役に変更してもらった。
さらには韓国人であることをアピールする目的でコスチュームにハングル文字を入れたほど、日本への嫌悪感や敵対心が強い人だ。
ちなみに演じたのはテジョ・トゴカーンという名前のキャラで、もはや日本人でも韓国人でも違和感のある名前だ。

そんなピ大先生だが、なぜか今回も、日本人役のオファーを引き受けた。
今回は忍者であり、しかも名前が「雷蔵」なので、さすがに捻じ曲げるのは無理だろうと思いきや、ピ大先生の反日思想の前には、そんなことは屁でもなかった。
彼は取材の場で、「日本人を演じているわけではない」「忍者が日本人でなければいけないというわけではない」と話し、雷蔵が日本人であることを明確に否定している。
それどころか、なんと彼は「朝鮮にも忍者はいる」とまで言ってのけたのだ。
さすがは大先生、グレートだぜ。

「朝鮮にも忍者はいる」というのは、大抵の日本人からすると妄言だし、怒りを覚える人もいるかもしれない。
だが、それはピ大先生だけのトンデモ発言ではない。韓国では「忍者のルーツは朝鮮半島にある」と主張している人も、それを信じている人も、少なからず存在する。
そもそも韓国というのは、日本や中国の文化や伝統について、やたらと「起源は朝鮮半島」と主張したがる国だ。だから忍者だけでなく、剣道にしろ、歌舞伎にしろ、武士にしろ、その起源は朝鮮半島なのだ。それが彼らの「ウリジナル」ってやつだ。
ついでに言うと、大々的に活躍している日本人のアスリートや芸能人は、その全てが在日朝鮮人ということになっている。
そういうことを堂々と主張できるんだから、天晴だね。

韓国では、有名人が少しでも日本に対して好意的な発言をすると、すぐに激しいバッシングを浴びてしまう。そういうお国柄なので、仮に日本に対して否定的な考えを持っていなくても、親日的な言動を取ることは難しいという事情がある。
しかしピ大先生は本物の反日俳優なので、心底から日本を否定する言葉を発している。
「だったら最初から日本人役のオファーを承諾するなよ」と言いたくなる人がいるかもしれないが、「ハリウッド映画に出演できる」という誘惑の前では、そこは簡単に妥協できるのだ。
で、引き受けておきながら役柄を捻じ曲げるんだから、その性根は凄い。

ピ大先生の発言を不愉快に感じ、怒りを覚えている日本人からすると、「これなら、まだアメリカ人俳優に主役を演じて貰った方が遥かにマシだ」という気持ちになるかもしれない。
彼らは「アメリカにも忍者がいる」などとは絶対に言わないだろうし、日本の文化に対するリスペクトの態度も示すだろう。
しかしウォシャウスキー姉弟はピ大先生を起用し、彼の反日思想に基づくキャラ変更を承諾したのだ。
どうやらウォシャウスキー姉弟は、日本のアニメや漫画は好きでも、リスペクトの気持ちは全く無いようだ。
そこがクエンティン・タランティーノと大きく違う点だな。

(観賞日:2013年11月20日)

 

*ポンコツ映画愛護協会