『ネル』:1994、アメリカ
ノースキャロライナの深い山奥の小屋で、世捨て人のような暮らしをしていた老女バイオレット・ケルティーが亡くなった。地元の町医者ジェリー・ロベルは保安官と共に小屋に向かった。一人暮らしだと思われていたケルティーだが、ジェリーは小屋に隠れていた若い女性を発見する。
その女性はジェリー達に対してかなり怯えている様子だ。バイオレットが残した手紙から、女性はバイオレットの娘ネルだと分かった。ネルはこれまで外界との接触が全く無く、独自の言語を話している。ジェリーは大学病院の精神科医ポーラ・オルセンに協力を依頼する。
オルセンは病院の施設に収容し、彼女を調査しようとする。だがジェリーはネル山から連れ出すことに反対。裁判に持ち込まれ、判決までに3か月の猶予が与えられることになった。ジェリーとオルセンはそれぞれ小屋の近くに移り住み、ネルを観察することにする。
実験材料としてネルを調査しようとするオルセンのやり方に納得できないジェリー。ジェリーは同じ人間としてネルを理解しようと考え、彼女の言葉を理解しようとする。そんなジェリーの様子に、ネルは次第に心を開いていく。
ジェリーはネルの言語を理解できるようになっていく。ネルも人間の言語を話すようになっていく。オルセンもネルと触れ合う中で考え方を改めるようになっていた。そんな中、山奥に遊びに来たバイカーがネルを見掛け、その話を聞いた新聞記者が小屋にやって来てしまう…。監督はマイケル・アプテッド、原作&脚本はウィリアム・ニコルソン&マーク・ハンドレイ、製作はレネ・マイゼル&ジョディ・フォスター、撮影はダンテ・スピノッティー、編集はジム・クラーク、美術はジョン・ハットマン、衣装はスーザン・ライアル、音楽はマーク・アイシャム。
主演はジョディ・フォスター、共演はリーアム・ニーソン、ナターシャ・リチャードソン、リチャード・リベルティーニ、ニック・サーチー、ジェレミー・ディヴィース、オニール・コンプトン他。
ジョディ・フォスターが自ら設立した映画製作会社、エッグ・ピクチャ−ズ・プロダクションで製作した第1回作品。
彼女は自ら主役を務めている。たぶん、気合いが入っていたのだろう。
だけどなあ、完全にミスキャストなんだよなあ。ジョディがどう頑張ったところで、自然の中に暮らしていた女性には見えない。野生の匂いが全くしないのよ。都会の香りがプンプン漂ってくる。おまけに知性的な印象も受ける。
都会的で知性的な野生児なんていないだろ。ジョディはむしろポーラ・オルセン役に回った方が良かったんじゃないのかなあ。で、ネル役はオーディションで選ぶとか。
ああいう特殊な役って、既に知名度の高い役者がやるよりも、無名の役者にやらせた方が良かったように思う。ジョディ・フォスターは「役を自分の方へ引き込む」タイプの俳優だ。しかし、ネルはそういう俳優に向いている役とは思わない。役に成り切ってしまう、いわば憑依型の俳優がやった方がハマったような気がするのだ。
純粋な心を持った女性が、文明社会の中に生きる人間達に訴えかける。いいシーンだ。普通なら感動の場面だ。
ところが、それを語るのは自然の中に生きる「ネル」という女性ではなく、都会で映画女優として生きるジョディ・フォスター以外の何者でもなかったのだ。