『ニード・フォー・スピード』:2014、アメリカ&イギリス&アイルランド&フィリピン

ニューヨーク州マウント・キスコ。トビー・マーシャルはローカル・レースの天才で、かつては連戦連勝を重ねていた。表舞台から姿を消したトビーだが、有名なレース「デレオン」の主催者であるモナークは自身のラジオ番組を通じて彼の出場を発表した。トビーは亡き父から引き継いだ自動車整備工場を経営する一方、夜になると非合法レースに参加していた。その夜、彼は非合法レースのに参加するため、スタート地点へ赴いた。彼が仲間のジョー、フィン、ベニー、リトル・ピートと話していると、レーサーのディーノと恋人のアニータが現れた。アニータはピートの姉で、かつてはトビーの恋人だった。
5人が出走するレースに参加したトビーは、優勝して5000ドルの賞金を手に入れた。レース後、トビーが仲間たちと工場で祝杯を挙げていると、ディーノがやって来た。10年ぶりの再会となる相手に、トビーと仲間たちは敵対心を示した。ディーノが「仕事を頼みたい」と言うと、トビーは多忙を理由に断ろうとする。ディーノは「シェルビーが死の間際に作っていたフォード・マスタングを修理してほしい。売値の4分の1を支払う。稼ぎは50万ドルになる」と語り、「お互いに過去は忘れよう」と告げる。
銀行への返済が滞っていたトビーは、ディーノの依頼を受けることにした。翌日、ディーノがシェルビー・マスタングを工場へ運び込んだ。多くの部品が欠損していたが、トビーは遣り甲斐を感じた。トビーたちは見事に修理し、マスタングは展示会で大々的に発表された。大勢の人々が会場に集まる中、トビーはジュリアという女性から質問を受ける。トビーは彼女がシェルビー・マスタングについて無知だと感じるが、ピートは饒舌に説明した。ジュリアはエンジンを見ると、その性能について正確に語る。トビーは驚くが、ジュリアはビル・イングラムという富豪の依頼で買い付けに来たカーディーラーだった。
そこへディーノが来て車を売り込もうとするが、ジュリアは値段が高すぎると指摘した。最高速度について彼女が尋ねると、トビーは「370キロだ」と自信たっぷりに告げる。ジュリアは明日8時にサーキットで試乗するよう持ち掛け、「実際に370キロが出ればイングラムは車を買う」と口にした。ジュリアが去った後、ディーノは「俺が出せなければ終わりだ」と言う。トビーは「お前には無理だ。俺が運転する」と告げるが、ディーノは「運転などさせない」と却下した。
トビーはディーノに無断でサーキットへ行き、ジュリアとイングラムの前で最高速度376キロを叩き出した。イングラムは270万ドルでマスタングを購入するが、ディーノはトビーの勝手な行動に激怒した。「アンタじゃ出せない」とピートに挑発されたディーノは、トビーに「レースをしよう。お前が勝てば、俺の稼ぎもやる。負けたら報酬は無しだ」と持ち掛けた。トビーが承諾すると、ディーノはモナコへ出掛けている叔父の豪邸に案内する。駐車場にある3台のアゲーラはヨーロッパ仕様のため、米国では登録できなかった。
ピートは「僕も走る」と言い出し、トビーが止めても聞かなかった。レースがスタートし、トビーがトップに立ってゴールへと疾走した。ディーノは行く手を妨害するピートを追い抜くため、車を接触させた。するとピートの車は激しく横転し、炎上して橋から川に落ちた。トビーは慌てて引き返すが、ディーノは無視して走り去った。後日、ピートの葬儀が行われるが、トビーは列席できなかった。ディーノの策略で事故の責任を問われたため、彼は逮捕されてしまったのだ。
2年後、刑期を終えて刑務所を出たトビーはイングラムに連絡を入れ、「シェルビー・マスタングでデレオンに出場させてくれたら賞金の半分を渡す」と持ち掛けた。トビーはベニーと再会し、抵当物件となっている工場へ戻った。そこへジュリアがマスタングで現れるが、「デレオンに招待もされていない。レースの場所も分からないのよ」と言う。ベニーが「カリフォルニア州のどこかだろう」と告げると、ジュリアは助手として同行することをトビーに要求した。
トビーとベニーは「どこかで置き去りにしよう」と密かに相談し、工場を出発した。ベニーはヘリコプターから混雑状況を確認し、トビーに知らせる。トビーは乱暴な運転をすることで、ジュリアを怖がらせようと試みる。しかしジュリアは強気な態度で、「絶対に降りない」と宣言した。同じ頃、ディーノは実業家から資金提供の約束を取り付け、デレオンへの参加を決めていた。スピード違反をパトカーの警官から指摘されたトビーは偉そうな態度を取り、猛スピードでマスタングを走らせた。
トビーがパトカーや警察ヘリの追跡を受けて逃走する様子をベニーが撮影し、映像をネットに投稿する。それを見たモナークは番組を通じ、ディーノに呼び掛けた。するとディーノは「あんな奴と走りたくない。あいつをレースに出れなくした奴には、俺のランボルギーニ・セスト・エレメントをプレゼントする」と告げた。ジュリアはモナークに、「トビーは無実を証明しようとしている」と訴えた。モナークはトビーのデレオン参加を認めると発表し、明日の朝8時にサンフランシスコへ来るよう指示した。
トビーはチームに戻ったジョーやフィンたちと共に、サンフランシスコを目指す。ガソリンスタンドに立ち寄ったトビーは、パトカーの警官に気付いて身を隠した。買い物をしていたジュリアは、不審を抱いた警官に尋問される。ジュリアは慌てて逃げ出し、トビーと合流してガソリンスタンドから脱出した。トビーがジュリアと運転を交代した後、エレメントを手に入れようと目論む連中が襲って来た。2人は崖に追い詰められるが、駆け付けたベニーの軍用ヘリに救助された。トビーとジュリアはサンフランシスコに到着するが、ディーノの手下が運転するトラックに激突される。マスタングは破壊され、ジュリアは重傷を負ってしまった。トビーは新しい車を手に入れるため、アニータと連絡を取った…。

監督はスコット・ウォー、原案はジョージ・ゲイティンズ&ジョン・ゲイティンズ、脚本はジョージ・ゲイティンズ、製作はパトリック・オブライエン&ジョン・ゲイティンズ&マーク・スーリアン、製作総指揮はスチュアート・ベッサー&スコット・ウォー&マックス・ライトマン&フランク・ジボー&パトリック・ソーダールンド&ティム・ムーア、撮影はシェーン・ハールバット、美術はジョン・ハットマン、編集はポール・ルベル&スコット・ウォー、衣装はエレン・マイロニック、音楽はネイサン・ファースト、音楽監修はシーズン・ケント&ゲイブ・ヒルファー。
出演はアーロン・ポール、ドミニク・クーパー、マイケル・キートン、イモージェン・プーツ、ラモン・ロドリゲス、ラミ・マレック、スコット・メスカディー、ダコタ・ジョンソン、ハリソン・ギルバートソン、スティーヴィー・レイ・ダリモア、アラン・フルーガー、ブライアン・ケアウラナ、ローガン・ホラデイ、カーメラ・ザンバド、ジャリル・ジェイ・リンチ、ニック・チンランド、チャド・ランドール、バディー・ジョー・フッカー、リッチ・ラザフォード、トニー・ブラコヒアパ、ブレント・フレッチャー、ポール・ダレンバック他。


エレクトロニック・アーツから発売されている同名レースゲームのシリーズを基にした作品。
『ネイビーシールズ』ではマウス・マッコイと共同で監督を務めたスコット・ウォーが、単独での初メガホンを担当している。
『ある日モテ期がやってきた』の製作総指揮を務めていたジョージ・ゲイティンズが、初脚本を手掛けている。
トビーをアーロン・ポール、ディーノをドミニク・クーパー、モナークをマイケル・キートン、ジュリアをイモージェン・プーツ、ジョーをラモン・ロドリゲス、フィンをラミ・マレック、ベニーをスコット・メスカディー、アニータをダコタ・ジョンソン、ピートをハリソン・ギルバートソンが演じている。

一言で表現するなら、この映画は「カーアクションの品評会」である。
とにかく「カーアクションを見せる」という部分だけに特化した作品であり、「ドラマ?物語?それって美味しいの?」ってな感じだ。
登場人物の設定やら、人間関係やら、ストーリーやら、ドラマやらという要素は、全て映画としての体裁を整えるためだけに用意されたオマケに過ぎない。
カーアクションのシーンだけでは映画として成立しないので、そのために便宜上のモノとして付け加えられているだけだ。

だから本作品の正しい鑑賞法は、「お話は無視して、とにかくカーアクションの部分だけを楽しむ」ってことになる。
スタントマン出身のスコット・ウォーは、CGに頼らないカーアクションにこだわった。そのためにタナー・ファウストやライズ・ミレンなどの有名スタント・ドライバーを起用し、危険なスタントを担当してもらっている。
そんな激しいカースタントには、シェルビー・マスタングやブガッティ・ヴェイロン、ランボルギーニ・セスト・エレメント、グラン・トリノ1969、メルセデス・ベンツSLRマクラーレン、ケーニグゼグ・アゲーラRといった世界各国の車が使用されている。
車好きな人からすると、たまらない映画と言えるんじゃないだろうか。

ただし問題は、「カースタントが好きならカースタントのプロモーション映像、車が好きなら実際の車やプロモーション映像を見ればいいだけなんじゃないの?むしろ映画として体裁を整えるために用意されたストーリーなんて余計なんじゃないの?」と問われたら、反論の余地が全く見当たらないってことだ。
ここで「いや、もちろんカーアクションが最大のセールスポイントだけど、それを盛り上げるためにドラマ部分があるんだよ」と説明できればいいんだろうけど、そういうレベルに達していないのだ。
むしろ困ったことに、ドラマ部分はカーアクションを楽しむ上で邪魔な存在と言ってもいい状態になっている。

まず冒頭シーンが無駄に分かりにくい。
モナークが自分のラジオ番組でトビーについて簡単に説明し、デレオンでトップを目指すよう促す。
その段階で、「トビーはローカルの天才レーサーだった」「父親もレーサーだった」「ディーノという強敵もいた」「トビーは表舞台から姿を消したが、デレオンへの出場をモナークが発表する」という情報が出て来る。
しかし、それを全てモナークの台詞だけで説明してしまうと、情報過多になってしまう。

そういうことを先に台詞で説明するよりも、まずトビーが非合法レースに出場して優勝する様子を見せてしまった方がいい。
その後で「かつては表舞台で活躍していた」「天才レーサーと言われていた」ってことを説明する方が、そこを受け入れやすくなる。
冒頭ではモナークの説明を入れるより、「父から引き継いだ工場を営み、仲間と共に働いている」ってのを見せた方がいい。
で、そこからレーサーとしての能力を披露するシーンに移れば、そのギャップがキャラ勃ちに役立つはずだ。

先に「天才レーサーで云々」とか言っちゃうと、まだトビーが整備工としての姿しか見せていないのに、「これからレースに出て強さを見せるのね」ってことが分かってしまう。
もちろん、この映画を見る人の大半は、トビーが優秀なレーサーってことは見る前から分かっているだろう。
そういう意味では、どうせネタバレしているんだから、最初から「天才レーサー」と台詞で説明しても大した影響は無いと言えるかもしれない。
だけど、少なくともシナリオを構築する上では、得策と思えない。

トビーが修理の仕事を引き受けると、ディーノがマスタングを運び込む。それをトビーが見てカットが切り替わると、もう修理が完成して展示場で大々的に発表されている。
かなり多くの部品が欠損していたから大変な仕事だったはずだが、「苦労して完成させる」という手順はバッサリと省略されている。
カーレースを見せることが唯一の目的なので、そんなトコに時間を割くのは無駄なだけってことなんだろう。
目的だけを考えれば、その判断は間違っちゃいない。ただし1本の映画として考えると、あまりにも雑な処理だなあと感じる。

映画が始まった段階で、トビーはディーノに恨みを抱いている様子だ。
10年ぶりの再会ってことは、裏を返せば10年前に何かあったのだろうと推測される。しかし話が進んでも、「10年前に何があったのか、なぜトビーはディーノを嫌っているのか」ってことについては、まるで明かされない。
まさか、「女を取られたから」というチンケな理由じゃないよな。
トビーの父親もレーサーだったようだが、その設定はストーリー展開に何の影響も与えない。冒頭でモナークが説明した設定は、ことごとく捨てられている。

天才レーサーと呼ばれていたトビーが、表舞台から姿を消した理由も明かされない。
アニータがトビーを捨ててディーノを選んだ理由も明かされない。
自分の意志でディーノに乗り換えたはずのアニータが、今でもトビーに未練を抱いているような様子を見せるが、だったらディーノに乗り換えた理由は何なのかと言いたくなる。
で、アニータからすると、途中でトビーは「弟を死に追いやった存在」ってことになるはずだが、その要素も全く使われない。

「トビーが弟を死に追いやったとは思えないので、彼に対して複雑な感情を抱く」ってことでアニータを動かしてもいいけど、どっちにしろ「ピートの死」ってのは彼女にとっても大きな出来事のはずなのに、まるで活用されない。
ピートを死に追いやったのがディーノってことが後でわかるけど、そとに絡めて「アニータがディーノからトビーに戻る」ってことも無い。
何しろ、トビーにはジュリアという恋の相手が用意されているからだ。
そうなると、アニータは「要らない女」でしかないのよね。

現在進行形の物語の中で、「マスタング売却を巡ってディーノがトビーに腹を立て、レースで対決することになる」という展開がある。
その流れで、なぜかピートが参加することになって、そのピートが事故死し、トビーはディーノの策略でムショに入れられる。
そういう展開を用意するなら、「10年前のことでトビーがディーノに恨みを抱いている」という設定は要らないでしょ。
そこから出所する2年後へジャンプする構成になっているんだけど、だったら出所するまでの物語を「そういうことがありまして」という前段にして、出所後のトビーが復讐に燃える話を描く構成にすればいい。
ディーノとの10年前からの因縁なんて、ただ邪魔なだけだ。

っていうか、どちらかと言えば、むしろ「ピートが死んでトビーがムショ行きになる」というエピソードの方が要らないんだよね。
まず、「トビーが勝手に運転して376キロを出したからディーノが憤慨する」って、すんげえ小さい出来事でしょ。
ディーノから報酬の総取りを賭けたレースを持ち掛けられたトビーが全く迷わず「面白い」と受けるのは、「返済が滞っているんだから、とりあえず確実に金を手に入れる方を選べよ」と言いたくなる。
もちろん自信があるから受けるんだけど、そこでの自信に満ちた態度は主人公の魅力を削いでいる。
工場の経営よりも、レースの快楽を優先しているようにしか見えないからだ。

ピートが事故で死亡し、トビーがディーノの罠でムショ行きになることで、敵対心を抱く動機は大きくなる。
ただ、ピートが死んだのは、未熟な技術しか無いのに、調子に乗って参加することを決めたのが原因だ。
もちろんディーノが追い抜くために車を接触させたから事故が起きたのだが、レースでは起きる可能性のある事故だ。ピートが行く手を塞いで妨害したんだから、そうでもしないとディーノが前へ出ることは不可能だったわけで。ディーノが卑劣な手段で死に追いやったわけではない。
そもそも非合法レースであり、普通に走っている他の車と激突する危険もあるってことを考えれば、事故死ってのは充分に有り得るケースとしか思えないんだよな。

もちろんディーノがピートを助けに戻らず走り去ったのは酷いし、トビーがムショ行きになった件に関しては完全に彼の卑劣な行為だ。
しかし、繰り返しになるが、「そこで因縁を用意するなら、10年前からの因縁は要らないでしょ」と言いたくなる。
あと、「ディーノの策略で、トビーがピートの事故死の罪を背負わされる」ってのも無理がありまくりだわ。
現場検証を行えば、それが虚偽だってことは簡単に分かるはずでしょ。ディーノの叔父は大物かもしれんけど、警察に手を回せるほどの人物ではないはず。
実際、警察は圧力を掛けられてディーノを捕まえなかったわけではないのだ。単純に、嘘のアリバイ工作に騙されているボンクラってだけなのよ。

始まってから40分ほど経過して「2年後」ってのは、構成として上手くない。
で、2年後に出所したトビーはディーノへの復讐心を抱いているわけだが、それを晴らす方法は「デレオンでディーノに勝つ」というもの。
いやいや、なんだよ、そりゃ。ピートを殺されて、刑務所にブチ込まれて、その報復が「レースに勝利して屈辱を与える」って、まるでスッキリしないわ。
そりゃあ、カーレース映画だから、「トビーがディーノとレースで競う」という展開にしなきゃいけないのは分かるのよ。ただ、「だったら復讐劇にしなきゃ良かったのに」と言いたくなるのよ。

主人公が復讐心を抱く話にするから、「その方法がレース対決ってのは腑に落ちない」ってことになっちゃうのよ。
単純に、「ライバルとしてレースで競う」とか、そういう構図にしておけばいい。
ディーノを憎まれ役にするにしても、せいぜい「金に物を言わせて優勝をさらった」とか、「卑劣な方法でトビーを失格に追い込んだ」とか、その程度にしておけばいいのよ。
トビーが表舞台から姿を消した理由を、「ディーノの策略で違法行為があるとされた」ってことにするのもいいだろうし。

しかも、「トビーがディーノへの報復に燃える」という目的がハッキリと打ち出されたんだから、中盤以降はトビーが復讐のために突っ走る様子を描けばいいはずだ。「そのためにデレオンで対決する」という方法の問題はひとまず置いておくとして、そう決めたのなら「デレオンに向けての準備」→「対決」というシンプルな形を取ればいい。
ところが、ディーノが「トビーをレースに出られなくすれば世界に3台しか無い高級車をプレゼントする」と発表し、トビーが何の関わりも無かった連中から狙われる展開に入ってしまう。
派手なカーアクションを描くために用意した段取りってことは分かるけど、そのために筋書きが蛇行しちゃってるのよね。
しかも、「ディーノがトビーを狙うよう促す」という手順を用意したのなら、すぐに「大勢がトビーを狙う」という展開に移るべきなのに、「ジュリアの訴えを受けたモナークがトビーのデレオン参加を認める」「ジュリアがディーノのパソコンを調べ、倉庫にアゲーラがあることを知る」「ガソリンスタンドに立ち寄ったジュリアが警官に怪しまれるが何とか脱出する」というシーンを挟んでから、ようやく車をゲットしようとする連中の襲撃が始まるのだ。
だから、話の展開がモタモタした印象になってしまう。

「ディーノの策略でトビーが大勢から標的にされる」という筋書きを用意すると、そのカーチェイス自体がメインのエピソードになるんじゃないかと思ってしまう。
そこで「トビーが命懸けの危険なレースに挑む」というミッションを用意したら、デレオンなんて要らなくないかと思ってしまう。
そういうわけにもいかないので、車目当ての奴らが襲って来るのは1度だけにしてある。
ただ、そんなに軽く処理するぐらいなら、そもそもディーノが不特定多数にトビーを襲わせる手順そのものを無くせばいいのに、と思ってしまうぞ。

当たり前ではあるが、デレオンのレースがクライマックスってことになる。
だけど、「警察ヘリとパトカーが来て、次々に脱落者が出る」という内容にしちゃってるので、あっさりと「トビーとディーノの一騎打ち」という構図が出来上がってしまう。
そりゃあ最終的に2人の対決になるのはいいけど、その雑な片付け方はダメだろ。
とにかく全体を通してメリハリに欠けるし、話がテキトーだし、テンポが悪くて間延びしているもんだから、アクションに次ぐアクションなのに盛り上がりに欠ける。
アクション映画で、アクションシーンを見ている最中に退屈を抱くってのは、ほぼ致命的な欠陥と言ってもいいぞ。

デレオンのシーンは15分程度で、クライマックスのレースとしては短い。しかも、レースに向けた準備段階のシーンは皆無に等しい。
また、トビーとディーノ以外のレーサーは単なる数合わせに過ぎないので、紹介のための時間も全く用意されていない。
諸々を含めて、そこはクライマックスとしての力が著しく弱い。
他の部分を大胆にバッサリと削除して、もっと「いかにデレオンをクライマックスとして盛り上げ、そこに向けた物語を展開していくか」ってことに集中した方が良かったんじゃないかと。

色々と問題は多いけど、ともかく最終的には「トビーがピートの仇討ちを果たす」というトコだけはクリアしないとモヤモヤが残ることになる。
でも、最終的にスッキリするのかというと、これが全くスッキリしないのよ。
なんせ「トビーがディーノを助けた上で優勝する」という着地なのでね。
そりゃあ、前述したようにピートの死は事故によるものであり、ディーノが殺意を持っていたわけじゃないから、その報復として主人公に殺させるのが望ましいとは思わんよ。
ただ、その後でディーノは、不特定多数にトビーを襲わせたり、手下に襲撃を命じたりしている。たまたま死者は出なかったけど、下手すりゃジュリアは死んでいたわけで。

つまり、ピートの事故死以外の部分でディーノが人殺しを目論んでいたってことを考えれば、こいつは地獄に落ちるべきじゃないかと思うのよね。
繰り返しになるが、トビーがディーノを始末するってのがベストな形だとは思わないのよ。それはそれで、スッキリしない気持ちになるだろう。
ただ、最後までディーノはクソ野郎のままなんだから、例えば「トビーを卑劣な方法で始末しようとして、逆に自分がクラッシュして死亡する」とか、そういうことでも良かったんじゃないかなと。
彼が殺人で警察に逮捕されても、溜飲の下がる結末とは言えないんだよな。

(観賞日:2016年1月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会