『ナショナル・セキュリティ』:2003、アメリカ

ロサンゼルス市警の白人警官ハンク・ラファティーと相棒のチャーリー・リードは、倉庫で強盗事件が発生したという無線連絡を受けた。直後、「命令は取り消す。警報の故障の模様」という連絡が来るが、チャーリーは「念のために行ってみよう」とハンクに告げる。2人が倉庫に到着すると、シャッターが開いていた。ハンクとチャーリーは中に入って二手に別れ、犯人を捜索する。チャーリーは強盗グループと遭遇し、銃撃戦になった。強盗グループは駆け付けたハンクの眼前でチャーリーを射殺し、その場から逃走した。ハンクは捜査チームに入れて欲しいとマクダフ刑事に訴えるが、「お前は刑事じゃない、巡査だ」と却下された。
黒人のアール・モンゴメリーは、ポリス・アカデミーで警官になるための訓練を受けていた。射撃訓練に参加した彼は、銃を持った黒人の標的を撃たず、指導教官に「悪人に見えなかった。白人に囲まれている被害者だ」と主張した。アールは白人に対し、強い反抗心と嫌悪感を抱いていた。逃げる犯人を車で追い掛ける訓練に参加した際には、犯人役の指導教官を挑発する態度を取った。アールは乱暴な手口で彼を拘束し、演習用のパトカー爆発炎上させた。当然の如く、アールはポリス・アカデミーから追い出された。
アールは停めておいた車に乗ろうとするが、キーを付けたままだったことに気付いた。彼が車窓から手を入れてキーを取ろうとしている様子を、パトロール中のハンクが目撃した。不審に思ったハンクが声を掛けると、アールは「黒人だから泥棒だと思ってるんだろ」と言い、侮辱する言葉を浴びせた。アールが挑発する態度を取り続けたため、ハンクは「逮捕する」と通告する。それでもアールが反抗的な態度で「俺がお前を逮捕する」などと言うので、ハンクは警棒で取り押さえようとした。
その時、どこからかハチが飛んで来たので、アールは「俺はハチのアレルギーなんだ」と慌てる。ハンクはハチを退治しようとして、警棒を振り回した。その様子を目撃した通行人はハンクがアールに暴行していると勘違いし、ビデオで撮影した。その映像がテレビのニュースで流され、「白人警官が黒人に暴行した」と報じられた。ハチに刺されたアールの顔が腫れ上がったことも、暴行のせいだと伝えられた。ハンクはマクダフやワシントン警部補に事情を説明するが、信じてもらえなかった。
警察署に呼ばれたアールは、マクダフとワシントン、バートン地方検事に対して「オタクの警官に殴られた。そのせいでハチに刺された」と訴えた。黒人たちの冒頭を恐れたマクダフたちは、ハンクを起訴することにした。ハンクは法廷でも事実を説明するが、懲役6ヶ月の有罪判決が下された。警察をクビになった上に刑務所送りとなったハンクは、黒人の囚人たちから命を付け狙われる羽目になった。
刑期を終えて出所したハンクは、ナショナル・セキュリティーという警備会社に就職した。チャーリー殺害事件の捜査状況を知るために警察署を訪れると、まるで進展していなかった。かつての同僚たちは、警備員になったハンクを見て嘲笑った。ハンクは犯人を自分で見つけ出そうと考え、仕事の最中に聞き込みを行った。手掛かりは、チャーリーを撃った男の手首にあった刺青だ。しかし、思うように手掛かりは見つからなかった。
ハンクが警察無線を傍受していると、「倉庫で強盗事件発生」という通信の直後、警報の故障を理由に取り消された。あの時と同じ状況だったため、ハンクは倉庫へ向かう。監視カメラの映像を確認すると、警備員の姿は見当たらなかった。倉庫の警備を担当していたアールは、事務所でローラという女とイチャついていた。ハンクが強盗グループを見つけて発砲したため、その銃声でようやくアールは異変を知った。ハンクが包囲されて銃を奪われたところへアールが現れ、強盗グループに向けて発砲した。
アールとハンクは互いの顔を見て正体に気付き、激しく罵り合った。しかし強盗グループが銃撃して来るため、言い争っている場合ではなかった。ハンクが飛び出して敵に発砲し、アールが後ろから援護した。強盗グループのナッシュたちは目的のブツをバンに運び込み、倉庫から逃亡した。ハンクは強盗グループの落とした携帯電話を拾い、車に乗り込んだ。すると、アールが助手席に滑り込んで来た。彼はナッシュからサル呼ばわりされ、腹を立てていたのだ。
ハンクはアールはバンを追跡するが、その最中も激しく言い争った。そこへパトカーが追い掛けて来て、2人はスピード違反で捕まった。警察署に連行されたハンクは強盗グループを追い掛けていたのだと説明するが、ワシントンから「アールに報復するために拉致した」と決め付けられる。「君の証言次第で彼を刑務所へ送り返す」と言われたアールは、「彼は俺を殴ったことを謝罪に来たんだ」と口にした。刑務所へ戻るのを避けるため、ハンクは仕方なくアールに話を合わせて詫びを入れた。
ハンクの説明通りに強盗事件が起きていたことが確認され、彼とアールは解放される。ワシントンはハンク「また問題を起こしたら刑務所行きだ」と釘を刺した。ハンクが携帯電話のリダイアル機能を使うと、ビッグレッド運送という会社に繋がった。アールが電話を代わり、強盗グループが会社から借りたトラックが南下していることを突き止めた。アールは通り掛かった自動車学校の教習車を停止させ、それを奪ってハンクを同乗させた。
車を走らせたアールとハンクは、ビッグレッド運送のトラックを発見した。2人は走行するトラックの後ろにしがみ付き、荷台に飛び込む。すると荷台には犯人グループのバンが積んであった。アールはワイヤーを繋げて車を動かそうとするが、誤って警報を鳴らしてしまう。そのためにナッシュたちは侵入者に気付き、トラックを停止させる。バンのエンジンが掛かり、アールとハンクは荷台から飛び出した。バンは橋から川にダイブして船上に着地し、アールとハンクは犯人グループから逃亡した。
バンに積まれている段ボール箱の中には、ビア樽が入っていた。そのビア樽を調べると、宇宙船に使われる合金であることが判明した。ハンクは元恋人であるデニースの家へ行き、彼女に内緒で車庫にバンを隠した。ハンクが暴力事件のせいで振られたことを聞いたアールは、「彼女と話して仲を修復してやる」と言い出した。そこでハンクはアールをデニースに会わせ、殴っていないことを証明してもらおうとする。しかしデニースが黒人だと分かった途端、アールは「ボコボコに殴られた」と嘘をついた。
激怒したデニースに追い出されたハンクは、アールを糾弾した。するとアールは、黒人女性が白人男性と付き合うことが許せないと言い、自分の行動を正当化した。アールが挑発的な行動を取ったので、ハンクは彼を殴り倒した。ハンクは警察に没収された車を取りに行くが、警官たちが駆け付けて拳銃を構え、彼を拘束しようとした。アールはパトカーを奪ってハンクを同乗させ、その場から逃走した。
警官たちが追跡してくるが、アールとハンクはカーチェイスの末に振り切った。ハンクは橋で発砲したために指名手配されていることを知るが、「なぜ発砲したことを警察が知っているのか」と疑問を抱いた。発砲を知っているのは、ハンクとアール、それに犯人一味だけのはずだ。そこでハンクは、警察署内に汚職警官がおり、犯人一味と通じていることを確信する。バンの登録情報を調べたアールとハンクは、犯人一味のアジトを突き止めた。
ハンクは犯人一味のアジトを張り込むが、アールが勝手に忍び込む。犯人一味がアジトへ戻って来たため、ハンクは慌て教えようとするが、アールは全く気付かなかった。マリーナ・ヨット・クラブから電話が掛かったことをアールが確認した直後、犯人一味が部屋に入って来た。ハンクが部屋に駆け付け、犯人と銃撃戦になった。犯人一味は発砲しながら逃走した。アールは撃たれたが、かすり傷で済んだ。アールとハンクはマリーナ・ヨット・クラブへ行き、マクダフが犯人一味と一緒にいるのを目撃した…。

監督はデニス・デューガン、脚本はジェイ・シェリック&デヴィッド・ロン、製作はボビー・ニューマイヤー&ジェフ・シルヴァー&マイケル・グリーン、共同製作はアンディー・ギヴン&スコット・ストラウス&シャロン・デューガン、製作総指揮はモリッツ・ボーマン&ガイ・イースト&ナイジェル・シンクレア&マーティン・ローレンス、共同製作総指揮はピーチーズ・デイヴィス&ジェフリー・クワティネッツ、撮影はオリヴァー・ウッド、編集はデブラ・ニール=フィッシャー、美術はラリー・フルトン、衣装はエイプリル・フェリー、音楽はランディー・エデルマン、音楽監修はミシェル・クズネツキー&メアリー・ラモス。
出演はマーティン・ローレンス、スティーヴ・ザーン、コルム・フィオール、ビル・デューク、エリック・ロバーツ、ティモシー・バスフィールド、ロビン・リー、ブレット・カレン、ケン・ラーナー、マット・マッコイ、ジョー・フラハティー、マリー・モロウ、クレオ・キング、ジェリー・デル・ソル、スティーヴン・トボロウスキー、キース・クック、マイク・ブレイディー、トロイ・ギルバート、アンソニー・シュミット、ジョー・ブカーノ、カール・チャルファリオ、ボビー・マクラフリン他。


『ビバリーヒルズ・ニンジャ』『ビッグ・ダディ』のデニス・デューガンが監督を務めた作品。
アールをマーティン・ローレンス、ハンクをスティーヴ・ザーン、マクダフをコルム・フィオール、ワシントンをビル・デューク、ナッシュをエリック・ロバーツ、チャーリーをティモシー・バスフィールド、デニースをロビン・リー、ヘストンをブレット・カレン、ハンクの弁護士をケン・ラーナー、バートンをマット・マッコイ、ファーガスをジョー・フラハティー、ローラをマリー・モロウが演じている。

この映画の致命的な欠点は、アールの好感度が著しく低いってことだ。
「黒人が白人に対して激しい攻撃姿勢を示す」という人種差別ネタで笑いを取りに行こうとしているのは分かる。
マーティン・ローレンスが製作総指揮にも関わっている辺りからすると、主なターゲットは黒人なのかもしれないから、それで別にいいのかもしれない。
でも、アールのハンクに対する態度は、あまりにも不愉快だ。

そもそもアールのポリス・アカデミーでの態度からして引っ掛かる。
彼は本気で警官になりたいと思っているんじゃないのか。
そこに関しては、熱い情熱をもって真剣に考えているんじゃないのか。
しかし黒人の標的を「悪い奴には見えない。白人に囲まれている哀れな被害者だ」と言って撃たなかったり、白人の犯人役を挑発して乱暴に追跡し、暴力的に取り押さえるとか、そういう態度は、真面目に訓練に取り組んでいるとは到底思えない。

アールが教官に対して生意気な態度を取ったり暴力を働いたりするってのは、これっぽっちも笑えない。
「真剣に取り組んだけど熱くなりすぎてヘマをやらかし、追い出されてしまう」ってことなら、何の問題も無かったと思うのよ。
だけどアールって、最初からふざけているようにしか見えない。それで「黒人だから差別するんだな」とか言われてもね。
いや、もちろん、そういう「被害妄想が酷くて、何でも黒人差別のせいにする」というのをネタにしているのも分かるんだけど、笑えないんだから仕方がない。

アールが警官になりたいってのは本気のはずなんだから、そこで真面目な態度が見られないってのは頂けない。
彼が警官になりたい本気度ってのは、ちっとも伝わって来ないんだよな。ただ単に、ガキッぽいヒーロー願望で警察学校を受けたようにしか見えない。
警備員の仕事もマトモにやらずに女と遊んでいるし、警官になっても真面目に勤務するようには思えない。
最終的に「警官になりました」という着地があるのなら、警官という仕事に対する真剣さや情熱は持っているべきでしょ。

ハンクと揉めた一件にしても、明らかにアールが悪い。
ハンクはアールが黒人だから声を掛けたのではなく、あの状況であれば誰だって不審に思うだろう。それにハンクはアールに対して、最初から高圧的な態度を取ったわけでもない。
それなのにアールの方から侮辱的な言葉を浴びせ、挑発したのだ。
むしろアールの方が、自分が黒人であることを利用し、自分を可愛そうな被害者に仕立て上げている。
それをネタにしているのは分かるが、あまりにもアールが不快すぎて笑えない。

アールが「殴られた」と嘘をついたせいで、実際には何も悪いことをしていないのに、ハンクは警官をクビになり、刑務所に収監され、黒人たちから命を狙われる羽目になる。
仕事も社会的地位も名誉も全て奪われて、人生を台無しにされてしまうのだ。
しかしアールは、出所して来たハンクを「たった6ヶ月かよ」と罵る。ひでえ奴だ。
アールの挑発行為でハンクが腹を立てるってのも、ちっとも笑えないし。ホントにアールが腹立たしい奴に見えるだけだ。

まだアメリカでは根強い黒人差別が残っているだろうし、侮蔑的な白人も迫害されている黒人もいるだろう。
でも、それはそれ、これはこれである。アールの行為は醜悪だ。
それを笑いにして正当化したいのであれば、ハンクにも落ち度がある形にしておくべきだろう。
ただし、それによってアールの印象が良くなるわけではなく、ハンクの印象が悪くなるだけだが。
やっぱり、この物語にアールのキャラ造形は合っていないのよ。

こういう物語にするなら、アールの白人嫌いキャラはやり過ぎだ。
ハンクが背負わされるのが「1週間の謹慎」とか「惚れていた女に嫌われる」とか、その程度で済むなら、別に構わないんだけど。
バディー・ムーヴィーのお約束として、アールとハンクは後半に入って仲良くなり、最終的には名コンビってことになるんだけど、アールはハンクを陥れて彼の人生を台無しにしたことについて、最後まで全く反省しておらず、詫びも入れていないんだよね。
ハンクは犯人一味を捕まえたことで警官に復帰できているけど、「アールを殴った」という部分については、名誉回復が果たされていないんだよな。
そこはちゃんと処理すべきじゃないのか。

(観賞日:2013年10月10日)

 

*ポンコツ映画愛護協会