『ナイト・トーキョー・デイ』:2009、スペイン
ある会社の社長である長良は、外国人の客たちを接待していた。長良は辟易した様子を見せるが、秘書の石田から「契約を取るためです」と説得される。石田が持っている携帯が鳴り、彼から電話の内容を知らされた長良は激しく荒れ狂った。録音技師の男は、ラーメン博物館でリュウという女と出会った。リュウは築地の魚市場で働く女だった。技師はラーメンをすする音を録音させてほしいと頼むが、相手にされなかった。しかし、その日から彼とリュウと友達になった。
録音技師は魚市場の周りにある小さな店で、リュウと度々会うようになった。市場で働く理由を尋ねた彼に、リュウは「考えすぎるのを避ける唯一の方法だ」と教えてくれた。しかしリュウが自分のことを話したのは、それぐらいだった。一方、長良は娘であるミドリの遺体を確認するため、病院を訪れた。ミドリの恋人だったスペイン人のダヴィが現れ、「彼女は私の人生だった」と沈痛な表情で告げた。だが、長良は彼を無視して病院を後にした。
日曜日、リュウは良く墓地を訪れた。リュウが目的の墓石を見つけて掃除する間、同行した録音技師は待っていた。墓石の主について、リュウは何も教えてくれなかった。一方、長良はミドリが自殺したマンションを訪れた。浴室に入ると、鏡には「どうしてあなたを愛したように私を愛してくれなかったの」という血文字が書かれていた。長良は石田に、「あの男は平気で生き続けている。堪えられない」と吐露した。石田は「私に任せて下さい。全て片付けます」と口にした。
石田は殺し屋であるリュウに連絡を取り、彼女と会う約束を取り付けた。リュウは浅草の花やしきに石田を呼び出し、前金とターゲットの資料を受け取った。「事情を訊かないんですか?」と石田が尋ねると、リュウは静かに「興味が無い」と答えた。石田が「いつ処分するつもりですか?」と質問すると、彼女は「出来る時に」と述べた。
リュウはダヴィがオーナーを務めるワインショップへ行き、客として店内に入った。ダヴィはリュウに声を掛け、お勧めのワインを選んだ。リュウがワインを購入しようとすると、彼は代金を受け取らなかった。リュウとダヴィは、店内で一緒にワインを飲んだ。ダヴィから食事に誘われ、リュウは承知した。ダヴィはリュウをラーメン店へ連れて行き、2人は軽く会話を交わして笑い合った。そんな2人の会話を、録音技師が盗聴していた。
ダヴィはミドリのことを話し、リュウをラブホテルに誘った。リュウはホテルへ付いて行き、ダヴィとセックスをした。彼が眠っている間に、リュウはホテルを去った。しかしリュウはダヴィのことが忘れられず、彼の店へ足を向けた。するとダヴィは、「嘘はつきたくない。ミドリのことを思って君とセックスした」と話した。リュウは再びダヴィと共にラブホテルへ足を向け、激しいセックスをした。
その後もリュウはワインショップへ通い、ダヴィとの逢瀬を重ねた。長良はミドリのことばかり考えており、仕事に全く気持ちが入らない状態になっていた。店を覗きに行った石田は、2人が楽しそうに話している様子を目にした。石田から仕事を遂行するよう催促する電話を受けたリュウは、契約の解消を一方的に通告した。録音技師はリュウがダヴィに恋して以来、彼女が変わったと感じた。だが、リュウは「人は変わらない」と口にした…。脚本&監督はイザベル・コイシェ、製作はジャウマ・ロウレス、製作総指揮はハビエル・メンデス、撮影はジャン=クロード・ラリュー、編集はイレーヌ・ブレクア、美術は杉本亮、音楽はファティマ・モンテス。
出演は菊地凛子、セルジ・ロペス、田中泯、中原丈雄、榊英雄ら。
『死ぬまでにしたい10のこと』『あなたになら言える秘密のこと』イザベル・コイシェ監督が脚本&監督を務めた作品。
カンヌ国際映画祭のコンペティション部門でフランス映画高等技術委員会賞を受賞した。
リュウを菊地凛子、ダヴィをセルジ・ロペス、録音技師を田中泯、長良を中原丈雄、石田を榊英雄が演じている。
日本での公開が大幅に遅れたが、その理由は出演していた押尾学がドラッグ絡みの事件を起こしたからだ。そのため、日本では彼の出演しているシーンが全てカットされ、編集された上で公開された。海外の大物監督が日本を舞台にして映画を撮った場合、どれだけ有能であっても、どれだけ経験が豊富でも、必ずと言っていいほど、ポンコツな作品を作り上げてしまう。
その理由は、「間違いだらけの日本」を撮ってしまうからだ。日本に対する勘違いした思い込みを盛り込んでしまい、それが珍妙な描写になってしまうのだ。
それは海外の人からすると気にならないことであり、ポンコツだとは思わないのかもしれない。
しかし日本人からすると、やはりポンコツだと思わざるを得ないのだ。冒頭、長良は外国人の客たちを、女体盛りの寿司で接待している。
のっけから、「間違った日本の描写」のベスト3に入るんじゃないかというぐらいベタベタなシーンが用意されている。
イザベル・コイシェ監督が本当に「日本では女体盛りが普通に行われている」と思っているのか、実際はそうじゃないことを分かった上で持ち込んでいるのか、その辺りは分からない。
しかし、どうであろうと喜劇として描かれているわけではないので、おバカなシーンになっていることは確かだ。オープニング・クレジットの後、録音技師のナレーションが入り、リュウについて説明される。
しかし、実は物語の大半は、録音技師が立ち会っていない場所で展開されている。だから録音技師が知らない出来事も多く、ナレーターとして適任とは思えない。
一方、録音技師がリュウと会っている時の様子は、ほぼナレーションで説明される。
そこはドラマとして描くことが出来るはずなのに、ナレーション・ベースが基本なのである。
だから2人のシーンの大半は、「動く紙芝居」のような状態になっている。録音技師はリュウに会って早々、「ラーメンをすする音を録音させてほしい」と持ち掛ける。
その理由は「母がラーメンをすする音に似ているから」ってことなんだが、まあ分かりやすく言えば変態だ。
で、そこも大半がナレーションで説明されている。
その後も、「相手にされなかったが、その日から2人の友達としての関係が始まった」と、これまたナレーションで処理される。ほんの少し喋っただけなのに、なぜか友達になっているわけだ。
リュウは自分のことを何も話そうとせず、まるで心を開こうとしていないのに、なぜ変態の録音技師と仲良くなったのか。サッパリ分からない。この変態技師は、盗聴までしちゃってるし。リュウが街を歩くと、公園では大勢の男女が集まっており、リーダーの「1、2、3、キス」という号令に会わせて一斉にキスをする。そしてリーダーが「ストップ」と言うと、みんながキスをやめて、何事も無かったかのように歩き去る。
奇妙なフラッシュモブをやっている連中なのだが、その時に公園の中にいる部外者はリュウしかいないし、撮影している様子も無さそうなので、何のためにやっているパフォーマンスなのかはサッパリ分からない。
後半には、その連中が「普段から溜まっている不安やストレス、怒りをぶちまけましょう」というリーダーの号令で一斉に怒鳴り始めるというシーンもある。そして、その時も、すぐに解散して立ち去る。
やっぱりリュウ以外に通行人はゼロなので、何のためにやっているパフォーマンスなのか良く分からない。浴室に残されたミドリの「どうしてあなたを愛したように私を愛してくれなかったの」という血文字は、ちょっと怖い。
ダヴィが病院で沈痛な表情を浮かべていたことや、その血文字から推測すると、ダヴィが冷たくあしらったり酷い別れ方をしたりしたわけではなくて、ミドリが精神的にヤバい女だったんじゃないか。
だとすると、そんな女が激しい思い込みで自殺しただけなのに、それで父親に恨まれて殺しの標的にされるダヴィは、たまったモンじゃないな。
あと、長良と石田が部屋に入る時、刑事は一緒じゃないのね。そして、ミドリが自殺した現場がそのまま保存されているのね。
どうも警察が動いている様子が皆無なんだけど。
普通は自殺であっても、最初は警察が介入するんじゃないかと思うんだが。ワシの通ってた学校で自殺者が出た時も、警察が来てたぞ。ダヴィはリュウが店に来た時に「重すぎないワインを」という注文を受け、あるワインを用意して「これは傑作です。焼き鳥にもラーメンにも合います」と説明する。
そりゃあ、最近はワインを様々な料理に合わせるようになっているし、焼き鳥にもラーメンに合わせたって、好き好きだとは思うのよ。
ただ、ワインを勧める時に、いきなり「焼き鳥にもラーメンにも合います」は変じゃないかと思うよ。ダヴィはミドリを失った直後なのに、リュウを食事に誘う。
「一人で食べると悲しくて泣いてしまうから」と彼は説明しているが、恋人が自殺した直後なのに、以前からの知り合いならともかく、出会ったばかりの女をナンパするってのは、やっぱり人間としてどうかと思うぞ。
しかも、ミドリが自殺したことを話した後でラブホテルに誘うんだから、同情を誘ってセックスに持ち込む手口にしか見えん。あと、そんなダヴィの誘いにホイホイと付いて行くリュウも、どうかしてるぞ。
そもそも殺すつもりなら、店に入って客として接する必要も、全く無いわけで。どうやらダヴィに惚れたらしいが、どこで惚れたんだよ。
そんでダヴィとセックスした後、電車で帰るリュウはニヤニヤしているんだが、そんなに彼とのセックスが気持ち良かったのか。ようするに、セックスが気持ち良かったからダヴィにハマッたということなのか。
再び会いに行き、「ミドリを思ってセックスした」と言われても、またラブホテルへ行ってダヴィとセックスするんだから、完全に性欲の虜になってるじゃねえか。ダヴィはラブホテルにリュウを連れ込むと、「木曜は、いつもミドリとここに来ていた。彼女も楽しそうだった」と言う。
そんな彼らが入ったのは、電車を模した部屋だ。つまり、痴漢プレーを楽しんだりするための部屋だ。「今回はたまたま、その部屋を選んだ」というわけではなくて、いつもダヴィとミドリはその部屋でプレーを楽しんでいたようだ。
いや、もちろんカップルなんだから、ラブホでセックスするのは構わないんだけど、電車の部屋で恋人との愛についてマジで語られても、マジで受け取るのは難しい。
別のシーンでは「何にもやる気がしない」と言っておきながら、リュウにパンツを脱がせて自分の顔の上に座らせるという変態プレーを要求したりするんだが、「日活ロマンポルノかよ」と言いたくなってしまう。リュウは石田から仕事の催促をされると、「契約は分かってる。でも契約は解消できるもの。お金は50パーセントプラスして返すから。それが契約でしょ。もう2度と電話して来ないで」と冷たく告げる。
だけど「それが契約でしょ」と言うが、殺しの場合は、簡単に解消できるモンじゃないと思うぞ。
で、再び電話が掛かって来ると、「仕事するって言ったわ。でも今は考えが変わったわ。契約を取り消すために前金に50プラスして払うのよ。出来ないことを強制しても無理よ。しつこいわね。うるさい、黙れっ」と怒鳴り散らす。
プロとして、完全に失格である。リュウが殺しの標的に惹かれてしまったことに対して苦悩や葛藤を見せていればともかく、彼女は「ダヴィに惚れちゃいけない」という心のブレーキが全く機能していない。
石田からの電話に逆ギレした後、感情を吐き出すシーンはあるのだが、まるで共感を誘わない。何しろ彼女は簡単にメロメロになってしまい、ダヴィとのセックスにズブズブと溺れているだけだからね。
性欲に溺れて仕事を放棄するって、サイテーな殺し屋じゃねえか。
ただ、もうリュウは完全にセックス狂いのダメ女になっちゃってるんだから、そんな奴に石田も固執せず、他の殺し屋に頼んだ方がいいと思うぞ。で、「何なら自分で殺せばいいのに」と思っていたら、リュウとダヴィが別れの挨拶をしている現場へ石田が現れる。
ところが、なぜか彼はリュウだけを撃って終わらせてしまう。
いやいや、だったらリュウも撃つなよ。
で、帰国したダヴィは、そっちで結婚して幸せな家庭を築いちゃうんだよな。なんだ、そりゃ。
そうそう、言い忘れてたけど、ヒロインが殺し屋だからって、アクションシーンなんかに期待しても無駄よ。この映画、アクションシーンは全く無いから。(観賞日:2013年10月14日)