『ナインハーフ2』:1997、アメリカ

資産家ジョン・グレイは、最愛の女性エリザベスが自分の元を去って以来、失意の日々を送っていた。その喪失感は深く、拳銃自殺を考えるほどだった。ジョンは娼婦を買ってエリザベスの代役をさせようとするが、満足感を得ることは無かった。
ある日、ジョンはエリサベスの絵画コレクションがパリのオークションに出品されることを知った。ジョンはフランスに飛び、いつものラファエル・ホテル、いつもの部屋に宿泊する。彼はオークション会場に出向き、エリザベスのコレクションを全て競り落とした。
ジョンは会場にエリザベスがいるのではないかと期待したが、彼女の姿は無かった。だが、彼は自分がエリサベスに送ったのと同じショールを身に着けた女を目撃する。ジョンが彼女に声を掛けると、それはエリザベスから貰ったものだと告げられる。
その女レアはファッション・デザイナーで、助手のクレアと共に会場に来ていた。どうしてもエリザベスに会いたいジョンは、クレアの案内でレアのオフィスを訪れる。レアはファッション・ショーを目前に控えており、パートナーのヴィットーリオと共に忙しく働いていた。レアはジョンに、「エリザベスは結婚してタンジールにいる」と告げた。
翌日、レアはジョンを外に連れ出して誘惑するが、抱きしめられると急に激しく抵抗した。彼女は、エリザベスがジョンとの性的遊戯について綴った手記を読んだことを明かした。そしてジョンに、「前向きに生きるため、失った強さを取り戻して」と告げた。
その夜、クラブに出掛けたジョンは、クレアが恋人チャーリーに襲われているのを助けた。チャーリーが怒って追い掛けて来たため、ジョンはレアと共にクラブから逃げ出した。レアはジョンを人気の無い場所に誘い出し、2人は肉体関係を持った。
翌日、レアのファッションショーが行われ、大成功の内に幕を閉じた。その後のパーティーで、レアはジョンを誰もいない部屋に連れ込んだ。レアは下着姿になり、ジョンを誘惑する。そこへヴィットーリオが現れ、エリザベスが既に死んでいることをジョンに明かした。エリザベスは麻薬に溺れ、哀れな最後を遂げていたのだった…。

監督はアン・ゴールソウ、キャラクター原案はエリザベス・マクニール、脚本はマイケル・デイヴィス、製作はスタファン・アーレンベルグ&ヤニック・ベルナール、製作総指揮はバリー・バーンホルツ&ドン・カーモディー&ジェイ・ファイアストーン&バスティアン・ギーベン&マリオ・ソテラ、撮影はロバート・アラズラキ、編集はアン・ゴールソウ&テリーリン・A・シュロップシア、美術はロバート・デ・ヴィコ、衣装はマキシン・ヴァン・クリフ・アラカワ、音楽はスティーヴン・パーソンズ&フランシス・ヘインズ。
主演はミッキー・ローク、共演はアガサ・デ・ラ・フォンテーヌ、アンジー・エヴァーハート、スティーヴン・バーコフ、ダグレイ・スコット、ワーナー・シュレイヤー、
ラナ・クラークソン、アンドレア・エッカート、フィリップ・ベリア、エリック・プーラン、サンドラ・チェルヴィク、サミー・ナセリ、フェイサル・アティア、リュシエンヌ・ルグラン、ジオラ・シーリガー、ジョン・ジェントリー他。


1986年の作品『ナインハーフ』の続編。
ただしスタッフは全く違うし、キャストも続投したのはミッキー・ロークのみ。
ジョンをミッキー・ローク、クレアをアガサ・デ・ラ・フォンテーヌ、レアをアンジー・エヴァーハート、ヴィットーリオをスティーヴン・バーコフ、チャーリーをダグレイ・スコットが演じている。マイケル・デイヴィスは、これが初脚本。

レアは、キテレツな女だ。自分から誘惑しておいて、ジョンがキスをすると急に激しく抵抗する。なぜなのか、という説明は無い。ジョンもレアも、そして作品も、さっさと次の展開に移る。この映画に、意味を求めてはいけない。なぜなら、そんなものは無いからだ。
レアはジョンをクラブから連れ出し、彼の金を使ってギャンブルに興じる。それをジョンが眺める。スリに遭うが、すぐに捕まえてもらって財布も返却される。ただ無作為にレアが遊び呆けて、それにジョンが付き合っているだけだ。意味は全く無い。

レアは屋外でジョンを誘惑し、ここで絡みのシーンになる。だが、なぜかレアは脱がない。パーティーを抜け出して部屋に連れ込むシーンで、レアは下着姿になる。 だが、ベッドの上で踊り始めるだけで、またも脱がない。やたら脱ぎ惜しみをする。
終盤、ようやくジョンとレアの性的遊戯のシーンが登場する。しかし、そこは前作の焼き直しになっている。しかも全体を通して、前作よりもエロティックな匂いは弱い。つまり、最初から今作品はエロの部分で観客にアピールする意識が無いということだ。

製作サイドは、まるで『ナインハーフ』が芸術的な愛の映画だったかのように、続編を作っている。だが、『ナインハーフ』は文芸映画でもなければ恋愛映画でもない。あの作品は、ポルノに成り切れなかったエロ映画なのだ。勘違いしてはいけない。
ジョン・グレイは、失ってしまったモノを探している。ひたすらに探し続け、取り戻そうとしている。だが、彼が失ったモノは2度と取り戻せないし、そのことを周囲の人々は分かっている。気付いていないのは、ジョンだけだ。いや、ジョンも心のどこかで、気付いているのかもしれない。それでも諦めきれず、幻を求めて迷走するのかもしれない。

かつて『ナインハーフ』を見たことのある観客であれば、この作品を見て、ジョン以上に喪失感を抱くことになるかもしれない。『ナインハーフ』はチープなエロ映画だったが、それでも今作品に比べれば遥かにマシだったと強く思うかもしれない。
『ナインハーフ』のミッキー・ロークは、ヨレヨレ姿とニヤニヤ笑いが見事にハマっていた。しかし今回の彼は、オツムがパーな女に振り回されているだけだ。スケコマシ大王としてのエロエロっぷりが失われ、ただ根暗で陰気なだけになっている。観客は、『ナインハーフ』での彼のエロい存在感を思い出し、喪失感に襲われるかもしれない。

これは前作からダラダラ感と話がスカスカなトコロだけを引き継ぎ、エロティックの要素を薄めた作品だ。観客は『ナインハーフ』にあった性的遊戯、そしてキム・ベイシンガーといった「失ったモノ」を思い浮かべ、深い喪失感に襲われるかもしれない。
だが、失ったモノは、もう2度とは取り戻せない。失ったモノの大きさに気付いても、もう遅すぎる。空虚な気持ちを抱き続けても、仕方が無いのだ。
我々は、気付かねばならない。
そこに存在しない幻を追い求めても、人生を無駄にするだけなのだと。


第20回スティンカーズ最悪映画賞

ノミネート:【最も歓迎されないビデオ作品】部門

 

*ポンコツ映画愛護協会