『眠れぬ夜のために』:1985、アメリカ
ロサンゼルス。不眠症に悩むエドは、朝食を取る意欲も減退していた。妻のエレンから「私が原因?」と問われたエドは、「違うよ」と否定した。エレンは支度を済ませ、迎えに来たスタンの車で家を出発した。エドは同僚のハーブを車に乗せて会社へ向かうが、渋滞に巻き込まれた。ハーブから「最後に満足に寝たのはいつだ?」と問われた彼は、「1980年の夏だ」と答えた。エドは会社で眠気に襲われ、会議に参加しても全く集中できなかった。彼は睡眠を取るため、早退して自宅へ戻ることにした。
エドが自宅に戻ると、スタンの車が停まっていた。窓から家の中を覗くとエレンがスタンとセックスの最中だったので、エドは入らずに車で去った。夜中にベッドから起き上がった彼は、車を走らせた。エドは空港の駐車場に車を停め、しばらく佇んだ。ダイアナとハーシという男女がエレベーターから地下駐車場へ出て来ると、イランの4人組が襲い掛かった。ハーシは殺害され、ダイアナは抵抗して逃亡した。彼女はエドの車を見つけると、「助けて」と叫んで助手席に乗り込んだ。
エドは銃を持った男を目撃し、車を発進させて駐車場から逃走した。彼は警官を見つけて助けを求めようとするが、ダイアナは嫌がった。彼女は「追い掛けられただけ。訴えない」と警官に言い、エドに家まで送るよう頼んだ。空港を出ると、ダイアナはマリーナへ向かうよう求めた。「奴らは?」というエドの質問に、彼女は「知らない」と答えた。車がマリーナに着くと、ダイアナは「すぐ戻るから待ってて」とエドに告げてクルーザーへ向かった。彼女は船員のラリーに「マズいことになった。ジャックに内緒で泊めて」と言うが、拒否された。電話を使うことも断られ、ダイアナは仕方なくエドの車に戻った。
エドとダイアナがマリーナを去った後、ラリーが連れ込んだ女性と楽しもうとしていると4人組が現れた。彼らは2人を銃で脅し、船内を探し回った。ダイアナはプレスリーのグッズが大量に置いてある部屋へ行き、エドが去ろうとすると「もう少し一緒にいて」と言う。エドが「君の部屋?」と訊くと、彼女は「兄の部屋よ。たまに泊めてもらってる」と告げる。ダイアナは友人のクリスティーに電話を掛けて、困っていることを話す。「行っていい?」と彼女が言うと、クリスティーは承知した。
兄のチャーリーがエージェントのドンと共に帰宅し、ダイアナに「約束の家賃も払わず、電話も止められた。請求は幾らだと思う?」と怒りをぶつけた。彼は「ドンと暮らすから出て行ってくれ」と冷たく言い、ダイアナを突き放した。エドがダイアナと共に家を出ると、車はレッカー移動されていた。ダイアナが「別の車があるわ」と口にすると、エドは「面倒に巻き込まれたくない」と別れようとする。だが、イラン人2名が近くにいるのに気付いたため、ダイアナが言った車を使うことにした。
エドとダイアナはチャーリーの車を勝手に拝借し、その場から逃げ出した。「連中は?」とエドが問い掛けると、ダイアナは「知らないわ。ヨーロッパから持ち帰った物を狙ってるの」と答えた。エドが「麻薬?」と訊くと、彼女は「違うわ」と否定した。エドが別れようとすると、ダイアナは「連中が狙っているのは、とても高価な物よ。連中の正体は知らないわ。嫌なら帰っていい」と述べた。彼女はエドと共に、クリスティーが小さな役で出演しているテレビ映画の撮影現場へ赴いた。クリスティーはプロデューサーを務めるバドの愛人で、彼に家も用意してもらっていた。
ダイアナはトレーラーでクリスティーと2人になり、泊めてほしいと頼む。クリスティーが「助けてあげたいけど、バドの家だから」と言うと、ダイアナは「預かってくれる?」と4人組が狙っている物を差し出す。クリスティーは承諾し、コートの隠しポケットに入れた。ダイアナはバドのオフィスで電話を使い、ジャックに電話を掛ける。すると妻のジョーンが出て「二度と連絡してこないで」と切ったので、ダイアナは「何年も別居してたはずなのに」と驚いた。
エドが家に戻ろうとすると、ダイアナは「もう少し力になって」と言う。エドが正直に事情を話すよう要求すると、彼女は「空港の駐車場で私を待っていたハーシが殺された。彼の石なの」と話す。「警察に連絡しよう」とエドが促すと、ダイアナは「無理だわ。密輸したのは私だから」と言う。「どんな石?」という質問に、彼女は「古代ペルシャ王の杖に付いていた6つのエメラルド。イラン革命の時に略奪された王の宝物。ハーシは、それを盗んだ犯人の親族よ」と説明した。ダイアナは運び賃2万5千ドルでチューリヒの金庫へ行き、空港でハーシと会っていた。
ダイアナはエドに、「密輸犯だから、警察には頼れない。ジャックなら助けてくれるはずなのに、私は捨てられた」と語る。どうするのかエドが尋ねると、彼女は「頼れそうな人が、もう1人いる。付き合って。奴らは貴方の顔を知らない」と告げる。エドはダイアナから、ホテルのカジノにいるハミードという男に接触する仕事を要請された。ダイアナは向かいのクラブにあるトイレで待機し、その電話番号をエドがハミードに渡すのだ。
エドはカジノへ行き、ハミードの補佐役を務めるウィリアムスに疑われる。身体検査を受けたエドは、人命が懸かっていることを訴えた。ハミードとの面会を許された彼は電話番号を渡し、ダイアナと話すよう促した。ハミードは電話を掛けてダイアナが出ると、エドに退出を指示した。エドが店を出てダイアナを待っていると、コリン・モリスという男が現れて「ずっと観察していた。俺はメルヴィールさんの代理人だ。サヴァークより物分かりのいい人間だ」と言う。エドが「サヴァーク?」と訊くと、彼は「王の秘密警察。イランの暗殺団だ。シャヒーンの手下さ」と説明した。
ハーシを殺した4人組がサヴァークだったが、エドには全く理解できなかった。しかしコリンは彼が何もかも知っていると誤解しており、拳銃を突き付けて石のありかを尋ねた。エドは「知らない」と答え、そこへパトカーが来たためコリンは逃亡した。エドはダイアナの車に乗り込み、メルヴィールという男について訊く。ダイアナは「知らないわ」と言い、石のありかについては「安全な場所よ」と告げる。彼女はエドに別れを告げ、ハミードの住むマンションへ赴いた。
エドはダイアナが気になり、マンションに入った。すると複数の死体が転がっており、ハミードはナイフで胸を突き刺されていた。コリンがダイアナにナイフを突き付けてカーテンの裏から姿を見せ、エドに「下手な真似をするな」と凄む。ハミードがコリンに襲い掛かって揉み合っている内に、エドとダイアナは部屋から飛び出した。張り込んでいたサヴァークの連中が車で追って来たので、2人はタクシーを捕まえて逃走した。
エドとダイアナはレストラン「シップス」で休息を取り、今後の行動について話し合う。エドは警察に行くべきだと主張するが、ダイアナは「ジャックの所へ。船の持ち主よ。大金持ちで、私は愛人だった」と話す。翌朝、バドがクリスティーを家に連れ帰って楽しもうとしていると、サヴァークの連中が乗り込んで銃を突き付けた。ダイアナがエドを連れてチャーリーの家へ戻ると、室内は荒らされていた。そこへメルヴィールが手下2人を連れて現れ、銃を向けた。彼はチャーリーが逃げ出して無事だと告げ、一緒に来るよう要求した。
サヴァークの連中はバドの部屋を荒らし、石を見つけようとする。クリスティーは隙を見て窓から外へ逃げ出すが、サヴァークの連中に捕まって殺された。その様子を見ていたバドの隣人は、警察に通報した。メルヴィールの車に乗せられたダイアナは、石と交換に解放するよう頼む。メルヴィールは拒否し、「シャヒーンの怒りを静める必要がある。お前たちの血を求めてる」と述べた。彼はバドの家の前に車を停め、「エドを殺すぞ」とダイアナを脅して石を引き渡すよう要求した。
ダイアナは刑事たちが現場検証しているバドの家へ行くが、クリスティーが殺されたことには気付かなかった。彼はダウンのコートを回収し、外へ出た。ダイアナは保安官のピーターソンを連れて車へ戻り、メルヴィールと手下たちに外へ出て来るよう要求した。ダイアナは3人を使用人として警官に紹介し、「ピエールとロバートの家へ。1ブロック先よ」と告げる。メルヴィールたちはどうすることも出来ず、エドとダイアナは車に乗り込んで走り去った。2人はジャックの家へ侵入し、彼の姿を見つけた。ジャックは重病を患い、輸血を受けて自宅療養中だった。彼はダイアナを捨てたわけではなく、電話を掛けてもジョーンが知らせていなかっただけだった…。監督はジョン・ランディス、脚本はロン・コスロー、製作はジョージ・フォルシーJr.&ロン・コスロー、製作総指揮はダン・アリンガム、製作協力はデヴィッド・ソスナ&レスリー・ベルツバーグ、撮影はロバート・ペインター、美術はジョン・ロイド、編集はマルコム・キャンベル、衣装はデボラ・ナドゥールマン、音楽はアイラ・ニューボーン。
出演はジェフ・ゴールドブラム、ミシェル・ファイファー、デヴィッド・ボウイ、リチャード・ファーンズワース、イレーネ・パパス、キャスリン・ハロルド、ポール・マザースキー、ヴェラ・マイルズ、ロジェ・ヴァディム、クルー・ギャラガー、ダン・エイクロイド、ブルース・マッギル、カール・パーキンス、ステイシー・ピックレン、カーメン・アルジェンツィアノ、デヴィッド・クローネンバーグ、ドミンゴ・アンブリス、ジェイク・スタインフェルド、アート・エヴァンス、マイケル・ザンド、ベルセ・グラミアン、ハディ・サジャディー他。
『ブルース・ブラザース』『狼男アメリカン』のジョン・ランディスが監督を務めた作品。
脚本は『ライフガード』『家族の絆』のロン・コスロー。
エドをジェフ・ゴールドブラム、ダイアナをミシェル・ファイファー、コリンを歌手のデヴィッド・ボウイ、ジャックをリチャード・ファーンズワース、シャヒーンをイレーネ・パパス、クリスティーをキャスリン・ハロルド、ジョーンをヴェラ・マイルズ、FBI捜査官の1人をクルー・ギャラガー、ハーブをダン・エイクロイド、ウィリアムズをロカビリー歌手のカール・パーキンスが演じている。
カーディーラーのカル・ワーシントンが、本人役で出演している。映画が始まると、すぐにエドが不眠症に悩んでいることを描いている。
だが、この設定はほとんど意味が無いモノと化している。
物語の軸が、そこにあるわけではない。エドの不眠症を巡って、話が展開するわけではない。エドが不眠症のせいで恐ろしい目に遭うとか、不眠症のおかげで良いことがあるとか、そういうわけでもない。
そこは「エドを夜中に空港の駐車場へ行かせる」というめの理由に過ぎない。
そして、それは不眠症じゃなくて、他の設定でも成立させることが出来る。エレンが不倫しているという設定も、やはり全く意味が無いと言い切ってしまっていいだろう。
不倫を巡る話が展開されるわけではない。エレンやスタンが、エメラルドを巡る事件に関係しているわけでもない。
妻の不倫があるから、エドがダイアナに手を貸すわけでもない。エメラルドを手に入れようとする連中が、エレンやスタンを利用しようと目論むわけでもない。
エドが独身やバツイチであっても、あるいは夫婦が円満であっても、同じような筋書きが成立する。大枠で言うならば「巻き込まれ型サスペンス」ということになるのだが、そういう印象は受けない。
その理由は、エドの反応が薄いからだ。
彼は感情表現が乏しく、何を考えているのかサッパリ分からないシーンが大半だ。彼は何度か「余計なことに巻き込まれたくない」と口にするが、それでもダイアナに同行し続ける。テレビ映画の撮影現場まで同行するのだが、それはダイアナの「連中が狙っているのは高価な物」という言葉が気になったとでも解釈しないと、他に理由が見当たらない。
しかし、それにしては「それは何なのか」とダイアナに尋ねようとせず、ただ同行するだけになっている。駐車場では拳銃を持った男が迫っているのだし、ダイアナが持っている物のせいで命を狙われているのは明白だ。つまり彼女に協力していたら、エドだって殺されるかもしれない。
そんな危険な状況に置かれているのに協力するからには、余程のモチベーションが無いとダメなはずだ。
しかし、それが全く見えて来ない。
ダイアナが強引に連れ回しているわけでもなく、エドが弱みを握られているわけでもないのだから、積極的に同行する動機が必要なはず。
でも、ただ何となく付き合っているだけにしか見えない状態が長く続いてしまう。ダイアナが略奪された宝石を密輸した犯罪者だと知っても、エドは全く責めないどころか、協力を続けている。
密輸犯に加担するのだから、自分だって罪に問われる恐れがある。それ以前に、事情を知れば相手の本気度も分かるわけで、「マジでヤバいことに巻き込まれた」と感じたはず。
それでも危険を承知で協力するってのは、どういう気持ちなのかと。
「ダイアナに惚れた」と考えれば分かりやすいのだが、そういう様子は微塵も見られなかったし。エドはコリンから拳銃を口に突っ込まれて脅されても、石のありかについては淡々と「知らない」と答えるだけで、ダイアナの存在には全く触れない。ダイアナが別れを告げてハミードの元へ向かった後には、心配して後を追う。
彼の落ち着き払った態度や妙に大胆な行動は、この映画から緊張感を奪い去り、怠惰な空気を呼び込んでいる。
じゃあ喜劇としての面白さがあるのかというと、そういう匂いは申し訳程度に留まっている。どこに魅力を見出せばいいのか、サッパリ分からない。
そもそも、どういう方向性でジョン・ランディスが演出していたのかもボンヤリしているのだ。ラリーは船をダイアナが去った後、服を脱いでマッチョな肉体を見せ付け、デカいサングラスを掛けた女と楽しもうとする。
チャーリーはエルヴィス・プレスリーの格好をしていて(どうやら物真似タレントらしい)、派手な車に乗っている。彼の家の前には男女のホームレスがいて、エドとダイアナに話し掛ける。
チャーリーの車をエドが停めてダイアナと話していると、娼婦や麻薬の売人が声を掛けて来る。
そのように、話を進める上では何の関係も無いけど、やたらと引っ掛かるようなシーンが幾つも用意されている。
その多くは、ゲストを登場させるためのシーンだ。前述したようにデヴィッド・ボウイやカール・パーキンスも出演しているが(ちなみに娼婦役はミシェル・ファイファーの妹のディディ)、この映画は「大勢の映画関係者がゲスト出演している」というのが大きな売りになっている。
登場順に、全員を列挙していこう。
まずエドの会社で会議を進行する幹部が、『ヴィデオドローム』や『デッドゾーン』を手掛けた監督のデヴィッド・クローネンバーグ。
警備員は本作品の撮影監督を務めたロバート・ペインター。
4人組の1人を演じているのが監督のジョン・ランディス。男性ホームレスは、『真夜中のカーボーイ』や『セルピコ』の脚本を執筆したウォルド・ソルト。
麻薬の売人は、『スター・ウォーズ』や『狼男アメリカン』の特殊メイクアップアーティストであるリック・ベイカー。
テレビ映画の監督は、『愛の勝利』『深海征服』などを撮ったダニエル・ペトリ。
バド役は『ハリーとトント』『結婚しない女』の監督&脚本&製作を務めたポール・マザースキー。
仕立屋は『新ドミノ・ターゲット/恐るべき相互殺人』の脚本を執筆し、後に『いとこのビニー』の監督を務めるジョナサン・リン。ホテルのドアマンは、『デス・レース2000年』『爆走!キャノンボール』などの監督であるポール・バーテル。
トイレの個室から出てきる男は『ダーティハリー』『アルカトラズからの脱出』などの監督であるドン・シーゲル。
電話をしている男は『ダーククリスタル』などを手掛けたマペット作家のジム・ヘンソン。
犬を連れたエレベーターの男は、『大アマゾンの半魚人』『縮みゆく人間』などの監督であるジャック・アーノルド。レストランのウェイトレスは、『初体験/リッジモント・ハイ』『暗黒街の人気モノ/マシンガン・ジョニー』などを撮ったエイミー・ヘッカリング。
メルヴィールは『悪徳の栄え』や『バーバレラ』の監督を務めたロジェ・ヴァディム。
刑事の1人は、『白いドレスの女』『再会の時』などの監督を務めたローレンス・カスダン。
FBI捜査官の1人として、『クレイジー・ママ』『メルビンとハワード』などの監督であるジョナサン・デミと『JAWS/ジョーズ』『天国から落ちた男』などの脚本を手掛けたカール・ゴットリーブが出演している。
たぶんこれで全員だと思うが、それぐらい大勢の映画人が参加しているのだ。ただ、こうやって列挙してみたけど、そもそも全員が裏方なので、そんなに顔を知らない観客が大半だと思うのよね。
だから登場シーンが訪れても、「おおっ、あの人が、こんなチョイ役で」という嬉しい驚きを感じることが出来る人ってのは、決して多くないだろう。
なので、ゲスト出演した面々は楽しんだ可能性が濃厚だけど、あくまでも「内輪受けの遊び」なのよね。
まあマニアックな映画ファンが後からチェックするという楽しみ方は出来るので、「そういう映画」と解釈してちょうだいな。(観賞日:2019年2月11日)