『NY心霊捜査官』:2014、アメリカ

2010年、イラク。ジミー・トラトナーら3名の兵士は、密林の洞窟へと足を踏み入れた。酷い悪臭に顔をしかめた3人は「何だ、あれは」と声を発し、悲鳴を上げた。2013年、ブロンクス。ニューヨーク市警特別班のラルフ・サーキは、路地裏に放置された赤ん坊の死体を確認する。DVの通報があったという無線を受けた彼は、相棒のバトラーが言う「レーダー」を感じたため、現場へ赴いた。通報があった家へ向かう途中、居住者はジミー・トラトナーで海兵隊員、逮捕歴は無いという情報をサーキたちは受け取った。
サーキとバトラーが部屋に入ると、ジミーの妻であるルシンダは顔が腫れ上がっていた。明確なDVの証拠があったため、ラルフはジミーを逮捕しようとする。ジミーはラルフたちに襲い掛かり、窓から逃走した。サーキはジミーを追い掛け、捕まえて警察署に連行した。児童虐待の応援要請を受けたラルフは、バトラーと共に動物園へ向かった。現場の警官は、閉演直前に母親が我が子をライオンの檻へ投げたと説明した。幼児は頭を打ったが命に別状は無く、母親のジェーン・クレナは逃げて見つかっていなかった。
ジェーンが我が子を投げた直後から、動物園は停電になっていた。ラルフはバトラーと手分けして捜索し、一心不乱に土を掘るジェーンを発見した。ラルフが尋問しても、彼女は聞き取れない言葉をブツブツと呟くだけだった。ようやく聞こえたのは、ザ・ドアーズの歌詞を引用した「突き抜けろ」という言葉だけだった。ラルフはパーカーのフードを被ってペンキを持った男に気付き、話を聞こうとする。男がライオンの檻に入ったので、ラルフは後を追う。しかし男は姿を消し、ラルフはライオンに襲われたので慌てて避難した。
徹夜明けで帰宅したラルフは翌朝、娘のクリスティーナが出場するサッカーの試合を妻のジェンと見に出掛けた。出勤した彼がジェーンを病院へ移送する手続きを済ませていると、後見人としてジョー・メンドーサという男が現れた。彼はイエズス会の司祭だと自己紹介し、ジェーンを連れて警察署を後にした。ラルフは同僚のゴードンやナドラーたちと共に動物園の事件を調べるが、ペンキ男の指紋はライオンの檻から検出されなかった。
警察署には、「先々週、地下室を塗装してから妙な物音がしたり、物が勝手に動いたりする。今日は7年前に死んだはずの父親から電話があり、扉を閉めろと言われた」という通報が入っていた。レーダーの働いたラルフは、バトラーと共に通報者の家へ赴く。通報したのはセラフィナという主婦で、夫のアルバゲッティーと息子のマリオの3人で暮らしていた。一家は異変が起きて以来、扉の近くで一緒に寝ていた。電球は何度替えても数時間で切れてしまい、蝋燭も灯らないのだとアルバゲッティーは説明した。
地下室を調べたラルフは、男の腐乱死体を発見した。死体の腹が避けて、無数の虫が飛び出した。所持していたIDから、死体は2人の塗装員の1人であるデヴィッド・グリッグスだと判明した。もう1人の塗装員についてラルフが尋ねると、アルバゲッティーもセラフィナも顔は見ていなかったが、黒いパーカーのフードを被っていたと証言した。ラルフやバトラーたちは、グリッグスの部屋へ赴いた。電気を付けようとするが、スイッチを入れても反応しなかった。
グリッグスの部屋を調べたラルフたちは、彼の妻がジェーンだと知った。部屋には海兵隊時代の彼とジミー、そしてミック・サンティノという3人が並んでいる写真が飾られていた。すぐにラルフは、見つけるべき対象がサンティノだと確信した。奥の寝室ではドーベルマンが鎖に繋がれ、腹を裂いた猫の遺体が十字架に固定されていた。次の朝、ラルフはジェンから妊娠を明かされた。しかし妊娠を知ったのは先週で、彼女は「忙しそうだったから言わなかった」と説明した。「家に帰っても上の空よ」と彼女が寂しそうに言うと、サーキは「確かに君の言う通りだ。済まない」と謝罪した。
ジェンとクリスティーナは教会へ行くが、ラルフは同行しなかった。留守番をしていた彼は、水槽の魚が仲間に襲われて死ぬ様子を目撃した。出勤したラルフは、動物園の監視カメラの映像が届いたという知らせを受けた。そこへメンドーサが現れ、映像を見せてほしいと要請した。「ジェーンの問題は霊が関係している」と彼は話すが、ラルフは「馬鹿げてる」と相手にしなかった。彼はバトラーから、写真の3名はイラクの後で従軍牧師を襲って不名誉除隊になっていることを聞かされた。
サンティノの住所は、国防総省の記録に記載されていなかった。グリッグスの検視報告が届くと、シンナーの過剰摂取による自殺と断定されていた。動物園の映像を確認すると、サンティノは壁の落書きを消していた。ジェーンが檻に近付くと、彼は凝視した。ジェーンが我が子を投げた後、サンティノは平然と仕事に戻っていた。ラルフは雑音や人の声に気付くが、バトラーは「この映像は無音だ」と告げた。急に血まみれの男がいるカラー映像が入ったのでラルフは驚くが、確認すると何も無かった。
ラルフがトラトナー家を訪れると、ジミーは留守だった。ルシンダは2週間前にサンティノと会ったこと、グリッグスと塗装会社を始めてジミーの部屋を塗ってくれたことを語る。彼女は「ジミーは時々、物を引っ掻いて指が血だらけになることもある」と話す。ジミーの部屋を調べたラルフが壁の塗装を剥がすと、謎の文字が記されていた。急に停電が発生する中、ラルフは背後から現れたジミーに襲われる。ラルフが抵抗すると、ジミーは窓から飛び出して姿を消した。
ラルフはルシンダから、ジミーがイラクで撮影した記録映像を貸してもらう。映像を確認したラルフは、洞窟でサンティノが何かに憑依されたような様子を見せる様子を目にした。洞窟の奥には、ジミーの部屋にあったのと同じ文字が記されていた。その文字は、セラフィナの家に地下室にも記されていた。ラルフがジェーンの面会に訪れると、メンドーサが隔離病棟へ案内した。ラルフがサンティノについて質問すると、ジェーンは「伝言」と口にした後、ラテン語をブツブツと呟いた。
ラルフが文字を撮影した写真を見せると、ジェーンは彼の右腕に噛み付いて「マーヴィン」と告げた。メンドーサはラルフに、壁の文字がバビロンの霊への伝言であり、ペルシア象形文字とラテン語で書かれていることを教えた。「悪霊が侵入するには扉になる何かが必要だ。今回は呪いの伝言が扉になった」と彼は説明した。「なぜ神を卒業したのか」と問われたラルフは、「18歳の時、薬物依存者が家へ侵入し、母の寝室へ押し入った。その時に奴を止めたのは神ではなく、俺のバットだ」と語った。
メンドーサはラルフに、新米の頃の経験を語る。クラウディアというシングルマザーに頼まれ、彼は悪魔祓いをすることになった。それがきっかけで、彼は専門家を目指すことになったと話す。メンドーサは念のために引き受けただけだったが、クラウディアの娘が実際に憑依されそうになったのだ。その時に録音した音声を、彼はラルフに聞かせた。帰宅したラルフはジェンから、クリスティーナが「床下から引っ掻く音がする」と怯えていたことを聞かされる。ジェンは「きっと気のせいよ。パパがいなくて不安なのよ」と言うが、ラルフは娘の部屋を調べる。血まみれの男が鏡に写ったので彼は驚くが、再び目をやると誰もいなかった…。

監督はスコット・デリクソン、原作はラルフ・サーキ&リサ・コリアー・クール、脚本はスコット・デリクソン&ポール・ハリス・ボードマン、製作はジェリー・ブラッカイマー、製作総指揮はマイク・ステンソン&チャド・オマン&ポール・ハリス・ボードマン&グレン・S・ゲイナー&ベン・ウェイスブレン、撮影はスコット・キーヴァン、美術はボブ・ショウ、編集はジェイソン・ヘルマン、衣装はクリストファー・ピーターソン、音楽はクリストファー・ヤング。
出演はエリック・バナ、エドガー・ラミレス、オリヴィア・マン、ジョエル・マクヘイル、ショーン・ハリス、クリス・コイ、ドリアン・ミシック、マイク・ヒューストン、ルル・ウィルソン、オリヴィア・ホートン、スコット・ジョンセン、ダニエル・サウリ、アントワネット・ラヴェッキア、エイダン・ジェム、ジェンナ・ギャヴィガン、スカイラー・トッディングス、セバスチャン・ラ・コーズ、スティーヴ・ハム、ショーン・ネルソン、マリ=アンジュ・ラミレス、ベン・ホーナー他。


執筆当時はニューヨーク市警の現職警官だったラルフ・サーキ(現在は退職して悪魔学者として活動)による手記『エクソシスト・コップ NY心霊事件ファイル』を基にした作品。
監督と脚本は『地球が静止する日』『フッテージ』のスコット・デリクソン。
共同で脚本を担当したのは、デリクソンのデビュー作『ヘルレイザー/ゲート・オブ・インフェルノ』からコンビを組んでいるポール・ハリス・ボードマン。
ラルフをエリック・バナ、メンドーサをエドガー・ラミレス、ジェンをオリヴィア・マン、バトラーをジョエル・マクヘイル、サンティノをショーン・ハリス、ジミーをクリス・コイ、ゴードンをドリアン・ミシック、ナドラーをマイク・ヒューストン、クリスティーナをルル・ウィルソンが演じている。

2010年のイラクのシーンから始まり、ジミー・トラトナーら3名の兵士が洞窟で「何だ、あれは」と言って悲鳴を上げる様子が描かれる。
そこから2013年のブロンクスに移り、ラルフとバトラーがDVの現場へ赴く途中で「居住者はジミー・トラトナー、海兵隊員」という情報が示されるのだが、「それを言っちゃうのかよ」と。
そうなると、タイトルも含めて考えた時に、「きっとジミーが洞窟で出現した霊的な存在のせいで変になったんだろう」ってのは、容易に推理できてしまうわけで。
そこを早々とバラして、何の得があるのかと。

そもそもの問題として、オープニングのシーンは本当に必要だったのか。
しばらく話を進めてから、「ジミーとグリッグスとサンティノはイラクで一緒にいた」という情報を提示すれば良かったんじゃないか。
わざわざ「洞窟に入って悲鳴を上げて」という様子を描かなくても、「そこで悪魔に憑依されたんだろう」と想像させるだけで充分だったんじゃないか。
わざわざオープニングでイラクのシーンを描いても、それに見合うだけの効果は得られていない。

最初にラルフが事件現場へ赴いた時、そこにいるのはジミーだ。ところが次の現場へ行くと、そこの犯人は冒頭に出て来た3人の内の誰かではなく、ジェーンという女だ。
後から「グリッグスの妻」ということは分かるが、その段階では「統一感を出さないのかよ」と言いたくなってしまう。
「DV男が冒頭の3人組の1人」ってことを分かる形にしておくのなら、次の犯人も3人組の誰かにした方が流れとしてはスムーズなはずで。
ただし、そういう引っ掛かりも、オープニングのシーンが無ければ生じないのよね。

動物園のシーンでは、「暗闇の中で様々な動物が鳴き声を発する」という描写で観客の不安や恐怖を煽ろうとしている。
だけど、この映画の本質からすると、それはポイントがズレているでしょ。
そりゃあ、停電になったのも、ライオンが襲い掛かるのも、後に鳴って「全ては悪霊の仕業」ってことが判明するのよ。
ただ、少なくとも「暗闇の中で聞こえる動物たちの鳴き声」ってのは、オカルト現象とは別の意味で恐怖を喚起する仕掛けになっているわけで。

ジェンはラルフに妊娠を明かした後、「忙しいのは分かるけど、家に帰っても上の空よ」と寂しそうに指摘する。
しかし、そこまでの描写で、ラルフが仕事優先で家庭を疎かにしていると感じるようなことは一切無かった。
むしろ、徹夜明けで戻ったのに、朝早くから娘が出場するサッカーの試合を応援に行くシーンがあったりするわけで。
っていうか、一緒にサッカー観戦へ行くタイミングがあったのなら、その時にでも妊娠を打ち明けられたんじゃないかと思ったりするぞ。

しばらく話が進むと、「クリスティーナが楽しそうに騒いでいると、ラルフが怒鳴り付ける」というシーンがある。ジェンに注意されたラルフは、全く反省の色を見せず、幾つもの事件現場でストレスが溜まっていることを説明する。
そうなると、「確かに家庭を疎かにしていると言えるわな」という印象は生じる。
ただし、「少しずつストレスが蓄積する」という流れが全く見えなかったので、「急に家庭でイライラを見せるようになったな」という唐突感が強い。
そもそも、ラルフが娘に苛立ちをぶつける手順なんて要らない。ストーリー展開の中で、まるで有効に機能していない。

ラルフがジミーの記録映像を見るシーンで、「何だ、あれは」という台詞&悲鳴を上げた後、コウモリの群れが飛び出して来る様子が描写される。
つまりジミーたちが悲鳴を上げて怯えていた相手は、コウモリの群れだったのだ。
いやいや、その肩透かしはダメだろ。誰が得をするんだよ、そんなの。
そりゃあ、オープニングで観客を引き付けるためには、「彼らは何を見て悲鳴を上げたんだろう」と思わせた方がいいと思ったんだろうよ。
だけど、その答えがコウモリの群れってのは、「観客をバカにしてんのか」と言いたくなるぞ。

後半に入ると、「ラルフが過去の事件をきっかけにして信仰を捨てた」ってことが明かされる。だが、そこまでに用意されているヒントは、ほとんど見当たらない。
ラルフが結婚してから教会に行っていないとか、メンドーサから「霊感があるのに、なぜ認めないのか」と指摘されたりする描写はあるが、そういうことではない。
「なぜラルフが信仰を捨てたのか」という答えに繋がるヒントを散りばめておくべきじゃないかと言いたいのだ。
そこは本作品にとっても、ラルフというキャラの造形においても、かなり重要なポイントのはず。だったら答えを出す前に、もっと匂わせておくべきじゃないかと。

深ラルフが隔離病棟のジェーンと会った後、メンドーサは彼を飲みに誘っている。酒を飲み、ウェイトレスに視線をやるメンドーサに対して、ラルフは「神父らしくない」と評している。
メンドーサは煙草も吸っているし、ずっと私服だし、確かに神父らしくないと言えるかもしれない。
ただし、それを彼の個性としてアピールしたいのなら、もっと前半から出番を増やしておく必要がある。
彼の出番が少ないし、ラルフとの関係性も薄いので、その「神父らしくない」という造形が全く活かされていない。

ラルフから「なぜ神父に?」と訊かれたメンドーサは、「若い頃は重度の薬物依存症だった。ある朝、目覚めたら外で裸足のまま、小便まみれだった。腕には注射器が刺さったままで、生死の瀬戸際だった。人生は選択だ。僕は神を選んだ」と語り、施設に入って薬物依存を克服したことを説明する。
だが、その設定に全く必要性を感じない。
そんなことを台詞でサラッと喋るだけで、メンドーサのキャラ描写に全く反映されていないし。

一方、ラルフは神を卒業した(信仰心を捨てた)理由をメンドーサから質問され、「18歳の時に薬物依存者が家へ侵入した時、神ではなく自分が撃退した」と話す。
前述したように、彼が信仰を捨てたってのは重要なポイントのはずなのに、「その程度の理由かよ」と言いたくなる。
こちらも台詞でサラッと語るだけだが、もっと大切に扱うべきじゃないのか。そこから「ラルフが信仰心を取り戻す」という展開に繋がるんだから、彼が神を信じなくなった出来事は回想シーンを挟んだりすべきだし、もっと揺らぎや葛藤を描くべきだわ。
その程度の軽い処理で済ませるのなら、そもそも「かつては神を信じていたが、ある出来事をきっかけに信じなくなった」という設定が要らんわ。「最初から全く信じていない」という設定で事足りるわ。

メンドーサはラルフに、シングルマザーのクラウディアが「悪魔が家にいる」と信じていたので安心させるために悪魔祓いを引き受けたこと、彼女の娘が憑依されそうになったことを話す。そしてラルフに、その時に録音した音声を聞かせる。
だけど、これまた全く必要性を感じない手順だ。
メンドーサが「悪魔祓いの後でクラウディアと一緒にドラッグをやった」「セックスしてクラウディアが妊娠したけど堕胎した」と話すのも、まるで要らない。
何のための説明なのかと。

ジェーンが発した「マーヴィン」という言葉の謎については、「かつてラルフはマーヴィンという連続児童暴行&殺人犯への怒りから彼を殺害した」という事実が終盤になって明らかにされる。
で、ラルフは「今も怒りを制御できない」と言い出すのだが、その設定も全く使いこなせていない。
実話がモチーフであり、ラルフ・サーキもジョー・メンドーサも実在の人物なので、両名のキャラ造形に関しては色々と欲張って盛り込んだのかもしれない。
だけど、その大半は全く機能しておらず、ほぼ死んでいる。

サンティノは終盤に入ると、普通に武器を持ってバトラーと対峙し、格闘アクションで殺害している。
いやいや、そこは悪魔としての特殊なパワーを使えよ。単純に格闘アクションで始末するのなら、悪魔に憑依されているという設定なんて要らないだろ。
その後になって彼はジェンとクリスティーナを拉致するけど、取って付けた感がハンパないし、まるで機能していない。
そこで「ラルフと妻子との関係」が上手く使われているわけでもないし、サンティノが2人を拉致する展開をバッサリと削除しても、まるで支障が無いぞ。

(観賞日:2016年11月29日)

 

*ポンコツ映画愛護協会