『ナルニア国物語/第3章:アスラン王と魔法の島』:2010、アメリカ

ドイツとの戦争が続くイギリスでは、志願兵の募集が大々的に行われている。ペヴェンシー兄弟の二男であるエドマンドは年齢を18歳だと詐称して受付の場に並ぶが、すぐに嘘が露呈した。四女のルーシーの前で、彼は「僕は王だ。軍の先頭に立って戦って来たんだぞ」と憤りを示す。それだけでなく、彼は従弟のユースチスに対する苛立ちも募らせていた。
長男のピーターと長女のスーザンが両親と共にアメリカで滞在している間、エドマンドとルーシーは叔父夫婦の家に預けられていた。だが、叔父のハラルドは話し掛けても反応せず、ユースチスは意地悪で生意気な性格だ。ユースチスはエドマンドとルーシーを嫌っており、虫のように扱って標本にしたいとまで考えている。スーザンからエドマンドとルーシーに手紙が届くが、そこには「領事館のお茶会に海軍士官と出掛けました。私のことが好きみたい。ドイツとの戦争のせいで今は船旅が難しくなっています。あと2〜3か月、ケンブリッジで待っていて」と記されていた。
エドマンドとルーシーは「あと2〜3か月、どうやって生き延びる?」と嘆息し、ピーター、スーザンを羨ましく思う。ふと壁に飾られている絵に視線をやった2人は、海を航海する船がナルニアっぽいと感じた。ナルニアに帰りたいと言い出す2人の前にユースチスが現れ、「御伽噺を信じている」と馬鹿にした。エドマンドはユースチスの態度に腹を立て、言い争いを始めた。スーザンは絵の中から水が溢れ出すのに気付き、エドマンドに呼び掛けた。すぐに2人は、ナルニアへ行くことが出来るのだと悟った。
ユースチスは状況が理解できず、その絵を壊そうとする。エドマンドとルーシーが制止しようとしていると、絵がユースチスの手から離れ、部屋の中が一気に浸水した。水に飲み込まれた3人は、気が付くとナルニアの海に移動していた。ナルニア海軍の朝びらき丸で航海中だったカスピアンがドリニアン船長に指示し、3人を救助した。ルーシーが「貴方が呼んだの?」と尋ねると、カスピアンは「いや、今度は違う」と告げた。
エドマンドとルーシーは、リープチープとも再会した。ユースチスはネズミが喋ることでパニックになり、ミノタウロスのタブロスまで喋ったので失神した。カスピアンはエドマンドとルーシーに、預かっていた薬や短剣などを見せた。それから彼は、ペヴェンシー兄弟が去ってから北の巨人を無条件降伏させたこと、カロールメンの軍隊を砂漠で倒したこと、3年でナルニアが平和になったことを語った。「お妃は見つかったの?」と訊くルーシーに、カスピアンは「スーザン以上の人はまだ見つからない」と答えた。
「戦争が終わって誰も困ってないなら、なぜ僕らが呼ばれたの?」と疑問を口にしたエドマンドに、カスピアンは「私が王位を取り返す前に、伯父は父の7人の友人を殺そうとしたんだ。テルマールの七卿を。彼らは離れ島諸島に逃げ、消息を絶った」と語った。リープチープによれば、離れ島諸島の向こう、東の果てにはアスランの国があると言われている。ただし、まだ誰も見たことは無いのだという。
離れ島諸島の入り港に近付いた一行は、ナルニアの旗が無いことに不審を抱いた。カスピアンは部隊を編成し、警戒しながら島に上陸した。カスピアンはリーピチープやドリニアンたちを岸辺に残し、ルーシー、エドマンド、ユースチスを連れて町の探索に向かう。ユースチスは隠れている住民に気付くが、ルーシーたちには「誰もいない」と嘘をついて船へ戻ろうと持ち掛けた。ルーシーたちは建物に入り、奴隷商人の帳簿を見つけた。直後、商人の一味に襲われた3人は剣を抜く。だが、外で待機していたユースチスが捕まって人質になったため、仕方なく武器を捨てた。
奴隷商人は部下たちに、ルーシーとユースチスを市場へ連行するよう命じた。地下牢に入れられたエドマンドとカスピアンは、七卿の1人であるベルン卿と出会った。エドマンドとカスピアンが鉄格子の窓から外を見ると、1人の女性が連行されるところだった。夫のラインスと娘のゲイルが一味に引き離され、女性は馬車に乗せられる。彼女を含む数名の住人が小舟に移され、海に出された。そこへ緑の霧が出現し、小舟を包んだ。霧が消えると、小舟と乗っていた人々も消えていた。
ベルン卿はエドマンドとカスピアンに、「生贄です。あの霧は初め、東の海に現れ、漁師や船乗りが次々と飲み込まれました。そこで我々7人の貴族は、霧の正体を調べようと決めたのです。それぞれが船を出したが、誰も戻らなかった」と述べた。ルーシーたちが市場で競りに掛けられていると、朝びらき丸の船員たちが駆け付けた。地下牢から連行されようとしていたエドマンドとカスピアンも脱出し、戦いに加わった。ユースチスは1人だけ逃げ出し、ボートで朝びらき丸に戻ろうとする。その背後から、商人の手下がナイフを構えて忍び寄った。ユースチスはオールを掴むが、重くてバランスを崩した。たまたまオールが手下の頭に激突し、彼は海に転落した。
ラインスはカスピアンに「船乗りです。海を知り尽くしています」と告げ、同行を申し入れた。カスピアンが許可したので、ラインスはゲイルに「必ず帰って来るよ」と告げてクルーに加わった。ベルン卿はカスピアンに、彼の父から頂戴したナルニア黄金時代の剣を差し出した。カスピアンは剣を受け取り、エドマンドに預けた。船が出発した後、ユースチスはオレンジを盗もうとしてリーピチープに発見された。リーピチープは懲らしめる意味も含め、ユースチスに剣を持たせて剣術を指南した。ユースチスが転んで駕籠が倒れると、そこにゲイルが隠れていた。しかし船員たちは誰も怒らず、彼女を歓迎した。
無人らしき島を見つけた一行は、浜辺で眠ることにした。するとルーシーが目に見えない集団に拉致されてしまう。庭園へ連行された彼女に、見えない連中は「世にも恐ろしい透明怪獣だ」と言う。彼らはルーシーを脅し、迫害者の家に入るよう要求した。透明な扉が開かれ、その向こうに建物が見えた。見えない連中は、「上の階にまじないを書いた本がある。見えない物を見せるまじないを声に出して読め」とルーシーに要求した。
エドマンドたちが目を覚ますと、周囲には大きな足跡が残されていた。ルーシーがいないことに気付いた一行は捜索に向かうが、起きないユースチスは置き去りにされた。ルーシーは建物の2階へ行き、魔法の本を見つけた。そこには雪を降らせる魔法など、様々な魔法の呪文が記されていた。憧れの人の美しさを自分の物にする魔法を見つけた彼女は、そのページを破り取った。見えない物を見せる魔法のページを見つけたルーシーが呪文を唱えると、その書斎で本を読んでいた男性が姿を現した。
庭園でルーシーの短剣を発見したエドマンドたちは、見えない連中に襲われた。しかしルーシーの呪文の効果が発揮され、小柄な種族“のうなしあんよ”の連中が1人を肩の上に乗せて巨人を装っている姿が明らかとなった。さらに館も出現し、そこからルーシーと男が出て来た。ルーシーは一行に、その男が島の持ち主のコリアキンだと告げた。コリアキンは地図を広げ、「災いの元は、くらやみ島。悪の潜む場所。変幻自在に姿を変え、邪悪な夢を叶えてくれる。良き者を堕落させ、この世から光を奪おうとしている」と述べた。
どうすればいいのか尋ねるルーシーたちにコリアキンは「魔法を解くのだ」と言い、エドマンドが持っている剣に目をやって「その剣は他に6本ある」と口にした。「6人の貴族がここを通ったのか?」という質問に、彼は「その通り」と答えた。どこへ行ったのかと訊くと、「私の送った場所へ」と彼は答えた。コリアキンは「魔法を解くには青い星を追って、ラマンドゥーの島へ。アスランのテーブルに7本の剣が並ぶ時、真の魔力が解き放たれる。だが、みんなが試されようとしている。剣が7本揃うまで、悪の方が優位にある。あの手この手で、お前たちを誘惑するだろう」と語った。
一行は航海に戻るが、嵐に巻き込まれる。ルーシーは破り取ったページを見て、こっそり呪文を唱えた。するとスーザンの姿に変身した彼女は、領事館のお茶会に移動した。そこにエドマンドとピーターが現れ、3人は写真を撮る。しかしエドマンドとピーターは、ルーシーのこともナルニアの存在も全く知らない様子だった。怖くなったルーシーは部屋に瞬間移動し、隣にはアスランが現れた。「スーザンみたいに綺麗になりたかっただけ」と釈明するルーシーに、アスランは「君がいなくなれば大きな物が失われる。君が最初にナルニアを見つけたのだ。自分から逃げるな。自分の価値を知りなさい」と説いた。
アスランが消えた後、ルーシーはベッドで夢から覚め、呪文のページを燃やした。緑の霧はエドマンドの寝室に潜入し、彼に白い魔女の幻影を見せた。しかし眠れないルーシーが部屋に来たため、幻影は姿を消した。嵐が止んだ後、一行は島を見つけて上陸した。エドマンド、ルーシー、カスピアンは地下洞窟を見つけ、中に入った。エドマンドは泉に沈む黄金像を発見し、枝で触れてみた。すると枝が先から黄金に変化したので、慌てて手から離した。
カスピアンは黄金像を確認し、それが七卿のレスチマール卿だと気付いた。しかし彼の持っていた剣だけは、魔法の力で黄金に変化していなかった。剣を回収したエドマンドは、「大金持ちになったら、もう誰にも指図されない」と言い出した。彼は「国王になる資格は僕にだってあるんだ」とカスピアンに告げ、激しい敵意を示す。カスピアンは「そんなに言うんだったら証明しろ」と言い、2人は剣で戦い始める。惑わされていると悟ったルーシーが割って入り、「早くここを出ましょう」と促した。
ユースチスは荷物の積み込みも手伝わず、1人で島を散策していた。黄金の物品が大量に落ちている場所を見つけた彼は、興奮して拾い集めた。浜辺へ戻ったエドマンドとカスピアンは、嫌な予感がしてユースチスの捜索に向かった。財宝の場所に辿り着いた2人は、そこでユースチスの服を発見した。さらに2人は、白骨化している七卿のオクテシアン卿も見つけた。その傍らには、彼の剣があった。
ルーシーたちが朝びらき丸に乗り込んでいると、ドラゴンが襲来した。ドリニアンたちが攻撃すると、ドラゴンは船を離れた。そのままドラゴンは島へ向かい、エドマンドを掴んで飛び去る。ドラゴンはエドマンドを抱えたまま、炎で地面に「僕はユースチスだ」と記した場所へ連れて行く。ユースチスは呪いの財宝に目が眩み、ドラゴンに変身してしまったのだ。カスピアンたちは呪いの財宝の存在を知っていたが、元の姿に戻す方法は知らなかった。
翌朝、ルーシーたちは青い星が出現しているのを目にした。一行は朝びらき丸を出発させるが、風が止まって前に進まなくなった。するとユースチスは尻尾を舳先に絡ませ、朝びらき丸を引っ張った。ラマンドゥー島に到着した一行は上陸し、テーブルが置いてある場所に到着した。食事も用意されていたが、危険を感じたドリニアンが手を出さないよう警告した。その場には3人の七卿の姿があったが、座ったまま動かなくなっていた。
一行は3人の剣を回収し、揃った6本をテーブルに置いた。すると、ラマンドゥー島の娘であるリリアンディルが出現した。彼女は一行に、3人の七卿が島へ到着した時には錯乱していたこと、争い始めたので眠らせたことを説明した。さらに彼女は、7本目の剣がくらやみ島にあることを告げた。「あの中には純粋な悪がある」というリリアンディルの説明を聞いた後、一行は戦闘準備を整えて朝びらき丸を出発させた。深い霧の中を突き進むと、そこには七卿の最後の1人、ループ卿の錯乱している姿があった…。

監督はマイケル・アプテッド、原作はC・S・ルイス、脚本はクリストファー・マルクス&スティーヴン・マクフィーリー&マイケル・ペトローニ、製作はマーク・ジョンソン&アンドリュー・アダムソン&フィリップ・ステュアー、製作総指揮はダグラス・グレシャム&ペリー・ムーア、製作協力はコート・クリステンセン、撮影はダンテ・スピノッティー、編集はリック・シェイン、美術はバリー・ロビンソン、衣装はアイシス・マッセンデン、視覚効果監修はアンガス・ビッカーソン、特殊メイクアップ&クリーチャー制作はハワード・バーガー&グレゴリー・ニコテロ、音楽はデヴィッド・アーノルド。
出演はジョージー・ヘンリー、スキャンダー・ケインズ、ティルダ・スウィントン、ベン・バーンズ、ウィル・ポールター、ゲイリー・スウィート、テリー・ノリス、ブルース・スペンス、ビリー・ブラウン、ローラ・ブレント、コリン・ムーディー、アナ・ポップルウェル、ウィリアム・モーズリー、 シェーン・ランギ、アーサー・エンジェル、アラベラ・モートン、レイチェル・ブレイクリー、スティーヴン・ルーク他。
声の出演はリーアム・ニーソン、サイモン・ペッグ。


C・J・ルイスによる全7巻のファンタジー小説『ナルニア国物語』(もしくは『ナルニア国ものがたり』)を基にしたシリーズ第3作。
原作シリーズの3作目『朝びらき丸 東の海へ』が原作だが、内容は大幅に異なっているらしい。
監督は『エニグマ』『イナフ』のマイケル・アプテッド。
ルーシー役のジョージー・ヘンリー、エドマンド役のスキャンダー・ケインズ、魔女役のティルダ・スウィントンは、1作目からのレギュラー。スーザン役のアナ・ポップルウェルとピーター役のウィリアム・モーズリーも引き続いて登場するが、今回は冒険に参加しない。
カスピアン役のベン・バーンズは前作からの続投。アスランの声を担当するリーアム・ニーソンは1作目からのレギュラー。リープチープは前作に引き続いての登場だが、声優がエディー・イザードからサイモン・ペッグに交代している。
ユースチスをウィル・ポールター、ドリニアンをゲイリー・スウィート、ベルン卿をテリー・ノリス、ループ卿をブルース・スペンス、コリアキンをビリー・ブラウン、リリアンディルをローラ・ブレントが演じている。

このシリーズは前2作の興行成績が振るわず、配給していたウォルト・ディズニー社が3作目を拒否した。
20世紀フォックス社が拾ったことで何とかシリーズは続行されたが、これも決して興行成績が良かったわけではない。
そもそも1作目の時点で、シリーズ続行は難しいんじゃないかという噂が立つぐらいの残念な結果だった。
だから、無理をして続行したことが果たして正しかったのかどうか。

今さら言っても仕方が無いのだが、このシリーズの欠点の1つに「主役の子供たちの容姿がイマイチ」ということが挙げられる。
良くも悪くも「ごく普通の子供たち」であり、スター性も感じさせない。男たちはイケメンじゃないし、可愛さにも欠ける。
今回の冒険に参加するユースチスも、やっぱり可愛くない。ルーシーやスーザンも、「美人」や「可愛い」という表現が厳しい外見だ。
スーザンのように綺麗になりたいと望むルーシーは、確かに「そんなこと無いよ、綺麗だよ」とは言えない容姿なのだが、とびきりの美人という設定になっているスーザンにしても、そんなに美人ではないんだよな。

新しく登場するユースチスは、1作目のエドマンドに負けず劣らずのクソガキだ。最初に性格の悪さをアピールした段階で、「こいつが人間的に成長する」という展開が用意されていることは容易に想像が付くのだが、それでも不快感が強い。
ただ、すぐにナルニアへ移動し、ユースチスがビビったり、エドマンドとルーシーが彼のことなんて気にしなくなったりするので、その不快感は薄らいでくれる。
ただし、ドラゴンに変身すると「いい奴」になるし、余計な不平不満も言わなくなるので、もっと早い段階で変身させても良かったかな。
どうせ変身する前は、トラブルメーカーとしてもそんなに機能していないし、人間的な成長ドラマも全く無いのでね。

「ユースチスへの不快感が弱まる」という意味だけで考えれば、さっさとナルニアへ移動したことは賢明な選択だ。
ただし、その後の展開も慌ただしいことに関しては、何のメリットも無い。っていうかデメリットしか無い。
何かクリアすべきミッションが用意されると、特に大きな苦難も無いまま、あっさりと乗り越えてしまう。
奴隷商人に捕まっても、すぐに退治する。透明怪獣に襲われても、すぐに魔法を解除する。霧に惑わされそうになっても、すぐに正気へ戻る。

「7つの剣を集める」という手順に入ると、行く先で次々に剣をゲットする。そこには「罠を解除する」とか「謎を解く」とか、そういう乗り越えるべき苦難が何も存在しない。だから達成感が全く感じられない。
そもそも7つの剣のありかについては何の手掛かりも無いのに、たまたま辿り着いた島には七卿がいて、その近くには剣があるのだ。安易というか、雑というか。
結局、明らかに時間が足りていないから、そんなことになっちゃうんだろう。
そんなに拙速な展開にしなきゃいけなくなるのなら、なぜ原作に無い「7つの剣を集める」という展開を用意したのかと。

ユースチスは競りから救われたのに礼も言わずに一人だけボートで逃げ出そうとするが、「たまたまオールが手下にぶつかって退治した」という描写があるだけで、そんな身勝手な行動を取ったことに対して他の面々が気付いたり、叱責したり、それにユースチスが反発したりということは無い。ようするに、単に笑いを1つ取るためだけの行動になってしまっている。
それは上手くないわ。恥ずかしい行動を取っているんだから、そういうことに関して何かしらの描写を入れるべき。
その出来事が起きる離れ島諸島にルーシーたちが上陸する際、部隊にユースチスが含まれるのは、ちょっと無理があるんじゃないか。全員が上陸するわけではないのだから、ユースチスは船に留まっていた方がいいんじゃないのか。ルーシーたちが彼を連れて行く理由も、彼が同行する理由も無い。
そんなユースチスはオレンジを盗んでリーピチープに見つかり、剣術の稽古をさせられるのだが、これが後で「敵と戦う時、あの時の稽古が役に立つ」みたいな展開に繋がるのかと思ったら、何も無かった。

新たな島を発見した一行は、「浜辺で寝て、夜が明けたら探索に行く」と決める。そんで全員が眠りに就き、ルーシーが拉致される。
なぜ見張りを1人も立てないんだよ。おかしいだろ。全員が眠ってしまうって、素人集団かよ。
そもそも、浜辺で寝てから夜が明けたら偵察に行こうってのが変だよ。眠りたいなら船で就寝し、それから上陸して島を探索すればいいだけのことでしょ。行動が不自然だよ。
のうなしあんよの連中が登場すると、姿が見えない状態で襲って来るものの、何となくユーモラスな雰囲気が漂う。
ただ、最初の島では「ルーシーたちが奴隷商人に捕まる」というシリアス一辺倒な展開があって、次の島では緊迫感を弱めるってのは、硬軟の使い分けとして上手くないように思えてしまう。
「最初にユーモラスから始まり、そこからシリアスへ」という流れなら何の問題も無いんだけどね。

ルーシーがいないことに気付いたエドマンドやカスピアンたちは、眠っているユースチスを置き去りにして捜索に向かう(そもそも彼を置き去りにしたことに気付いていないものと思われる)。でも、置き去りにされたユースチスは、のうなしあんよが姿を見せた辺りで庭園にやって来る。
つまり、1人だけ置き去りにされたことが、ストーリー展開に何の影響も及ぼしていないのだ。
それはダメだろ。
せっかく置き去りにしたのなら、それによって何か話に起伏を付けようよ。何も無いなら、置き去りにしている意味が無いでしょ。
むしろ彼を同行させた方が、有効活用できるんじゃないのか。

ユースチスがドラゴンに変身した後、船には乗せられないということで、カスピアンはドリニアンに「ボートで戻れ。私たちは浜で朝まで策を練る」と告げる。
しかし浜辺に残ったカスピアンやルーシーたちが実際に策を練るのかというと、何もせずに寝るだけだ。
だから、まるで意味の無い行動になっている。
そこではエドマンドとカスピアンが星空を眺めて会話を交わしたり、リープチープがユースチスに自身の冒険談を語ったりするのだが、わざわざ「策を練るためにルーシーたちが浜へ留まる」という行動を取らせた上で描く内容としては、その意味合いが薄い。

根本的な問題として、「果たして『朝びらき丸 東の海へ』を映画化したのは本当に正しい選択だったのか」と感じる。
原作の7巻を全て映画化するつもりなら仕方が無いけど、そうでないのなら、そこを外して別の作品を選んだ方が良かったのではないか。
そう思ったのは、今回の物語の目的に対する疑問があるからだ。
1作目では「魔女の支配を打ち砕く」、2作目では「ミラース軍の進攻を阻止する」というナルニアを守るための大きな目的が早い段階で提示されたが、今回はそこに弱さがあると感じる。

ルーシーたちがナルニアに移動した時、カスピアンは「自分が呼んだわけではない」と言う。彼は失踪した七卿を見つけるために航海しており、ルーシーたちも付き合うことになる。
でも「失踪した七卿を見つける」という目的は、そんなに緊急性が高いものではないんだよね。
一刻も早く見つけ出さないとナルニアに危機が訪れるとか、そういうことではない。「国は平和」とカスピアンが言っちゃってるので、そこに緊急性は無い。
ぶっちゃけ、「見つけ出して、何か意味があるかな」とさえ思ってしまう。

その段階では、何か目的を果たすために冒険をすると言うよりも、冒険そのものが目的化してしまっているような印象を受ける。
実際、ルーシーとエドマンドも王や王女としての使命感など全く抱いておらず、ワクワクした気持ちになっている。ウンザリするような日常生活から解放され、冒険が出来るという楽しさに満ちている。
でも、そこは違和感を覚えてしまうんだよなあ。
呼ばれたからには何か意味があるはずで、単に楽しい冒険が出来るってことじゃないはずなんだし。

これがホントに「楽しい冒険が待ち受けている」というファンタジー映画であれば、ルーシー&エドマンドが楽しそうにしているのも理解できるのよ。
でも実際には、そうじゃないわけで。それどころか、いきなり奴隷商人の一味に捕まっているわけで。
そうなると、ナルニアへ移動した時に、能天気に浮かれていたのは、やっぱり違うんじゃないのかと。それは現実として受け入れられずにヒステリックになっているユースチスと、オツムのレベルではそんなに大差が無いんじゃないかと。
しかも浮かれポンチだったことを反省するのかというと、そういう手順は全く無いし。

話が進む中で、緑の霧が漁師や船乗りを次々に飲み込んでいること、この世から光を奪おうとしていることが明らかになる。 でも描き方が上手くないので、それがナルニアの危機だという印象が弱いんだよな。
そういう展開にするなら、七卿の捜索という目的で冒険を開始するのではなく「各地で謎の失踪事件が起きているので調査に向かう」ということにして、そこから「霧の仕業だと判明し、それを消滅させるための行動を取る」という流れにした方がいいんじゃないかと。
最初に設定されていた「七卿を見つけ出す」という目的が、途中で「剣を集めるために七卿を見つける必要がある」ということで手段へ摩り替わってしまうのも、話の作りとして上手くないと思うし。

(観賞日:2014年7月16日)

 

*ポンコツ映画愛護協会