『ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女』:2005、アメリカ

第二次世界大戦下のイギリス、ロンドン。ピーター、スーザン、エドマンド、ルーシーというペヴェンシー家の子供たちは、空襲を逃れる ため、田舎の村クームへ疎開することになった。父は戦地へ行っており、4人の兄妹は母に見送られて列車に乗り込んだ。クームの駅に 到着すると、マクレディー夫人が馬車で迎えにやって来た。彼女は、いかにも厳しそうな態度だった。
4人はマクレディー夫人の馬車に乗り、居候先であるカーク教授の古い屋敷に到着した。マクレディー夫人は4人に、「教授は子供との 暮らしに慣れていないので、幾つかルールを守ってもらう必要がある」と告げた。大声を出さない、走らない、芸術品に触らない、教授の 邪魔をしない等のルールを告げられた4人は、退屈な日々を過ごすことになった。
ルーシーが「かくれんぼをしよう」と言い出し、ピーターが鬼になって残り3人が隠れることになった。空き部屋に入ったルーシーは、 大きな衣装箪笥を見つけて中に入った。すると、箪笥の奥には雪に覆われた森が広がっていた。下半身が山羊の半神半獣が現れ、ルーシー は驚いた。その生物はフォーンという種族で、タムナスと名乗った。タムナスさんは、ルーシーが本物の人間だと知って驚いた。彼は ルーシーに、そこがナルニアという国だと説明した。
タムナスさんから「家は近くだから、お茶でもどうですか」と誘われ、ルーシーは招待を受けることにした。タムナスさんの家は、洞に 作られていた。ルーシーはタムナスさんから、ナルニアでは100年もクリスマスが無く長い冬が続いていることを聞いた。タムナスさんが 笛で子守唄を吹くと、ルーシーは眠り込んでしまった。目を覚ますと、すっかり夜になっていた。
タムナスさんはルーシーに、白い魔女の言い付けで彼女を拉致したことを打ち明けた。森で人間の子を見つけたら引き渡すようにと、白い 魔女の命令が出ているのだという。しかし罪悪感にかられたタムナスさんは、ルーシーを逃がすことにした。ルーシーが空き部屋に戻ると 、ちょうどピーターが100を数え終わるところだった。元の世界では、ほとんど時間が経過していなかったのだ。ルーシーはピーター達に、 自分が体験したことを語った。しかしピーターたちが箪笥を調べると、何の変哲も無い普通の箪笥だった。
その夜、ルーシーはこっそり部屋を抜け出し、再び箪笥の中へと入った。それを見つけたエドマンドは、ルーシーを追うように箪笥へ 入った。すると彼は、ナルニアの森に出た。向こうから猛スピードで馬車が来て、エドマンドはひかれそうになった。馬車を止めた御者の 小人は、「ナルニアの女王に対して無礼だ」とエドマンドを取り押さえた。
その馬車には、白い魔女が乗っていた。エドマンドが「妹がタムナスさんに会って云々」とルーシーから聞いたことを語ると、魔女は興味 を示した。彼女はエドマンドに、望みを何でも叶えると持ち掛けた。エドマンドが望んだ菓子を、魔女は魔法で出現させた。彼女は「お前 は王になれる。ただし家来が必要だから、兄弟を自分の館に連れて来るように」と告げ、その場を去った。
エドマンドが馬車を見送った後、ルーシーが現れた。エドマンドはルーシーから「白い魔女は王女を名乗っているが、本当は悪い奴」と 聞かされるが、魔女と会ったことは話さなかった。2人は元の世界に戻り、ルーシーはピーターとスーザンに「今度はエドマンドも ナルニアに行った」と語る。だが、エドマンドは「ルーシーの空想ごっこに付き合っただけ」と否定した。
泣いて部屋を飛び出したルーシーは、カーク教授にぶつかった。すがりつくルーシーを、教授は優しく抱き寄せた。ピーターとスーザンは 教授に、ルーシーが衣装箪笥で魔法の国を見つけたと言っていることを説明した。それを聞いた教授は驚き、詳しい説明を求めた。そして 彼はピーターとスーザンに、ルーシーの言うことを信じるよう告げた。
ある日、4人が庭でクリケットをしている時、エドマンドがボールをぶつけてガラス窓を壊してしまった。マクレディー夫人の声が響いて きたため、4人は慌てて身を隠すことにした。エドマンドはピーターたちに、衣装箪笥に入るよう誘った。彼は魔女に兄弟を引き渡し、 お菓子を貰うつもりなのだ。ピーターたちは衣装箪笥に入り、今度は4人全員がナルニアの森に出た。
ルーシーは3人を、タムナスさんに会わせようとする。だが、洞の家は荒らされており、タムナスさんの姿は無かった。室内には貼り紙 があり、そこには女王秘密警察長官モーグリムの署名で「人間の子供と親しくしたため反逆罪で告発する」と記されていた。家を出ると、 4人の前にビーバーが現れた。ビーバーは人間の言葉を喋り、ルーシーがタムナスさんにプレゼントしたハンカチを手渡した。タムナス さんが連行される前に預かったものだという。
ビーバーは4人に、安全な場所へ行こうと告げる。スーザンは「喋るビービーなんて信用できない」と反対し、エドマンドも同調した。 しかしピーターが押し切り、4人はビーバーに付いていく。ビーバーが向かったのは、彼が妻と暮らす山中の家だった。ビーバー夫婦に よると、タムナスさんは魔女の館へ連行されたのだという。そして館から出てこられる者はいないらしい。
ビーバー夫婦は4人に、「希望はある。アスランが動き出した」と告げる。アスランはナルニアの真の王であり、ようやく戻ってきたのだ という。さらにビーバー夫婦は、語り継がれてきた予言について説明する。それは「2人のアダムの息子と2人のイブの娘がケア・ パラベル城の4つの王座を満たす時、白い魔女の支配は終わる」という内容だ。そのアダムの息子とイブの娘こそ、ペベンシー家の4人 なのだとビーバー夫婦は告げる。だが、もちろんピーターたちには受け入れ難いことだった。
元の世界に戻ろうとしたピーターは、エドマンドがいないのに気付いた。彼はこっそり抜け出し、一人で魔女の館へ向かっていたのだ。 ビーバー夫婦は、魔女がエドマンドを囮にして4人を殺そうとしていると見抜いた。エドマンドを助けられるのはアスランだけだという。 館に到着したエドマンドは、魔女から兄弟を連れてこなかったことを責められ、ビーバーの家にいることを告げた。
モーグリム率いる狼の群れが、ビーバー夫婦の家を急襲した。裏口から脱出したピーターたちとビーバー夫婦は、喋るキツネと遭遇する。 キツネは追っ手に嘘を教え、ピーターたちを助けた。キツネはアスランの命を受け、兵士を集めているのだという。一方、魔女に監禁された エドマンドは、タムナスさんと出会った。エドマンドはアスランのことを魔女に明かした。
ピーターたちはビーバー夫婦から、凍った川を渡った石舞台の近くにアスランがいることを教えられた。魔女はエドマンドを引き連れ、そり に乗ってピーターたちを追跡する。そりを発見したピーターたちは、慌てて身を隠した。だが、そりに乗っていたのは魔女ではなく、サンタ クロースだった。サンタクロースはプレゼントを用意していた。ルーシーには、1滴でどんな傷も治る薬とナイフ、スーザンには信じて 放てば的を外さない弓矢、ピーターには剣と盾だ。彼は「冬はもうすぐ終わる」と告げて去った。
氷が解け始めたため、急がねば川を渡ることが出来なくなる。ピーターたちは先を急ごうとするが、そこへモーグリムたちが現れて包囲されて しまう。何とか脱出したピーターたちは、アスランが兵士を集めている場所に辿り着いた。テントから現れたアスランは、ライオンだった。 アスラン軍の協力を得たピーターたちは、エドマンドを救出した。アスランに諭されたエドマンドを、ピーターたちは優しく迎え入れた。だが 、魔女がアスラン軍のテントに現れ、掟に従ってエドマンドを処刑するようアスランに要求する…。

監督はアンドリュー・アダムソン、原作はC・S・ルイス、脚本はアンドリュー・アダムソン&クリストファー・マルクス&スティーヴン ・マクフィーリー&アン・ピーコック、製作はケイリー・グラナット&マーク・ジョンソン、製作総指揮はアンドリュー・アダムソン& ペリー・ムーア&フィリップ・ステュアー、撮影はドナルド・マカルパイン、編集はシム・エヴァン=ジョーンズ&ジム・メイ、美術は ロジャー・フォード、衣装はアイシス・マッセンデン、Prosthetic Design and Applicationはハワード・バーガー、 視覚効果監修はディーン・ライト、音楽はハリー・グレッグソン=ウィリアムズ。
出演はジョージー・ヘンリー、スキャンダー・ケインズ、ウィリアム・モーズリー、アナ・ポップルウェル、ティルダ・スウィントン、 ジェームズ・マカヴォイ、ジム・ブロードベント、キーラン・シャー、ジェームズ・コズモ、ジュディー・マッキントッシュ、エリザベス ・ホーソーン、パトリック・ケイク、シェーン・ランギ、 レイチェル・ヘンリー、マーク・ウェルズ、ノア・ハントレー、ソフィー・ウィンクルマン、リー・トゥーソン、カトリナ・ブラウン、 モーリス・ラップトン他。
声の出演はリーアム・ニーソン、レイ・ウィンストン、ドーン・フレンチ、ルパート・エヴェレット他。


C・J・ルイスによる全7巻のファンタジー小説『ナルニア国物語』(もしくは『ナルニア国ものがたり』)を基にしたシリーズ第1作。
監督は『シュレック』のアンドリュー・アダムソン。『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのWETAデジタル社が特殊効果を担当。その 『ロード・オブ・ザ・リング』と同様、ロケーション撮影はニュージーランドで行われている。
ルーシーをジョージー・ヘンリー、エドマンドをスキャンダー・ケインズ、ピーターをウィリアム・モーズリー、スーザンをアナ・ ポップルウェル、魔女をティルダ・スウィントン、タムナスさんをジェームズ・マカヴォイ、カーク教授をジム・ブロードベント、 小人をキーラン・シャー、サンタクロースをジェームズ・コズモが演じている。
また、アスランの声をリーアム・ニーソン、ビーバー夫妻をレイ・ウィンストンとドーン・フレンチ、キツネをルパート・エヴェレットが 担当。アンクレジットだが、モーグリムの声を担当しているのはマイケル・マドセン。

原作シリーズは出版順と時系列順が異なっているが、映画版は出版順で製作していくようだ。
ちなみに時系列順だと、原作の第6巻『魔術師のおい』が最初に来る。
時系列順に作っていかないと後で面倒になりそうな気もするが、大丈夫なんだろうか。
それと、原作って全巻で主役が共通しているわけではないのよね。今回はペベンシー4兄弟が主役だったが、そうではない作品もあるって ことだ。
映画版でもシリーズなのに主役が変わることになるわけだが、大丈夫なのかね。ちゃんと7作目まで作れるのかね。

ルーシーがナルニアの森に出る場面、つまり初めて観客がナルニアを見る場面に、目を惹き付ける魅力やサプライズ効果が乏しい。まず ルーシーが全く驚いていないし、色は雪景色で白一色だし、そして普通の森(現実世界でもあるような森)だし、光景に広がりも無い 。
あと原作がそうだから仕方が無いんだろうが、ナルニアの住人がライオンや狼やビーバーなど現実世界にもいる動物ばかりで、特殊な造形 の種族、見慣れない生物が少ないのは、かなり残念なポイントだった。
エドマンドがナルニアに到着した時もルーシーと同様、やはり大して驚かない。
「メルヘンのルールに基づき、主役は何でも受け入れる」ということなのか。ピーターとスーザンも、軽く驚くものの、すぐに受け入れる しね。
子供って順応性が早いのね。アスランが登場した時、すぐにひざまずく辺りも、作法を理解していたしね。あんなの、普通は分からんぞ。 順応性が早いのね。
ビーバーには拒否反応を示したスーザンも、アスランの時は受け入れてるしね。
それは順応性というより、御都合主義のような気がしないでもないが。

なんでエドマンドがピーターたちに対してあそこまで反発するのか、良く分からない。で、そのくせ、かくれんぼには文句を言いながらも 参加するのね。
そのエドマンドは魔女に「お前は王になれる」と言われ、簡単に信用する。お菓子につられるという、何ともアホなガキだ。やたら反抗的 で、ひねくれた態度を示していたのに、魔女の話だけは簡単に信用するんだから、彼にとって菓子の持つ力ってのは相当なモノなんだろう 。何しろ、そのためなら恐ろしい魔女に兄弟を売り渡すことも平気でやろうとするんだし。
エドマンドは魔女が偉大な女王だと思っているから、彼女を信奉して兄弟を引き渡そうとするわけではない。
ルーシーから恐ろしい魔女だと聞き、さらにタムナスさんの家の貼り紙でダメ押しをされても、なお魔女サイドの立場を貫く。相手は タムナスさんを理不尽な理由で処罰するような恐ろしい相手なのに、そんな奴に兄弟を売り渡そうとするのだ。

もはやエドマンドは「問題児」というレベルではない。
なんせ兄弟愛、家族愛がゼロなんだから。
子供だから考えが甘いとか、そういうことで擁護する気にもならん。相手がどれだけ恐ろしい魔女なのかは、それなりに分かっているはず なのだ。
こいつ、ただの小悪党じゃねえか。
いやホント、こいつが心底から不快で仕方が無かった。「さっさと魔女に石化されればいいのに」とまで思ったぞ。
ピーターたちが助けに行こうとする時も、「あんな奴、放っておいていいよ」と思ったぞ。
でも、悪くても個性が強く出ただけ良しとすべきなのかな。ピーターやスーザンなんて、ホントに中身が薄いもんな。

そりに乗ったヒゲのオッサンが登場した時、相手が名乗っていないのに、よくサンタクロースだと分かったよな、あの兄妹。そんなに サンタとしての特徴がある格好をしているとも思えないけど。
っていうか、ありゃサンタじゃなくてデウス・エクス・マキナでしょ。
なんせドラえもんのように秘密道具をプレゼントして、それだけで役目終了で去っていくんだから。
で、そこまで御都合主義にプレゼントされた道具なんだから、さぞや後の展開において重要なポイントで使われるんだろう、効果的に 使われるんだろうと思いきや、そうでもない。
まあ剣と盾は普通に装備として使われるが、弓矢なんて何の見せ場にもならないような箇所で1回だけ使われて終わりだぞ。
薬にしても、別に持ち主はルーシーじゃなくていいし。

ピーターとスーザンは最初は戦いに消極的だし、エドマンドに至っては敵側にいる。
だから、そこから「この国の王として悪い魔女軍団に立ち向かおう」という強い自覚を持つまでの逡巡、心の揺れ動き、考えの変化って ものがあって然るべきなんだが、それが全くと言っていいほど描かれていない。
いつの間に、どんなきっかけで戦おうという気になったんだろうか。

根本的な問題として、メインを務める子供4人に映画を引っ張っていくだけの魅力が備わっていないという弱さがある。これは役者と してもそうなんだが、キャラクター造形にも弱さがある。
また、監督はシリーズ化が決定事項の大作映画を破綻させちゃマズいので手堅くそつなく仕上げようと思ったのかもしれないが、 ドラマティックな展開や、いい意味でのケレン味が感じられない。
例えばアスランの登場シーンなんて、もっと見得を切って出てくるような形でもいいのに、普通にテントから現れるだけだもんな。しかも 「これからアスランが登場しますよ」ということを知らせておいてから。
あとアスランの身代わりの死から復活までのキリスト教信仰に基づいた展開の部分がどうやらハイライトらしいんだが、それにしては 盛り上がりがイマイチ。初めてピーターが狼を退治するシーンも、ものすごく淡白な仕上がり。
あと、魔女がなかなか魔法を使わないのよね。剣で刺すと相手が石になるという場面はあるんだけど、それって「剣に魔法の力がある」と いう風に見えてしまうのよ。剣を使うんじゃなくて、直接的に魔法で攻撃して欲しいのよ。クライマックスの戦闘シーンも武器は剣だし。
いやいや、魔法を使えよ。

作品全体に御都合主義が満ち溢れており、だからピーターが終盤の戦いでは急に強くなっていたりする(あんな上手な剣の使い方、いつの 間に習得したのかと)。
善玉サイドは主要キャラが揃って生き残る。
アスランは自己犠牲を払うけど、さっさと復活する。
石にされたタムナスさんたちも元通り。
終盤の戦いでも主要キャラは死なない。
仲間の死を乗り越えて兄弟が精神的に成長するといったドラマは無い。
児童小説が原作で製作はディズニーだから、どうしてもスウィートな内容になってしまうのかな。

戦いの後、王様になった4兄弟はナルニアに留まる。
大して活躍もしなかった奴らが王になれるのもどうかと思うが(最後の戦いも、石化した奴らをアスランが復活させたので、4人がいなく ても勝てたような気がするぞ)。
そして4人は驚いたことに、すっかり大人に成長するまで居続けるのである。
いやいや、お前らは「元の世界に戻りたい」というホームシックになったりしないのか。母親に会いたいと思ったりしないのか。
半年や1年の単位じゃないぞ、あの成長ぶりは。

(観賞日:2008年5月21日)

 

*ポンコツ映画愛護協会