『N.Y.式ハッピー・セラピー』:2003、アメリカ

1978年、ブルックリン。少年デイヴ・バズラックは、好意を寄せている少女サラから「挑戦か質問か」というゲームを持ち掛けられた。 デイヴが質問を選ぶと、サラは「今までキスしたことは?」と尋ねてきた。返答に困ったデイヴが挑戦に切り替えると、サラは大勢が 見ている路上で自分にキスするよう求めた。デイヴがキスしようとしていると、いじめっ子アーニーが彼のズボンとパンツを後ろから ずり下ろした。デイヴは周囲の子供たちから笑い者にされた。それ以来、彼は人前でのキスが苦手になった。
25年後。彼はペット用品会社で重役フランクのアシスタントを務めている。ある日、デイヴはセントルイスに出張したフランクにスピーチ の原稿を指示され、徹夜で仕上げた。彼は空港でフランクから電話を受け、それについて話す。だが、フランクは途中で電話を切った。 見送りに来た恋人リンダは「貴方がブランドのアイデアを出したのに昇進も無い。言うべきことはちゃんと言うべきよ」と腹を立てるが、 デイヴは「分かってる、何とかするよ」と弱気な態度を示した。
飛行機に乗り込むと、デイヴの席には男が座っていた。デイヴが「僕の席だけど」と遠慮がちに声を掛けると、男は横柄な態度で「もう尻 が落ち着いた。別の席に座ってくれ」と告げる。デイヴが困っていると、ある中年男性が「隣が空いてるよ」と呼び掛けたので、その好意 を受けた。飛行機が飛び立つと、その男は機内上映の映画を見ながら大声で笑う。デイヴは眠りたいのだが、うるさくて眠れない。さらに 男は、何とか眠ろうとするデイヴに話し掛けてきた。
デイヴは仮眠を断念し、「一緒に映画を見るよ」と男に告げた。デイヴは客室乗務員に、ヘッドホンを用意するよう頼んだ。だが、その 客室乗務員は「分かりました」と言った後、同僚とのお喋りに夢中になり、なかなかヘッドホンを持ってこない。改めて頼んでも、また 同僚と話し続ける。デイヴが腕に触れて「ヘッドホンを」と頼むと、彼女は険しい表情に変貌して「大声を出すのはやめてください」と 言う。デイヴが困惑しながら「大声は出していない」と言うと、そこへ男が現れて警官バッジを見せた。
なぜかデイヴは客室乗務員への暴行罪で逮捕され、裁判に掛けられた。ブレンダ・ダニエルズ判事は有罪を宣告し、怒り抑制セラピーを 受けるようデイヴに命じた。診療所を訪れると、セラピストのバディー・ライデルは、飛行機で隣になった男だった。デイヴはバディーに 「サインをお願いします。貴方は全てを見ていた。僕が暴行などしていないことをしっているはず」と告げる。するとバディーは「サイン で済ませるのは無理だ。一度だけセッションに参加すれば、それで診察を受けたことになる」と述べた。
デイヴがセラピーの部屋に行くと、そこには数名の患者が集まっていた。服装倒錯者のルー、やたらと暴れたがるチャック、レズビアンの ポルノ女優ステイシーとジーナ、バスケの試合をラジオで聞いて怒り出すネイトといった面々だ。デイヴはバディーから、「君は何者か」 と質問された。仕事を答えると、バディーは「それは職業だ。君は何者か」と言う。性格を語ると、「そうじゃなくて、君は何者か」と 言う。デイヴは感情的な態度になり、「何と言えばいいのか分からないよ」と喚いた。
デイヴはバディーから「君には長時間のセラピーが必要だ」と言われ、キレそうな時に抑えるためのパートナーとしてチャックを指名した 。精神的に疲れたデイヴがリンダに会うためスポーツバーへ行くと、彼女は大学の同級生アンドリューと一緒だった。アンドリューは リンダを口説いており、デイヴの学歴の低さを見下す態度を取った。デイヴがトイレに行くと、そこでもアンドリューと一緒になった。 アンドリューの股間に目をやったデイヴは、彼のイチモツの大きさにショックを受けた。
アパートに戻ったデイヴがリンダとキスしていると、ブザーが鳴った。チャックが訪ねて来たのだ。チャックが「俺はヤバイ気分だ。早く 降りて来い」と大声で喚き散らしたので、仕方なくデイヴは部屋を出た。デイヴがバーに付き合うと、チャックはそこでも苛立った様子を 示した。彼はカウンターにいるスキンヘッド男と盲目の老人に、「ガンを飛ばした」と難癖を付けた。
チャックがスキンヘッド男にケンカを吹っ掛けたので、デイヴは制止に入った。すると後ろから、盲目の老人が杖で殴ってきた。デイヴは 杖を奪い取ろうとするが、誤ってウェイトレスを殴り飛ばしてしまった。また裁判に掛けられたデイヴは、ブレンダから1年間の禁固刑を 告げられる。そこへバディーが現れ、ブレンダに「私が彼の更生を引き受けます」と告げた。バディーと親しいブレンダはそれを承諾し、 デイヴに30日間の怒り抑制プログラムを課した。
バディーはデイヴのアパートに押し掛け、「これからは寝食を共にする」と告げた。バディーはデイヴのベッドで隣に潜り込み、服を全て 脱いで就寝した。翌朝、デイヴはいつもより30分も早く起こされ、バディーの注文通りの朝食を作るよう指示された。さらにバディーは、 会社にも付いて行くと言い出した。バディーがノンビリしたせいで出発が遅れたため、デイヴは車のスピードを上げた。するとバディーは ブレーキを踏んで「平常心に戻ったら出発する」と言い、一緒に歌うよう要求した。
遅刻したデイヴがフランクに言い訳していると、そこにバディーがやって来た。彼はデイヴのマイナスになるような発言を連発した。 デイヴがデスクに戻ると、父がフランクのゴルフ仲間だというアンドリューがやって来た。彼はデイヴの神経を逆撫でするようなことを 言い、去って行った。デイヴは弁護士サムに電話を掛け、バディーが変わった治療法のせいで何件も訴えられていることを知る。サムは 「彼の異常さを示す証拠が欲しい。それがあれば判事に掛け合う」と告げた。
帰宅したデイヴはレコーダーを用意し、証拠を掴もうとする。バディーはデイヴに「君はゲイ恐怖症だ」と言うと、車に乗せて街に出た。 バディーは女装の男娼ギャラクシアに金を渡して車に乗せ、デイヴと話をするよう頼んだ。ギャラクシアがビンタを浴びせてきたので、 デイヴは「アンタとやる趣味は無い」と声を荒げた。バディーはギャラクシアを車から立ち去らせた。
帰宅したバディーが入浴している間に、デイヴは彼の秘書ベッキーからの電話を受けた。ベッキーは、ボストンにいるバディーの母ローズ が簡単な手術を受けることを伝えるよう頼んだ。デイヴが電話の内容を伝えると、バディーは同行を要求した。飛行機に乗ることは許さず 、車で行くという。その一方でデイヴは、フランクから急いでカタログを作るよう命じられた。 ボストンの病院でローズを見舞った夜、デイヴはバディーと共にバーに入った。バディーはカウンターに座った女ケンドラを見て、デイヴ に「あの女はやれるぞ、ナンパしろ」と言う。しつこく要求されたデイヴは渋々ながら声を掛けるが、ケンドラに「消えて」と冷たく 追い払われた。席に戻ると、バディーは「フラれたのは自己否定に縛られているからだ」と口にした。
バディーは「女を惹き付けるには自信に満ちた態度が必要だ。もう一度ナンパしろ。また断られたら、プログラムから解放してやる」と 言う。バディーはデイヴに「俺の教える通りに言え」と告げ、下ネタを吹き込んだ。デイヴが呆れながらもその言葉を口にすると、なぜか ケンドラに気に入られた。しばらく彼女と飲んでいる内に、バディーは車で去ってしまった。
ケンドラが「お友達と連絡が取れるまで家に来れば」と誘い、デイヴは彼女の家に赴いた。ケンドラが下着姿になって誘惑してきたので、 デイヴは「僕には彼女がいる」と言う。するとケンドラは「私が太っているから抱けないのね」と激しく怒り出し、デイヴを追い出した。 デイヴがバディーの家へ行くと、彼は「リンダから電話があった。君が女を尻を追い掛けたと言っておいた」と告げた。
デイヴが「けしかけたのは君だろ」と怒りをぶちまけると、バディーは笑い出し、「ケンドラは私の元患者で、バーで君に引っ掛かって くれと頼んだ。全て冗談だよ」と言う。しかし、リンダに「女の尻を追い掛けていた」と教えたのは事実だという。デイヴは激怒し、家 まで送るよう要求する。しかしバディーは車を走らせる途中、「寄り道をする」と言い出した。アーニーを見つけたので、決着を付けろと 彼は要求する。バディーは僧侶になったアーニーがいる寺へ行き、対決するようデイヴをけしかけた…。

監督はピーター・シーガル、脚本はデヴィッド・ドーフマン、製作はジャック・ジャラプト&バリー・ベルナルディー、共同製作は マイケル・ユーイング&アレグラ・クレッグ&デレク・ドーチー、製作総指揮はアダム・サンドラー&アレン・コヴァート&ティム・ ハーリヒー&トッド・ガーナー&ジョン・ジェイコブス、撮影はドナルド・M・マッカルパイン、編集はジェフ・ガーソン、美術はアラン ・アウ、衣装はエレン・ラッター、音楽はテディー・カステルッチ、音楽監修はマイケル・ディルベック。
出演はアダム・サンドラー、ジャック・ニコルソン、ジョン・タートゥーロ、ウディー・ハレルソン、マリサ・トメイ、ルイス・ガスマン 、アレン・コヴァート、リン・シグペン、カート・フラー、ジョナサン・ローラン、クリスタ・アレン、ジャニュアリー・ジョーンズ、 ケヴィン・ニーロン、コンラッド・グッド、ジーナ・ギャレゴ、ナンシー・ウォールズ、マリサ・チャンドラー、ドナルド・ディアモント 、アイザック・シングルトンJr.他。


『裸の銃(ガン)を持つ男PART33 1/3/最後の侮辱』『ナッティ・プロフェッサー2/クランプ家の 面々』のピーター・シーガルが監督を務めたコメディー映画。
デイヴをアダム・サンドラー、バディーをジャック・ニコルソン、チャックをジョン・タートゥーロ、ギャラクシアをウディー・ハレルソン、リンダをマリサ・トメイ、ルーをルイス・ ガスマン、アンドリューをアレン・コヴァート、ブレンダをリン・シグペン、フランクをカート・フラー、ネイトをジョナサン・ローラン 、ステイシーをクリスタ・アレン、ジーナをジャニュアリー・ジョーンズが演じている。
リン・シグペンは、これが遺作となった。
アンクレジットだが、ケンドラ役でヘザー・グレアム、僧侶になったアーニー役でジョン・C・ライリー、盲目の男役でハリー・ディーン ・スタントンが出演しており、本人役でニューヨーク・ヤンキースのロジャー・クレメンスやデレク・ジーター、元ニューヨーク市長の ジュリアーニ、バスケコーチのボビー・ナイト、オペラのバリトン歌手ロバート・メリル、元プロテニス選手のジョン・マッケンローなど が出演している。

デイヴが飛行機で困っていると、バディーが「隣が空いてるよ」と笑顔で呼び掛ける。
その笑顔は、不気味な印象を与えるものだ。
そこは「恐ろしいので遠慮する」ということにしてもいいのに、デイヴは即座に好意を受け入れる。
デイヴはバディーの笑顔を不気味だとは思わなかったのか、それとも不気味だと思いつつも断れなかったのか、その辺りは良く 分からない。
こう言っちゃなんだけど、もはや「ジャック・ニコルソンが笑っている」というだけで、ワシなんかは不気味に感じちゃうからなあ。

この作品の致命的な欠陥は、コメディー映画のはずなのに、これっぽっちも笑えないということだ。
「デイヴがバディーや患者など周囲の面々に振り回されたり困らされたりする様子か笑える」というのが、本来ならばコメディーとして あるべき姿だろう。
しかし実際には、バディーや患者たちの様子は、ひたすら不愉快なものでしかない。
こっちをイライラさせるだけだ。

序盤、デイヴが客室乗務員の腕に触れると、彼女は険しい顔で「大声を出さないで」と言う。
これが、まず違和感。
何か誤解されたということなら、笑いになったかもしれない。だが、デイヴは何も警戒されるようなことはしていない。
そうなると、ただ客室乗務員がイカれているとしか受け取れないのだ。
黒人刑事にしても同様で、なぜ「落ち着いて、警察署に来てもらおう」と言うのか、スタンガンでデイヴを失神させるのか、 理解に苦しむ。
裁判で有罪になるのも無理がありすぎる。
最終的には「リンダがバディーに頼んで、デイヴが怒りを抱えて込んでいる問題を解決してもらうために行ったドッキリでした」と 明かされ、客室乗務員と判事はバディーとグルだったことが判明するが、仕掛けた時点で強い違和感を感じさせたら、観客に対する ドッキリとしては失敗だろう。
しかも違和感だけでなく、強い不快感まで抱かせるようなモノになっているのだ。

それと、仮にデイヴがあの客室乗務員に対して実際に怒鳴っていたとしても(そりゃ手を出したらダメだが)、それは当然だろうと思えて しまう。
セラピーでデイヴがバディーに怒鳴るのも同様だ。
例えば、ただ目が合っただけで怒鳴り散らすとか、軽く肩が触れただけで殴り掛かるとか、そういうことなら怒り抑制セラピーも必要 だろう。
だが、わざと怒らせるような態度を取っておいて、そこで怒るからセラピーが必要だとか、そんなムチャな話は無い。
そういう仕掛けの時点で、もう笑えない。

そもそも今までのデイヴは怒りを抑制していたのに、なぜセラピーなのかと。
少なくとも今までデイヴは爆発することが無かったわけで、だったら、そのままでもいいんじゃないか。
怒りをぶちまけることと、弱気や優柔不断を解消することは、まるで別問題だと思うんだが。
それに、「デイヴは自分への怒りを溜め込んでいた」という設定のようだが、そうは感じられない。単純に、バディーが罠を仕掛けて挑発 したから怒っているだけとしか受け取れない。
それが無かったら、彼はあんなにカッカすることは無かっただろう。
バディーのやっていることは、怒りの抑制どころか、怒りを増幅させているだけにしか感じない。

客室乗務員や刑事がグルだったとしても、全ての乗客がグルというわけではない。
だとすれば、バディーが大声で騒いでいた時、他の乗客には迷惑が掛かっている。
会社へ向かう車を停めた時には、後続の車を運転している面々に迷惑が掛かっている。
バーで暴れた時には、他の客に迷惑が掛かっている。
スタジアムで暴れた時にも、やはり他の観客や選手たちに迷惑が掛かっている。
そのように、バディーのドッキリ作戦は、無関係な面々にも多大な迷惑を掛けているのだ。

大体、リンダはデイヴにプロポーズされて満足かもしれないが、バディーの仕掛けた作戦のせいで、デイヴは上司に酷いことを している。
それ以前に、バディーは会社にまで付いて来て、フランクの前でデイヴにマイナスになるような発言を繰り返し、無礼な態度を取る。
そのせいでクビにされることだって充分に考えられる。
その時、バディーやリンダは責任を取れるのか。

寺で暴れたことだって、本当に訴えられるかもしれない。
また、今回はたまたま上手くいったが、ただデイヴが怒りを爆発させただけで、リンダと別れるハメになった可能性だって充分に 考えられるぞ。
デイヴが怒りを爆発させて騒ぎを起こし、ムショにぶち込まれて終わりだったかもしれない。
バディーの作戦は、あまりにも失敗する可能性が高すぎる。穴がありすぎるのだ。

(観賞日:2010年4月26日)

 

*ポンコツ映画愛護協会