『ネイビーシールズ』:2012、アメリカ

フィリピンのマニラにある小学校で屋台を使った自爆テロ事件が発生し、息子と一緒にいた米国大使が死亡した。一方、カリフォルニアのサンディエゴでは、海軍特殊部隊「ネイビーシールズ」のローク大尉がダイナーで副官のデイヴと会っていた。ロークは5人の子持ちであるデイヴに、妻が出産を控えていることを打ち明けた。デイヴはロークを祝福し、「最高の父親になりますよ」と声を掛けた。
コスタリカでは、CIA捜査官のリサ・モラレスが医師に化けてクリストという男を探っていた。クリストは地元に貢献して住民の支持を集めていたが、麻薬密売組織のボスだった。ロス捜査官と合流した彼女は、NSAの盗聴記録によってクリストが東南アジアの聖戦派リーダーであるアブ・ジャバールと幼馴染だと判明していることを説明した。2人の隠れ家にクリストの手下たちが乗り込み、ロスを射殺してモラレスを拉致した。モラレスは拷問を受けたが、自分はメキシコの医師だと言い張った。
ローク大尉率いるチーム7は出動命令を受け、コスタリカのキャンプ・ウィッチズ・ロックへ赴いた。チーム7のメンバーはロークとデイヴの他に、サニー、ワイミー、レイ、エイジェイ、マイキーという面々だ。シニア・チーフのミラーはチーム7に、モラレス奪還の任務を説明した。パラシュートで降下したチームはジャングルを移動し、敵の隠れ家を急襲した。マイキーが目を撃たれて重傷を負ったが、チームはモラレスを救出する。車に乗り込んだチームは敵に追われ、激しい銃撃戦を繰り広げる。ビリー大尉の率いる特殊戦舟艇部隊と合流したチーム7は、無事に撤収を終了した。
ジャバールはクリストから紹介されたウクライナの兵器工場を訪れ、工場長のケリモフと会った。ケリモフはジャバールのために、爆弾を縫い付けて隠すことの出来る自爆テロ用のベストを作っていた。クリストはジャバールと会い、「CIAに目を付けられてる。家族と共に潜伏する」と告げた。ジャバールが「約束はどうなる?全財産を投じたんだぞ」と声を荒らげると、クリストは「私抜きでやればいい。優秀な同志を貸す」と述べる。しかしジャバールは納得せず、「俺たち同胞がどれだけ犠牲を払ったと思ってる?」と怒鳴った。
中米沿岸、強襲撃揚陸艦ボノム・リシャール。ロークとデイヴはミラーから、ジャバールがアメリカを狙っていること、クリストが彼のためにテロリストを密入国させようとしていることを話す。その目論みを阻止するため、ミラーは上層部と相談し、2時間以内にレイとエイジェイをアフリカへ派遣することを決定した。モラレス奪還任務で回収した携帯電話の記録によって特定されたソマリアの飛行場から、ジャバールがメキシコへ向けて兵器を輸送することが判明したからだ。
ミラーは行方をくらましたクリストを狩り出すため、チーム4を率いて南太平洋へ向かった。レイとエイジェイはソマリアに入って飛行場を監視し、2機の飛行機が東へ向けて離陸するのを確認した。その内の1機にはジャバールの一味が乗っており、メキシコのセドロス島へ向かっていた。チーム4はクリストのクルーザーを急襲し、一気に制圧した。ミラーはクリストに協力を要求し、娘のことで脅しを掛ける。するとクリストは、自爆テロ用ベストを着用した16名が金属探知機に引っ掛からずにアメリカヘ入国すること、主要都市が標的になることを話す。その計画は既に進行中であり、止める方法は無いと彼は語った…。

監督はスコット・ウォー&マウス・マッコイ、脚本はカート・ジョンスタッド、製作はマウス・マッコイ&スコット・ウォー、共同製作はキャプテン・ダンカン・スミス、製作総指揮はマックス・ライトマン&ジェイ・ポラック&ジェイソン・クラーク&ライアン・カヴァナー&タッカー・トゥーリー&ジェイソン・コルベック&マイケル・メイリス&ベンジャミン・スタットラー&ランス・スローン&バート・エリス、共同製作総指揮はボブ・カミンスキー&クリス・ジョージ、協力はトム・クランシー、撮影はシェーン・ハールバット、美術はジョン・ザッカリー、編集はスコット・ウォー&マイケル・トロニック、衣装はエリカ・クラム、音楽はネイサン・ファースト、音楽監修はピーター・アフターマン&アリソン・リットン。
出演はロゼリン・サンチェス、ジェイソン・コットル、アレックス・ヴィードフ、ネストール・セラノ、アイルサ・マーシャル、ゴンサロ・メネンデス、エミリオ・リヴェラ、ディミートル・マリノフ他。


アメリカ海軍特殊部隊の活躍を描いた作品。
監督のスコット・ウォーは、スタントマンからドキュメンタリー・フィルムの製作者に転向した人物。マウス・マッコイはドキュメンタリー・フィルムのプロデューサーや監督。
2人は米海軍特殊戦舟艇部隊を取材した2007年の短編ドキュメンタリー映画『Navy SWCC』で共同監督デビューしている。
脚本は『300<スリーハンドレッド>』のカート・ジョンスタッド。
モラレスをロゼリン・サンチェス、ジャバールをジェイソン・コットル、クリストをアレックス・ヴィードフ、ロスをネストール・セラノ、ロークの妻をアイルサ・マーシャルが演じている。

海軍兵士を演じているのは全て現役の隊員たちであり、使用されている武器や戦闘機、潜水艦は全て本物で、なんと銃弾まで本物である。
リアルじゃない物をリアルに見せたら、それは監督の手腕だが、全て本物なんだからリアルに見えるのは当然だ。リアルに見せるために、監督が工夫を凝らす必要など無い。
ある意味、そこは楽をしているわけだ。
この映画にとって「リアルに見える」ってのは一番のセールスポイントだが、本物が本物として見えているだけなので、プラス査定には繋がらない。

例えば、格闘アクション映画で武術の能力を持つ役者が主演している場合、それを「本物だから格闘が素晴らしいのは当たり前」ってことで評価しない、なんてことは無い。
武術の素人が主演している時よりも、基本的にはプラスに評価したくなる。
ただ、それは「アクション俳優としての能力が高い」ということであって、「本物のネイビーシールズがネイビーシールズ役を演じ、本物の武器や弾薬を使用する」ってのを同列に考えるのは、ちょっと違う気がするのよね。
これが「元海軍特殊部隊の隊員である役者がネイビーシールズを演じている」ということなら、話は別だけど。

それと、本物のネイビーシールズを使ったことのメリットよりも、デメリットの方が遥かに大きいと感じるんだよね。
まず、当然のことながら全員が無名なので、パッと見ただけでは誰が誰なのかという判別が出来ない。映画を見ている中で、それぞれの見分けが付くようになることも無い。
どうせロークとデイヴさえ判別できれば大きな問題は無いのだが、その2人ですら、ミッション遂行シーンでは見分けを付けるのが難しい。
何しろ、みんな同じ服装だし、靴墨を顔に塗ったりするし、そもそも前述したように無名の面々だから誰が誰なのか判別できないし。

アメリカを出発する前に隊員の紹介があるけど、何の役にも立たない。
そこで紹介された個人データは、話が進む中で全く活用されていない。
狙撃手のワイミーが10年前までスーパーマーケットの夜勤で商品を並べていたとか、通信兵のレイがギャングの町で育ったとか、サニーが鋼鉄の肉体を持つとか、エイジェイが元ムエタイ戦士でトリニダード・トバゴの貧しい町で育ったとか、マイキーが20年選手で謙虚な男だとか、そういった説明は全く活用されていない。

一応、ロークだけは「出産を控えた妻を本国に待たせている」という設定が用意されており、出掛ける前に妻が心配するとか、ロークが万が一に備えてデイヴに手紙を託すとか、妻と連絡を取るとか、産まれてくる子供についてデイヴと会話を交わすとか、そういう様子が何度か挿入される。
それは分かりやすい死亡フラグであり、そしてロークは立てたフラグに従って戦死する。
そりゃあ、あれだけ何度もフラグを立てておいて死ななかったら「死なねえのかよ」とは思うだろうけど、そもそも死亡フラグが無駄に多すぎるよ。

リアルを追及しているからなのか、個々のキャラを色分けしたり厚みを持たせたりするための作業は用意されておらず、演技で特徴を出すようなことも無い。淡々とミッション遂行が描かれるだけで、ドラマってモノが皆無に等しい。
それが2時間近くも続くと、「登場人物の見分けが付かない」というところで支障が出るだけでなく、だんだん退屈になってくる。娯楽映画としての質が乏しい。
こんな映画を作るぐらいなら、ドキュメンタリー・フィルムを撮ればいいんじゃないのかと思ってしまう。
まあ「海軍の勧誘フィルム」として解釈すれば、ドキュメンタリーよりも娯楽映画として公開した方が得策だろうって考えだったのかもしれないけど。
しかし娯楽映画としては、もっとキャラクターの魅力やドラマの厚みが無いと厳しいわ。

リアルを追及したアクションシーンは、短いカットやブレた映像を細かく繋いでいるのに加えて、引きの構図が少ないことが重なったため、ゴチャゴチャしていて人物の動きや位置関係が分かりにくい箇所が多い。
そもそも誰が誰なのか見分けが付いていないから、映像の中で撃ったり撃たれたりしても、それが誰なのか分からないしね。
「兵士の誰かが攻撃してるなあ」「兵士の誰かが攻撃を受けたなあ」という、ボンヤリした受け止め方になってしまうんだよな。

ここまでは本物のネイビーシールズを使ったデメリットばかりに言及して来たが、「ではメリットは?」と問われると、それが映画を見ていても全く思い浮かばなかった。
もちろん「本物」というのが売りになっているんだけど、仮に「プロの役者を揃えて軍隊の訓練を積ませ、軍人をコンサルタントに招いて劇中の描写に助言をしてもらう」という形で、本作品と全く同じ内容、全く同じ演出の映画を撮ったとして、そんなに差が出るとは思えない。
本物のネイビーシールズを使ったことが、効果的に作用しているとは全く思えないのだ。

(観賞日:2014年2月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会